天井てんじやう)” の例文
ぱうは、大巌おほいはおびたゞしくかさなつて、陰惨冥々いんさんめい/\たる樹立こだちしげみは、露呈あらはに、いし天井てんじやううねよそほふ——こゝの椅子いすは、横倒よこたふれの朽木くちきであつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たゞ自分じぶんいますわつてゐるたゝみいろや、天井てんじやう柾目まさめや、とこ置物おきものや、ふすま模樣もやうなどのなかに、この屏風びやうぶててて、それに、召使めしつかひ二人ふたりがゝりで
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
實際じつさいおもつたよりもはやく、それを半分はんぶんまないうちあいちやんはあたま天井てんじやうにつかへたのをり、くびれない用心ようじんかゞんで、いそいでびんした
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
屋根やねあり、天井てんじやうあり、かべのあるとふばかり、野宿のじゆくつゆあはれさにまさつて、それはつめたいなさけない、こぼれるなみだこほらぬが不思議ふしぎ御座ござります。
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
するとお雪さんは、何故かその視線を避けるやうに、あわてて眼を天井てんじやうへ向けながら、例のパチ/\をやるのであつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
むかうに見える劇場の内部は天井てんじやうばかりがいかにも広々ひろ/″\と見え、舞台は色づきにごつた空気のためかへつて小さくはなはだ遠く見えた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
クリスマスの裝飾さうしよくもちゐた寄生木やどりぎおほきなくすだまのやうなえだが、ランプのひかり枝葉えだはかげせて天井てんじやうつるされてゐる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
小さな手をおとなしく前に重ねて、捲毛まきげを後に搖りやつて、眼を天井てんじやうの方にあげ、何か歌劇の中の歌を唄ひはじめた。それは棄てられた女の歌だつた。
第十 常居ゐま濕氣しめりけすくな日當ひあたりよくしてかぜとほやうこゝろもちし。一ヶねん一兩度いちりやうどかなら天井てんじやうまたえんしたちりはらひ、寢所ねどころたかかわきたるはうえらぶべきこと
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
京都きやうとあたりの茶人の家とくらべて見給へ。天井てんじやうは穴だらけになつてゐるが、かく僕の書斎は雄大だからね。」
漱石山房の冬 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
卯平うへい視力しりよくふたゝ恢復くわいふくしたときにはすで天井てんじやうはりんだ藁束わらたばの、みだれてのぞいて穗先ほさきつたひてのぼつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
けつして超凡の人では無い………としたら、北側きたがわのスリガラスの天井てんじやうから射込さしこむ柔かな光線………何方かと謂へばノンドリした薄柔うすぐらひかりで、若い女の裸體を見てゐて
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
玄關げんくわんさき別室全體べつしつぜんたいめてゐるひろこれが六號室がうしつである。淺黄色あさぎいろのペンキぬりかべよごれて、天井てんじやうくすぶつてゐる。ふゆ暖爐だんろけぶつて炭氣たんきめられたものとえる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
聞て扨々夫はさぞ難儀なんぎなるべし出家のことなれば何かしてすくうて遣はすべし此天井てんじやうの上に不動明王ふどうみやうわう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「筆蹟を隱す爲に、天井てんじやうから絲で筆を釣つて書くと、このやうなフラフラした字になります」
人々ひと/″\同意どういえて一時いちじくちとぢたけれど、其中そのうち二三人にさんにんべつ此問このとひめず、ソフアにうづめてダラリと兩脇りやうわきれ、天井てんじやうながめてほそくしてものもあれば
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
或時あるとき故人こじん鵬斎先生ばうさいせんせいより菓子一をりおくれり、その夜いねんとする時狐の事をおもひ、かの菓子折を紵縄をなはにてしかくゝ天井てんじやうへ高くりおき、かくてはかれがじゆつほどこしがたからんとみづからほこりしに
但馬守たじまのかみ悵然ちやうぜんとして天井てんじやうあふいだ。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ねむくはないので、ぱちくり/\いてても、ものまぼろしえるやうになつて、天井てんじやうかべ卓子テエブルあし段々だん/\えて心細こゝろぼそさ。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
午過ひるすぎかへつてると、御米およね金盥かなだらひなか雜巾ざふきんけて、六でふ鏡臺きやうだいそばいてゐた。其上そのうへところだけ天井てんじやういろかはつて、時々とき/″\しづくちてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私たちの本を天井てんじやうまではふり投げるやら、定規ぢやうぎとで、煖爐圍ストーブがこひと火爐具とで、大騷動を演じるやら大變でしたの。
本當ほんたう枕元まくらもとなのせえ、みんなしてこゞつてせめえつたつて窮屈きうくつだつてやつとだけなんだから、天井てんじやうへはあたまつゝかりさう生命いのちでもなんでもちゞめらつるやうなおもひでさ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
天井てんじやうねづみがあれ御覽ごらん、とゆびをさすに、ふでやの女房つまはじめとしてにあるものみなわらひころげぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
折々をり/\おそろしい音してねずみの走る天井てんじやうからホヤの曇つた六分心ろくぶしんのランプがところ/″\宝丹はうたんの広告や都新聞みやこしんぶんの新年附録ふろくの美人画なぞでやぶをかくしたふすまを始め、飴色あめいろに古びた箪笥たんす
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
百樹曰、越遊ゑついうして大家のつくりやうを見るに、はしらふときこと江戸の土蔵のごとし。天井てんじやう高く欄間らんま大なり、これ雪の時あかりをとるためなり。戸障子としやうじ骨太ほねふとくして手丈夫ぢやうぶなるゆゑ、しきゐ鴨柄かもゑひろあつし。
銅印どういんもある。瀬戸せとの火鉢もある。天井てんじやうには鼠の食ひ破つた穴も、……
漱石山房の冬 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「八、天井てんじやうが怪しい。箱型になつたものを搜せ」
振向ふりむざまに、ぶつきらぼうつて、握拳にぎりこぶしで、ひたいこすつたのが、悩乱なうらんしたかしらかみを、掻毮かきむしりでもしたさうにえて、けむりなび天井てんじやうあふいだ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そればかりか、かたせなも、こしまはりも、心安こゝろやすいて、如何いかにもらく調子てうしれてゐることいた。かれはたゞ仰向あふむいて天井てんじやうからさがつてゐる瓦斯ガスくわんながめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
惘然ばうぜんとして自失じしつして卯平うへいわらびた。かれあわてゝ戸口とぐちしたときすであか天井てんじやうつくつてた。けぶりは四はうからのきつたひてむく/\とはしつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
をんな暫時しばし恍惚うつとりとしてそのすゝけたる天井てんじやう見上みあげしが、孤燈ことうかげうすひかりとほげて、おぼろなるむねにてりかへすやうなるもうらさびしく、四隣あたりものおとえたるに霜夜しもよいぬ長吠とほぼえすごく
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ればかりでなく黒ずんだ天井てんじやう壁襖かべふすまかこまれた二階のへやがいやに陰気臭いんきくさくて、燈火とうくわの多い、人の大勢おほぜいあつまつてゐる芝居しばゐにぎはひが、我慢がまん出来できぬほど恋しく思はれてならなかつたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
百樹曰、越遊ゑついうして大家のつくりやうを見るに、はしらふときこと江戸の土蔵のごとし。天井てんじやう高く欄間らんま大なり、これ雪の時あかりをとるためなり。戸障子としやうじ骨太ほねふとくして手丈夫ぢやうぶなるゆゑ、しきゐ鴨柄かもゑひろあつし。
それから三階のいくつかの部屋は、暗くて天井てんじやうが低くはあつたが、その古めかしいさまに趣きがあつた。階下の部屋の用にてゝあつた家具が、流行の變る毎にこゝにはこび移されたのである。
硝子ガラス戸から客間をのぞいて見ると、雨漏あまもりのあとと鼠の食つた穴とが、白い紙張りの天井てんじやう斑々はんぱんとまだ残つてゐる。が、十畳の座敷には、赤い五羽鶴ごはづるたんが敷いてあるから、畳の古びだけは分明ぶんみやうでない。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
みんなおさへても、ふるあがるやうに、寢臺ねだいうへから、天井てんじやうて、あれ/\彼處あすこへんなものがて、にらみます、とつて頂戴ちやうだい、よう、とつて頂戴ちやうだい
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「それでも階下したばかりだもの。——二階にかい天井てんじやううへだらう、そらちかいんだからね、たかところにはなにるかれません。……」
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
反身そりみ手足てあしをだらりとげて、自分じぶん身躰からだ天井てんじやう附着くつつく、とおもふとはつとめる、……けないのです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たゞ姿すがただけせればい。温泉宿ゆのやど二階にかいたかし。あの欄干らんかんから飛込とびこませろ、……女房にようばうかへらぬぞ、女房にようばうかへらぬぞ、とはね天井てんじやうをばさばさらせろ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かべ天井てんじやうゆきそらのやうにつた停車場ステエシヨンに、しばらくかんがへてましたが、あま不躾ぶしつけだとおのれせいして、矢張やつぱ一旦いつたん宿やどことにしましたのです。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「うむ、」とふ。なかからふちへしがみついた、つら眞赤まつかに、小鼻こばなをしかめて、しろ天井てんじやうにらむのを、じつながめて
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
天井てんじやうくづれて、そこ眞黒まつくろいたには、ちら/\とがからんで、ぱち/\とすゝく、ほのほめる、と一目ひとめた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところ中山ちうざん大人物だいじんぶつは、天井てんじやうがガタリとつても、わツと飛出とびだすやうな、やにツこいのとは、口惜くやしいが鍛錬きたへちがふ。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『と、な、……天守てんしゆ主人あるじはるゝのぢや……それがなにもない天井てんじやうから、ゆびにぶる/\とひゞいてこえた。』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ツの壁越かべごしですが、寢臺ねだいわたしこほりついたやうにつて、じつ其方そのはうますと、きました、たかかべと、天井てんじやう敷合しきあはせのところから、あの、女性をんな
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、不斷ふだんだと、魑魅ちみ光明くわうみやうで、電燈でんとうぱつけて、畜生ちくしやうつぶてにして追拂おひはらふのだけれど、あかり覺束おぼつかなさは、天井てんじやうからいきけると吹消ふつけされさうである。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もやゝけて、食堂しよくだうの、しろ伽藍がらんとしたあたり、ぐら/\とれるのが、天井てんじやうねずみさわぐやうである。……矢張やつぱたびはものさびしい、さけめいさへ、孝子正宗かうしまさむね
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……酒氣しゆき天井てんじやうくのではない、いんこもつてたゝみけこげをころ𢌞まはる。あつかんごと惡醉あくすゐたけなはなる最中さいちう
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがて二かい寐床ねどここしらへてくれた、天井てんじやうひくいが、うつばり丸太まるた二抱ふたかゝへもあらう、むねからなゝめわたつて座敷ざしきはてひさしところでは天窓あたまつかへさうになつてる、巌丈がんぢやう屋造やづくり
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たがひに——おたがひ失禮しつれいだけれど、破屋あばらや天井てんじやうてくるねずみは、しのぶにしろ、れるにしろ、おとひきずつてまはるのであるが、こゝのは——つて後脚あとあし歩行あるくらしい。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)