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静寂といおうか、閑雅といおうか、釣りの醍醐味をしみじみと堪能するには、寒鮒釣りをいて他に釣趣を求め得られないであろう。
寒鮒 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そういう根本的な問題はしばらくいて、具体的に各種の文学の中に含まれている普通の意味での科学的要素の分布を考えてみよう。
文学の中の科学的要素 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
でも、良吉が傍で洗濯物や乾魚を小さい行李こうりに収めて明日の出立の用意をしかけると、辰男も書物をいてしばしばその方をかえりみた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
これは「武鑑」、こと寛文かんぶん頃より古い類書は、諸侯の事をするに誤謬ごびゅうが多くて、信じがたいので、いて顧みないのかも知れない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
是非とも探り入らずにはかぬ習慣を持っている私のアタマが、この時に限って痲痺したようになっていたのは何故であったろうか。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お絹からいえば、道太に皆ながつれていってもらうのに、辰之助を差しくことはその間に何か特別の色がつくようで、気にとがめた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
関白が政宗に佩刀はいとうを預けて山へ上って小田原攻の手配りを見せたはなしなどは今しばらく。さて政宗は米沢三十万石に削られて帰国した。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この変動が、定期的のものかどうかはさてき、こういうふうに長年にわたってようやく認められるということは注目にあたいする。
同情をもって介抱してくれた人の親切というものに、何事をいても感謝しなければならぬ、という念慮が動いてくるのも自然です。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
余事はさてき、ゲルハルトのレコードで一番良いものと言うと、やはりシューベルトの『冬の旅』を歌った数枚のレコードだろう。
十六日の口書くちがき、三奉行の権詐けんさわれ死地しちかんとするを知り、ってさらに生をこいねがうの心なし、これまた平生へいぜい学問のとくしかるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
曾我五郎の箱王丸はこおうまるが箱根権現に勤めていたのも遠い昔であるから、それらの時代の回顧はしばらくいて近世の江戸時代になっても
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天地と云い山川さんせんと云い日月じつげつと云い星辰せいしんと云うも皆自己の異名いみょうに過ぎぬ。自己をいて他に研究すべき事項は誰人たれびとにも見出みいだし得ぬ訳だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まずは、武大ぶだもそんな程度と聞くと、西門慶は大胆にも、たった二日ほどいただけで、またぞろ隣家となりへ来ては金蓮に呼びをかける。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが、体の他の部分は殆ど動かさず、———同時に耳をピクリとさせて声のした方へ振り向けるけれども、耳のことは暫くく。
客ぎらい (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その歌の巧拙はしばらいても、その声のキメの細かさ、緻密ちみつさ、匂やかさ、そうして、丁度刀を鍛える時に、地金を折り返しては打ち
触覚の世界 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
彼を支え、彼を励まし、彼を愛情で包み、生きるちからを与えてやるのは、自分をいてほかにはない。そう思っていたのである。
おばな沢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これ我輩が年来の友人として一意専心、支那の国情民俗を研究すること十数年、支那上下の有志者に注意してかざりしゆえんである。
あいいて、ゆるく引張つてくゝめるが如くにいふ、おうなことば断々たえだえかすかに聞えて、其の声の遠くなるまで、桂木は留南木とめぎかおりに又恍惚うっとり
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
というが、人格を示すものに独り文のみならんやで、政治も人なり、実業も人なり、学問も人なり、人をいては事もなくぎょうもない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
和歌はさていて俳句のみについていうのであるが、俳句というものは、世の大衆がそれを愛読するというような性質のものではない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あの作品の価値に就いては暫く之をくとするも、あの作品に私が全力を注いだという事を大抵の人が信じて呉れないのは、不思議だ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
来年の天長節は——いや、来年のことはいて、明日のことですらも。斯う考へて、丑松の心は幾度いくたびか明くなつたり暗くなつたりした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
師匠は酒のめてゐる時には決してお宗さんにも粗略ではなかつた。しかし一度言はれた小言はお宗さんをひがませずにはかなかつた。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
予はこれまでにて筆をくべし。これよりして悦び悲しみ大憂愁大歓喜の事は老後を待ちて記すべし。これよりは予一人の関係にあらず。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
誰かぱちぱちと手をたたいたものがあった。すると、今までペンを走らしていた人たちまでそのペンをいて一斉いっせいに彼の方を見た。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
そうか……俺はほんとうにどうかしている、もう、こんな柄にもない、さかしら口はきにして、さア! 仕事に精を出さなくては……。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
篤信が引いた『旧事記』は怪しい物となしくも、保食神の頂より牛馬しと神代巻一書に見え、天斑馬あまのぶちこまの事と、日子遅神ひこじのかみ
念力ねんりき無論むろん大切たいせつで、念力ねんりきなしには小雨こさめひとらせることもできぬが、しかしその念力ねんりきは、なにいても自然しぜん法則さだめかなうことが肝要かんようじゃ。
必要ひつえうなは卯平うへい丈夫ぢやうぶつていた。それからかべるのにはあひだいて二三にちかゝつた。勘次かんじ有繋さすが勞力らうりよくをしまなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
兇賊烏啼天駆は一日も早く絞首台へ送らざるべからず、しかして今日彼を彼処へ送り得る能力ある者は、僕猫々をいてほかになし
余はそれを食い出してから一瞬時も手をかぬので、桑の老木が見える処へは横路でも何でもかまわず這入って行ってむさぼられるだけ貪った。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
その時浜の方で法螺ほらの音がしはじめた。人夫に仕事をかす合図であった。仕事を措いた人夫が囂囂がやがや云いながらあがって来た。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その他の諸書はさていて、今は少くも右の諸書を抜きにしては、西行を語ることはむつかしくもあり不便でもあるであろう。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
そして、あの短時間に、十時三十分から五分か十分の間に、死体を処理することの出来る立場にあるものは、三造をいて他にないのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何をいても先ずお館に知らさなければならなかった。口には出さなかったが、留守をあずかる奥方はどんなにこの日を待っていたことか。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
彼は年来非道を行ひて、なほこの家栄え、身の全きを得るは、まさにこの信心の致すところと仕へ奉る御神おんかみ冥護みようごかたじけなみてかざるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
大王は「その事は暫くいてあなたは四年以前に我が国に出て来られたと聞くがその事は真実であるか。」「四年以前に確かに来ました。」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
余人はき、一国の特殊な文運にこれほど顕著な貢献をしたわが小山内薫氏に対し、国家として十分の表彰手段を講じて欲しいものです。
偉大なる近代劇場人 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
生命のことはまずくとしても、ともかく永久機関が実現し得ないとうことから、理路をたどって、エネルギー恒存の原理に到達したので
ヘルムホルツ (新字新仮名) / 石原純(著)
私はくのごとき渺漠とした満洲の風光を愛してかないが、そのうち満洲帝国が興つたので、二たび満洲の雷鳴を聞きたいとおもつてゐる。
雷談義 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ことに歌麿板画のいひあらわしがたき色調をいひ現すにくの如き幽婉ゆうえんの文辞を以てしたるもの実に文豪ゴンクウルをいて他に求むべくもあらず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
されど何故に汝のともき汝ひとりあらかじめ選ばれてこのつとめを爲すにいたれるや、これわが悟りがたしとする所なり。 七六—七八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
すると籠屋は煙管をき、茶を一杯ぐっと傾けて、さて、表座敷の神棚から一冊の手垢てあかに汚れた和本を下ろして来て、無雑作にたずねはじめた。
錦紗 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
彼女をいて、わたくしにはもうこの世に何一つ期待するものはありませんでした。わたくしは何ものも、何ものも望まなかったのであります。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
既往の事はしばらいて、これよりは何卒国家の為に誠実真面目になつてこの国の倒れる事を一日もおそからしめんことを御願申すのでございます。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
恐らく今をいてはこれほどのあふれるような幸福の感じをもって私達自身にすら眺め得られないだろうことを考えていた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
やがていて、「何を買いに来た!」とくと、「『ブリタニカ』を予約に来たんだが、品物がないッていうから『センチュリー』にした」
邸の中で妻と悲哀トリステサとの情事を知っているのはただガルボ一人だけであって、しかもそのガルボはこの情事を嗅ぎ付けたのを奇貨くべしとして
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
と、鼻唄でまぜ返さずにはけないのを、どう止めようもありませんでした。さすがの母も、これにはむっとした様子で
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)