)” の例文
日課をへてのちは、学校の向ひなる、「カッフェエ・ミネルワ」といふ店に入りて、珈琲カッフェーのみ、酒くみかはしなどして、おもひおもひのたわぶれす。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼女はだんだんしゃがれたような声になりながらそれをえると、一種の微笑ともつかないようなもので口元を歪めながら、私をじっと見つめた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そして強い光でないとよく感じぬ、普通の花や人物でも撮るには非常な長時間かかる。その他いろいろ六かしい事があって普通の人の手にえぬ方法である。
天然色写真新法 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
で、自分の手にへないところは、如来様の手でしつけて貰ふ事にお願ひした。
鳥のまさに死せんとする、その鳴くや哀し、人のまさに死せんとする、その言や善し。彼はいよいよ死の旦夕たんせきに迫りたるを知り、十月二十五日より『留魂録』一巻を作り、二十六日黄昏こうこんに至って稿をう。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そうして私は何か胸をしめつけられるような気持になりながら、きのうえたリルケの「レクヰエム」の最後の数行が自分の口を衝いて出るがままに任せていた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
専門家でもこれを完全に駆除するのは困難だとすると、自分等の手にえぬのは当然かと思われた。とにかく去年などは幾株かのばらとつつじを綺麗に坊主にしてしまわれた。
蜂が団子をこしらえる話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「こういう山の村なんぞに流れ込んで来ている爺やなんというものは、それまでは何処どこで何を渡世にしていたのかも分からんやつが多いんだそうですよ」と私は言いえた。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
男はそんな問わず語りを為はじめた時と少しも変らない静かな様子で、それをえた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)