“推(お)” の例文
その足跡から推(お)すと、背(せ)の高さ一メートルにちかく、体重も六、七十キロくらいはたしかにある。おそろしくたくましいやつらしい。
おのれも一三六いとほしき妻を亡(うしな)ひて侍れば、おなじ悲しみをも一三七問ひかはしまゐらせんとて、一三八推(お)して詣で侍りぬといふ。
前夜の様子から推(お)しても、知っておらねばならぬ筈じゃ。そこへ拙者を案内してくれぬか。——さすれば、そちの罪はゆるしてやる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然(しか)れども、人民自治の精神を涵養(かんよう)し、その活溌(かっぱつ)の気象を発揚するものに至ては、勢い英国人種の気風を推(お)さざるを得ず(大喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
阮もみずからそれを誇って、この理をもって推(お)すときは、世に幽と明と二つの界(さかい)があるように伝えるのは誤りであると唱えていた。
雲仙がその景観において、山岳中の首位に推(お)されることの当然さを、一たび普賢の絶頂に立ったものは、誰(たれ)でも首肯(しゅこう)するであろう。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
もっとその理を推(お)し拡めて、いわゆる前世にも未来にも及ぼすようにすれば、きっとチベット人に対する道が立つであろうと思います。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これはと大きに驚き呆(あき)れて、推(お)し剥(は)がさんと力を出(いだ)せど少しも離るることなければ、人を頼みて挽却(ひきさ)らしめしも一向さらにその甲斐(かい)なし。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
宗近の言は真率(しんそつ)なる彼の、裏表の見界(みさかい)なく、母の口占(くちうら)を一図(いちず)にそれと信じたる反響か。平生(へいぜい)のかれこれから推(お)して見ると多分そうだろう。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一言(げん)で云(い)へば、貴方(あなた)は生活(せいくわつ)と云(い)ふものを見(み)ないのです、其(そ)れを全(まつた)く知(し)らんのです。而(さう)して實際(じつさい)と云(い)ふ事(こと)を唯(たゞ)理論(りろん)の上(うへ)から計(ばか)り推(お)してゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「とはいえ従来大納言家が、われらへ寄せられたご好意から推(お)せば、そうひたむきに変心などと……」なお、正雪うべなわない。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし、それでも私たちの場合は、疎開人として最も具合いのよかったほうらしいのだから、他の疎開人の身の上は推(お)して知るべきである。
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これこれ二品です。合わせてちょうど二万円の代物です。で当時の状況から推(お)して確かにお客さんの中に犯人が混じっていたと思われます。
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
教師はその帯の色合いから推(お)して、それは男向きの品物に違いないと決めてしまった。そして葉子の心は早熟の恋を追うものだと断定した。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
中にも蕪村は其角を推(お)したらんと覚ゆ、「其角は俳中の李青蓮(りせいれん)と呼れたるもの也」といひ「読むたびにあかず覚ゆ、これ角(かく)がまされる所也」
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
自(みずか)ら疑うことが多いと告白したところが、かの文士は、それは君は心配するにおよばない、ドイツ人のうちにも、今日なおシラーを推(お)して
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
これは○○獣の運動ぶりから推(お)して、そういう理屈になるんだよ。つまり○○獣というのは二つの球が互いに相手のまわりに廻っているんだ。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これを譬(たと)えば石の地蔵に飛脚の魂を入れたるがごとく、中風の患者に神経の穎敏(えいびん)を増したるがごとし。その不平不如意は推(お)して知るべきなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
石垣島などのニーラスクを始めとし、北の方の島々のニルヤ・ネリヤの語尾のヤのごときも、是から推(お)して行くと成り立ちがほぼ判(わか)ってくる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
孫文(そんぶん)はあの場合、武漢革命には全く無縁だったから、自分が大総統に推(お)されるとは夢にも思ってなかったらしい。黎元洪(れいげんこう)を彼は推していたんだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
平次の説明は目や耳で感じた現實の世界から推(お)し進んで丹右衞門お園小半次の、三人の心の世界までも飛躍するのでした。
のみならず前記森栖氏の口走りたる言葉より推(お)して、右二通の手紙は或はミス黒焦事件の秘密を暴露する有力なる参考材料なりしやも計り難く
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其(そ)の次(つぎ)の室(ま)も、他(た)は推(お)して知(し)るべしで、珍什(ちんじふ)奇器(きき)殆(ほとん)ど人界(じんかい)のものにあらず、一同(いちどう)呆然(ばうぜん)として、口(くち)を利(き)くものある事(こと)なし。
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
駒井甚三郎は、いつもするように研究に頭が熱してくると、手をさしのべて、窓を推(お)し、海の風に疲れた頭を吹かせる。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから、寝床へはいり、湿(しめ)った漆喰(しっくい)のところどころにできた水脹(みずぶく)れを見つめながら、彼は、自分の意見を推(お)し進める。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それから推(お)して得たものは、かういふやうなものになつた——即ち、ソーンフィールドには何か祕密があるといふことゝ、その祕密を聞かされて
これよりして「プラト」は深くその道理を推(お)し、宗教を指(さし)て政権の保障、性法の鏈(ママ)鎖なりと云(い)えり。〈三百二十二葉〉
いざ汝推(お)して知るべし、人肯(うけが)ひて神また肯ひかくして誓ひ成るならんには、そのいと貴(とほと)きものなることを 二五—二七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
五郎兵衛は只二人を留めて置いて、若(も)し人に知られるなら、それが一刻も遅く、一日も遅いやうにと、禍殃(くわあう)を未来に推(お)し遣(や)る工夫をするより外ない。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それから推(お)して石器時代(せつきじだい)の人間(にんげん)は貝(かひ)や魚(さかな)の他(ほか)に、主(おも)に猪(ゐのしゝ)だとか鹿(しか)だとかを狩(か)りして食料(しよくりよう)にしてゐたことが知(し)られます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
彼は思はず身を飜(ひるがへ)して、扉の方へ飛んで行つた。が、いくら推(お)しても引いても、扉は開きさうな気色(けしき)さへなかつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そう言うのから推(お)せば秘密はすっかり弟に打ち明けられたものらしい、こう思うと女は源氏が恨めしくてならない。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
改めて太子をたてる段となり、右大臣豊成と藤原永手は塩飽王を推(お)した。文室珍努と大伴古麿は池田王を推した。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
盛り場の柳原にしてこれだったら、他は推(お)して知るべしなのだ。目撃したとていたずらに心が沈むばかりである。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
そして結局、青山敬太郎の発言で大河を推(お)し、それがほとんど全部の塾生に拍手(はくしゅ)をもって迎(むか)えられたのであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
李陵(りりょう)は全員を点呼して、被害状況を調べたのち、傷の一か所にすぎぬ者には平生どおり兵器を執(と)って闘わしめ、両創を蒙(こうむ)る者にもなお兵車を助け推(お)さしめ
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「ほんまに隅へ置けまへんな。粋なお方や、あんたはん一つおあがりなはツとくれやす。」と、女中は備前焼の銚子を持つて、源太郎の方へ膝推(お)し進めた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
しかしこのイチシという方言は、今日(こんにち)あえて見つからぬところから推(お)してみると、これはほんの狭(せま)い一地方に行われた名で、今ははやく廃(すた)れたものであろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
と、元豊が天子の着るような袞竜(こんりょう)の服を着、旒冕(そべん)をつけて、室の中から一人の女に推(お)し出されて出て来た。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
語未だ畢らざるに、婦人は手中の扇をあげてしたゝかに我面を撃ちたり。その撃ちかたの強さより推(お)すに、我は偶〻(たま/\)女の身上を占ひて善く中(あ)てたるものならん。
このへんから推(お)すと、あの六人を殺したのは加代姫ではないような気がする。あなたのお考えはどうです
我心よりも猶(なお)強き一種の望みに推(お)され推されて余は警官及び判事を初め書記や目科の此室(へや)に在るをも忘れし程なり、彼等も別に余が事には心を留めざりしならん
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
描かれた内容自身から、また平行線の応用から推(お)して「いき」な模様でありそうであるが、実際の印象は何ら「いき」なところのない極めて上品なものであった。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
その外室内の装飾の様子、太刀や物具(ものゝぐ)や刀掛けのきらびやかさ、金銀の蒔絵(まきえ)をした調度類の贅沢(ぜいたく)さから推(お)して、こゝが普通の侍の詰所でないことは疑う餘地がない。
不思議の力ありて彼を前より招き後(あと)より推(お)し忽(たちま)ち彼を走らしめつ、彼は躊躇(ためら)うことなく門を入った。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
三座は確か類焼の難はのがれたように思いますが、何しろ、吾妻橋際から大河(おおかわ)の河岸まで焼け抜けてしまったのですからいかに火勢が猛威を振(ふる)ったかは推(お)し測られます。
これは、弟の秘密を好む性質だったことから推(お)して、満更あり得ないことではないのです。
日記帳 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
年は十九だそうだが、手紙の文句から推(お)して、その表情の巧みなのは驚くべきほどで、いかなることがあっても先生の門下生になって、一生文学に従事したいとの切なる願望(のぞみ)。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しかし生活(くらし)の豊かな此辺は人気(にんき)が好いとみえて、耳門(くゞり)を推(お)すと直ぐ中へ入ることができた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
焼け焦げたような顔色から推(お)してこの男が、焔硝(えんしょう)のけむりはともかく、煙草のけむりには相当お馴染になっていることが窺(うかが)われた。彼はチチコフに向って丁寧にお辞儀をした。