母親はゝおや)” の例文
彼女かのぢよは、片山かたやま一人ひとりためには、過去くわこの一さいてた。肉親にくしんともたなければならなかつた。もつとも、母親はゝおや實母じつぼではなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
カピ妻 ならば、いま、ようおもふてや、そもじよりも年下としした姫御前ひめごぜで、とうに、このヹローナで、母親はゝおやにおなりゃったのもある。
先刻さつきから、出入ではひりのおあき素振そぶりに、けた、爐邊ろべりものをして母親はゝおやが、戸外おもて手間てまれるのに、フト心着こゝろづいて
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
母親はゝおやあまきならひ、毎々こと/″\にしみて口惜くちをしく、父樣とゝさんなんおぼすからぬが元來もと/\此方こちからもらふてくだされとねがふてつたではなし
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
君子きみこ不審いぶかしさに母親はゝおや容子ようすをとゞめたとき彼女かのぢよ亡夫ばうふ寫眞しやしんまへくびれて、しづかに、顏色かほいろ青褪あをざめて、じろぎもせずをつぶつてゐた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
やがて電車通でんしやどほりいへけんかりると、をとこ国元くにもとから一よめつたことのある出戻でもどりのいもうとに、人好ひとずきのよくないむづかしい母親はゝおやとがたゝめ
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
さうしてほどなく或人あるひと世話せわ郡立學校ぐんりつがくかう教師けうしとなつたが、れも暫時ざんじ同僚どうれうとは折合をりあはず、生徒せいととは親眤なじまず、こゝをもまたしてしまふ。其中そのうち母親はゝおやぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
数坂峠かずさかとうげという山又山を歩いて居りますも、うちに居れば母親はゝおやおかめに虐められまして、実に生傷なまきずの絶える事がないくらいの訳ですからうちにとては居りませんで
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
A ラヴレターならむかしから、うまんだら七駄半だはんなんて先例せんれいがあるんだけれど、母親はゝおや毎日まいにちかさずはまつた感心かんしんだね。けだ葉書利用法はがきりようはふ最上乘さいじやうじようなるものかね。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
その亞米利加人あめりかじん母親はゝおやからはれた言葉ことばいて、あれが自分じぶんの『良心りやうしんざめ』だ、自分じぶんが一しやううちのどんな出來事できごとでもあんなにふか長續ながつゞきのしてのこつたものはない
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そこには可愛かあいらしい肉附にくづきの、むつちりふとつたあかんぼ が母親はゝおやかれて、すやすやとねむつてゐました。そのつぺたにひつくと、あかんぼ はをさましてきだしました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
分手當も仕つり離別りべつ致せし所同村百姓共の世話せわにて不義の相手惣内方へ取持仕つり又伯父九郎兵衞儀もさいはひ惣内親惣左衞門は相果あひはて母親はゝおやふかばかりゆゑかれが方へ參り度と申にまかせ里に付て伯父を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
くしとおもへど流石さすが義理ぎりらきものかや、母親はゝおやかげの毒舌どくぜつをかくしてかぜかぬやうに小抱卷こかいまきなにくれとまくらまであてがひて、明日あす支度したくのむしり田作ごまめ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母親はゝおやは五十ばかり、黒地くろぢのコートに目立めだたない襟卷えりまきして、質素じみ服姿みなりだけれど、ゆつたりとしてしか氣輕きがるさうな風采とりなり
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あなたが(このあなたがは、とてもではあらはせないけれど、語氣ごきつよめてつているのですよ)兎角とかくまあちやんのこゑ母親はゝおやらしい注意ちういをひかれがちなのを
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
道子みちこはふと松戸まつどてらはうむられた母親はゝおやことおもおこした。その当時たうじ小岩こいはさかはたらいてゐたゝめ、主人持しゆじんもち自由じいうがきかず、ひまもらつてやつと葬式とむらひつたばかり。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
誠に宜しからぬ事で、多助も薄々知っては居りますが、事荒立てゝは血で血を洗う道理、いえの恥おのれの恥、ことに亡なった養父角右衞門のお位牌へ対して済まないし、あゝ情ない心得違いの母親はゝおや
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はじめとして並居る一同母親はゝおやのお勝もさては其の醫師は元益なりしかと計りにあきれてかほを見合せゐたりぬ忠相たゞすけぬしは呼び出せし和吉に言葉ことばはあらずして元益げんえきの方へ打向ひ其方最前さいぜんも申す通り仁術にんじゆつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
パリス ひめよりもわかうて、見事みごと母親はゝおやになってゐるのがござるのに。
B まだういふのがあるよ。矢張やはぼく友人いうじんだが、くに母親はゝおやがひとりでさびしがつてゐるとつて、毎日まいにちまいづつ繪葉書ゑはがきしてゐるが、モウそれを三四年間ねんかんにちかさずやつてるから感心かんしんだらう。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
姿すがたはおさなびたれどもはゝのちがふ何處どこやらをとなしくゆるものとどくおもひしは、れも他人たにんにてそだちし同情どうじようてばなり、何事なにごと母親はゝおやをかね
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
せきをすると、じつるのを、もぢや/\とゆびうごかしてまねくと、飛立とびたつやうにひざてたが、綿わたそつしたいて、立構たちがまへで四邊あたりたのは、母親はゝおやうちだとえる。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうしてそれよりもなほ彼女かのぢよにとつておそろしいことは、一人前にんまへになつた子供こどもが、どんなふう母親はゝおやのその祕密ひみつ解釋かいしやくし、そしてどんなさばきをそれにあたへるだらうかといふことであつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
あに一人ひとりあつたが戦地せんちおくられるともなく病気びやうきたふれ、ちゝ空襲くうしふとき焼死せうしして一全滅ぜんめつした始末しまつに、道子みちこ松戸まつど田舎ゐなか農業のうげふをしてゐる母親はゝおや実家じつかはゝともにつれられてつたが
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
わたくしは三田の三角のあだやと申します引手茶屋の娘で、お梅と申す者でございますが、おかくと申す母と二人で深川櫓下の親類内に居りますると、又焼出され、逃げる途中母親はゝおやにはぐれてしまい
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とはざるとは餘りと申せば不孝の至りと云べし彌吉はむこなるが粂は實の娘なり然れば母親はゝおやの困窮と言ひ病氣と聞ば菊より借用致し度由申入ずとも汝等なんぢら身代しんだいを半分分ぶんわけにしてなりと救助すくふべきが至當なりそれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
半靴はんぐつさきらした、母親はゝおやしろあし卓子掛ていぶるかけ絨氈じうたんあひだうごいた。まどそとゆきひかりでゝ、さら/\おとさうに、つきつて、植込うゑこみこずえがちら/\くろい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はか這入はいるまで八ゑん月給げつきうではるまいとおもひますに、其邊そのへん格別かくべつ御心配ごしんぱいなくと見事みごとへば、母親はゝおやはまだらにのこくろして、るほど/\立派りつぱきこえました
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
父親ちゝおや合點がてん母親はゝおや承知しようちで、向島むかうじま花見はなみかへりが夜櫻見物よざくらけんぶつつて、おいらんが、初會惚しよくわいぼれ、と寸法すんぱふるのであるが、耕地かうち二十石にじつこく百姓ひやくしやう次男じなんではうはかない。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
りようもんをばくゞりるに正太しようたかねてもあそびに來馴きなれてのみ遠慮ゑんりよいへにもあらねば、あとよりつづいて縁先ゑんさきからそつとあがるを、母親はゝおやるより、おゝ正太しようたさんくださつた
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母親はゝおや曲彔きよくろくつて、はななかむかへたところで、哥鬱賢こうつけん立停たちどまつて、して……もゝはなかさなつて、かげまる緋色ひいろ鸚鵡あうむは、おぢやうさんのかたからつばさ飜然ひらり母親はゝおやまる。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
母親はゝおやよりのひつけを、なにやとはられぬ温順おとなしさに、たゞはい/\と小包こづゝみをかゝへて、鼠小倉ねづみこくらのすがりし朴木齒ほうのきば下駄げたひた/\と、信如しんによ雨傘あまがささしかざしていでぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母親はゝおや墳墓おくつきは、やまあるをかの、つき淺茅生あさぢふに、かげうすつゆこまやかにじやくとある。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いややな正太しようたさんだとくらしげにはれて、れならばかへるよ、お邪魔じやまさまで御座ございましたとて、風呂塲ふろば加减かげん母親はゝおやには挨拶あいさつもせず、ふいとつて正太しようた庭先にはさきよりかけいだしぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すでひざつて、かじいて小兒こどもは、それなり、薄青うすあをえりけて、眞白まつしろむねなかへ、ほゝくち揉込もみこむと、恍惚うつとりつて、一度いちど、ひよいと母親はゝおやはらうち安置あんちされをはんぬで
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
母親はゝおやはほた/\としてちやすゝめながら、亥之ゐのいましがた夜學やがくゆきました、あれもおまへかげさまで此間このあひだ昇給しようきうさせていたゞいたし、課長樣くわちやうさま可愛かわゆがつてくださるのでくらゐ心丈夫こゝろじようぶであらう
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何故なぜはがきでもよこしはせぬ、馬鹿ばかやつがとしかりつけて、母親はゝおや無病むびやう壯健そうけんひととばかりおもふてたが、しやくといふははじめてかとむつましうかたひて、らう何事なにごと秘密ひみつありともらざりき。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
父親ちゝおや佛壇ぶつだん御明みあかしてんずるに、母親はゝおやは、財布さいふひもゆはへながら、けてこれ懷中ふところれさせる、女中ぢよちうがシヨオルをきせかける、となり女房にようばうが、いそいで腕車くるま仕立したてく、とかうするうち
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もう此樣こんこと御聞おきかせまをしませぬほどに心配しんぱいをしてくださりますなとてぬぐふあとからまたなみだ母親はゝおやこゑたてゝなんといふ此娘このこ不仕合ふしやわせまた一しきり大泣おほなきのあめ、くもらぬつきをりからさびしくて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
宴會えんくわいふが、やさしいこゝろざしのひとたちが、なき母親はゝおや追善つゐぜんいとなんだ、せきつらなつて、しきさかづきんだ、なつの十ぎを、袖崎そでさきふ、………今年ことし東京とうきやう何某大學なにがしだいがく國文科こくぶんくわ卒業そつげふして
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
美尾みをわたしむすめなればわたしおもふやうにらぬことるまじ、なにもおまへさんの思案しあん一つと母親はゝおや美尾みを産前さんまへよりかけて、よろづの世話せわにと此家このやみつゝ、もすればらうめるに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これは界隈かいわい貧民ひんみんで、つい茗荷谷みやうがだにうへる、補育院ほいくゐんとなへて月謝げつしやらず、ときとすると、讀本とくほんすみるゐほどこして、其上そのうへ通學つうがくするの、ぐらしの親達おやたち父親ちゝおやなり、母親はゝおやなり
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
十歳とをばかりのころまでは相應さうおう惡戯いたづらもつよく、をんなにしてはと母親はゝおや眉根まゆねせさして、ほころびの小言こごとも十ぶんきしものなり、いまはゝ父親てゝおや上役うわやくなりしひとかくづまとやらおめかけとやら
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
實家さとの、母親はゝおやあねなんぞが、かはる/″\いててくれますほかに、ひらきばかりみつめましたのは、人懷ひとなつかしいばかりではないのです……つゞいて二人ふたり三人さんにんまで一時いちどきはひつてれば、きつそれ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おまへのかれてるは誰何どなたれるかえと母親はゝおやへば、言下げんか兄樣にいさん御座ござりましやうとふ、左樣さうわかればもう仔細しさいし、いまはなしてくだされたことおぼえてかとへば、つてまする
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いかに息災そくさいでもすでに五十九、あけて六十にならうといふのが、うちでこそはくる/\𢌞まはれ、近頃ちかごろ遠路とほみちえうもなく、父親ちゝおやほんる、炬燵こたつはし拜借はいしやくし、母親はゝおや看經かんきんするうしろから、如來樣によらいさまをが身分みぶん
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あんじにくれてはずにあか夜半よはもあり、嫁入時よめいりどきむすめもちし母親はゝおやこゝろなんのものかは、きずあらせじとの心配しんぱい大方おほかたにはあらざりけり、雪三せつざうかくまで熱心ねつしん聟撰むこゑらみも、糸子いとこまへすぐるくもともおもはず
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
到底とてもこれに相續そうぞく石油藏せきゆぐられるやうなもの身代しんだいけふりとりてのこ我等われらなにとせん、あとの兄弟けうだい不憫ふびん母親はゝおやちゝ讒言ざんげん絶間たえまなく、さりとて此放蕩子これ養子やうしにと申うくひと此世このよにはあるまじ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)