“お”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:
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(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
そういう根本的な問題はしばらくいて、具体的に各種の文学の中に含まれている普通の意味での科学的要素の分布を考えてみよう。
文学の中の科学的要素 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
田舎にれてきた自分らがこの中で暮らすことはきまりの悪い恥ずかしいことであると、二人の女は車からりるのに躊躇ちゅうちょさえした。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
すると其時そのとき夕刊ゆふかん紙面しめんちてゐた外光ぐわいくわうが、突然とつぜん電燈でんとうひかりかはつて、すりわる何欄なにらんかの活字くわつじ意外いぐわいくらゐあざやかわたくしまへうかんでた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
写真入しゃしんいれとなったバスケットは、ちゃのたなのうえかれたのでした。平常ふだんは、だれも、それにをつけるものもなかったのです。
古いてさげかご (新字新仮名) / 小川未明(著)
それでもころんだり、きたり、めくらめっぽうにはらの中をして行きますと、ものの五六ちょうも行かないうちに、くらやみの中で
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
と、つかれてきたはねにバサバサとちからめて、ひつかうとするけれど、ラランのやつはさつさとさきびながら、いたもので
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
そうして、人馬の悲鳴が高く一声発せられると、河原の上では、かさなった人と馬と板片とのかたまりが、沈黙したまま動かなかった。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
また一説にはこれら皆うそで実は尊者の名パトリックをノールス人がパド・レクルと間違え蟾蜍ひきを(パダ)い去る(レカ)と解した。
罪を持ったものが衆人の沈黙の中で而も自分の殺した死体と一しょに置かれるということは、非常な恐怖を感ぜずにはられません。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
細君さいくんから手移てうつしにしつけられて、糟谷かすやはしょうことなしに笑って、しょうことなしに芳輔よしすけいた。それですぐまた細君さいくんかえした。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
さて、屋根やねうへ千人せんにんいへのまはりの土手どてうへ千人せんにんといふふう手分てわけして、てんからりて人々ひと/″\退しりぞけるはずであります。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
それは、オクターヴォ判型の書簡紙に二枚ほどのものでしたが、認め終ると、その上に金粉をいて、さらに廻転封輪シリンドリカル・シールしました。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
おのれも一三六いとほしき妻をうしなひて侍れば、おなじ悲しみをも一三七問ひかはしまゐらせんとて、一三八して詣で侍りぬといふ。
い長じてはべつべつな主君に仕え、年久しく会いもせず、たまたま、相見たと思えば、おおやけの使節たり、また一方の臣下たる立場から
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この歌を選んだのは、そういう直接性が私の心をいたためであるが、後世の恋歌になると、文学的に間接にち却って悪くなった。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
暫くして空から一つの桃がちて来た。それはわんよりも大きなものであった。彼の男は喜んで、それを堂の上の官人にたてまつった。
偸桃 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
立出三條の龜屋と云る旅籠屋はたごや宿やどりしに當所は大坂と違ひ名所古跡も多く名にし平安城へいあんじやうの地なれば賑しきこと大方なら祇園ぎをん清水きよみづ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
女学生は女学生で、このお面のカムフラージュによって、あこがれのボーイッシュ・ガールを、声をしまず声援することができた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この世に無用の長物ちょうぶつは見当らぬ。いわんや、その性善にして、その志向するところ甚だ高遠なるわが黄村先生にいてをやである。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「毎朝だからな、毎朝穿かせちゃ、やれねえぜ。覚えときな、英さん」と、いちど結んだをまた解いて、穿き方を教えてくれた。
しかし、袖子そでこはまだようや高等小学こうとうしょうがくの一学年がくねんわるかわらないぐらいの年頃としごろであった。彼女かのじょとてもなにかなしにはいられなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その手紙によると、あなたは彼女と恋にちた時に、不倫の思い出の何もかも打ち明けてしまわなければならなかったというのです。
事ここに至った縁起えんぎを述べ、その悦びを仏天に感謝し、かつは上人彼みずからの徳に帰すことをねがい、ここに短き筆をきたく思います。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
茶色ちゃいろ表紙ひょうしに青いとじ糸を使い、中のかみ日本紙にほんし片面かためんだけにをすったのを二つりにしてかさねとじた、純日本式じゅんにほんしき読本とくほんでした。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
茶店のえんに腰を掛けて、渋茶を飲みながら評議をした。……春日野の新道しんみち一条ひとすじ勿論もちろん不可いけない。峠にかかる山越え、それも覚束おぼつかない。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新人が立ち、旧人はわれ、ふるい機構は、局部的にこわされてゆく。そしてまた局部的に、新しい城国が建ち、文化がはじめられて来た。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シューマンのように、気が違って死んだヴォルフの作品には、潜伏した狂気とも言うべき、手にえない一脈の憂愁さが流れている。
足立さんはそれから静かに理を分けてまるで三歳児みつごに言い聞かすように談すと野郎もさすがに理に落ちたのか、私の権幕にじたのか
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
それより、何より不愉快なのは、坑夫の半数を占める十二、三から十五歳位の惨めな少年坑夫達までが彼をじ恐れていることだった。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
そして、年子としこが、先生せんせいをたずねて、東京とうきょうからきたということをおききなさると、きゅうにお言葉ことば調子ちょうしくもりをびたようだったが
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
また二階にかいには家々いへ/\道具類どうぐるいが、あるひはものあるひは木器もくきあるひは陶器とうきといふように種類しゆるいをわけてられるようにしてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
なるほど、あかくさびた、いぼれたくぎが、いっしょうけんめいにレールをさえつけているのでした。はちはそこへんできてとまると
雪くる前の高原の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一月いちげつ二十九日に保は十九歳で師範学校の業をえ、二月六日に文部省の命を受けて浜松県に赴くこととなり、母を奉じて東京を発した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ほんに、そうっしゃれば秋らしい晩でございますこと。けれどわたくし、こう云う晩は淋しゅうて滅入めいるような気がいたします」
今眺めているたけ高い軍服姿、胸には白く十字を現したダネブログ勲章のコマンドル章をびられたところもさっきのままであるし
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
昨日きのふあさ千葉ちばわたしびまして、奧樣おくさまこの四五にちすぐれやう見上みあげられる、うぞあそばしてかと如何いかにも心配しんぱいらしくまをしますので
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
不思議な現象にわぬ前ならとにかく、うたのちにも、そんな事があるものかと冷淡に看過するのは、看過するものの方が馬鹿だ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お豆腐ばかり喰べさせます。それよりも尚おいけない事があります。即ち私は、一日きに罰則になります。それで何も悪い事はしないのです。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
阿蘇あそ活動かつどうみぎほか一般いつぱん火山灰かざんばひばし、これが酸性さんせいびてゐるので、農作物のうさくぶつがいし、これをしよくする牛馬ぎゆうばをもいためることがある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
けるにしたがつてしもは三にん周圍しうゐ密接みつせつしてらうとしつゝちからをすらしつけた。彼等かれらめて段々だん/\むしろちかづけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかしそこから南の方へまわって、紀伊国きいのくに水門みなとまでおいでになりますと、お傷のいたみがいよいよ激しくなりました。命は
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
庄「旦那妙なもので、これは本当に真の友達で、銭が無けりゃア貸してろう、らが持合もちあわせが有れば貸そうという中で有りますと」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そうれまんだきもべ焼けるか。こう可愛めんこがられても肝べ焼けるか。可愛めんこ獣物けだものぞいわれは。見ずに。いんまになら汝に絹の衣装べ着せてこすぞ。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
く行き給へと口には言へど、つれなき涙はまぶたに餘りて、の上にち來りぬ。われ。そは餘りに情なし。われはおん身の今不幸なるを知りぬ。
太上老君たいじょうろうくん八卦炉はっけろ中に焼殺されかかったときも、銀角大王の泰山たいざん圧頂の法にうて、泰山・須弥山しゅみせん峨眉山がびさんの三山の下につぶされそうになったときも
けど、ほんまの僕の気持いうたら、憎いのんあの男だけで、お前も光子さんも可哀そうな目エにうたんや思てるねん。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
現に此方こちらの広海さんでは懇意な牛乳屋に特約なすって飲料にする牛乳はろし相場即ち一升二十五銭でお買入れになりますし
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
影と知らずにと見たかと見たか、あるいは水の玻璃層は、人間には延板のように見えても、蝶には何でもないのか、虚空の童女は、つと水底の自分を捉えようとして
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
手を盡して調べ拔いて、萬に一つの手拔りの無いところまで運んで置いたとは知るまい、——わなちたのはこの平次ではなくて、お前だつた
夕方からち出した雪が暖地にはめずらしくしんしんと降って、もう宵の口では無い今もまだぎわにはなりながらはらはらと降っている。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
占者はこれを占ってこの児長じて世界を一統するであろうと。しかし我国には万世一系の天皇がわす。よって予は先に朝鮮を戡定し、支那また和を請い、王女をわが皇室に献ぜんと約した。
ところで下枝の方は、れが女房にして、公債や鉄道株、ありたけの財産を、れが名に書き替えてト大分旨い仕事だな。しかし、下枝めがまた悪く強情で始末におえねえ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老女の変態愛は自分も相当に疲れて居ながら新吉を最後のがらのように性の脱けたものにするまで疲れさせねば承知出来なくなって居た。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「やっぱし炭山と変らないで、死ぬ思いばしないと、きられないなんてな。——瓦斯ガスッかねど、波もおっかねしな」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
二つのものが純一無雑の清浄界しょうじょうかいにぴたりとうたとき——以太利亜の空はおのずから明けて、以太利亜の日は自から出る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗近君は突然椅子いすを立って、机のかどまで来ると片肘かたひじを上に突いて、甲野さんの顔をいかぶすようにのぞみながら
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかれども井伊大老すでに彼を死地しちかんとす、それた何の益有らん。彼はここにおいて死せざるべからざるを知り、死を待てり、死に安んぜり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼女は、彼女のながい人生に必要のない余計なものはみんな、しげも無くすてて了って、今では血の色まで透きとおっていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
彼女はだんだんしゃがれたような声になりながらそれをえると、一種の微笑ともつかないようなもので口元を歪めながら、私をじっと見つめた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
深山に連絡している周囲が、女のことについて、いろいろに自分を批評し合っているその声が始終耳にかぶさっているようで、暗い影が頭にまつわりついていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一の流星あり。そのきこと撃石火げきせきくわの如く、葡萄の林のあなたにちぬとぞ見えし。けふ我に接吻せし氣輕なる新婦にひよめの家も亦彼林のあなたにあり。
「元服するのじゃ。——十六、あやうく髪をろされるところであったが、その髪を男立ちに揚げ、初冠ういこうぶりないただこうと思う」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その声近くなる時猟夫虎の子一つを落す。母これをくわえて巣にはしり帰りその子をきてまた猟夫を追う。また子一つを落すを拾い巣に伴い帰りてまた拾いに奔る。
「欣しや、やっとめぐうたぞやい。これも、つい先のころ、住吉の浦で不慮の死を遂げなされたごん叔父の霊のひきあわせでがなあろう」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの聲は旦那であると思ふ間もなく、反齒そつぱの突き出た唇を尖がらして、小皺の多い旦那の顏は、頭の上からかぶさるやうにして、お光の眞上に現はれた。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
旧約時代における同名の先祖ヤコブが、兄エサウを出し抜き、盲目の父イサクを欺いて家督の権を獲得したに類する世俗的野心でありました。人をける心は、神の国に適わない。
ノッケから読者を旋風に巻込むような奇想天来に有繋さすがの翁も磁石に吸寄せられる鉄のように喰入って巻をく事が出来ず、とうとう徹宵してついに読終ってしまった。
露伴の出世咄 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「うち、裾いて舞うたことないよってに、よう舞うかどうか心配やねん。ちょっと彼方で裾のさばき方せて貰うて来るわな」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
素人でも今の通りなアイスクリームをモット早くモット上等に拵えようともえば毛布を蒙せないで茶筒の頭を片手ででも両手ででもグルグルと根気よく廻転まわすのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
このさいにおける論の当否はしばらく、平生茅堂が画におけるを観るに観察の粗なる嗜好しこうの単純なる到底とうてい一般素人の域を脱する能はざるが如し。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
深夜ひとりむしともしびちたのを見て、思い着いて、我が同類の万太と謀って、渠をして調えしめた毒薬を、我が手に薬の瓶に投じて、直ちに君の家厳に迫った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天気が変ったのかんもりした空気が酒のあるほおにそそりと触れて暖かった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
願わくは大王臣がことばを信じ、上表じょうひょう謝罪し、甲をき兵を休めたまわば、朝廷も必ず寛宥かんゆうあり、天人共によろこびて、太祖在天の霊もまた安んじたまわん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さつせえ、かたちおなじやうな出来できだが、の、お前様めえさまふなみづれるとはらいたで、ちたいをよ、……私等わしらふなは、およいでも、ひれてたればきたやつ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
世間の交際を重んずるの名を以て、附合つきあいの機に乗ずれば一擲千金いってきせんきんもまたしまず。官用にもせよ商用にもせよ、すべて戸外公共の事に忙しくして家内を顧みるにいとまあらず。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
オースチンリードで出来合いをすこし直さしたモーニングの突立った肩が黄いろい金鎖草の花房にじた挨拶をしながら庭の門を入る。東洋風の鞣革なめしがわの皮膚、鞣革の手の皮膚。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
岸をトンとすと、屋形船やかたぶねは軽く出た。おや、房州で生れたかと思ふほど、玉野は思つたよりたくみさおさす。大池おおいけしずかである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この童は聖母の愛でさせ給ふものなれば、それに戸をば開かせ給ひしなり。おん身はまだ此童を識り給はず。物讀むことにはけたれば、書きたるをも、したるをも、え讀まずといふことなし。
くる日イエスはまたエルサレムに来て、宮に入り、その境内にて売買する者どもをい出し、両替えする者の台、鳩を売る者の腰掛を倒し、また器物を持ちて宮の境内を通り抜けするを許さず
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
花をかぬ枝もなく、家に居る人も、晴衣して花の下行く子も、おしなべて老も若きも、花の香に醉ひ、醉心地おぼえぬは無いといふ、あまが下の樂しい月と相場がきまつて居るのに
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『女はしとやかでなくてはいけない、をとなしくなくてはいけない』と云ふしへは甚だ結構な事です。
内気な娘とお転婆娘 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
わが足下あしもとに転がりたる西瓜すいかの皮をいくたびか見返りつつ行過ぎしのち、とあるぐらき路次ろじの奥より、紙屑籠背負いたる十二、三の小僧が鷹のようなる眼を光らせてでぬ
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「東夷南蛮北狄ほくてき西戎西夷八荒天地乾坤けんこんのその間にあるべき人の知らざらんや、三千余里も遠からぬ、物にじざる荒若衆……」
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それにて思ひ合すれば、さきに藪陰にて他に逢ひし時、いたく物にぢたる様子なりしが、これも黄金ぬしに追はれし故なるべし。さりとは露ほども心付かざりしこそ、返す返すも不覚なれ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「何しろ四日間ずっと天気がよかったんだからなあ。春の方がずっと日に焼けるよ。一つには油断して日に顔をさらすせいもあるし、徐々と焦げて来るんですぐちないせいもある」
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
新居の縁先には梅の樹があったと見えて枕山は「当門寧著五株柳。沿砌聊存一樹梅。把古人詩差自慰。茅檐猶勝竟無家。」〔門ニ当リテ寧ロ五株ノ柳ヲカン/砌ニ沿ヒテ聊カ一樹ノ梅ヲ存ス/古人ノ詩ヲリテすこシク自ラ慰ム/茅檐猶ついニ家無キニまさル〕と言っている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかるに、走り行く此方こなたの車内では、税務署か小林区しょうりんく署の小役人らしき気障きざ男、洪水に悩める女の有様などを面白そうにうち眺めつつ、隣席の連れとぼしき薄髭の痩男に向い
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
後はこの侘住居わびすまいに、拓と雪との二人のみ。拓は見るがごとく目を煩って、何をする便たよりもないので、うら若い身で病人を達引たてひいて、兄の留守を支えている。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けだものの子は生れながらにものをすべしりたればうらがなしかり
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
足を蹈み、さきう声が、耳もとまで近づいて来ていた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
慶応三年に辻花雪三回忌の影画合かげえあわせ「くまなきかげ」が刊行せられて、香以は自らこれに序した。巻中の香以の影画にはかみに引いた「針持つて」の句の短冊がしてある。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
商「エーイ主人がね此方こっひえようとすう、てもえ此方ほっひけようとする時にほろがりまして、主人の頭とうわしの頭とぼつかりました処が、石頭ゆいあさまいさかった事、アハアしべてえや」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
どうもお前をいて死ぬのが残念で、お前と一緒でなくては死ぬにも死なれねえ。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
富の勢力は槍先功名やりさきのこうみょうまでもかせり。功名の記念たる、封建武士の世禄せいろくも、その末世まつせにおいては、一種の様式となり、売買せらるるに到れり、今日における鉄道株券同様に。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この神聖なる疾にかされる時、あるいはその少し前に、ドストイェフスキーは普通の人が大音楽を聞いて始めていたり得るような一種微妙の快感に支配されたそうである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつでも焼酒しょうちゅうばいっぱい引っかけた時とんなじように、楽しか気もちでれますがな。人間は悲しかことや、つらかことばかりじゃが、神さまになれば楽しかことばかりですがな
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
そもそも、学問を独立せしむるの要術、甚だうし。然れども、今日の事たる、つとめて学者をして講学の便宜を得せしめ、勉めてその講学の障碍しょうがいのぞくより切なるはなし(謹聴、拍手)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
こらへたやうな顏をして入つて來るのを認めるであらう!……
嘘をつく日 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
さうして強ひてち着けた声音こわね
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
とも二歳でく交われど、二歳以上で交わる方強い駒を産む、牡は三十三歳まで生殖力あり、かつて四十まで種馬役を勤めた馬あったが、老いては人に助けられて前体を起した。
「結城侯ノ時習館。学而筵がくじえんフ。青山君静卿ニ呈ス。」と題し
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
曰く、『昼もまた知らざるところありや』と。先生曰く、『なんじよく昼の懵々ぼうぼうとしてき、蠢々しゅんしゅんとして食するを知るのみ。行いて著しからず、習いてつまびらかならず、終日昏々こんこんとして、ただこれ夢の昼なり。 ...
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
かつら んでもないこと、天下一でも職人は職人じゃ、殿上人や弓取りとは一つになるまい。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
初め渋木生、えきして江邸にり、余の西遊に必らず故あらんとおもい、脱走して邸を出で余をわんと欲す。余の江戸に帰るに及んで、きたりて余の寓居に投ず。生人となり孱々せんせんたる小丈夫のみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「わしらの国が附いている、武器でも食糧でも金でもドンドンくる、頑強に抗日をつづけなさいよ」
今昔茶話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「甚助。どうかしたのか。この頃は、樹の梢へかかって、見事に枝をろす姿も、ちっとも見かけないが」
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
、長柄でろして来やれ。長柄も背丈も届かぬ梢も、心して跳んでって見やい。それしきもの斬れねば、殿様の御馬前に立って、いくさにわで人勝りの働きはならぬぞい
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へい、出てめえりました。さまのお手紙にゃ、江戸へのぼる事アなんねえという御異見でしたが」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
「青梨村の彦太でがす。さま、信州の彦太でがすよ。開けてくんなさい。今晩はっ」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
る、宮は行き行きて生茂おひしげる柳の暗きに分入りたる、入水じゆすいの覚悟にきはまれりと、貫一は必死の声をしぼりてしきりに呼べば、咳入せきいり咳入り数口すうこう咯血かつけつ斑爛はんらんとして地にちたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
取附く島もあらず思悩おもひなやめる宮をきて、貫一は早くも独り座を起たんとす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
なつかしき海岸かいがん景色けしきゆめのやうにおろしたとき海岸かいがんのこれる水兵等すいへいら吾等われらみとめたとぼしく、屏風岩べうぶいわうへから、大佐たいさいへから、に/\ぼうり、手巾ハンカチーフ振廻ふりまわしつゝ
いまから二分にふん三分さんぷんまへまではたしか閃々せん/\空中くうちうんでつた難破信號なんぱしんがう火光ひかり何時いつにかせて、其處そこには海面かいめんよりすうしやくたか白色球燈はくしよくきうとうかゞやき、ふね右舷うげん左舷さげんぼしきところ緑燈りよくとう
けれども「プ」の字を書かずに「ブ」の字を書いてある。斯う云ふ意味に假名遣の發音と相違する點を、もに語原的と外國では申して居るやうであります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
もに違ふと云ふことの論據になつて居りまするのは外國の Orthographie は廣く人民の用ゐるものである、我邦の假名遣は少數者の用ゐるものであると云ふことであります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
峰の松原も、空様そらざまに枝を掻き上げられた様になって、悲鳴を続けた。谷からに生えのぼって居る萱原かやはらは、一様に上へ上へとり昇るように、葉裏を返してき上げられた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
其で思い合せられるのは、此頃ちょくちょく、からうしの間に、里から見えるこのあたりのに、光り物がしたり、時ならぬ一時颪いっときおろしの凄いうなりが、聞えたりする。今までついに聞かぬこと。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
哀公問いて曰く、何為いかんせば則ちたみ服せん。孔子こたえて曰く、なおきを挙げて、これをまがれる(人の上)にけば、則ち民服せん。(為政いせい、一九)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
こたえて曰く、政は臣を選ぶにあり。季康子きこうし政を問う。なおきを挙げてこれをまがれる(人の上)にけば、すなわち枉れる者なおからん。康子盗をうれう。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
かくて翌日まさに福井に向かいて発足すべき三日目の夜の興行をわりたりしは、一時になんなんとするころなりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渠はこの夜の演芸をわりしのち、連日の疲労一時に発して、楽屋の涼しき所に交睫まどろみたりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
笠置ろしが、頭の中をも吹きぬけて行くような心地であった。脳膜が蚊帳かやのようにすずしい。そしておそろしく眼がよく見える。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まっ暗な風が時折り、笠置のいただきからちてくる。そして、容易にうごかないそこの白刃しらはぐように吹いて、ビラ、ビラ、とりんのようにそよぎを闇の中に見せる。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦ニて命をとし候者の数ハ、前後八十名ばかりニて、蔵ハ八九度も戦場に弾丸矢石ををかし候得ども、手きずこれなく此ころ蔵がじまん致し候ニハ、戦にのぞみ敵合三四十間ニなり
かつら んでもないこと、天下一でも職人は職人ぢや、殿上人や弓取ゆみとりとは一つになるまい。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
厚きしとねの積れる雪と真白き上に、乱畳みだれたためる幾重いくへきぬいろどりを争ひつつ、あでなる姿をこころかずよこたはれるを、窓の日のカアテンとほして隠々ほのぼの照したる
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
で、その中から死体を出しますと、もはやかちかちになって全く木で拵えたもののようになって居り、腹などもすっかり引っ込み眼もちてしまって水気は少しもありません。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
背皮に黄金おうごんの文字をした洋綴ようとじ書籍ほんが、ぎしりと並んで、さんとしてあおき光を放つ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私は義兄に見舞を云おうと思って隣室へ行くと、壁のち、柱の歪んだ部屋の片隅かたすみに小さな蚊帳がられて、そこに彼は寝ていた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
シテ酒家ニ付セ使メズ/老後功名古暦ノ如シ/酔来顔色唐花ノごとシ/東風料峭トシテ天街遠ク/やまいシテタ下沢車ニル〕
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ともかく、伝来の味がぐっとちてお江戸名物が一つ減ったとは、山葵わさび醤油で首を捻り家仲間での一般の評判であった。
かたりだ。」居合せた男達は口々に叫んで、昇降機リフトに向おうとする刹那、倏忽たちまち戸外そとに凄じい騒ぎが起った。それは年若い婦人が五階の窓から敷石の上へ墜落ちて惨死したという報知しらせであった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「ほうお、爺様もわずらったのがね。俺もこれ、このっき孫、嫁にやってがら、こうして床に就いたきりで……」
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ごらんの通りな山家やまがのこと、何もおかまいはできませぬが、雪の夜の馳走には、しずから富者貴顕にいたるまで、火にまさる馳走はないかとぞんじまして、このように
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩下或は渓間に一小屋せうおくを構臼を長柄杵ながえぎね(大坂踏杵ふみきね也)を設け、人のふむべき処にくぼみをなして屋外に出す。泉落て凹処降る故、たちまち水こぼる。こぼれて空しければ杵頭しよとう降りて米穀ける也。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「またその身にこけまた檜榲ひすぎい」というのは熔岩流の表面の峨々ががたる起伏の形容とも見られなくはない。「その長さ谿たに八谷やたに八尾やおをわたりて」
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
パチ——と一せきいて、かまきりが、横を向き
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駅路えきろのさざめきもひなびておもしろく、うさるさの旅人すがた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「馬の大きさはけしからず候。男もけしからず大きく候。上方衆(日本軍のこと)もけしからずじ入り候也」
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もやのやわらかな春暁しゅんぎょうだが延福寺の屋根の下はまだ夜半の気配だった。すみのような長い廊下を途中で曲がって小さい灯が一ツ風にじながらおどおど奥へすすんで行く。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
は悪で判然と明暸に意識された事でありますから、勢い悪の方すなわちきらいな事、いやなもの、は避けるようになるか、もしくはこれを叙述するにしても嫌いなように写します。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「畜生奴! すっかりぢて了やがつた。」
眠い一日 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
男は漸く我にかへりて、おどろける目をみひら
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
或拗枝妄抛 或はえだりてみだりになげす
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いなずまのごとく地球の表面を快奔雄走し、しかしてかの生産境遇の必要は人民を駆り、社会を駆り、いかなる人類をもいかなる国体をもことごとくこれを平民的の世界にさんとす。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
南無三、逃げてくれ、逃げおせてくれと、彼は祈った。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
欣々女史も鏡花会にはいって、仲間入りの記念しるしにと、帯地おびじとおなじにらせた裂地きれじでネクタイを造られた贈りものがあったのを、幹事の一人が嬉しがって
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「しツ! かつしやい。馬鹿言ふぢやない。お前がたの今言つてたやうな事が、あの若旦那の耳へ入りでもしたら、」と、その隣に並んで同じ労働しごとに従事してゐた三番目の男が
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
倫理の矢にあたつてちる倫理の小禽ことり。風景の上に忍耐されるそのフラット・スピン!
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
と、つかれてきたはねにバサバサとちからめて、ひつかうとするけれど、ラランのやつはさつさとさきびながら、いたもので
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
(ようゆう)ですね、老婆ばばあは、今度は竹箆を口にくわえて、片手で瓶のふたおさえ、片手で「封」という紙きれを、蓋の合せ目へしながら、ニヤリとしている。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが方丈の一室もようやく工をえ、この日はじめて諸友をここに会した。……十九日はもとより我々の忘るることあたわざる日である。今またこの日をもってこの会をなす。
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
それより七年以前まえの天宝八年に、范陽はんよう進士しんし呉青秀ごせいしゅうという十七八歳の青年が、玄宗皇帝の命を奉じ、彩管さいかんうてしょくの国にり、嘉陵江水かりょうこうすいを写し、転じて巫山巫峡ふざんふきょうを越え
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
清三の家では、その日父親が古河こがに行ってまだ帰って来なかったので、母親は一人でさびしそうに入り口にうずくまって、がらを集めて形ばかりの迎え火をした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そしてその矢は、関羽のかぶとを、ぷつんと、見事に射止めていた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしは、このちいさなをいじめるのではありません。つよく、つよく、つよくならなければ、どうしてこの曠野こうやなかでこのちましょう。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
れば、馬琴の八房は玉梓の後身たること、仏説につて因果の理を示すものなること明瞭なり、しかして、この八房をして伏姫をひ去るに至らしめたる原因は何ぞと問ふに、事成る時は
戸塚はびえたように足の下の火の海を見た。中野学士がそう云う戸塚の顔を振返って冷然と笑った。白い歯並がやみに光った。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おそれ多いご比較ではあるが、吉野の御陵ごりょうには、雑草が離々りりいて、ここの何分の一の御築石みきずきもない——けがれもくそもあるものか、俺は、斬る
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これあ道理じゃと思って、菊ばかりじゃない、胚子たねろすもの刈るもの、すっかり落葉もいて置こうと思いますのじゃ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世をうとても大ならず
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
仲達軍の先鋒に大将としてされた者は、河南の張郃ちょうこう、あざなは雋義しゅんぎ、これは仲達から特に帝へ直奏して
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おほよそ文にて知らるゝことは、その外にもいと多し。されど讀みおぼゆる初は、あまり樂しきものにはあらず。そちは終日たふに坐して、文を手よりかじと心掛くべし。
名利みやうりの外に身をけば、おのづから嫉妬の念も起らず、憎惡ぞうをの情もきざさず、山も川も木も草も、愛らしき垂髫うなゐも、みにくき老婆も、我れに惠む者も、我れを賤しむ者も、我れには等しく可愛らしく覺えぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「岩の上に彼の僧侶の仮装を残してな」とブラウンはぎなった。
「さなくば、婚儀の当夜、大挙してしかけ、彼の破戒行為を責める」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのことばわらざるに、車は凸凹路でこぼこみちを踏みて、がたくりんとつまずきぬ。老夫おやじは横様に薙仆なぎたおされて、半ば禿げたる法然頭ほうねんあたまはどっさりと美人の膝にまくらせり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、かしい事には、誰一人として、主役を買って出た、彼の演技に触れるものはなかったのである。所が、次の話題に持ち出されたのは、いまの幕に、法水が不思議な台詞せりふを口にした事であった。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
白川をここまでびきよせておいて、ついと引つ離してしまつては彼の立場は全然失はれるであらう。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
おお栗樹カスタネア 花ちし
春と修羅 第二集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
当時近代音楽の勃興ぼっこう時代で、真物ほんもの偽物にせものも、ひたむきに新奇をうてやまなかった時、ブラームスは雄大、厳重、素朴、敬虔けいけんな古典精神にかえ
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
つなぎ烽火というのは、一里き二里距きに備えてあるのろし筒が、次々と轟煙ごうえんを移して甲府の本城へと
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
およそ生あれば必らず死あり。死は必らず、生をうて来る。
膝にきたる骨太の掌指ゆびは枯れたる松枝まつがえごとき岩畳作りにありながら、一本ごとに其さへも戦〻わな/\顫へて一心に唯上人の一言を一期いちごの大事と待つ笑止さ。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
水草をうて自在に移るという時代には、それが南下して支那とたびたび衝突する。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
では、もし、挙国一致、婦人が髪を切って弓弦として、国難に赴く如き態勢を、時期にくれずに採用したならば、せいぜい擡頭期に於けるローマ如きにああもミジメに亡ぼされなかったであろう。
世界の裏 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さらにそれを貫いて進むと、ついに漠然たる生活に充ちた、波瀾重畳のちかたに没してしまう。しかししばらくたつと、眼尻からある一瞥が、広間の中へさっと戻って来る。
神童 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
天文五年十一月、武田信虎八千を率い信濃海口城を襲ったが城の大将平賀源心よく防いで容易に陥落ちない。十二月となって大雪降り、駈け引きほとんど困難となった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで、彼等は一人一人静かに舷梯げんていりて行ったが、最後の一人が汽艇ランチに納まったのを合図に、憲兵達はソレッとばかり一斉に跳びかかって、彼等に手かせをはめてしまった。
人々ぢ隠るるを、法師あざみわらひて、老いたるもわらはも必ずそこにおはせ、此のをろち只今りて見せ奉らんとてすすみゆく。閨房の戸あくるを遅しと、かのをろちかしらをさし出して法師にむかふ。
女将も評判のキンキン声であったが、きょうは何となくびえている様子……。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ほうほうと切れてしまう藕糸を、八・十二二十合はたこに縒って、根気よく、細い綱の様にする。其をごけにつなぎためて行く。奈良の御館でも、かうこは飼って居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
りやおれはせんのせえをしいつくれえだからにはとりげやつてせえ其麽そんなことへやがんだんべなんて、放心うつかりしてたもんだからにやあねえで、れかうえに怪我けがしつちやつたな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)