折々をり/\)” の例文
或る時は悲しくなる。又或る時は馬鹿々々しくなる。最後に折々をり/\は滑稽さへ感ずる場合もあるといふ残酷な事実を自白せざるを得ない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
折々をり/\には會計係くわいけいがゝり小娘こむすめの、かれあいしてゐたところのマアシヤは、せつかれ微笑びせうしてあたまでもでやうとすると、いそいで遁出にげだす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ダガ福禄寿ふくろくじゆには白鹿はくろくそばなければなるまい。甲「折々をり/\はなしかを呼びます。乙「成程なるほど、ダガ此度こんどはむづかしいぜ、毘沙門びしやもんは。 ...
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
夏の昼過ぎのあかる寂寞せきばくは、遠い階下の一室から聞える玉突の音と折々をり/\起る人々の笑ひ声、森閑とした白昼のホテルの廊下を歩くボオイの足音
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さうして魚市場の閑な折々をり/\は、血のついた腥くさい甃石いしだゝみの上で、旅興行の手品師が囃子おもしろく、咽喉を眞赤にけては、激しい夕燒の中で
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
薪とる里人さとびとの話によれば、庵の中には玉をまろばす如きやさしき聲して、讀經どきやう響絶ひゞきたゆる時なく、折々をり/\閼伽あか水汲みづくみに、谷川に下りし姿見たる人は
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
あともたせる身に成るべしと專ら取沙汰致候程の者なれどもおやの心には折々をり/\思出し不便ふびんに存じ候となみだながらに申立しにそ此時次右衞門三五郎はかほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
せばらく片折戸かたをりど香月かうづきそのと女名をんなヽまへの表札ひようさつかけて折々をり/\もるヽことのしのび軒端のきばうめうぐひすはづかしき美音びおんをばはる月夜つきよのおぼろげにくばかり
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたしどもはちひさいときに』とつひ海龜うみがめつゞけました、折々をり/\すこしづゝ歔欷すゝりなきしてたけれども、以前まへよりは沈着おちついて、『わたしどもはうみなか學校がくかうきました。 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
わし折々をり/\はらってもますのぢゃ、パリスどのゝはうが、ずっとをとこぢゃとうてな。すると、ほんことぢゃ、ぢゃう眞蒼まっさをかほにならっしゃる、圖無づな白布しろぬののやうに。
この弦月丸げんげつまるにもしば/\そのもようしがあつて私等わたくしら折々をり/\臨席りんせきしたが、あること電燈でんとうひかりまばゆき舞踏室ぶたうしつでは今夜こんやめづらしく音樂會おんがくくわいもようさるゝよしで、幾百人いくひやくにん歐米人をうべいじんおいわかきも其處そこあつまつて
其れを取囲とりかこんだ一町四方もある広い敷地は、桑畑や大根畑に成つて居て、出入でいりの百姓が折々をり/\植附うゑつけ草取くさとりに来るが、てらの入口の、昔は大門だいもんがあつたと云ふ、いしずゑの残つて居るあたりから
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
折々をり/\そら瑠璃色るりいろは、玲瓏れいろうたるかげりて、玉章たまづさ手函てばこうち櫛笥くしげおく紅猪口べにちよこそこにも宿やどる。龍膽りんだういろさわやかならん。黄菊きぎく白菊しらぎく咲出さきいでぬ。可懷なつかしきは嫁菜よめなはなまがきほそ姿すがたぞかし。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
同組同心の倅近藤梶五郎かぢごらう、般若寺村の百姓柏岡かしはをか源右衛門、同倅伝七でんしち河内かはち門真もんしん三番村の百姓茨田郡次いばらたぐんじの八人が酒を飲みながら話をしてゐて、折々をり/\いつもの人を圧伏あつぷくするやうな調子の
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
其後そののち數年間すうねんかん春夏しゆんかさい折々をり/\おこなふにぎざりしが、二十五六さいころもつつるにおよび、日夜にちや奔走ほんそうさい頭痛づつうはなはだしきとき臥床ふしどきしことしば/\なりしが、そのさいには頭部とうぶ冷水れいすゐもつ冷却れいきやく
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
たゞ折々をり/\きこゆるものは豌豆ゑんどうさやあつい日にはじけてまめおとか、草間くさまいづみ私語さゝやくやうな音、それでなくばあきとり繁茂しげみなか物疎ものうさうに羽搏はゞたきをする羽音はおとばかり。熟過つえすぎ無花果いちじくがぼたりと落ちる。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
B ぼく折々をり/\刺身さしみふよ。中々なか/\うまいものだ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
ハヾトフは折々をり/\病氣びやうき同僚どうれう訪問はうもんするのは、自分じぶん義務ぎむるかのやうに、かれところ蒼蠅うるさる。かれはハヾトフがいやでならぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「それぢや少し聞いたことがるから、わたしは一つ沼田ぬまたつて見ようと思ふ」「沼田ぬまた親類しんるゐもあの五代目が達者たつしや時分じぶん折々をり/\たづねてましたが、 ...
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかその悲劇ひげきまた何時いつ如何いかなるかたちで、自分じぶん家族かぞくとらへにるかわからないとふ、ぼんやりした掛念けねんが、折々をり/\かれあたまのなかにきりとなつてかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
長吉ちやうきちはこの夕陽ゆふひの光をばなんふ事なく悲しく感じながら、折々をり/\吹込ふきこむ外のかぜが大きな波をうたせる引幕ひきまくの上をながめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
きやく結城朝之助ゆふきとものすけとて、みづか道樂だうらくものとはのれども實体じつていなるところ折々をり/\えて無職業むしよくげふ妻子さいしなし、あそぶに屈強くつきやうなる年頃としごろなればにやれをはじめに一しゆうには二三かよ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
世に望みなき身ながらも、我れから好める斯かる身の上の君の思召おぼしめしの如何あらんと、折々をり/\思ひ出だされては流石さすが心苦こゝろぐるしく、只〻長き將來ゆくすゑ覺束おぼつかなき機會きくわいを頼みしのみ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
まよしけるうち近隣きんりんの社人玉井大學たまゐだいがくの若黨に源八と云者いふものありしが常々つね/″\通仙つうせんの見世へ來てははなしなどして出入りしに此者このものいたつ好色かうしよくなれば娘お高を見初みそめ兩親の見ぬ時などは折々をり/\
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
本國ほんごくでゝから二年間ねんかんたびからたびへと遍歴へんれきしてあるは、折々をり/\日本につぽん公使館こうしくわん領事館りようじくわんで、本國ほんこくめづらしき事件ことみゝにするほかは、日本につぽん新聞しんぶんなどをこときはめてまれであるから
準備をしてゐる久しい間には、折々をり/\成功の時の光景がまぼろしのやうに目に浮かんで、地上に血を流す役人、脚下にかうべたゝく金持、それから草木さうもくの風になびくやうにきたする諸民が見えた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あとしばらくしんとして、あいちやんはたゞ折々をり/\こんなさゝやきをきました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
機會きくわいに、佐伯さへき消息せうそく折々をり/\夫婦ふうふみゝれることはあるが、其外そのほかには、まつたなにをしてらしてゐるか、たがひらないですご月日つきひおほかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
長吉ちやうきちは失つたおいとの事以外に折々をり/\なんわけもなくさびしい悲しい気がする。自分にもわけだかすこしもわからない。さびしい、だ悲しいのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
みねなかかせし今朝けさとはかはりてちゝかほいろいかにとばかり、折々をり/\やる尻目しりめおそろし、ちゝしづかに金庫きんこちしがやがて五十ゑんたば一つて、これは貴樣きさまるではなし
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
持て折々をり/\宿やどへ參りし事有と云に其惣助と申す者は當時何方いづかたゐるや申聞すべしといへば只今は御普請ごふしん奉行小林軍次郎樣方に中間奉公致し居候と申にぞさらばとて早速使を仕立したて御差紙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これは醫道いだうことなどは平生へいぜいふかかんがへてもをらぬので、どう治療ちれうならさせる、どう治療ちれうならさせぬと定見ていけんがないから、たゞ自分じぶん悟性ごせい依頼いらいして、その折々をり/\判斷はんだんするのであつた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
また折々をり/\のおかたのおともをいたして、大坂おほさか有名いうめい藤田様ふぢたさま御別荘ごべつさうまゐりまして、お座敷ざしき拝見はいけんしたり、御懐石ごくわいせき頂戴ちやうだいしたあと薄茶うすちやいたゞいたりして、誠に此上このうへもない結構けつこうな事でございます。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
折々をり/\當番たうばん船員せんゐん靴音くつおとたか甲板かんぱん往來わうらいするのがきこゆるのみである。
さうしてはれたあとでは、折々をり/\そつと六でふ這入はいつて、自分じぶんかほかゞみうつしてた。其時そのときなんだか自分じぶんほゝたびけてやうがした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
パレスといふ小岩こいはあそしづめてゐたころ折々をり/\とまりにきやくなので、調子てうしもおのづからこゝろやすく
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
はゝこゝろ何方いづかたはしれりともらで、ちゝきれば乳房ちぶさかほせたるまゝおもことなく寐入ねいりちごの、ほゝ薄絹うすぎぬべにさしたるやうにて、何事なにごとかたらんとや折々をり/\ぐる口元くちもとあいらしさ
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
気候が夏の末から秋に移つてく時と同じやう、春のすゑから夏の始めにかけては、折々をり/\大雨おほあめふりつゞく。千束町せんぞくまちから吉原田圃よしはらたんぼめづらしくもなく例年のとほりに水が出た。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
みせは二けん間口まぐちの二かいづくり、のきには御神燈ごしんとうさげてじほ景氣けいきよく、空壜あきびんなにらず、銘酒めいしゆあまたたなうへにならべて帳塲ちようばめきたるところもみゆ、勝手元かつてもとには七りんあほおと折々をり/\さわがしく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
このきたなどぶのやうな沼地ぬまちを掘返しながら折々をり/\沙蚕ごかひ取りが手桶を下げて沙蚕ごかひを取つてゐる事がある。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
母が心の何方いづかたに走れりとも知らで、乳にきれば乳房に顔を寄せたるまゝ思ふ事なく寐入ねいりちごの、ほう薄絹うすぎぬべにさしたるやうにて、何事を語らんとや、折々をり/\ぐる口元の愛らしさ
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
荷船の帆柱と工場の煙筒のむらがり立つた大川口おほかはぐちの光景は、折々をり/\西洋の漫画に見るやうな一種の趣味にてらして、此後このごとも案外長くある一派の詩人をよろこばす事が出来るかも知れぬ。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
畢竟ひつきやう何事なにごとかの手段しゆだんかもれたことならずやさしげな妹御いもとごてにならぬよし折々をり/\たこともあり毒蛇どくじやのやうな人々ひと/″\信用しんようなさるおこゝろにはなにごとまをすとも甲斐かひはあるまじさりとて此儘このまゝ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かゝりけれどもほ一ぺん誠忠せいちうこゝろくもともならずかすみともえず、流石さすがかへりみるその折々をり/\は、慚愧ざんぎあせそびらながれて後悔かうくわいねんむねさしつゝ、魔神ましんにや見入みいれられけん、るまじきこゝろなり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
東京の溝川みぞかはには折々をり/\可笑をかしい程事実と相違した美しい名がつけられてある。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
やをつぎにかいひそまりてくともなしにみゝたつれば、きやくはそもれなるにや、青柳あをやぎといふこゑいと子とこゑ折々をり/\まじりぬ、さても何事なにごとだんずるにや、れにも關係くわんけいありなるをと
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼等は船が殊更ことさら絵のやうに美しい海岸の巌角いはかどなぞを通り過ぎる折々をり/\くはへてゐる大きなパイプを口元から離して、日本の山水さんすゐのうつくしい事を自分に語つた。支那には木がなく水は黄色に濁つてゐる。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
らかるべしとおもふこと折々をり/\えけり。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はなしたふむつゆのあしたならぶるつばさ胡蝶こてふうらやましく用事ようじにかこつけて折々をり/\とひおとづれに餘所よそながらはなおもてわがものながらゆるされぬ一重垣ひとへがきにしみ/″\とはもの言交いひかはすひまもなく兎角とかくうらめしき月日つきひなり隙行ひまゆこまかたちもあらば手綱たづな
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
生甲斐いきがひなや五尺ごしやく父母ふぼおんになれずましてや暖簾のれんいろむかしにめかへさんはさてきて朝四暮三てうしぼさんのやつ/\しさにつく/″\浮世うきよいやになりて我身わがみてたき折々をり/\もあれど病勞やみつかれし兩親ふたおや寢顏ねがほさしのぞくごとにわれなくばなんとしたまはん勿體もつたいなしとおもかへせどくは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)