)” の例文
すでに下流の久我畷こがなわてやら淀方面では、終日、敵へいどむ本軍のたけびがしていたが、彼は、やがて赤々と沈む陽をただ見ていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
影と知らずにと見たかと見たか、あるいは水の玻璃層は、人間には延板のように見えても、蝶には何でもないのか、虚空の童女は、つと水底の自分を捉えようとして
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
我が日本の松にはいろいろの種類がありますが、まず最も普通なものは赤松あかまつ黒松くろまつとです。赤松は一に※松、黒松は※松といいます。これは我が邦の特産で支那にはありません。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
時にたまたま天の神ありて突然にわかに棄老の王宮にくだり、国王ならびに諸臣にむかひて、手に持てるふたつへびを殿上に置き、見よ見よなんじら、汝らこの蛇のいづれかにしていづれかなるを別ち得るや
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
が、無鉄砲のはやりはあった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ暗い冬の夜と、寒々しい枯野のなかを、湊川の水音は淙々そうそうとすぐそこに聞える。——建武けんむ延元えんげんたけびを思わすような風の声もして。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実に分明なるものであるという、「農鳥」というのは、鶏の義であるそうだが、事実残雪は、鶏とは見えない、無風流な農夫は、自分に説明して、シャモのどりの立っているようで
雪の白峰 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
……たとえばあぶや蝶が、シベとシベのあいだの風にのって、花粉を運んだとしましても、胚子たねを結ぶときもあり結ばずに終ることもありますからな
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城は、巨大な熔鉱炉ようこうろのように、たけびのたぎりをあげている。——その火花がやがて黒ずんで来て弱まる時、すべてのことは終るのかと思うと、信長は
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、和田山一帯の丘陵は、それから半日の間に、銃煙と土けむりとたけびの中に、陥落してしまった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてただ味方のどの方面を見わたしても、西へ南へ、なだれうごいているか、支離滅裂なたけびのうちに、しかもまた、あらぬ地点に敵が見えたりもするのであった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また荒武者と荒武者とが、首を取りつ首を取られつ、たけびわして、火に火を降らせている血戦の中へ、ほとんど、気でも狂ったかのような姿で、彼方此方かなたこなたはしりめぐっていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
坂本にはもう朝霧のうちからたけびがわいていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)