“乳(ちゝ)” の例文
營(いとな)み七日々々(なぬか/\)の追善供養(つゐぜんくやう)も心の及ぶだけは勤(つと)めしが何分男の手一ツで幼(をさな)き者の養育(やういく)に當惑(たうわく)し晝(ひる)は漸く近所(きんじよ)隣(となり)に貰(もら)ひ乳(ちゝ)などし夜(よる)は摺粉(すりこ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ロレ いや、其(その)語(ことば)の鋭鋒(きっさき)を防(ふせ)ぐ甲胄(よろひ)を與(おま)さう。逆境(ぎゃくきゃう)の甘(あま)い乳(ちゝ)ぢゃと謂(い)ふ哲學(てつがく)こそは人(ひと)の心(こゝろ)の慰(なぐさ)め草(ぐさ)ぢゃ、よしや追放(つゐはう)の身(み)とならうと。
袖(そで)は両方(りやうはう)から振(ふり)が合(あ)つて、乳(ちゝ)のあたりで、上下(うへした)に両手(りやうて)を重(かさ)ねたのが、ふつくりして、中(なか)に何(なに)か入(はい)つて居(ゐ)さうで、……駆(か)けて行(い)つて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
汽車は右の肩から乳(ちゝ)の下(した)を腰(こし)の上迄美事(みごと)に引き千切(ちぎ)つて、斜掛(はすかけ)の胴を置き去りにして行つたのである。顔(かほ)は無創(むきず)である。若い女だ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それで魔(もの)あつて誘かすやうに、其の柔な肉付に、艶(つや)のある頭髪(かみ)に、むつちりした乳(ちゝ)に、形の好い手足に心を引(ひ)き付けられた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
其文(そのふみ)開(びら)けば唯(たゞ)一ト言(こと)、美尾(みを)は死(し)にたる物(もの)に御座候(ござさふらふ)、行衞(ゆくゑ)をお求(もと)め下(くだ)さるまじく、此金(これ)は町(まち)に乳(ちゝ)の粉(こ)をとの願(ねが)ひに御座候(ござさふらふ)。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母馬(おやうま)は煩(うるさ)さにがつかりして歸路(きろ)につきました。町(まち)はづれまでくると、仔馬(こうま)は急(きふ)に歩(ある)きだしました。はやく家(いへ)へかへつてお乳(ちゝ)をねだらうとおもつて。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
厨房(だいどころ)は隅(すみ)から隅(すみ)まで烟(けむり)で一ぱいでした、公爵夫人(こうしやくふじん)は中央(まんなか)の三脚几(きやくき)に凭(よ)つて坊(ぼ)ッちやんに乳(ちゝ)を飮(の)まして居(ゐ)ました、それから料理人(クツク)は圍爐裡(ゐろり)の彼方(むかふ)で
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そこへ玉ちやんが走つて來て、博士がシヤツばかりになつてゐるのを見て、「papa のお乳(ちゝ)」と云つて取り付く。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
貴方(あなた)などは、才智(さいち)は勝(すぐ)れ、高潔(かうけつ)ではあり、母(はゝ)の乳(ちゝ)と共(とも)に高尚(かうしやう)な感情(かんじやう)を吸込(すひこ)まれた方(かた)ですが、實際(じつさい)の生活(せいくわつ)に入(い)るや否(いなや)、直(たゞち)に疲(つか)れて病氣(びやうき)になつて了(しま)はれたです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
鏡子は白い胸を開(あ)けた。六年程子の口の触れない乳(ちゝ)は処女の乳(ちゝ)のやうに少(ちいさ)く盛り上つたに過ぎないのである。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しかし父(とう)さんの子供(こども)の時分(じぶん)に飮(の)んだふるさとのお乳(ちゝ)の味(あぢ)は父(とう)さんの中(なか)に變(かは)らずにありますよ。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「そんなことはないと思ひます、鼻緒のお乳(ちゝ)を、小巾(こぎれ)で卷いて、目印しがありました」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
うつかりすつと乳(ちゝ)ツ岸(ぎし)までへえるやうな深(ふか)ん坊(ばう)の冷(ひ)えつ處(とこ)ぢやどうしたつて晩稻(おくいね)でなくつちや穫(と)れるもんぢやねえな、それから俺(お)れ役場(やくば)で役人(やくにん)が講釋(かうしやく)すつから深(ふか)ん坊(ばう)ぢや斯(か)うだつち噺(はなし)したら
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
乳(ちゝ)を混(こん)ぜざる濃茶(のうちや)を喜(よろこ)び、水(みづ)を割(わ)らざる精酒(せいしゆ)を飮(の)み、沈鬱(ちんうつ)にして敢爲(かんい)、堅(かた)く國立(こくりつ)の宗教(しゆうきよう)を持(ぢ)し、深(ふか)く祖先(そせん)の業(げふ)を重(おも)んず、工業(こうげう)甚(はなは)だ盛(さかん)ならざるが故(ゆゑ)に中等社界(ちうとうしやくわい)の存(そん)するところ多(おほ)くは粗朴(そぼく)なる農民(のうみん)にして
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
逞ましき種豚(たねぶた)の鼾はりつめたる雌(め)が腹の乳(ちゝ)に沁みて響くかも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
乳(ちゝ)の江(え)をゆく船に似て
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あなやと思(おも)ふと更(さら)に、もとの顔(かほ)も、胸(むね)も、乳(ちゝ)も、手足(てあし)も全(まツた)き姿(すがた)となつて、浮(う)いつ沈(しづ)みつ、ぱツと刻(きざ)まれ、あツと見(み)る間(ま)に又(また)あらはれる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
此間(このあひだ)生(うま)れた末(すゑ)の男(をとこ)の子(こ)が、乳(ちゝ)を呑(の)む時刻(じこく)が來(き)たものか、眼(め)を覺(さ)まして泣(な)き出(だ)したため、賊(ぞく)は書齋(しよさい)の戸(と)を開(あ)けて庭(には)へ逃(に)げたらしい。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
乳母 ま、名譽事(めいよごと)といの! わしばかりが乳(ちゝ)を献(あ)げたので無(な)かったなら、其(その)智慧(ちゑ)は乳(ちゝ)から入(はひ)ったとも言(い)ひませうずに。
偖(さて)も吉兵衞は素(もと)より富(とめ)る身ならねば乳母(うば)を抱(かゝ)ゆべき金力(ちから)も無(なく)情け有家へ便(たよ)り腰(こし)を屈(かゞ)めて晝夜を分(わか)たず少し宛(づつ)の貰(もら)ひ乳(ぢ)を成(なし)又は乳(ちゝ)の粉や甘酒(あまざけ)と一日々々を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何(なん)で乳(ちゝ)くさい子供(こども)の顏(かほ)見(み)て發心(ほつしん)が出來(でき)ませう、遊(あそ)んで遊(あそ)んで遊(あそ)び拔(ぬ)いて、呑(の)んで呑(の)んで呑(の)み盡(つく)して、家(いへ)も稼業(かげふ)もそつち除(の)けに箸(はし)一本(ぽん)もたぬやうに成(な)つたは一昨々年(さきおとゝし)
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
悔恨の銀の色の錘(おもり)を胸に置かれた鏡子が庭口(にはぐち)から入つて行つた時、書斎の敷居の上に坐つて英也は新聞を見て居た。座敷の縁(えん)ではお照がまだ榮子に乳(ちゝ)を含ませて居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
足の形(かたち)でも腰(こし)の肉付(にくつき)でも、または胴(どう)なら乳(ちゝ)なら胸なら肩なら、總(す)べて何處(どこ)でもむツちりとして、骨格(こつかく)でも筋肉(きんにく)でも姿勢(しせい)でも好(よ)く整(とゝの)ツて發育(はついく)してゐた。加之(それに)肌(はだ)が眞(ま)ツ白(しろ)で滑々(すべ/″\)してゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
『五月蠅(うるさい)ね』と云(い)つて公爵夫人(こうしやくふじん)は、『そんな事(こと)に關(かま)つては居(ゐ)られない!』乃(そこ)で夫人(ふじん)は再(ふたゝ)び其子供(そのこども)に乳(ちゝ)を飮(の)ませ始(はじ)めました、一種(しゆ)の子守歌(こもりうた)を唱(うた)ひながら、一ト節(ふし)終(を)へるとは其子(そのこ)を搖(ゆす)り上(あ)げて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「何(なに)、何(なに)をしたつて身體(からだ)さへ働(はたら)かせりや、彼女(あれ)に食(く)はせて、乳(ちゝ)はのまされます。」と、仕立屋(したてや)さんは、いそ/\と歸(かへ)つていつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
彼は時々(とき/″\)寐(ね)ながら、左の乳(ちゝ)の下(した)に手を置いて、もし、此所(こゝ)を鉄槌(かなづち)で一つ撲(どや)されたならと思ふ事がある。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
女子(をなご)の太息(といき)に胸(むね)の雲(くも)を消(け)して、月(つき)もる窓(まど)を引(ひき)たつれば、音(おと)に目(め)ざめて泣出(なきい)づる稚兒(をさなご)を、あはれ可愛(かはゆ)しいかなる夢(ゆめ)を見(み)つる乳(ちゝ)まゐらせんと懷(ふところ)あくれば笑(ゑ)みてさぐるも憎(にく)からず
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それはさうと、只今(たゞいま)も申(まう)しました通(とほ)り、妾(わたし)の乳(ちゝ)の尖所(さき)の苦艾(にがよもぎ)を嘗(な)めさっしゃると、苦(にが)いので、阿呆(あはう)どのがむづかって、乳(ちゝ)をなァ憎(にく)がって! すると鳩小舍(はとごや)が、がた/\/\。
引(ひき)たるが初めにて一兩日過(すぐ)る中(うち)に發熱(はつねつ)甚(はなは)だしく次第に病(やま)ひ重(おも)りて更に醫藥(いやく)の効(しる)しも無く重症(ぢうしやう)に赴(おもむ)きしかば吉兵衞は易き心も無(なく)殊(こと)に病ひの爲(ため)に乳(ちゝ)は少しも出ず成りければ妻の看病(みとり)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『何故(なぜ)さうなのでせう。玉川の方でも乳(ちゝ)は一年限(ぎ)りで廃(よ)して居たのだつたのにね。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
自分(じぶん)に返(かへ)りました時(とき)、兩臂(りやうひぢ)と、乳(ちゝ)の下(した)と、手首(てくび)の脈(みやく)と 方々(はう/″\)に血(ち)が浸(にじ)んで、其處(そこ)へ眞白(まつしろ)な藥(くすり)の粉(こな)が振掛(ふりか)けてあるのが分(わか)りました。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
無器用(ぶきよう)なお前樣(まへさま)が此子(このこ)いぢくる譯(わけ)にも行(ゆ)くまじ、お歸(かへ)りに成(な)るまで私(わたし)が乳(ちゝ)を上(あ)げませうと、有(あり)さまを見(み)かねて、隣(となり)の妻(つま)の子(こ)を抱(だ)いて行(ゆ)くに、何分(なにぶん)お頼(たの)み申(まをし)ますと言(い)ひながら
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
みだれごこちまどひごこちぞ頻なる百合ふむ神に乳(ちゝ)おほひあへず
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
手(て)を伸(の)べよ、と思(おも)へば伸(の)べ、乳(ちゝ)を蔽(おほ)へと思(おも)へば蔽(おほ)ひ、髪(かみ)を乱(みだ)せと思(おも)へば乱(みだ)れ、結(むす)べよ、と思(おも)へば結(むす)ばる——さて、衣(きぬ)を着(き)せやうと思(おも)へば着(き)る。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
母(はゝ)が心(こゝろ)の何方(いづかた)に走(はし)れりとも知(し)らで、乳(ちゝ)に飽(あ)きれば乳房(ちぶさ)に顏(かほ)を寄(よ)せたるまゝ思(おも)ふ事(こと)なく寐入(ねいり)し兒(ちご)の、頬(ほゝ)は薄絹(うすぎぬ)の紅(べに)さしたるやうにて、何事(なにごと)を語(かた)らんとや折々(をり/\)曲(ま)ぐる口元(くちもと)の愛(あい)らしさ
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わかき子が乳(ちゝ)の香まじる春雨に上羽(うはば)を染めむ白き鳩われ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
藍地(あゐぢ)に紺(こん)の立絞(たてしぼり)の浴衣(ゆかた)を唯(たゞ)一重(ひとへ)、絲(いと)ばかりの紅(くれなゐ)も見(み)せず素膚(すはだ)に着(き)た。襟(えり)をなぞへに膨(ふつく)りと乳(ちゝ)を劃(くぎ)つて、衣(きぬ)が青(あを)い。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
乳(ちゝ)のやうなる雨の糸。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
日(ひ)に向(むか)へば雪(ゆき)のやうな、へい、魔王殿(まわうどの)が一目(ひとめ)見(み)たら、松脂(まつやに)の涎(よだれ)を流(なが)いて、魂(たましひ)が夜這星(よばひぼし)に成(な)つて飛(と)ぶ……乳(ちゝ)の白(しろ)い、爪紅(つめべに)の赤(あか)い奴(やつ)を製作(こさ)へると言(い)はぬかい!
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
「嬰兒(あかんぼ)が乳(ちゝ)を呑(の)みますから、私(あつし)は何(ど)うでも、彼女(あれ)には實(み)に成(な)るものの一口(ひとくち)も食(く)はせたうござんすから。」——で、さしあたり仕立(したて)ものなどの誂(あつらへ)はないから
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
呆(あき)れ果(は)てゝ眺(なが)めて居(ゐ)ると、やがて浅(あさ)い処(ところ)で腰(こし)の辺(あたり)、深(ふか)い処(ところ)は乳(ちゝ)の上(うへ)になる。最(もつと)も激流(げきりう)矢(や)を流(なが)す。川(かは)の七分目(ぶんめ)へ来(き)た処(ところ)に、大巌(おほいは)が一つ水(みづ)を堰(せ)いて龍虎(りうこ)を躍(おど)らす。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
腰帯を〆めてふくらみたる胸の衣(きぬ)を下に推下(おしさ)げたる後、乳(ちゝ)の下に結ぶもの下〆(したじめ)なり、品類は大抵同じ、これも外には見えざるなり、近頃花柳(くわりう)の艶姐(えんそ)、経済上
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と思(おも)はず……男(をとこ)は驚駭(おどろき)の目(め)を睜(みは)つた。……と其(そ)の帶(おび)に挾(はさ)んで、胸先(むなさき)に乳(ちゝ)をおさへた美女(たをやめ)の蕊(しべ)かと見(み)える……下〆(したじめ)のほのめく中(なか)に、状袋(じやうぶくろ)の端(はし)が見(み)えた、手紙(てがみ)が一通(つう)。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
玲瓏(れいろう)つて云(い)ふんですか、自分(じぶん)の手(て)も、腕(うで)も、胸(むね)なんぞは乳(ちゝ)のなり、薄掻卷(うすかいまき)へすつきりと透(す)いて、映(うつ)つて、眞綿(まわた)は吉野紙(よしのがみ)のやうに血(ち)を壓(おさ)へて、骨(ほね)を包(つゝ)むやうなんです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其奴(そいつ)が、がさ/\と寢臺(ねだい)の下(した)へ入(はひ)つて、床(ゆか)の上(うへ)をずる/\と引摺(ひきず)つたと見(み)ると、婦(をんな)が掻卷(かいまき)から二(に)の腕(うで)を白(しろ)く拔(ぬ)いて、私(わたし)の居(ゐ)る方(はう)へぐたりと投(な)げた。寢亂(ねみだ)れて乳(ちゝ)も見(み)える。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
難儀(なんぎ)さも、蛇(へび)も、毛虫(けむし)も、鳥(とり)の卵(たまご)も、草(くさ)いきれも、記(しる)してある筈(はず)はないのぢやから、薩張(さツぱり)と畳(たゝ)んで懐(ふところ)に入(い)れて、うむと此(こ)の乳(ちゝ)の下(した)へ念仏(ねんぶつ)を唱(とな)へ込(こ)んで立直(たちなほ)つたは可(よ)いが
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
處(ところ)へ、細君(さいくん)はしどけない寢衣(ねまき)のまゝ、寢(ね)かしつけて居(ゐ)たらしい、乳呑兒(ちのみご)を眞白(まつしろ)な乳(ちゝ)のあたりへしつかりと抱(だ)いて色(いろ)を蒼(あを)うして出(で)て見(み)えたが、ぴつたり私(わたし)の椅子(いす)の下(もと)に坐(すわ)つて
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
腕(うで)へ來(く)る、乳(ちゝ)へ來(く)る。拂(はら)へば馳(はし)つて、又(また)スツと寄(よ)る。あゝ、女(をんな)の雪(ゆき)の二(に)の腕(うで)だと、松葉(まつば)が命(いのち)の黥(いれずみ)をしよう、指(ゆび)には青(あを)い玉(たま)と成(な)らう。私(わたし)は酒(さけ)を思(おも)つて、たゞ杉(すぎ)の葉(は)の刺青(ほりもの)した。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
ひとへに白(しろ)い。乳(ちゝ)くびの桃色(もゝいろ)をさへ、蔽(おほ)ひかくした美女(びぢよ)にくらべられたものらしい。……此(こ)の白(しろ)い花(はな)の、散(ち)つて葉(は)に成(な)る頃(ころ)の、その毛蟲(けむし)の夥多(おびたゞ)しさと言(い)つては、それは又(また)ない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)