)” の例文
野に生まれて、野にって、そして野に食物をあさる群れの必ず定まって得る運命——その悲しいつらい運命にお作も邂逅でくわした。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
い長じてはべつべつな主君に仕え、年久しく会いもせず、たまたま、相見たと思えば、おおやけの使節たり、また一方の臣下たる立場から
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先日のお言葉のようにい先が哀れに思われます。しかし、そちらへこの子が出ましてはまたどんなにお恥ずかしいことばかりでしょう。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その中でもこの地方のやや高山がかった植物界は、南国の海べに近くい立った自分にはみんな目新しいもののように思われるのであった。
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼は桑の木の方へ向いて、根元のあたりにい茂った新しい草の緑をながめるともなく眺めて、そこで俥の通過ぐるのを待った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
賢吉けんきちは、そのそばへいってみると、かきのなえが、みょうがばたけはしほうに一ぽんて、おおきなをつやつやさしています。
僕のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ことによると自分のい立ちには、何かの秘密がかくされていそうだ位のことは気のつきそうな年頃になっても、私はいっこう疑わなかった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そのさま人のつくりたる田の如き中に、人のうゑたるやうに苗にたる草ひたり、苗代なはしろなかばとりのこしたるやうなる所もあり。
わらわかとすれば年老いてそのかおにあらず、法師かと思えばまた髪はそらざまにあがりて白髪はくはつ多し。よろずのちり藻屑もくずのつきたれども打ち払わず。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これより始終谷を下り、日没椶櫚しゆろふるエニンに到り、独逸どいつ人のホテルに投ず。今日は終日サマリヤの山を行けるなり。行程わづかに七里余。
折しも秋の末なれば、屋根にひたる芽生めばえかえで、時を得顔えがおに色付きたる、そのひまより、鬼瓦おにがわらの傾きて見ゆるなんぞ、戸隠とがくやま故事ふることも思はれ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
天地の運行に従って百草は下萌したもえをし、い立ち、花をつけ、実を結び、枯れる。人もまた天地の運行に従って、生れ、生長し、老い、死する。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そはわが先見に誤りなくば、今子守歌ナンナを聞きてしづかに眠る者の頬に鬚ひぬまに彼等悲しむべければなり 一〇九—一一一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
築山陰つきやまかげ野路のぢを写せるこみちを行けば、蹈処無ふみどころなく地をくずの乱れひて、草藤くさふぢ金線草みづひき紫茉莉おしろいの色々、茅萱かや穂薄ほすすき露滋つゆしげ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その池の水際みずぎわには、あしやよしが沢山え茂っている上に、池のぐるりには大木がい茂って、大蛇だいじゃでも住みそうな気味の悪い大池でありました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この渾一体の意志は下は路上にうる一葉より、上は人間に至るまで、完全に現われている。たとえばその意志は幻燈の火のごときものである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
こけ深き墳墓の前に、桔梗ききょうやらむ、萩やらむ、月影薄き草の花のむらいたるのみ。手向けたる人のあとも見えざるに、われは思わず歩をとどめぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、よくよくえんがないのだね。なにしろとしってさきみじかからだだからね。しかたがない、あきらめましょう。」
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
津田は返事をする前に、まず小林の様子をうかがった。彼らの右手には高い土手があって、その土手の上には蓊欝こんもりした竹藪たけやぶが一面にかぶさっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
アシは、人間のよりも高く、びっしりとしげるものですから、小舟こぶねでさえも、その中にわけいることはできません。
すぐにそこから小径こみちがつづいて、あたりいちめんにしげっているすすきの穂の先を、あるかないかの風が、しずかな波をつくり乍ら渡っていった。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
天禀てんぴんならむは教へずとも大なる詩人となりぬべし。野にふる花卉くわきうるはしさ、青山の自然の風姿、白水のおのづからなる情韻、豈人間の所爲ならむ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
庭の正面に大きな笠松の枝が低く垂下たれさがって、添杭そえぐいがしてあって、下の雪見灯籠ゆきみどうろうに被っています。松の根元には美しいささが一面にい茂っていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
彼女がペテルブルグでい立ったこと、しかしとついだ先はS市で、そこにもう二年も暮していること、ヤールタにはまだひと月ほど滞在の予定なこと
同一の環境の下にいでても、多様多趣の形態を取ってえ出ずるというドフリスの実験報告は、私の個性の欲求をさながらに翻訳ほんやくして見せてくれる。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何だか「即興詩人」の中の賊の山塞へ伴はれる様な気がした。山荘の扉の前は一面にひよろ長い草がひ茂つて星明りにすかせばそれが皆花を着けて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そのうちに夏が過ぎると、その黒い土の上に、誰が種子たねいたともなく、コスモスが高やかにい茂りました。
(新字新仮名) / 夢野久作(著)
ひた土にむしろしきて、つねに机すゑおくちひさき伏屋ふせやのうちに、竹いでて長うのびたりけるをそのままにしおきて
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
道路の傍には松のい茂った崖が際限もなく続いていた。そしてその裾に深いくさむらがあった。月見草がさいていた。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あの辺は灌木かんぼくやすすきが一面にい茂っている所で、その中から灯が見えたかと思ううちに、ひとりの人間が提灯を持って火薬庫の前へ近寄って来ました。
火薬庫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
岩を打ち岩に砕けて白く青く押し流るる水は、一叢ひとむらうる緑竹のうちに入りて、はるかなる岡の前にあらわれぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
せふかさね/″\りようえんあるをとして、それにちなめる名をばけつ、ひ先きのさち多かれといのれるなりき。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
で、夢見心地でこの広々とした原っぱを通り過ぎると、間もなく物凄いすすきの大波が蓬々ほうほうしげった真に芝居の難所めいた古寺のある荒野に踏み入る筈だ。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
のちにはらんで産むところの子、両牙長くい尾角ともに備わり、げんとして牛鬼のごとくであったので父母怒ってこれを殺し、銕のくしに刺して路傍にさらした。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
見上げるような両側のがけからは、すすき野萩のはぎが列車の窓をでるばかりにい茂って、あざみや、姫紫苑ひめじおんや、螢草ほたるぐさや、草藤ベッチの花が目さむるばかりに咲きみだれている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
さて次年また子を生んだ当日より母馬その子の在所を見定めた上ならで身を動かす事なく子よくい立った。
私はまた想像した、雪にうもれ、氷に閉され、伸びては枯れ、枯れてはうる林相の無常を。またその光明を。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
さていよいよ猟場に踏み込むと、猟場は全くみさき極端はずれに近い山で雑草荊棘けいきょくい茂った山の尾の谷である。僕は始終今井の叔父さんのそばを離れないことにした。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
歳三十に近く蒼白そうはくなる美貌びぼうはなやかならざれどもすずしきみどり色の、たとえば陰地にいたる草の葉のごとくなるに装いたり。妙念にすがり鐘楼に眼を定め息を
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
そこではつるが長いつばさをひろげて飛びまわり、ペリカン鳥はミモザのえだから人々を見おろしています。しげった草藪くさやぶが、象の重たい足にみつけられています。
それでも、三日に一度、七日に一度づつは、泊りがけにやつて來て、めひのお雛の美しくひ立つのと病弱な富太郎が、少しづつでも丈夫になるのを見て歸りました。
はるかに関口の大洗堰おおあらいぜきの水おとが聞えるし、あたりにははぎすすきのたぐいが自然のままにい茂っていて、どんな山奥へ来たかと疑えるほど閑寂な空気に包まれていた。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
御衣は柿色かきいろのいたうすすびたるに、手足のつめけもののごとくひのびて、さながら魔王のかたち、あさましくもおそろし。そらにむかひて、一二九相模さがみ々々と、ばせ給ふ。
い茂ったやわらか草叢くさむらが、かすかな音をたてて足の下にしなっていった。はんのきの立木が半ば水に浸って、河の上に枝を垂れていた。はえが雲のように群れて飛び回っていた。
木立こだちひ繁る阜は岸までつづく。むかひの岸の野原には今一面の花ざかり、中空なかぞらの雲一ぱいに白い光がかすめゆく……ああ、またべつの影が來て、うつるかと見て消えるのか。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
こゝからビエンホアの町へ這入る間、甘蔗畑かんしよばたけや、果樹園や、椰子やし檳榔びんらうひ茂る、いくつかの小さい部落を抜けて、ドンナイ河にかゝつた、長い鉄橋を二つも渡つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
益々美しくい立たせるために恐ろしい非道を実行し貴郎自身をもその物のために犠牲にしたではありませんか! あなたは科学界の王者です! しかし貴郎は殺人鬼です
物凄き人喰い花の怪 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もしも二人ふたりがはなればなれのらない土地とちつたとしたらどうであつたらう。まちは、そんなことを、またふとかんがへると、幸福しあはせなやうながすることもあつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
われその年の秋母のゆるしを得て始めて八重を迎へいえを修めしめしが、それとてもわずか半歳はんさいの夢なりけり。その人去りて庭のまがきには摘むものもなくて矢筈草いたずらひはびこりぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
山河やまがは水陰みづかげふる山草やますげまずもいもがおもほゆるかも 〔巻十二・二八六二〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)