)” の例文
松向寺殿の御居城八代やつしろに相詰め候事と相成り、あまつさえ殿御上京の御供にさえ召具めしぐせられ、繁務にわれ、むなしく月日を相送り候。
また一説にはこれら皆うそで実は尊者の名パトリックをノールス人がパド・レクルと間違え蟾蜍ひきを(パダ)い去る(レカ)と解した。
私は異様な怖れからその蛾をいのけようともしないで、かえってさも無関心そうに、自分の紙の上でそれが死ぬままにさせて置く。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私はその姿を皆によく飲み込ませるために、多少の想像を加味しながら、十人に聞えるだけの低い音調で、順をうて説明し出した。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しばらくのあひだまつた法廷ほふていうへしたへの大騷おほさわぎでした。福鼠ふくねずみしてしまひ、みんながふたゝ落着おちついたときまでに、料理人クツク行方ゆきがたれずなりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
うて迫り来るがごとき点をひどく感服しておられる。氏の近作『三四郎』はこの筆法で往くつもりだとか聞いている。しかし云々
田山花袋君に答う (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただにイエスの言が新鮮であって恩恵に満ちたのみでなく、彼の言には権威があって、悪鬼をい出し、病をいやす能力をもった。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
スサノヲの命は、かようにして天の世界からわれて、下界げかいくだつておいでになり、まず食物をオホゲツ姫の神にお求めになりました。
「先生、何です御わかりになりませぬ——まア驚いたこと——先生、貴郎あなたを教会からひ出す相談のあるのをだ御存知ないのですか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
すくなくとも第一に、先ず科学を詩の範囲からい出してしまおう。次に或る種の哲学——デカルトやヘーゲル——を拒絶しよう。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「ヘーヘー恐れ煎豆いりまめはじけ豆ッ、あべこべに御意見か。ヘン、親のそしりはしりよりか些と自分の頭のはえでもうがいいや、面白くもない」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一度二度喧嘩けんかしてい出したこともあるが、初めの時はこっちがなだめて連れて帰り、二度目の時は、女の方から黙って帰って来た。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
其後そのご彼等は警官にわれて山深く逃げこもったが、食物はもあれ、女性の缺乏けつぼうということが彼等のあいだに一種の不足を感じたらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし、それでもまだてられるほどではなかったが、間もなくおできが出来て、それがつぶれて牀席ねどこをよごしたので、とうとうい出された。
翩翩 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ことば甚だぎやくに近しといへども、以て文明と戦争の関係を知るに足れり、戦争の精神、年をふて減じ行き、いつかは戦争なき時代を見るを得んか。
想断々(1) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
私はこの事件の直後、ぬぐい去ろうとしても拭い去ることの出来ない憂鬱症のために、われるようにしてこのX市を立ち去った。
追い出せとお沙汰がある、家来たちが見ると、お能役者のほかに人はいない、殿様はなおしきりにい出せ逐い出せとおっしゃる
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
激怒した独逸商会と独逸領事とは、直ちにラウペパをムリヌウの王宮からい、代りに、従来の副王タマセセを立てようとした。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これがむくい一一三虎狼こらうの心に障化しやうげして、信頼のぶより隠謀いんぼうにかたらはせしかば、一一四地祇くにつがみさかふ罪、さとからぬ清盛きよもりたる。
大気都姫はとうとう食事の度に、彼と同じさらほたりを、犬の前にも並べるようになった。彼はにがい顔をして、一度は犬をい払おうとした。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人々が今、かのオスティアびとまたはタッデオのあとひつゝ勞して求むる世の爲ならで、まことのマンナの愛の爲に 八二—八四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
われらが次をうてその運命をたどり来たれる敵も、味方も、かの消魂も、この怨恨えんこんも、しばし征清せいしん戦争の大渦に巻き込まれつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
鷹のとまりしをふ所にて、煙管にて欄干を叩く外に、鷹の前にて煙管を廻し見るは新し。遺書を読む処は、句ごとに拾ひて読む心持あり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
しゃあしゃあとこの小さい貴婦人の椅子の中で眠ったりして、きっと私はお給金ももらえずに、い出されてしまうのだろう。
馬可マルコ伝一章十二節「往かしめし」は英語の Driveth 希臘語の Ekballei「無理にいやる」の意なり)。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
たとえば英国のごとくデーンがセルトをい、ノルマンがサクソンを殺戮さつりくするという歴史であったら、地名はその都度改まらずにはいない。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もう少し経済状態をよくしたいと思ひますが私自身がその日の生活にはれてゐる位で御座いますので、思ふばかりで手が届きませんのです。
さればとてお俊をさとして藤吉の後をわすことをいたすほどの決心は出ませんので、ただ悪い悪いと思いながらお俊の情を受けておりました。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すでにキャゼリン嬢は太子の後をって次の便船ベルゲンランド号をもって桑港サンフランシスコへ旅立ち、印度から来た料理人コック、従僕らも一足先に帰国して
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
此處こゝからはるゝは世界せかいからはるゝもおなこと世界せかいからはるゝはころさるゝもおなこと、すれば追放つゐはうとは死罪しざいかくぢゃ。
されど、神もし地獄の陰火をともし、永遠限りなくそれを輝かさんと欲せんには、まず公刑所の建物より、回教サラセン式の丈高き拱格アーチうにあらん。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
信長をうかがう敵は、三好松永の党ばかりではない。美濃をわれた斎藤龍興たつおきとその一族もある。つい先頃亡ぼされた佐々木一族やその他もある。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さあ、いろいろはなせば長いけれど……あれからすぐ船へ乗り込んで横浜を出て、翌年あくるとしの春から夏へ、主に朝鮮の周囲いまわり膃肭獣おっとせいっていたのさ。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
貴下が勝手に之をい落して会津を取られたことは、殿下に於て甚しく機嫌を損じていらるるところだ、と云ってよこした。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
親馬鹿の記録は日をうてつづいてゆくであろう。私は自分の感情のわくにはめて子供を育てようなぞとは思ってはいない。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
かれは、火鉢ひばちまへ凝然ぢつとしてては座敷ざしきあがにはとりをしい/\とひつつむつゝりとして卯平うへいちひさな銅貨どうくわもらつては
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と言ってとうとう十娘をいだしてしまった。崑の両親がこれを聞いた時には、十娘はもう往ってしまった後であった。
青蛙神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そうして彼はそれらの声にいかけられながら、ようやく逃げのびて、土蔵の立ち並んだ黒い色の感じのする町のなかへ、彼自身の姿を見出した。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
父をうものは叔父達だ。頼りの無い家のものの手から、父を奪うのも、叔父達だ。この考えは、お俊の小さな胸におさえ難い口惜くやしさを起させた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
文「此処こゝへおいでなさい、其処そこにいると蚊がさしていかない、なか/\蚊の多い処だから蚊を能くうて這入んなさい、少しお前に話す事がある」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
浅ましとは思へど、ひて去らしむべきにあらず、又門口かどぐちに居たりとて人を騒がすにもあらねば、とにもかくにも手を着けかねて棄措すておかるるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それと同時に、農作は、村人の健康・幸福と一つ方向に進むものと考えた。だから、田の稲虫とともに村人に来る疫病は、わるべきものとなった。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「いったいその両人はなに者でございますか、大峰、矢田部と姓だけは先日耳にいたしましたが、刺客にわれるほどの大切な役におりましたのか」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
短い杖が、鼠をうように、小刻こきざみに床石ゆかいしの上を走る。そして、一つの、椅子いすにぶつかる。盲人は腰をおろす。かじかんだ手を暖炉だんろのほうに伸ばす。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
殺風景も念入ねんいりの殺風景で、決して誉めた話でない。畢竟ひっきょう少年の時から種々様々の事情にわれてコンな事に成行き、生涯これで終るのでしょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あの窓から覗いて……あの煙草屋の前を力なげに歩んでいる放浪者に心を惹きつけられた……慍られはしないかと思いながら跡をうて呼んでみたが
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
季康子が小人をって孔子を迎えたという伝をかすためである。ではなぜこの伝が記者にとって重要であったか。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
されど我はその不幸を救ひ得べき地位にあらざりしを奈何せん。指す方もなき水上の逍遙ながら、痛苦にはるゝ我心は、猶船脚のはなはだ遲きを覺えぬ。
こっちも仕事にわれて、いつの間にか一と月許りは経ってしまった。……ちょうど二月の中頃にもなっていた。或る晩のこと、もう夜の十一時すぎだ。
北国の人 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
殺したほうもよい郎党だったのですがそんな過失をしてしまった男は使わないとお国からわれてしまいました。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)