“男(お)” の例文
 雉(きじ)はやさしき姿ながらおそろしき声を出すもの故、あたかもたはれ男(お)に袖引かれたる生娘が覚えず高声を発したるにも似たりとなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかしそこから南の方へまわって、紀伊国(きいのくに)の男(お)の水門(みなと)までおいでになりますと、お傷の痛(いた)みがいよいよ激しくなりました。命は
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
又太郎高氏の再生が始まっていたといっても過言でない。——許した母の清子が、「もいちど、男(お)の子を生むにひとしい陣痛」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし巨石群の遺跡に富む「男(お)かん」「女(め)かん」二峰の神南備山が、鬼門を守つて立つならば、この高山の石仏は、正にその正反対の裏鬼門にあたる。
南予枇杷行 (新字旧仮名) / 河東碧梧桐(著)
それやアあし男(お)くんの姉さんが。なかなかえらいもんだっサ。この間僕の父(おやじ)が一番町の宮崎さんへいったら。あっちの長屋にお秀という娘があるが。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
次第次第に霞が浦の水の上に響いて行く時は、わかさぎを漁して戻る島の荒(あら)し男(お)も身震いして橈(かじ)をとどめた。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
右のような理解を説いて聞かせているとする、そうすると両岸のいきり立った、逸(はや)り男(お)もそれに感化されて
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なにがしの局(つぼね)、なにがしの姫君と、そこにも此処にも仇(あだ)し名を流してあるく浮かれ男(お)のお身さまと、末おぼつかない恋をして、わが身の果ては何となろうやら
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あら、いともやさしき男(お)の子かな。わらわの誕生日のパーティーにはぜひご招待して、お顔が見たい」
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
けれどもその高慢にして悧※(りはつ)、たとえば五月の青葉の如く、花無き清純のそそたる姿態は、当時のみやび男(お)の一、二のものに、かえって狂おしい迄の魅力を与えた。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
按摩済む頃、袴を着けたる男また出で来りて、神酒を戴かるべしとて十三、四なる男(お)の児(こ)に銚子酒杯(さかずき)取り持たせ、腥羶(なまぐさ)はなけれど式立ちたる膳部を据えてもてなす。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いとし男(お)の血に渇きたる Pasiphaé(パヂファエ) は、命あらばさぞと覚ゆる壮漢(ますらお)が、刺されて流す血に酔(え)ひて、情慾と恐怖の身ぶるひに、快楽と敬神の念(おも)ひを合せ味(あじわ)ひしが
今日の沖縄語でウラナヒのことをトキウラカタまたはトキハンジといいますが、そのトキということは男(お)カンナギすなわち覡のことであります。この言葉は本県の田舎には今なおのこっています。
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
かりそめに叱(しか)りうべしや吾子(あこ)といへどこの天地のひとりの男(お)の児(こ)
さよふけて月をもめでし賤(しづ)の男(お)の
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂、楢崎竜、川田雪山(著)
「遊び男(お)の心を乗せるにふさわしい急流だ。——けれど、後朝(きぬぎぬ)を、また、都へもどる日は、舟あしも遅いし、懶(ものう)いそうだぞ」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逸(はや)り男(お)が飛び出してみたけれども、もう後の祭りで、町の巷(ちまた)の動揺もすっかり静まり返っていたところですから、手持無沙汰で帰っては来たが、このままでは済まされない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
九重(ここのえ)の大宮人(おおみやびと)もかしはもち今日はをすかも賤(しず)の男(お)さびて
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「男(お)の子(こ)の初陣(ういじん)とは、元服以上大事な日だ。初めて烈しい世へ出て、世の大敵と渡りあうこと。——悔いのない相手と正義の戦場をえらばねばならん」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大妻籠十七峯の流れをあつめて落つる女(め)滝男(お)滝の霧しぶきは、その近くの草木を濡らして、満山の風を呼んでいる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もしお警吏、つまらないことに、おせっかいはおよしなさい。誡めたからとて、この世に忍び男(お)と、忍び男を待つ女性(にょしょう)が尽きるはずはございません」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……が、もしやわらわの留守の中に、一ト矢の争いでも起しては、みな仇事(あだごと)。きッと逸(はや)り男(お)どもの荒駒を、城戸の内につながせて、よう留守をたのみますぞえ
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そもそも、あれがまだ十歳かそこらの頃ですら、戦場でもし父が斃れたら如何(いか)にするかと聞いた時、父上の屍(かばね)を踏みこえて敵へ当りますと答えたほどの男(お)の子(こ)じゃ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえ、真(まこと)の父御(ててご)が、たれであろうと、和子様だけは、まちがいなく、一個の男(お)の児(こ)ではおわさぬか。手も脚も、片輪(かたわ)じゃおざらぬ。こころを太ぶとと、おもちなされい。
忍び男(お)の朝臣は、着るに着る物もなく、さりとて、裸でわが家へ帰りもならず、雑色の布ひたたれを借りうけて、しかも夜が白んでから、こそこそ帰って行ったが、館には
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白河の上皇さまに御寵愛(ごちょうあい)をうけたことは、かくれもないにせよ、八坂(やさか)の僧を忍び男(お)としていたなどと、もう二十年もむかしの古事(ふるごと)を、いったい、たれがいい出したのでしょう。
和子様とて、まちがいなく、一個の男(お)の児(こ)。手も脚も、片輪じゃおざるまいに——と。上皇の子であれ、不義の子であれ、おれは、じじのいう通り、天地が生んだ一個のものだ。
「おお、母はもいちど、あなたを産む気で、男(お)の子(こ)を産む陣痛に耐えましょうわいの」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そちは元より氏素姓(うじすじょう)もない九条院の雑仕女(ぞうしめ)、義朝の寵をうけたといっても門外の花だ。しかし抱えておる子たちは正(まさ)しく源氏の血流、ましてみな男(お)の子。助けておくことは罷(まか)りならん
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは、てめえの姉に訊(き)け。おれは、お八重の媚(こび)に釣られて来たまでの戯(たわ)れ男(お)」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「きょうこそは、われらの生涯のうちにも、またとない一日。——その日の先駈けに選ばれたその方どもまた男(お)の子(こ)冥加(みょうが)というものじゃ。各〻、日頃鍛えた脛(すね)にものをいわせて急げや」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ飾られているのは、そこに把(と)る手を待っている女(め)蝶男(お)蝶の一対の瓶子(へいし)だった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それまでの薄暗い遊廓(くるわ)裏の道を捨てて、三筋のうちでもいちばん繁華な総門の通りへ出て来ると、そこをぞめき歩いている人影の中に、彼のすがたも、一個の嫖(うか)れ男(お)のように紛(まぎ)れてしまう。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それもほんに玉のようなよい男(お)の子を」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)