)” の例文
旧字:
お千代は夜ごとに深みへとちて行った。その代り質屋の利息のみならず滞った間代まだいもその月の分だけは奇麗に払えるようになった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この歌を選んだのは、そういう直接性が私の心をいたためであるが、後世の恋歌になると、文学的に間接にち却って悪くなった。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
いたすことで私は必ず罪にちましょう。事実は申し上げたとおりです。もうあなたが今すぐお寄りになって、お話しになることを
源氏物語:56 夢の浮橋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そしてその児が意地の悪いことをしたりする。そんなときふと邪慳じゃけんな娼婦は心に浮かび、たかしたまらない自己嫌厭けんおちるのだった。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
一度ありたりとて自らすでに大悟徹底したるが如く思はば、野狐禅やこぜんちて五百生ごひゃくしょうの間輪廻りんねを免れざるべし。こころざしだいにすべき事なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
十五にして苦海にち、それより浮沈隆替の跡は種々に異なれども、要するに色を売る歴史のみにして、恋を談ずる者にあらず。
われはちじと戒むる沙門しゃもんの心ともなりしが、聞きをはりし時は、胸騒ぎ肉ふるひて、われにもあらで、少女が前にひざまずかむとしつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかし歌そのものはどうかということになると、創作の方では全く堕力で流れるところまでちきってしまったといってもよい。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
あおざめた、——れた頬肉ほおにくの底に瞼はきれこんで、ちて行くように深く閉じた。それを手繰りあげるように阿賀妻は力をこめて云った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
が、それへ身を乗せたが最後、やわらかに焦げきっているわらの火と共に、どすんと焦土の底へち込んでしまうことは明らかであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは破れた数本のたるきのある小家で、くずちようとしている壁を木の股で支えてあるのが見えた。そこに小さな室があった。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
民藝趣味にちたり、民藝嗅味に沈んだりしたものが漸次多くなり、おかしな事だがかかる内敵と闘う必要さえ生じているのが現状である。
東晋とうしん升平しょうへい年間に、ある人が山奥へ虎を射に行くと、あやまって一つの穴にちた。穴の底は非常に深く、内には数頭の仔熊が遊んでいた。
隧道の上のいつものところで焚火をしようと思ってやって来て見ると、土は一丈もくぼんで、掘りかけた隧道は物の見事に破壊くずれている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
そうした路傍の食物を心ゆくばかり食わんがために不良な行為にちて行ったのがその一つの原因であったことを想い起す。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この後が、古事記では、弟王二柱、日本紀では、竹野媛が、国に戻される道で、一人は恥じて峻淵ふかきふちに(紀では自堕輿とある)ち入って死ぬ。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
自分を与えれば与えるほどいよいよはかない境涯にちてゆかなければならなかった一人の女の、世にもさみしい身の上話。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
此儘このまゝ下らない作者にちて了ふのは、余りに惜しい芸術的素質が自分にはあるはずだ。併し自分の創作が思ふまゝにできる日はいつ来るであらう。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
戒壇の権威はもう地にちている。だからこそわれわれは、布をかぶせてはあるが土足のままで、この壇上を踏みあらすこともできるのである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
境遇のため泥水稼業にちた可哀相な気の毒な女があって、これを泥の中から拾い上げて、中年からでも一人前になれる自活の道を与えるつもり
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
果して然らば、地球人類がお互い同士に猜疑さいぎし、とし合い、殺戮さつりくし合うことは賢明なることであろうか。断じて然らず。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
羅子らし水滸すいこせんして、三世唖児あじみ、紫媛しゑん源語げんごあらはして、一旦悪趣につるは、けだごふのためにせまらるるところのみ。
現実をいとい果てるように成ったものが悲痛な心でちて行ったデカダンの生活の底こそは、彼の遁れて行こうとした氷の世界であったのである。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分がそこにちるのが恐かった。しかし此の度の逃亡もひょっとすると自分の束の間の感傷から出たのかも知れない。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
この句などは優しい春水を咏ずるのにやや理窟にちかけたもので、蕪村の句のうちでもいい方とは言えないのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
俺は同盟からはずれてしまった。俺は人外じんがいちた、蛆虫うじむし同様になってしまった。もう明日から人にも顔は合わされない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
屋根で鵝鳥がちょうが鳴く時は、波にさらわれるのであろうと思い、板戸に馬の影がさせば、修羅道にちるか、と驚きながらも
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
意気溌溂はつらつたる青年は、その意気の溌溂を、どこに行ってもハケ口を見出すことができないから、滔々とうとうとして不良にちるよりほかに行く道がない。
佐分利は二年生たりしより既に高利の大火坑にちて、今はしも連帯一判、取交とりま五口いつくちの債務六百四十何円の呵責かしやくあぶらとらるる身の上にぞありける。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
木々の葉にしとどに置く露を、星合ほしあいの名残の露と見ることは、一見気が利いているようで、実は技巧の範囲にちる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
だから、足まめにして親切で売ることにしよう。しかし、いかに俗にちればとて、世間医のやる幇間ほうかん骨董こっとう取次とりつぎと、金や嫁の仲人なこうど口だけは利くまい
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
しかしてそのあるいはこれを激するや天狗てんぐ地にちて声、雷のごとき虚無党の爆裂弾となり、等閑に触着すれば火星を飛ばす社会党の猛烈手段となり
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼が戦いに敗れ地獄にち、しばらく夢中に卒倒してあった後、たちまちいきふき返して、わが身辺を見廻わすと、彼の同僚および彼のひきいたる軍勢は
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
死んで地獄にちるほどの悪いことをした覚えもなく、さりとて極楽ごくらくへすぐに迎え取られるという自信もない者が、実際には多数だったためもあろう。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おのれ、不所存な! 子供のころから、さも小父のようにも物をいいおりながら、畜生道に、ちたか、おのれ——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
傾いた夏のざしで空は夢のようにぼうと明るかった。橋梁きょうりょうくずちず不思議と川の上に残されていた。その橋の上を生存者の群がぞろぞろと通過した。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それだけに、己がこんな小僧の境遇にちて居るのは、ほかの人間よりも一層勿体もったいない、一層残念な気がするのだ。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
未亡人は恋愛し地獄へちよ。復員軍人は闇屋となれ。堕落自体は悪いことにきまっているが、モトデをかけずにホンモノをつかみだすことはできない。
続堕落論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あの墓原の松のかげに、眠っていらっしゃる御両親は、天主のおん教も御存知なし、きっと今頃はいんへるのに、おちになっていらっしゃいましょう。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこまで身をとしても運のない者にはいいことがないのかと、自分のことは忘れていたましく思うのであった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
い塩梅にりましたが、其の薬の余毒よどくのため妾は七転八倒の苦しみをして、うーんうんと夜中にうなるじゃげな
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
是非なくに紛れて我家わがやに帰れば、こはまた不思議や、死人の両手は自然に解けてたいは地にち、見る見る灼々しゃくしゃくたる光輝を発して無垢むくの黄金像となりけり。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
し伊曾が明子の過去について知つて居たら、彼は或ひは不幸から救はれたかも知れない。だが彼は知らない。彼は引きずられてち込むほかはなかつた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
「そんな事は解っているよ。鉄心道人はもう半分地獄にちている。それより浅川団七郎の方はどうしたんだ」
大阪あたりから渡来した女は情夫の為に浮ぶ瀬の無い境遇にちる者が多いが、長崎県の女は意志が堅くて、情夫はあつても物質上の損害を被る事がすくな
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
高よりち、刃にやぶれて身にあずからず。しかるに、わが心に痛苦を知る。死後は躯殻くかくなしといえども、しかも神魂なおあり、痛苦いずくんぞ知らざらんや
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
これは『しめ立つ道』という本で岩波書店から出しておりますが、この中に「蓮池」という二部作ぶさくがありますがそのなかの「蕩児とうじちる地獄」だけを読んで
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
いや、私はいかにも低くちてはいるが、不信仰者ではない。私が神を信じていることは、神が知っている。いったい彼は、あの老人は、何を私に言ったか。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
銀のようにギラギラと輝いている物凄さ……生きながらの焦熱地獄にちた、亡者の姿とはこの事であろう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あるいは哀歌をうたってかれらの罪障の消滅をねがっているちた人間たちの霊であり陰鬱な予言である。