其頃そのころ)” の例文
其頃そのころ東京とうきやういへたゝむとき、ふところにしてかねは、ほとんど使つかたしてゐた。かれ福岡ふくをか生活せいくわつ前後ぜんごねんつうじて、中々なか/\苦鬪くとうであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
怪談くわいだんといふものをこしらへて話したいと思ふ時分じぶんの事で、其頃そのころはまだ世の中がひらけないで、怪談くわいだんの話のれる時分じぶんだから、種子たねを探して歩いた。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
上京じやうきやうして、はじめの歸省きせいで、それが病氣びやうきのためであつた。其頃そのころ學生がくせい肺病はいびやうむすめてた。書生しよせい脚氣かつけ年増としまにもかない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つぎ硯友社けんいうしやるにいて、第二の動機だうきとなつたのは、思案外史しあんがいし予備門よびもん同時どうじ入学生にふがくせい相識あいしつたのです、其頃そのころ石橋雨香いしばしうかうつてました
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
月番の若年寄衆わかとしよりしう進達しんたつ致されし處此儀容易ならずと有て早速さつそく年寄衆としよりしうの評議となりたり其頃そのころ天下の御政事にあづかる人々には
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私は其頃そのころの出たらめな生活を、自分では常にかう弁護してゐた。そして当然起るであらう周囲の友だちの非難にも、かう云つて弁解するつもりでゐた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
らうかたかはこゝろなければ、一日も百ねんおなおくれども其頃そのころより美尾みを樣子やうすかくあやしく、ぼんやりとそらながめてものにつかぬ不審いぶかしさ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其頃そのころ歐羅巴エウロツパしよ新聞しんぶんふでそろへて、弦月丸げんげつまる遭難さうなん詳報しやうほうし、かの臆病をくびやうなる船長等せんちやうら振舞ふるまひをばいた攻撃こうげきするとともに『日本人につぽんじんたましひ。』なんかと標題みだしいて
しか其頃そのころはもうさういふこと他人たにん批難ひなんするのは馬鹿々々ばか/\しいといふ意見いけんつてゐる學生がくせいかたおほかつた。
もっとも其頃そのころの溜池は中々広いもので、維新後に埋められて狭くなり、更に埋められて当時の如く町家立ち続く繁華の地となったが、慶応頃の溜池は深く広く
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三十五ねんの九ぐわつわすれたが初旬しよじゆんであつた。それが權現臺ごんげんだい最初さいしよ發掘はつくつで、其頃そのころたく陣屋横町ぢんやよこちやうつて、活東くわつとう望蜀ばうしよくの二同住どうじうしてた。のち玄川子げんせんした。
旅ほどかか可愛かわゆうておもしろい事はないぞ、いまだに其頃そのころを夢に見て後での話しに、この間もばばに真夜中ごろ入歯を飛出さして笑ったぞ、コレ珠運、オイ是はたり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
生垣いけがきの外を通るものがあるから不図ふと見れば先へ立つものは、年頃三十位の大丸髷おおまるまげの人柄のよい年増としまにて、其頃そのころ流行はやった縮緬細工ちりめんざいく牡丹ぼたん芍薬しゃくやくなどの花の附いた燈籠を
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
飛離とびはなれて面白いでもなくそろへどもほかの事の仕方しかたがないにくらべそろへばいくらか面白かりしものと存候ぞんじそろたゞ其頃そのころ小生せうせいの一致候いたしそろ萬場ばんじやう観客かんかくの面白げなるべきにかゝわらず
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
姉は其頃そのころ何んでも二十二三であった。まだ児供こどもがなく自分を大へんに可愛がってくれたのだ。自分が姉を見上げた時に姉は白地の手拭を姉さんかぶりにして筒袖の袢天はんてんを着ていた。
守の家 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
シラチブチは其頃そのころから埋まりかけてゐた。東へ掘割を掘つて水を眞下にながすやうになつてから、夏になるたび沿岸えんがんの土が流れ込んで、五寸づつ一尺づつ、だん/\とうづまつて行つた。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
さうしてかれむかし生活せいくわつ健全けんぜんで、愉快ゆくわいで、興味きようみつたこと、其頃そのころ上流社會じやうりうしやくわいには知識ちしきつたとか、また其社會そのしやくわいでは廉直れんちよく友誼いうぎ非常ひじやうおもんじてゐたとか、證文しようもんなしでぜにしたとか
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「あの泥坊がうらやましい」二人の間にこんな言葉がかわされる程、其頃そのころ窮迫きゅうはくしていた。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
最初の覚書にはまだひかるのエプロンにはこんな形がいいとか、股引もヽひきはかうして女中にたヽせて下さいとか書いて図を引いて置いたりしましたが、其頃そのころのことを思ひますとひかるは大きくなりました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
校長かうちやう大島伸一おほしましんいち其頃そのころわづかに二十七八でしたらう。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
おのずか其頃そのころとなる釣荵つりしのぶ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
其頃そのころ宗助そうすけいまちがつておほくの友達ともだちつてゐた。じつふと、輕快けいくわいかれえいずるすべてのひとは、ほとんど誰彼だれかれ區別くべつなく友達ともだちであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其頃そのころふうをなしておこなはれた試驗しけん間際まぎは徹夜てつや勉強べんきやう終夜しうやとなへて、つた同志どうしあかしに演習おさらひをする、なまけものの節季仕事せつきしごとふのである。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
休憩時間きふけいじかんには控所ひかえじよ大勢おほぜいの中を奔走ほんそうして売付うりつけるのです、其頃そのころ学習院がくしうゐん類焼るいしやうして当分たうぶん高等中学こうとうちうがく合併がつぺいしてましたから、こゝへも持つて行つて推売おしうるのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
どういふわけかといふと、其頃そのころわたくし怪談くわいだんの話の種子たねを調べようと思つて、方々はう/″\つて怪談くわいだん種子たね買出かひだしたとふのは、わたくしうちに百幅幽霊ぷくいうれい掛物かけものがあるから
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
其頃そのころ大佐たいさ年輩としごろ三十二三、威風ゐふう凛々りん/\たる快男子くわいだんしで、その眼光がんくわう烱々けい/\たると、その音聲おんせい朗々ろう/\たるとは、如何いかにも有爲いうゐ氣象きしやう果斷くわだん性質せいしつんでるかをおもはしめた。
きくに物事能分別し太七を船乘ふなのりにして船を補理こしらへ名を勘兵衞とあらためさせ其頃そのころ名高なだかき女にありしとかや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あるひ其頃そのころ威勢めをひ素晴すばらしきものにて、いまの華族くわぞくなんとして足下あしもとへもらるゝものでなしと、くちすべらしてあわたゞしくくちびるかむもをかし、それくらべていま活計くらしは、きえしもおなじことなり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お由は一言いちごんもとに云ひ消したが、実をいふと其頃そのころの一部の人達のあひだには、自分の影を踏まれると好くないといふ伝説がないでもなかつた。七しやく去つて師の影を踏まずなどと支那しなでも云ふ。
余等よらもつと興味きやうみゆうして傾聽けいちやうしたのは、權現臺貝塚ごんげんだいかひづか歴史れきしであつて、最初さいしよ野中のなかくわん發見はつけんしたのを、ふかしてたので、其頃そのころ發掘はつくつをせずとも、表面ひやうめんをチヨイ/\掻廻かきまはしてれば、土偶どぐう
其頃そのころ事務じむにもれるし、信用も厚くなるし、交際も殖えるし、勉強をするひまが自然となくなつて、又勉強が却つて実務のさまたげをする様に感ぜられてた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其頃そのころ武内たけのうち富士見町ふじみちやう薄闇うすぐら長屋ながやねづみ見たやうなうちくすぶつてながら太平楽たいへいらくならべる元気がぼんでなかつた
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ドーレ。と木綿もめんはかまけた御家来ごけらいが出てましたが当今たゞいまとはちがつて其頃そのころはまだお武家ぶけえらけんがあつて町人抔ちやうにんなど眼下がんか見下みおろしたもので「アヽ何所どこからたい。 ...
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
医者いしや内弟子うちでし薬局やくきよく拭掃除ふきさうぢもすれば総菜畠さうざいばたけいもる、ちかところへは車夫しやふつとめた、下男げなん兼帯けんたい熊蔵くまざうといふ、其頃そのころ二十四五さい稀塩散きゑんさん単舎利別たんしやりべつぜたのをびんぬすんで
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたくしこのみなと貿易商會ぼうえきしやうくわい設立たて翌々年よく/\としなつ鳥渡ちよつと日本につぽんかへりました。其頃そのころきみ暹羅サイアム漫遊中まんゆうちゆううけたまはつたが、皈國中きこくちゆうあるひと媒介なかだちで、同郷どうきやう松島海軍大佐まつしまかいぐんたいさいもとつまめとつてたのです。
持參りしが其頃そのころ澤の井さんの申には糸切村いときりむらの茶屋迄持て行ば宿やどへは直にとゞくと申されしゆゑ茶屋迄は度々たび/\持參りしと云にぞよくこそしらしたりとて彼十兩は惣助へつかはし然らば惣助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
書生しよせい千葉ちばいとゞしうおそりて、これはうも、これはとかしらげるばかり、故郷こきやうりしときあねなるひとはゝかはりて可愛かわゆがりてれたりし、其折そのをり其頃そのころありさまをおもおこして
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其頃そのころからつかした)
其頃そのころの百りやう二百りやうふのはたいしたものだから、もうこれくにかへつて田地でんぢへるし、いへてられるといふので、おほいによろこんで多助たすけに相談のうへくにかへつた。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところ丁度ちやうど五月目いつつきめになつて、御米およねまた意外いぐわい失敗しくじりつた。其頃そのころはまだ水道すゐだういてなかつたから、朝晩あさばん下女げぢよ井戸端ゐどばたみづんだり、洗濯せんたくをしなければならなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さればこそひとたびたるはおどろかれふたゝたるはかしらやましく駿河臺するがだい杏雲堂きやううんだう其頃そのころ腦病患者なうびやうくわんじやおほかりしことひとつに此娘このむすめ原因もととは商人あきうどのする掛直かけねなるべけれどかく其美そのびあらそはれず
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いま白痴ばかも、くだん評判ひやうばんたかかつたころ医者いしやうち病人びやうにん其頃そのころ子供こども朴訥ぼくとつ父親てゝおや附添つきそひ、かみながい、兄貴あにきがおぶつてやまからた。あし難渋なんじう腫物しゆもつがあつた、療治れうぢたのんだので。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其頃そのころ諸侯方しよこうがたされ、長兵衛ちやうべゑ此位このくらゐ値打ねうちが有るといふ時は、ぢき代物しろものを見ずに長兵衛ちやうべゑまうしただけにお買上かひあげになつたとふし、此人このひと大人たいじんでございますから
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
いたからとてかつてやらうとひと猶更なほさらなし、あの時近處ときゝんじよかはなりいけなりあらうならわたしさだめげて仕舞しまひましたろ、はなしはまことの百分一、わたし其頃そのころからくるつたのでござんす
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
書肆しよしも無論賛成で既に印刷に回して活字に組み込まうとまでした位である。所が其頃そのころ内閣が変つて、著書の検閲が急に八釜敷やかましくなつたので、書肆は万一をおもんぱかつて、直接に警保局長の意見を確めに行つた。
『煤煙』の序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
モウ二三にんるまで待つてはられぬ、はらへつたまらぬのぢや——これめしと間違まちがへたとふ話です、其頃そのころ商売しやうばいではなかつたから、其位そのくらゐのものでござりましたらう。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さすればゆめのあともなけれど、さとらぬさきれもれもおもひをせしは其人そのひとか、醫科大學いくわだいがく評判男ひようばんをとこ松島忠雄まつしまたヾをばれて其頃そのころ二十七か八か、けば束髮そくはつ薔薇ばらはなやがてみをつく
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さても/\のかはやう我身わがみ嫁入よめいりのうわさきこそめころから、やけあそびのそこぬけさわぎ、高坂かうさか息子むすこまる人間にんげんかわつたやうな、でもさしたか、たゝりでもあるか、よもや只事たゞごとではいと其頃そのころきしが
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おどりにみやうゆきといふ美形びけい唯今たゞいまのお座敷ざしきにておこめのなりますはと至極しごくあどけなきことまをすとも、もとは此所こゝ卷帶黨まきおびづれにてはながるたの内職ないしよくせしものなり、評判ひやうばん其頃そのころたかるもの日々ひゞうとければ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
如何いかひとにもわらはれけんおもへば其頃そのころ浦山うらやまきみさま東京とうきやう歸給かへりたまひしのちさま/″\つゞ不仕合ふしあわせ身代しんだい亂離らり骨廢こつぱいあるがうへに二おやひきつゞきての病死びようしといひきことかさなる神無月かみなづきそでにもかゝる時雨空しぐれぞらこゝろのしめるれを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)