“そ”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:ソ
語句割合
反16.0%
外11.9%
其9.6%
剃9.2%
染5.7%
添5.6%
夫5.5%
初4.9%
然4.0%
逸3.9%
削3.6%
殺3.2%
副2.2%
而2.1%
沿1.9%
素1.4%
密0.9%
窃0.8%
楚0.7%
抑0.7%
疎0.6%
爾0.5%
傍0.4%
开0.3%
粗0.2%
左0.2%
疏0.2%
層0.2%
祖0.2%
損0.2%
殂0.2%
退0.1%
剥0.1%
空0.1%
蘇0.1%
曾0.1%
徐0.1%
斯0.1%
背0.1%
訴0.1%
鼠0.1%
配0.1%
疽0.1%
始0.1%
剪0.1%
竊0.1%
蔬0.1%
狙0.0%
耦0.0%
迯0.0%
他0.0%
則0.0%
剡0.0%
劓0.0%
厥0.0%
善0.0%
喰0.0%
塑0.0%
娶0.0%
彼0.0%
悄0.0%
斥0.0%
曽0.0%
某0.0%
橇0.0%
此0.0%
比0.0%
流0.0%
浴0.0%
涅0.0%
潜0.0%
祚0.0%
称0.0%
競0.0%
菹0.0%
蓋0.0%
該0.0%
誹0.0%
譏0.0%
負0.0%
避0.0%
酥0.0%
鍛0.0%
阻0.0%
除0.0%
養0.0%
麁0.0%
麤0.0%
(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
与次郎の説によると、あの女は反(そ)っ歯(ぱ)の気味だから、ああしじゅう歯が出るんだそうだが、三四郎にはけっしてそうは思えない。……
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これを鼬ごっこの疲労(くたびれ)儲けと解して、岐道(わきみち)へ外(そ)れた人は退屈と不安があるばかりで、生涯、人生の味は解し得られないのであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
片手を岸なる松柳にかけたるもの、足を団石(だんせき)の上に進め、猿臂(えんぴ)を伸ばせる者、蹲踞(そんきょ)して煙草を吹く者、全く釣堀の光景其(そ)のまゝなり。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
茶店の女主人と見えるのは年頃卅ばかりで勿論眉(まゆ)を剃(そ)っておるがしんから色の白い女であった。この店の前に馬が一匹繋(つな)いであった。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
中(なか)に咲(さ)いたやうな……藤紫(ふじむらさき)に、浅黄(あさぎ)と群青(ぐんじやう)で、小菊(こぎく)、撫子(なでしこ)を優(やさ)しく染(そ)めた友染(いうぜん)の袋(ふくろ)を解(と)いて、銀(ぎん)の鍋(なべ)を、園(その)はきら/\と取(と)つて出(で)た。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
そして天児屋根命(あめのこやねのみこと)、太玉命(ふとだまのみこと)、天宇受女命(あめのうずめのみこと)、石許理度売命(いしこりどめのみこと)、玉祖命(たまのおやのみこと)の五人を、お孫さまの命(みこと)のお供の頭(かしら)としておつけ添(そ)えになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
夫(そ)れかと言(い)つて來(く)るほどのお人(ひと)に無愛想(ぶあいさう)もなりがたく、可愛(かわい)いの、いとしいの、見初(みそめ)ましたのと出鱈目(でたらめ)のお世辭(せぢ)をも言(い)はねばならず
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
低い人家の軒にはもう灯がつき初(そ)めて、曇つたまゝに暮れて行く冬の空は、西の端(はづ)ればかりが黒い瓦屋根の上に色もなく光つて居る。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
「ええ然(そ)うよ、詳しくね。……でもよく助けて上げたわね。……妾、お君ちゃんと親友なのよ。……お礼心よ、泊っていらっしゃい」
人を呪わば (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし作者(わたし)はしばらくの間物語の筋を横へ逸(そ)らせ、青木原(あおきがはら)で陶器師と別れた高坂甚太郎の身の上について少しく説明しようと思う。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この思いもならぬ逆手には、流石の明智も、張りつめていた気勢を、ヒョイと削(そ)がれた形で、ほんの僅かであったが、出足がおくれた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それで、僕は尚繰拡げて、興を殺(そ)がれるまではながめて居た。表紙に芒と骸骨とが描いてある。中を見ると圏点沢山の文章がある。
明治詩壇の回顧 (新字旧仮名) / 三木露風(著)
先陣宗茂の部将小野和泉は、我に一将を副(そ)えて前軍と為せ、敵の斥候隊を打破ろう。斥候が逃げれば後続の大軍動揺するであろう。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
而(そ)してその時私は考へた、都会は美くしいが実に怖ろしい処だ、彼処(あすこ)には黄金、酒、毒薬、芸術、女、凡(すべ)てが爛壊(らんえ)に瀕してゐる。
新橋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
川上の方を見ると、すすきのいっぱいにはえている崖(がけ)の下に、白い岩(いわ)が、まるで運動場(うんどうじょう)のように平(たい)らに川に沿(そ)って出ているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その内に思案して、明(あか)して相談をして可いと思ったら、謂(い)って見さっせえ、この皺面(しわづら)あ突出して成ることなら素(そ)ッ首は要らねえよ。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黙って背後(うしろ)から、密(そ)とその頸(うなじ)にはめてやると、苞(つと)は揺れつつ、旧の通りにかかったが、娘は身動きもしなかった。四辺(あたり)には誰(たれ)も居ない。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめの内は、よく実家(さと)からお金を取つたりして、窃(そ)つと青木さんの手前をつくろつてゐられたやうな事もあつたらしい。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
楚(そ)の干将莫邪(かんしょうばくや)は楚王の命をうけて剣を作ったが、三年かかって漸(ようや)く出来たので、王はその遅延を怒って彼を殺そうとした。
一人が塔の方を見た時、こは抑(そ)も何事ぞ! 高塔の上からバークレーの町々に、オークランドの家々に静かに流れ渡るその歌は。
バークレーより (新字新仮名) / 沖野岩三郎(著)
春星(しゆんせい)影(かげ)よりも微(かすか)に空を綴(つゞ)る。微茫月色(びばうげつしよく)、花に映(えい)じて、密(みつ)なる枝は月を鎖(とざ)してほの闇(くら)く、疎(そ)なる一枝(いつし)は月にさし出でゝほの白く、風情(ふぜい)言ひ尽(つく)し難(がた)し。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
アツシリヤでも早くから犬を珍重して今の「マスチツフ」だの「グレイハウンド」だのといふ奴が在(い)たさうだが、爾(そ)んな事は扨(さ)ておき
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
主の彼は可笑しさを堪(こら)え、素知らぬ振(ふり)して、宮前のお広さん処へは、其処の墓地に傍(そ)うて、ずッと往(い)って、と馬鹿叮嚀(ばかていねい)に教えてやった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
急度(きつと)相違のない樣に直に調達致して來ようとつかと戸外(おもて)へ出たるは其日も已に暮合(くれあひ)すぎなり开(そ)も此家には妻子もなく一個住(ひとりずみ)にて玄關番(げんくわんばん)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
説き伏せ、粗(そ)を捨て、良を選び、必ず将来、あなたの楯となるような精兵三千をあつめて帰ります。——そしてあなたに忠誠を誓わせてご覧にいれますが
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平岡は三千代の云つた通りには中々(なか/\)帰らなかつた。何時(いつ)でも斯んなに遅(おそ)いのかと尋ねたら、笑ひながら、まあ左(そ)んな所でせうと答へた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
邱処機が元の太祖に奏した疏(そ)に竜児の年三月日奏すとあり、元の時泰山に立てた碑に泰定鼠児の年、また至正猴児の年とあり
「しかし事務なんかで頭を使うくらいなら、一層(そ)のこと潰(つぶ)しにしてしまう方が宜かったんです」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
五十兩九郎兵衞里兩人の養育料(やういくれう)として遣(つかは)し候儀に御座候其後九助同村の周藏喜平次木祖(そ)兵衞等が取持(とりもち)にて私し姪(めひ)節儀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
オホホ、そういう訳(わけ)で豆腐屋を呼び損(そ)くなってその晩は里芋の堅いのをお吸物の実に入れて大層良人(やど)に笑われましたがそれから毎日一生懸命に副食物拵えの稽古です。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
王殂(そ)して後、諸兄これを遠ざけ外遊せしめたが、ガウルに趨(おもむ)き回教徒の兵を仮り来て兵を起し、諸兄を殺し(一二七九年頃)、マンクの尊号を得、世襲子孫に伝えたと。
これは「天の壁立つ極み、国の退(そ)き立つ限り」とか「青雲のたなびく極み、白雲の向伏す限り」とか、「船艫(ふなのへ)の至り留る極み、馬の爪の至り留る限り」
お登和嬢は大原のナイフを持ちて骨付の肉を剥(そ)がんとするを見「大原さんその肉はお箸(はし)でおちぎりなすっても取れますよ」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あわあわしい白(し)ら雲が空(そ)ら一面に棚引(たなび)くかと思うと、フトまたあちこち瞬(またた)く間雲切れがして
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
万年草(まんねんそう) 御廟の辺(ほとり)に生ず苔(こけ)の類(たぐひ)にして根蔓をなし長く地上に延(ひ)く処々に茎立て高さ一寸許(ばかり)細葉多く簇(むらがり)生(しょう)ず採り来り貯へおき年を経といへども一度水に浸せば忽(たちまち)蒼然(そうぜん)として蘇(そ)す此草漢名を
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ふるさとのお話につけ、木曾(きそ)という地名の意味をここに書きつけましょう。曾(そ)とは麻のことです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お寢(やす)みだ。」と、例の淋しさうな聲で小さくさう言ひつゝ、徐(そ)つと出て行つた。早く下へ行つて診察室に歸らなければ、看護婦は一人しかゐないのにと冷吉は思つた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
泉原はそう思って、我ながら斯(そ)うして女のあとを追ってきた愚かしさをはがゆく思った。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
女衒は上框(あがりかまち)に腰を下して片足を膝に組みながら、鋭く凡太に一瞥を呉れたが、すぐに目を背(そ)らしてそ知らぬ顔をつくり、二階へ上つた女中に向いて「もう上つてもよいのか」と
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
いろいろめんどうな訴(そ)しょう事件(じけん)になって、船のにもつは、そっくりとり上げられ、商人は、出かけたときよりも、もっとびんぼうになって、またとぼとぼ
「われらの任は、今や重い。窮するの極み、必ず、呂布はここを通るであろう。ここは淮南への正路、一鼠(そ)だに洩らしてはならん。王法ニ親(シン)ナシ——怠る者は、軍法に照らし必ず断罪に処すぞ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たゞ願はくはアムフィオネをたすけてテーべを閉せる淑女等わが詩をたすけ、言(ことば)の事と配(そ)はざるなきをえしめんことを 一〇—一二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
毅堂はこの年某月背部に悪性の腫物疽(そ)を発して病褥(びょうじょく)に就いたので黒田家の扶持を辞した。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いかに思ひ始(そ)めけることにか、世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ、徒然なるひるま、よひゐなどに、姉継母などやうの人々の、その物語、かの物語
大刀取りは左の手で右衛門の身を上へ持ち上げるようにして右足を剪(そ)いだ。太刀が余って左足へ半分斬り込んだ。
三浦右衛門の最後 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
が、その中(うち)にもうとても溜(たま)らなくなって来た。彼は竊(そ)ッと姪の黄色な枕の下へ手を入れて彼女の頭を浮き上らせると、姪はぴたりと泣きやんだ。彼は姪を抱き上げてやる気はなかった。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
食楽は、精進(しょうじん)料理がお好き。まず録糸(まめそうめん)にてつくる魚翅(ふかのひれ)、湯葉(ゆば)でつくれる火腿(ハム)、たまに彼女はかつて母とともに杭州(コウシュウ)の西湖(サイこ)にある功徳林蔬(そ)食処へ精進料理を味わいに行った。
新種族ノラ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
後人母猴(もこう)と訛(なま)りまたいよいよ訛って獼猴(みこう)とす。猴の形、胡人(こひと)に似たる故胡孫(こそん)という。『荘子』に狙(そ)という。
中国で猴(こう)を狙(そ)というも且は男相の象字といえば(『和漢三才図会』十二)、やはりかかる本義と見ゆ。
神さまがもし私に、神の耦(そ)わせ給う女を送り給うならば、私は恋をしてはならないと思い決めまいと考え出しました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
神様は私を独身ではたらかす気かもしれないし、ほかの女を私に耦(そ)わすみ心かも知れません。二人はいっさいの誓約はせずに神前に恥じぬ交際を続けて行きましょう。そしてみ旨なら結婚しましょう。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
美和子も、さすがに、姉の厳しい様子に、ちょっと目を迯(そ)らすようにして、真面目な表情をしたが、すぐに不貞腐(ふてくさ)れて、白々しく
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あわてて眼を迯(そ)らせながら、自分でもいい加減な返事の出来ない気持になりながら、その場合無難な返事として
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
車は駛(は)せ、景は移り、境は転じ、客は改まれど、貫一は易(かは)らざる他(そ)の悒鬱(ゆううつ)を抱(いだ)きて、遣(や)る方無き五時間の独(ひとり)に倦(う)み憊(つか)れつつ、始て西那須野(にしなすの)の駅に下車せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
つまり命矢というのを弓に則(そ)えて持ち、馬を駈りながら見やると、狼は結び矢来の中央に四足を張って立ったまま動かない、しかし何十回となく猟師に追われ
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
貫一はその半(なかば)を尽して、先(ま)づ息(いこ)へり。林檎を剥(む)きゐるお静は、手早く二片(ふたひら)ばかり剡(そ)ぎて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
直ぐに飛込んで髻(たぶさ)を把(と)ってと云う訳にもいきません、坊主ですから鉄鍋の様に両方の耳でも把るか、鼻でも劓(そ)ごうかと既に飛込みに掛りましたが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
つづいて、「克(よ)く忠に克く孝に、億兆心を一にして、世々、厥(そ)の美を済(な)せるは」
よね お前(まい)がそぎやん云ふなら、そツで善(そ)かこてしとこう。こん籠(かげ)にや果物(くだもん)と菓子ばちつとばつかり入れといたばい。そるから、もう忘れもんななかろね。
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
其(そ)の晩(ばん)一年中(ねんぢう)の臟腑(ざうふ)の砂拂(すなはらひ)だといふ冬至(とうじ)の蒟蒻(こんにやく)を皆(みんな)で喰(た)べた。お品(しな)は喰(そ)の日(ひ)は明日(あす)からでも起(お)きられるやうに思(おも)つて居(ゐ)た。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
此意味に於て、我國彫塑(そ)家連は幸福であらふと思ふ者であります。只返すがへすも腰の幅の狹き事は、裸體美の上から見て痛恨事である。
裸体美に就て (旧字旧仮名) / 小倉右一郎(著)
「この娘を首尾好く、その男に娶(そ)わすことが出来たとしても、それで幸福であるといえるだろうか。」
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
級(しな)照る 片岡山(かたをかやま)に 飯(いひ)に飢(ゑ)て 臥(こや)せる 彼(そ)の旅人(たびと)あはれ 親無(おやなし)に 汝(なれ)生(な)りけめや 剌竹(さすたけ)の 君(きみ)はや無(な)き 飯(いひ)に飢(ゑ)て 臥(こや)せる 彼(そ)の旅人(たびと)あはれ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
貧に憔(やつ)れ疲れ、とげとげと悄(そ)ぎたった血の気のない頬にともしい笑いをうかべながら、じろりと閣室を見あげて行く。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
引力にしても斥(そ)力にしても、相離れた所から作用を及ぼすように見えても、実際は中間に在る媒介物の内に起る作用の結果が、この形で現われるものだという風に考えた。
木(き)イ曽(そ)のネエ、ときやがった
うたがひは懸(か)かる柳闇花明(りうあんくわめい)の里(さと)の夕(ゆふ)べ、うかるヽ先(さ)きの有(あ)りやと見(み)れど品行方正(ひんかうはうせい)の受合人(うけあいて)多(をう)ければ事(こと)はいよいよ闇黒(くらやみ)になりぬ、さりながら怪(あや)しきは退院(たいヽん)がけに何時(いつ)も立寄(たちよ)る某(そ)れの家(いゑ)
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雛の微笑(ほほえみ)さえ、蒼穹(あおぞら)に、目に浮(うか)んだ。金剛神の大草鞋は、宙を踏んで、渠を坂道へ橇(そ)り落した。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此(そ)の癖(くせ)、もし/\、と云(い)つた、……聲(こゑ)を聞(き)くと、一番(いちばん)あとの按摩(あんま)が呼留(よびと)めた事(こと)が、何(ど)うしてか直(す)ぐに知(し)れた……
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「我は愛(うるは)しき友なれ二七こそ弔ひ來つらくのみ。何ぞは吾を、穢き死(しに)人に比(そ)ふる」といひて、御佩(みはかし)の十掬(つか)の劒を拔きて、その喪屋(もや)を切り伏せ、足もちて蹶(く)ゑ離ち遣りき。
御納経(なふきやう)の御望み叶はせられざりしより、竹の梢に中つて流(そ)るゝ金弾の如くに御志あらぬ方へと走り玉ひ、鳴門の潮の逆風(さかかぜ)に怒つて天に滔(はびこ)るやう凄じき御祈願立てさせ玉ひしと仄に伝へ承はり侍りしが
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
こんな海嘯(つなみ)などは、到底(とうてい)人間(にんげん)の力(ちから)で防(ふせ)ぎ止(と)めることは出來(でき)ませんが、しかし、もし海岸(かいがん)に浴(そ)うて帶(おび)のように森林(しんりん)があれば、非常(ひじよう)な速力(そくりよく)でおし寄(よ)せてくる潮水(しほみづ)の勢(いきほひ)を殺(そ)ぎ
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
今の娘たちから見ると、眉(まゆ)を落とし歯を涅(そ)めた昔の女の顔は化け物のように見えるかもしれない。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
世間でもかんづいて居るから新吉は憎まれ者で、誰(たれ)も付合う人がない。横曾根辺(あたり)の者は新吉に逢っても挨拶もせぬようになりました。新吉はどん/\降る中を潜(そ)っと忍んでお賤の処(とこ)へ来ました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其(その)国の徳衰え沢(たく)竭(つ)きて、内憂外患こも/″\逼(せま)り、滅亡に垂(なりなん)とする世には、崩じて諡(おく)られざる帝(みかど)のおわす例(ためし)もあれど、明の祚(そ)は其(そ)の後猶(なお)二百五十年も続きて、此(この)時太祖の盛徳偉業、炎々(えんえん)の威を揚げ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
才物だ。なかなかの才物だとしきりに誉(ほ)め称(そ)やし、あの高ぶらぬところがどうも豪(えら)い。談話(はなし)の面白さ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
こおろぎの音(ね)も細々(ほそぼそ)と明(あ)け暮(く)れて、風(かぜ)に乱(みだ)れる芒叢(すすきむら)に、三つ四つ五つ、子雀(こすずめ)の飛(と)び交(か)うさまも、いとど憐(あわ)れの秋(あき)ながら、ここ谷中(やなか)の草道(くさみち)ばかりは、枯野(かれの)も落葉(おちば)も影(かげ)さえなく、四季(しき)を分(わか)たず咲(さ)き競(そ)うた
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
梅天の一に「山妻欲助梅菹味、手摘紫蘇歩小園」の句があり、断梅の一に「也有閑中公事急、擬除軒下曝家書」の句がある。菹(そ)は説文(せつもん)に「酢菜也」とある。梅菹(ばいそ)も梅※(ばいせい)も梅漬である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかして彼の平易なる独逸語を以て著述せしその註解書を読まん、「今よりのち誰(たれ)も我を擾(わずらわ)すなかれ、蓋(そ)はわれ身にイエスの印記(しるし)を佩(お)びたればなり」(六章十七節)、ああ何たる快ぞ
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかしいみじくも万葉の歌がそれが染め料になるべき事実を明かに誨(おし)え証拠立てて居る事は全く該(そ)の歌の貴い所であるというべきダ。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
寸分(すんぶん)異ならぬ同一事実のものでも、見(み)ようによりては褒(ほ)めることもできれば、誹(そ)しることもできる。賞することも罰(ばっ)することもでき、殺すことも活(い)かすこともできる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「江戸の名人じゃ、と云う程に、何ぞ珍らしい芸でもするのかと思っていたに、都の藤十郎には及び付かぬ腕じゃ」と罵(ののし)った。七三郎を譏(そ)しる者は、ただ素人(しろうと)の見物だけではなかった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
顧(おも)ふに生や師恩に私淑し、負ふところのものはなはだ多し。しかるに軽挙暴動、妄(みだ)りに薫陶の深きに負(そ)むく。その罪実に軽しとせず。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
一人、二人ずつ彼等はときどき応接室へ何かの用事で出入する。それを京子はちらちら視て、如何にもうんざりしたように加奈子の肩へ首を載せ、眼を避(そ)らしてしまった。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
玄宗皇帝が楊貴妃浴を出て鏡に対し一乳を露わすを捫弄(もんろう)して軟温新剥鶏頭肉というと、傍に在(い)た安禄山(あんろくざん)が潤滑なお塞上の酥(そ)のごとしと答えた。
山頬(やまぎわ)の細道を、直様(すぐさま)に通るに、年の程十七八計(ばかり)なる女房(にょうぼう)の、赤き袴に、柳裏(やなぎうら)の五衣(いつつぎぬ)着て、鬢(びん)深(ふか)く鍛(そ)ぎたるが、南無妙。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
〔譯〕胸次(きようじ)清快(せいくわい)なれば、則ち人事百艱(かん)亦阻(そ)せず。
青きもの摘む子らならし笊(ざる)寄せて石炭殻は指に掻き除(そ)く
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
みかどがまだ尊治親王(たかはるしんのう)とよばるる御身分にすぎなかった幼少から、わが家にてお養(そ)だて申しあげて来たいわゆる乳父(めのと)の彼であった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
麁(そ)末なる煙草盆の、しかも丈夫に、火入れは小さき茶釜形なるを扣(ひか)へて、主人庄太郎外見ばかりはゆつたりと坐りたれど、心に少しの油断もなきは、そこらジロジロ見廻す眼の色にも知られぬ。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
夕陰(ゆふべくもる)。とめ女召連、天明味野出立。上之茶屋(かみのちやや)迄同人駕行(かごにてゆく)。当所迄信慶(中略)送来。夫より人車三乗、用が瀬より駕一挺、知津に而午支度。夫より歩行。野原駅松見屋某へ著。甚(はなはだ)麤(そ)。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)