)” の例文
わたくしは因縁こそ実にとうとくそれを飽迄あくまでも大切にすべきものだと信じてります。其処そこに優しい深切しんせつな愛情が当然おこるのであります。
罪を持ったものが衆人の沈黙の中で而も自分の殺した死体と一しょに置かれるということは、非常な恐怖を感ぜずにはられません。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
『はい私は、その紐の本数を、存じります。実を申せば、お殿さま、かわやらせられましたとき、私はお出を待つ間に、紐の本数を ...
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私も、その頃阿母おふくろに別れました。今じゃ父親おやじらんのですが、しかしまあ、墓所はかしょを知っているだけでも、あなたよりましかも知れん。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長安には太清宮のしも許多いくたの楼観がある。道教に観があるのは、仏教に寺があるのと同じ事で、寺には僧侶そうりょり、観には道士が居る。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
折しも弥生やよいの桜時、庭前にわさき桜花おうかは一円に咲揃い、そよ/\春風の吹くたびに、一二輪ずつチラリ/\とちっる処は得も云われざる風情。
一身の私徳をのちにして、交際上の公徳を先にするものの如し。即ち家にるの徳義よりも、世に処するの徳義をもっぱらにするものの如し。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただこころもちはやすらかに、その血のついた大きなくちばしは、横にまがっては居ましたが、たしかに少しわらってりました。
よだかの星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おれはまる三日苦しみ通しだものを。明日あすは四日目、それから五日目、六日目……死神は何処にる? 来てくれ! 早く引取ってくれ!
大牟田さまなども、あの奥方を持っていれば、末にはこんなことになるのだと、私は蔭ながら御気の毒に思ってった様な訳ですよ
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、予は昨夜ゆうべもあのこもだれの中で、独りうとうとと眠ってると、柳の五つぎぬを着た姫君の姿が、夢に予の枕もとへ歩みよられた。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
本当ほんとにお客様がみんな一番さんのようだと、下宿屋も如何様どんなに助かるか知れないッてね、始終しょっちゅう下でもお噂を申してるンでございますよ……
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すなわち三丰のりし所の武当ぶとう 大和山たいかざんかんを営み、えきする三十万、ついやす百万、工部侍郎こうぶじろう郭𤧫かくつい隆平侯りゅうへいこう張信ちょうしん、事に当りしという。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
太陽は、いま薔薇色ばらいろの雲をわけて、小山のうえを越える所でした。小さい子供は、白い小さいベッドの中で、まだ眠ってりました。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
あなたが、いやがるだろうと思いましたから、きょうまで黙ってりましたが、あの頃、私には他に二つ、縁談がございました。
きりぎりす (新字新仮名) / 太宰治(著)
それかあらぬか、同地どうち神明社内しんめいしゃないにはげん小桜神社こざくらじんじゃ通称つうしょう若宮様わかみやさま)という小社しょうしゃのこってり、今尚いまな里人りじん尊崇そんすう標的まとになってります。
所がこの、道子の自由な行動は、仮令たとい夫には無視されて居たにしろ、世間には遂に無視してはられぬ位のものになってしまったのでした。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
いや串談じようだんではなし札幌さつぽろ病院長びようゐんちやうにんじられて都合次第つがふしだい明日あすにも出立しゆつたつせねばならず、もつと突然だしぬけといふではなくうとは大底たいていしれてりしが
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
新政府にし、維新功臣の末班まっぱんに列して爵位しゃくいの高きにり、俸禄ほうろくゆたかなるにやすんじ、得々とくとくとして貴顕きけん栄華えいが新地位しんちいを占めたるは
この法は、晴天のの時に、白胡麻ごまの油を手の甲、指、額に塗り、日輪に向かいてらしめ、手合わさしてわが口のうちにて
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
彼れ其実は全く嗅煙草を嫌えるもからの箱をたずさり、喜びにも悲みにも其心の動くたびわが顔色を悟られまじとて煙草をぐにまぎらせるなり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
……ところが又一方に、そうした事実を以前からよく知っている、不可思議な人物が、どこかにったので御座いましょう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あっ、る……」兄の袖をひくと、範綱も、見あげていた。そこは、さっき、文覚護送の檻車かんしゃが通った時、たくさん、見物がいた所である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お光はそれを傍にって聞いていた。夕方彼女は父について家を出た。村のはずれの小さい小屋のような家の前で父は「太一いるか」と言った。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
また是と前後して生まれたかと思う風土記の物語の中にも「らに恋ひ朝戸あさどを開きればとこ世の浜のなみの音きこゆ」
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「小生も兼て人を不忠とか不義とか、大言に罵り置きたれば、よんどころ無きも、今度は一身を以て、国難に代らねばならぬ事、疾に落着つかまつるなり」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
昨日さくじつ父より帰国しろという手紙を受取り候う時は、とっさにはぼんやりいたそうらいしかど、ようやくにして悲しさ申しわけなさに泣き申し候う。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
御出おいででやす。御這入んなさい」と友達見た様に云ふ。小使にいて行くとかどがつて和土たゝきの廊下をしたりた。世界が急に暗くなる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
玉村侯爵とは松浪伯爵の兄君で、三人の娘には伯父君おじぎみに当ってる、余程面白い人で、時々いろいろ好奇ものずきな事をする。
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
(評釈) 説明の言葉は簡単だが,この一章は人生の問題に触れてり、貴重なる教訓をわれ等にあたうるものである。
操はふすまを一枚隔てたへやる、文吉は頭の中で操の像を描きつつ「モウ知りそうなものだ、彼が来ていることを知りながらも出て来ないのであろうか」
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
と云い棄てて階段をあがろうとすると、またもや同じ声が聞こえる。耳を澄ますと、それはしゃがれた、うめく様な声で確かに書記のる室から来るらしい。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「見てみい。きれいじゃろうが。……こゝにこら、お日さんが出てきよって、川の中に鶴が立ってるんじゃ。」
砂糖泥棒 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「そうおっしゃいますが、これをだまってりましたら、あとで若旦那わかだんなに、どんなお小言こごと頂戴ちょうだいするかれませんや」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ところが、この地に着いて、偶然ふと私は憶出おもいだしたのは、この米沢の近在の某寺院には、自分の母方の大伯父に当る、なにがしといえる老僧がるという事であった。
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
ふたたび家を東京にうつすに及び、先生ただちにまげられ、いわるるよう、鄙意ひい、君が何事か不慮ふりょさいあらん時には、一臂いっぴの力を出し扶助ふじょせんと思いりしが
がしかしその実泥水どろみずらなくとも泥水よりいっそう深きけがれに心の染まれるものが世には多くありはせぬか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「マンさん、あんたもどうやら、出心でごころがついたようにあるねえ。あにさんの林助りんすけさんは、関門の方に行ってなさるということだが、元気にしてりんさるかね」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
衣通そとおり媛の藤原郎女いらつめであり、禊ぎに関聯した海岸にり、物忌みの海藻の歌物語を持ち、また因縁もなさそうな和歌浦の女神となった理由も、やや明るくなる。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「忠義ばかりでは、いやさ、善人ばかりでは国も家も立てかねるということです。榊原の家には悪人が不足しているが、それが不幸の源なのだと思ってります」
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
が、柳吉は「お前は家にりイな。いま一緒に行ったら都合ぐつが悪い」蝶子は気抜けした気持でしばらく呆然ぼうぜんとしたが、これだけのことは柳吉にくれぐれも頼んだ。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「いま京太郎から研究問題の説明を聞いてるところじゃ、そんな下らぬ新聞記事などはめにしろ」
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お前は何が悲しいとお云いなのかい? こんな月夜にこうして外を歩いてれば、誰でも悲しくなるじゃないか。お前だって心の中ではきっと悲しいに違いない」
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
よく友人たち一口ひとくちに「君、それは鼠だろう」とけなしてしまう、成程なるほど鼠のるべきところなら鼠の所業しわざかと合点がてんもするが、鼠のるべからざるところでも、往々おうおうにして聞くのだ
頭上の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
「お婆さん、何か薬がありませんか、苦しくてこうやってられません。何か一つ薬を下さいな。」
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
つかねてまでことで、醫者いしやびますにも、はぬとふので、大層たいそうあはてました。
喩え其願いが無理であろうとも、承知せずにはられないような、不思議に魅力のある声である。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかして感謝すべきは余は黙止しるを得べければなり、もちろん普通の情として忍ぶべきにあらざるなり、余は余の国人を後楯うしろだてとなしつとめて友を外国人に求めざりき
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
その往復する時間が揺れ方の大小に係わらないことを見つけ出したということが話されてり、これは彼の学生時代のことだとわれていますが、これもよほど疑わしいので
ガリレオ・ガリレイ (新字新仮名) / 石原純(著)
ここにれば一番よく見え、その残酷な快感を詳細に満喫出来るというんで、ほんとの闘牛ゴウアウスの連中は、借金しても争って、倍も高い陽かげの一等ソンブラへ納まるのだ。