)” の例文
「可哀想じゃないか、あんな結構な太夫を殺して、——過ちでちたのかと思ったら、こめかみへ吹矢が突っ立っていたんだってネ」
暫くして空から一つの桃がちて来た。それはわんよりも大きなものであった。彼の男は喜んで、それを堂の上の官人にたてまつった。
偸桃 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「こわくはなかった。いや、こわいということは感じなかった。第一、ちることを、考えもしなかった。ぼんやりしてたんだな」
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
というのは、彼がちょっとでもその顔を見たら、たちまち死んだ石の像になって、空中からどうっとちてしまったでしょうから。
コップから水を嚥んで、下に置こうというときに異変が起ってコップを手からとしたら、ああもなるのではないかと想像される。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ブンと風をきり、五十メエトルも海にむかって、突き刺さって行く槍の穂先ほさきが、波にちるとき、キラキラッと陽にくるめくのが、素晴すばらしい。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
さっき、自分がちこんだ所を、鏡の裏の下から仰ぐと、一丈あまりの高さであって、梯子はしごのない二階同様、上がるすべがないのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくて苦悩と労役との十九年の間に、彼の魂は同時に上りまたちた。一方からは光明がはいり、他方からは暗黒がはいってきた。
迂濶うかつに手を放せば、彼は底知れぬ暗黒くらやみに転げちて、お杉と同じ運命を追わねばならぬ。さりとてのままの暗黒くらやみでは仕方が無い。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あの朝、私は便所にいたので、皆が見たという光線は見なかったし、いきなり暗黒がすべち、頭を何かでなぐりつけられたのだ。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
「おばさま、其処の穴は欠け石でがじがじして危いったら。抜けたって向う側はどろどろ川なのよ、っこったら死んじまう。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彫刻などいうことは地にちてほとんど社会から見返られなかったにもかかわらず、今日、ゆくりなくもこうした光栄を得たことを思うと
さきにち入りたるほとりの雑草に、血に染みて生けるがごとき指等を絡ましめつつ這い出づ。衣形ほとんど血に濡れてあり。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
銀の如き髮の解けたるが、片頬にちかゝりて、褐色なる頸のめぐりに垂るゝを見る。その墨の如き瞳は、とこしへに苧環をだまきの上に凝注せり。
段丘を吹き抜けて来た烈風は、この外れでちて逆転した。雪庇ゆきびさしの軒下をえぐり取ってその向うに吹きだまりをつくっていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
二人は底知れぬ谷にせたり。千秋万古せんしゅうばんこ、ついにこの二人がゆくえを知るものなく、まして一人の旅客たびびとが情けの光をや。
詩想 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
はて、時ならぬ、何のための水悪戯みずいたずらぢや。悪戯いたずらは仔細ないが、ぶしの怪我けがで、うみちて、おぼれたのではないかと思うた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いつ何時、心が魔道にちぬとも限らぬと、自誡のために、わざわざ白紙の一巻を、二柱の御神前にそなたてまつって置いたわけ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
渡し場の船頭は、大きな図体に闕腋を着け、冠をた鼓村氏の姿を見て、天国からちて来た人ででもあるかのやうに、目をみはつて吃驚びつくりした。
声もろともに射出す征矢そやに先に進んだ騎馬武者一騎、真っ逆様に馬よりち、次に進んだ騎馬武者は馬もろともに倒された。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あさひは暗澹あんたんたる前途を見透し、地獄へちる瞬間の光景を垣間かいま見たひとのような悲愴な顔で、生きにくい東京という土地を離れる決心をした。
虹の橋 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
頭が熱し、まぶたが焼けて、じぶんは地獄にちてもマヌエラを天に送ろうと、座間は目をつぶり絶叫に似た叫びをあげていた。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
深川の陸軍糧秣廠りやうまつしやうの広場で何十万の人の死んだ所や、両国の橋のちた所などを読んだ。どうも息がつまるやうである。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ぼくはぼくの才能によってちるところへ墜ちて来たのさ……許してくれたまえきみ、ぼくはいつも恥じていたんだ、ぼくはこれだけの人間なんだよ
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ふと涸沢岳のあのもろい岩壁から岩がひとつちる音がした。カチーン……カチーン……と岩壁に二、三度打ちあたる音が、夜の沈黙のなかにひびいた。
つめや髪の伸長をも意志によって左右しようとしなければ気が済まない者の不幸について」「酔うている者は車からちても傷つかないことについて」
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
さっきもあの梯子段の手すりへまたがって、すべり下りようとなさるんでしょう。私吃驚びっくりして、ちて死んだらどうなさるのって云ったら——ねえ、民雄さん。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
他日幕府の政權をかへせる、其事實に公の呈書ていしよもとづけり。當時幕府ばくふ既におとろへたりと雖、威權ゐけん未だ地にちず。公抗論かうろんしてまず、獨立の見ありと謂ふべし。
嘘でも、また、ひかれ者の小唄でもないもの。まともなことを正直に僕に訴えて見給え。君は、なにか錯覚にちている。僕を、太陽のように利用し給え。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
アダ、私は貴女が容易たやすく身を委すたびに飛行機のプロペラのこわれたように扁平な地球からころげちるような大陸的な叫声を出すのを知っているのです。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
最初に、最も大きな枝が地にちた音で、彼の珍らしい仕事を見に来た彼の妻は、何か夫にびかけたやうであつたけれども、彼は全く返事をしなかつた。
少女は「あ」と叫びつつ、そのまま気をうしなひて、巨勢がたすくる手のまだ及ばぬたおれしが、傾く舟の一揺りゆらるると共に、うつぶせになりて水にちぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
英雄は人類の中心点である、そうだ、中心点だ、車のじくだ、国家を支える大黒柱だ、ギリシャの神話にアトラス山は天がちるのをささえている山としてある。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しかし私のこの熱情はだんだんに弱くなって来て、いつの間にか空想にちていました。このへやには、すこしも死人の室とは思われないところがあったのです。
ただ彼はときどき激しい羽ばたきをする盲目的な力に支配されたが、その力もやがてくじけて地にちてしまった。彼はあたかも闇の中にうなる雷雲に似ていた。
ああ、彼はその初一念をげて、外面げめんに、内心に、今は全くこの世からなる魔道につるを得たりけるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
可憐かれんなるエレーンは人知らぬすみれの如くアストラットの古城を照らして、ひそかにちし春の夜の星の、紫深き露に染まりて月日を経たり。う人はもとよりあらず。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
有名なる英のアルフレッド大王は、人が樹からちて死んだ時には、その樹を斬罪に処するという法律を設け、ユダヤ人は、人をき殺した牛を石殺の刑に行った。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
およそ四百三十年の期間であった。治承四年の冬、平重衡たいらのしげひらの兵火によって伽藍がらんの大部分が焼失したことは周知のところであろう。仏頭もむろんちてしまった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
と、顔をげてじっと主人を看る眼に、涙のさしぐみて、はふりちんとする時、またかしらを下げた。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
酒に酔つて来た為か、富岡は少しづつ気持ちが明るくなり、曖昧あいまいな心のわだかまりから、解放されて、このまゝまた元通りの危険な関係にち込んでゆく勇気が出た。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
わが邦はその改革前まではいまだ一雲片の空間にひるがえるを見ず。いまだ一点滴の大地につるを見ず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
地獄にちてもだえ苦しむ者と、地獄におとして喜ぶ悪魔との咽喉のどから一緒になって、ただ地獄からだけ聞えてくるものと思われるような、なかば恐怖の、なかば勝利の
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
または落雷に砕かれ候て隠置かくしおき候大金、木の葉の如く地上にち来り候やうの事有之候ては一大事なりと、天気よろしからざる折には夜中やちゅうにも時折起出おきいで、書院のまどを明け
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私を溺愛できあいする叔母であることを知ればこそ、苦笑しながらも、それを有難いと思って、け入れている私との間には、いわば、むつまじさが平凡な眠りにちて行くのを
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
地に拠って一度吼ゆれば山石震い裂け馬辟易し弓矢皆ち、逃げ帰ってまた虎を射なんだとある。
湯村は急に力をめて、「今の世にう信仰は無い、神の権威は地にちた。有るものは唯理解だけ、理解を離れては神の存在すら信ずる事の出来ぬ、浅間しい時代だ。」
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
そして、相手あひてとりしたほうへとだんだんちひさくなつてちてゆき、えなくなつてしまふと、そのときこそ得意とくいさうにはねらして、カラカラとそらのまんなかで、わらふのだつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
日本の文学は源平以後地にちてまた振はず、殆んど消滅しつくせる際に当つて芭蕉が俳句において美を発揮し、消極的の半面を開きたるは彼が非凡の才識あるを証するに足る。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
『その理由わけは』とつてグリフォンは、『それは何時いつでもえびと一しよ舞踏ぶたうをする。其故それゆゑみんうみなかはふまれる。それでなが道程みちのりちてかなければなりませんでした。 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)