“包(つゝ)” の例文
友染(いうぜん)の切(きれ)に、白羽二重(しろはぶたへ)の裏(うら)をかさねて、紫(むらさき)の紐(ひも)で口(くち)を縷(かゞ)つた、衣絵(きぬゑ)さんが手縫(てぬい)の服紗袋(ふくさぶくろ)に包(つゝ)んで、園(その)に贈(おく)つた、白(しろ)く輝(かゞや)く小鍋(こなべ)である。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
夜(よる)は戸毎(こごと)の瓦斯(がす)と電燈(でんとう)を閑却(かんきやく)して、依然(いぜん)として暗(くら)く大(おほ)きく見(み)えた。宗助(そうすけ)は此(この)世界(せかい)と調和(てうわ)する程(ほど)な黒味(くろみ)の勝(か)つた外套(ぐわいたう)に包(つゝ)まれて歩(ある)いた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
取出して飮(のみ)暫時(しばし)其處に休み居ける中段々夜も更行(ふけゆき)四邊(あたり)も寂(しん)としける此時手拭(てぬぐひ)に深く面(おも)てを包(つゝ)みし男二人伊勢屋の門(かど)に彳(たゝず)み内の樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
庭(には)の木陰(こかげ)に身(み)を避(さ)けてしんみりと互(たがひ)の胸(むね)を反覆(くりかへ)す時(とき)繁茂(はんも)した柹(かき)や栗(くり)の木(き)は彼等(かれら)が唯(ゆゐ)一の味方(みかた)で月夜(つきよ)でさへ深(ふか)い陰翳(かげ)が安全(あんぜん)に彼等(かれら)を包(つゝ)む。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
望蜀生(ぼうしよくせい)と余(よ)とは、夢中(むちう)に成(な)つて、それを採集(さいしふ)した。其數(そのすう)實(じつ)に二百(ひやく)七十六本(ほん)。それを四箇(こ)の大布呂敷(おほふろしき)に包(つゝ)み、二箇(こ)宛(づゝ)を分(わ)けて持(も)つ事(こと)にした。
其(その)お答(こた)へ承(うけたま)はらずば歸邸(きてい)いたし難(がた)し平(ひら)にお伺(うかゞ)ひありたしと押返(おしかへ)せば、それ程(ほど)に仰(おほ)せらるゝを包(つゝ)むも甲斐(かひ)なし、誠(まこと)のこと申上(あげ)ん
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
祖母(おばあ)さんが朴(ほほ)の木(き)の葉(は)で包(つゝ)んで下(くだ)さる※(あつ)い握飯(おむすび)の香(にほひ)でも嗅(か)いだ方(はう)が、お錢(あし)を出(だ)して買(か)つたお菓子(くわし)より餘程(よほど)おいしく思(おも)ひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
陰中(いんちゆう)に陽(やう)を包(つゝ)み、陽中(やうちゆう)に陰(いん)を抱(いだく)は天地定理中(ぢやうりちゆう)の定格(ぢやうかく)也。老子経(らうしきやう)第四十二章(しやう)に曰(いはく)、万物(ばんぶつ)負レ陰而(いんをおびて)抱レ陽(やうをいだく)沖気以(ちゆうきもつて)為レ和(くわをなす)といへり。
沖(おき)なる島山(しまやま)の頂(いたゞき)は紫嵐(しらん)に包(つゝ)まれ、天地(てんち)見(み)るとして清新(せいしん)の氣(き)に充(み)たされて居(ゐ)る時(とき)、濱(はま)は寂寞(じやくばく)として一(いつ)の人影(じんえい)なく、穩(おだや)かに寄(よ)せては返(か)へす浪(なみ)を弄(ろう)し
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
汝(そなた)の黒(くろ)い外套(マントル)で頬(ほゝ)に羽(は)ばたく初心(うぶ)な血(ち)をすッぽりと包(つゝ)んでたも、すれば臆病(おくびゃう)な此(この)心(こゝろ)も、見(み)ぬゆゑに強(きつ)うなって、何(なに)するも戀(こひ)の自然(しぜん)と思(おも)ふであらう。
いま申(まを)した古墳(こふん)は皆(みな)圓塚(まるづか)でありまして、その中(なか)に漆(うるし)で塗(ぬ)つた棺(かん)を埋(うづ)め、その上(うへ)を大(おほ)きな石塊(いしころ)で包(つゝ)んだものであります。これを積(つ)み石(いし)塚(づか)といひます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
出雲人(いづもびと)の作(つく)つた、幾重(いくへ)にも取(と)り廻(まは)す、屏風(びようぶ)・張(とばり)の類(るい)よ。われ/\、新(あたら)しく結婚(けつこん)したものを包(つゝ)むために、幾重(いくへ)の圍(かこ)ひを作(つく)つてあることよ。あゝ、その幾重(いくへ)の屏風(びようぶ)・張(とばり)よ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
スパスパやりながら餘念(よねん)もなく其邊(そのへん)を見廻(みまわ)して居(を)る内(うち)、見(み)ると今(いま)葉卷(はまき)の箱(はこ)の包(つゝ)んであつた新聞紙(しんぶんし)。
今まで胸(むね)に包(つゝ)んでゐたうれしさを一時(じ)に吐(は)き出すやうにはしやいだ声(こゑ)で奧(おく)さんの名を呼(よ)んだ。
夢 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
その時つい気のついたは小(こ)むろ山(さん)から頂(いたゞ)いて来(き)た毒消(どくけし)の御封(ごふう)、これ幸(さいは)ひと懐中(ふところ)に手を入れましたが包(つゝ)みのまゝ口へ入(い)れて雪をつかんで入(い)れて呑(の)みましたが、毒消(どくけし)の御利益(ごりやく)か
お互(たがひ)になんとなくつまらない、とりとめもない不安(ふあん)と遣瀬(やるせ)なさが、空虚(くうきよ)な心(こゝろ)を包(つゝ)んでゐるやうであつた。二人(ふたり)は家(いへ)にゐることが淋(さび)しく、夜(よる)になつて寢(ね)ることがものたりなかつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
道子(みちこ)は母(はゝ)のみならず父(ちゝ)の墓(はか)も——戦災(せんさい)で生死不明(せいしふめい)になつた為(た)め、今(いま)だに立(た)てずにある事(こと)を語(かた)り、母(はゝ)の戒名(かいみやう)と共(とも)に並(なら)べて石(いし)に掘(ほ)つて貰(もら)ふやうに頼(たの)み、百円札(ひやくゑんさつ)二三枚(まい)を紙(かみ)に包(つゝ)んで出(だ)した。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風、永井壮吉(著)
凝乎(じいつ)と、冬(ふゆ)の日(ひ)の中(なか)に横(よこた)へられた私(わたし)の體(からだ)の中(なか)で、柔(やはら)かな暖(あたゝ)かさに包(つゝ)まれながら、何(なん)といふもの寂(さび)しい聲(こゑ)をたてゝ私(わたし)のこゝろの唄(うた)ふ事(こと)だらう!一寸(ちよつと)でも身動(みうご)きをしたらその聲(こゑ)はすぐに消(き)えよう
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
しかし何しろ一流どこばかしの顔寄せで、作家としてこの上もない名誉の事だから、その名誉に甘んじて、この際原稿料などは包(つゝ)み金(がね)で辛抱して戴きたい。実は私の方でも作家を相手に原稿料を
さけ難(がた)い睡(ねむ)りに包(つゝ)まれる…………
メランコリア (旧字旧仮名) / 三富朽葉(著)
包(つゝ)み繞(めぐ)らす雪絹(ゆきぎぬ)の
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
綾(あや)に包(つゝ)める毛衣(けごろも)に
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
鄰家(となり)はと、穴(あな)から少(すこ)し、恁(か)う鼻(はな)の尖(さき)を出(だ)して、覗(のぞ)くと、おなじやうに、提灯(ちやうちん)を家族(みんな)で袖(そで)で包(つゝ)んで居(ゐ)る。魂(たましひ)なんど守護(しゆご)するやうに——
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
最後に彼の周囲を人間のあらん限(かぎ)り包(つゝ)む社会に対しては、彼は何の考も纏めなかつた。事実として、社会は制裁の権を有してゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さうすると畑(はた)を包(つゝ)む遠(とほ)い近(ちか)い林(はやし)には嫩葉(わかば)の隙間(すきま)から少(すくな)い日(ひ)の光(ひかり)がまた軟(やはら)かなさうして稍(やゝ)深(ふか)い草(くさ)の上(うへ)にぽつり/\と明(あか)るく覗(のぞ)き込(こん)で
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
申立てしも今聞通(とほ)りなり眞直(まつすぐ)に申立よ此上包(つゝ)み祕(かく)すに於ては急度(きつと)申付るぞと聞て善右衞門ヘイ明白(めいはく)に申上ます私しは然樣(さやう)なる者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
廣小路(ひろこうぢ)を出(いづ)れば車(くるま)もあり、阿關(おせき)は紙入(かみい)れより紙幣(しへい)いくらか取出(とりいだ)して小菊(こぎく)の紙(かみ)にしほらしく包(つゝ)みて、録(ろく)さんこれは誠(まこと)に失禮(しつれい)なれど鼻紙(はながみ)なりとも買(か)つて下(くだ)され
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
牧之(ぼくし)常(つね)におもへらく、寒気の頃捕(とれ)たる鮞(はらゝご)と男魚(をな)の白䱊(しらこ)とをまじへ、鮏(さけ)居(を)る川の沙石(しやせき)に包(つゝ)み、瓶(かめ)やうのものにうつし入れ、鮏なき国(くに)の海に通(つう)ずる山川の清流(せいりう)に
殆(ほと)んど闇黒(やみ)に全體(ぜんたい)を包(つゝ)まれて居(を)つたが、私(わたくし)の一念(いちねん)の屆(とゞ)いて幾分(いくぶ)か神經(しんけい)の鋭(するど)くなつた爲(ため)か、それとも瞳(ひとみ)の漸(やうや)く闇黒(あんこく)に馴(な)れた爲(ため)か、私(わたくし)は辛(からう)じて其(その)燈光(ひかり)の主體(ぬし)を認(みと)め得(え)た途端(とたん)
しかしそれも、けっして理(り)くつらしくは出(で)てをらずに、このほがらかな調子(ちようし)に、玉(たま)のように包(つゝ)まれて、たゞ月(つき)の光(ひかり)に、及(およ)び雁(かり)の列(れつ)に動(うご)かされた氣分(きぶん)として、胸(むね)に觸(ふ)れて來(き)ます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
何(なに)を云(い)ふんだな、さつき身延山(みのぶさん)へお参(まゐ)りに来(き)た人が道に迷つて此処(こゝ)に来(き)たが、それは吉原(よしはら)にゐた時に出た客なんだよ、三両(りやう)包(つゝ)んで出したが跡(あと)に切餅(きりもち)(二十五両(りやう)包(づゝみ))二俵(へう)位(ぐらゐ)はある様子(やうす)
それを紙(かみ)に包(つゝ)みまして、紙(かみ)の上(うへ)にも父(とう)さんを送(おく)る言葉(ことば)を書(か)いて呉(く)れました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ヂュリ や、誰(た)れぢゃ、夜(よる)の闇(やみ)に包(つゝ)まれて、内密事(ないしょうごと)を聞(き)きゃった其方(そなた)は?
幻花子(げんくわし)は、此土瓶(このどびん)を布呂敷(ふろしき)に包(つゝ)み、背(せ)に斜(はす)に掛(か)けて負(お)ひ、自轉車(じてんしや)に反身(そりみ)で乘(の)つて走(はし)らすのを、後(うしろ)から見(み)て行(ゆ)く佛骨子(ぶつこつし)が、如何(どう)かして自轉車(じてんしや)から落(お)ちて、土瓶(どびん)を破(こは)したら面白(おもしろ)からうと呪(のろ)つたといふ。
傍(かたはら)の風呂敷包(ふろしきづつみ)を引寄(ひきよ)せ其(それ)に包(つゝ)んで了(しま)つた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
やがて、とことはの闇(やみ)となり、雲(くも)は墨(すみ)の上(うへ)に漆(うるし)を重(かさ)ね、月(つき)も星(ほし)も包(つゝ)み果(は)てて、時々(とき/″\)風(かぜ)が荒(あ)れ立(た)つても、其(そ)の一片(いつぺん)の動(うご)くとも見(み)えず。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
加(くはへ)候由私しは數年の出入屋敷(やしき)の事故先一旦の難儀(なんぎ)を救(すく)ふ心に候へども斯(かく)御尋ねの上は包(つゝ)まず申上るにより御役人樣方の御慈悲(おじひ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夜半から強く雨が降り出(だ)した。釣(つ)つてある蚊帳(かや)が、却つて寒く見える位な音(おと)がどう/\と家(いへ)を包(つゝ)んだ。代助は其音(おと)の中(うち)に夜の明(あ)けるのを待(ま)つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「此(こ)れまあ、勘次等(かんじら)にも濟(す)まねえつちつてつ處(ところ)さ、わし等(ら)も洪水(みづ)でねえ」おつたは風呂敷(ふろしき)で南京米(なんきんまい)の袋(ふくろ)をきりつと包(つゝ)んだ。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
夫(そ)れならどうしてと問(と)はれゝば憂(う)き事(こと)さまざま是(こ)れは何(ど)うでも話(はな)しのほかの包(つゝ)ましさなれば、誰(だ)れに打明(うちあ)けいふ筋(すぢ)ならず、物言(ものい)はずして自(おの)づと頬(ほゝ)の赤(あか)うなり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雪に潰(つぶさ)れざる為(ため)也。庭樹(にはき)は大小に随(したが)ひ枝(えだ)の曲(まぐ)べきはまげて縛束(しばりつけ)、椙丸太(すぎまるた)又は竹を添(そ)へ杖(つゑ)となして枝(えだ)を強(つよ)からしむ。雪折(をれ)をいとへば也。冬草(ふゆくさ)の類(るゐ)は菰筵(こもむしろ)を以覆(おほ)ひ包(つゝ)む。
日出雄少年(ひでをせうねん)は、其(その)泉(いづみ)の流(ながれ)に美麗(びれい)なる小魚(こざかな)を見出(みいだ)したとて、魚(うを)を追(お)ふに餘念(よねん)なき間(あひだ)、私(わたくし)は唯(と)ある大樹(たいじゆ)の蔭(かげ)に横(よこたは)つたが、いつか睡魔(すいま)に襲(おそ)はれて、夢(ゆめ)となく現(うつゝ)となく、いろ/\の想(おもひ)に包(つゝ)まれて居(を)る時(とき)
むゝ、侍童(こわらは)めが何(なに)か來(き)たと知(し)らせをる。いま/\しい、何者(なにもの)であらう、今頃(いまごろ)此邊(このあたり)へ彷徨(さまよ)うて、俺(おれ)が眞情(まごゝろ)の囘向(ゑかう)をば妨(さまた)げをる。や、炬火(たいまつ)を持(も)って來(く)るわ!……夜(よる)よ、ちっとの間(ま)、俺(おれ)を包(つゝ)んでくれい。
と云(い)つて金(かね)を一円(ゑん)包(つゝ)んで出すと、奥(おく)から和尚様(をしやうさま)が出て来(き)まして
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
おまけに、もえ黄(ぎ)の夜具(やぐ)ぶろしきを上被(うはつぱ)りにかけて、包(つゝ)んで寢(ね)た。一(ひと)つはそれに對(たい)する敵愾心(てきがいしん)も加(くは)はつたので。……先(ま)づ奮發(ふんぱつ)した。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
上(うへ)から桜の葉が時〻(とき/″\)落ちて来(く)る。其一つが籃(バスケツト)の蓋(ふた)の上に乗(の)つた。乗(の)つたと思ふうちに吹かれて行つた。風が女を包(つゝ)んだ。女は秋の中(なか)に立つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
泣(な)くにも人目(ひとめ)を恥(はぢ)れば二階(かい)座敷(ざしき)の床(とこ)の間(ま)に身(み)を投(なげ)ふして忍(しの)び音(ね)の憂(う)き涕(なみだ)、これをば友(とも)朋輩(ほうばい)にも洩(も)らさじと包(つゝ)むに根生(こんぜう)のしつかりした、氣(き)のつよい子(こ)といふ者(もの)はあれど
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
改札口(かいさつぐち)を冷(つめた)く出(で)ると、四邊(あたり)は山(やま)の陰(かげ)に、澄渡(すみわた)つた湖(みづうみ)を包(つゝ)んで、月(つき)に照返(てりかへ)さるゝ爲(ため)か、漆(うるし)の如(ごと)く艶(つや)やかに、黒(くろ)く、且(か)つ玲瓏(れいろう)として透通(すきとほ)る。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
それから二三分は全(まつた)く静かになつた。部屋は煖炉(だんろ)で温(あたゝ)めてある。今日(けふ)は外面(そと)でも、さう寒くはない。風(かぜ)は死に尽した。枯(か)れた樹(き)が音(おと)なく冬の日(ひ)に包(つゝ)まれて立つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お聞(きゝ)なされませ書生(しよせい)の千葉(ちば)が初戀(はつこひ)の哀(あは)れ、國(くに)もとに居(お)りました時(とき)そと見初(みそ)めたが御座(ござ)りましたさうな、田舍物(いなかもの)の事(こと)なれば鎌(かま)を腰(こし)へさして藁草履(わらぞうり)で、手拭(てぬぐ)ひに草束(くさたば)ねを包(つゝ)んでと思召(おぼしめし)ませうが
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)