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日の光が斜めに窓からさし込むので、それを真面まともに受けた大尉のあかじみた横顔にはらない無性髯ぶしょうひげが一本々々針のように光っている。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
茶店の女主人と見えるのは年頃卅ばかりで勿論まゆっておるがしんから色の白い女であった。この店の前に馬が一匹つないであった。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
お豊はようよう十八九で、まだ娘らしい女振りであったが、さすがにもう眉をっていた。かれの白い顔はいたましく蒼ざめていた。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一八一四年当時の囚人がくも珍妙な制服を着せられ、一週二回ずつひげっていたとは! すっかり書きかえねばならなくなった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
今に、その傷が禿げてくぼんでいるが、月代さかやきる時は、いつにても剃刀がひっかかって血が出る、そのたび、長吉のことを思い出す。
天城四郎はきれいに頭をっていた。見るからに剽悍ひょうかんなあの野武士ていの姿はどこにもない。この寒空にうすい墨の法衣ころも一枚なのだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれはね、自働革砥オートストロップの音だ。毎朝ひげるんでね、安全髪剃あんぜんかみそり革砥かわどへかけてぐのだよ。今でもやってる。うそだと思うなら来て御覧」
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ラヴ・インポテンス。飼い馴らされた卑屈。まるで、白痴にちかかった。二十世紀のお化け。鬚のり跡の青い、奇怪の嬰児えいじであった。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「それがですね、塩田大尉」と、小浜こはまという姓の兵曹長が、達磨だるまのように頬ひげをったあとの青々しいたくましい顔をあげていいました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
土田正三郎は一睡もしなかったが、帰宅すると風呂ふろかせてからだを洗い、平生どおり髪を直しひげって、父と朝食をともにした。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一面に麥畑の眞青な中を白くうね/\として行く平な國道を、圓顏に頬髷ほゝひげつたあとの青々とした車夫くるまやは、風を切つて駈け出した。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
眉にりを当てる間もなく、はげたおはぐろを染め直す余裕もなく——しかし、身なりだけはととのえねば気がすまぬ女であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
渠がこの家にきたりし以来、吉造あか附きたるふどしめず、三太夫どのもむさくるしきひげはやさず、綾子のえりずるようにりて参らせ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔は口ひげも頬ひげも立てずきれいにり上げて、特にうしろ頭の丸く突き出した大きな丸っこい頭は、短かく刈り込まれていた。
薄い下り眉毛まゆげ、今はもとの眉毛をったあとに墨で美しく曳いた眉毛の下のすこしはれぽったいまぶたのなかにうるみを見せて似合って居ても
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
どこの寺から借り出したものか、青くった頭によく似合った。それが、おかみさんたちのイカモノ趣味を、そそったのだろう。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
『戀塚とは餘所よそながらゆかしき思ひす、らぬまへの我も戀塚のあるじなかばなりし事あれば』。言ひつゝ瀧口は呵々から/\と打笑へば、老婆は打消うちけ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
曽根は小男なのに、塩田は背が高い。曽根は細面で、とがったような顔をしているのに、塩田は下膨れの顔で、濃い頬髯ほおひげったあとが青い。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ひげらずにいた私は、剃刀かみそりをあてて、顔を洗って、セイセイとした心持になり、浜田と一緒に戸外へ出たのはかれこれ二時半頃でした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この隠居は平素よりも一層若々しく見えるくらいの結い立ての髪、り立ての顔で、伊之助に助けられながら本堂への廊下を通り過ぎた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なぜならば先生は、あの形のよい学者風のアゴ鬚をり落して、日焼けした、額の広い、たくましい顔に変つてゐたからです。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
定家の嫡子ちゃくしは為家、建久九年に生れ、次男であった。異腹の兄は清家、後光家みついえといって、事あって廃嫡され、五位侍従に終って髪をった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
らない眉は黒く太く、まるで一文字を引いたやうだ。台の上にコップを置いて、娘は富岡を見てにつと笑つた。凉やかな眼もとであつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
章一ははかまひもを結んでいた。章一は右斜みぎななめに眼をやった。じぶんが今ひげっていた鏡台の前に細君さいくんおでこの出たきいろな顔があった。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
腰までしかない洗晒あらひざらしの筒袖つゝそで、同じ服裝なりの子供等と共に裸足はだしで歩く事は慣れたもので、頭髮かみの延びた時は父が手づからつて呉れるのであつた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お前もおれも何思ったか無精髭ぶしょうひげり、いつもより短く綺麗きれいに散髪していた。お前の顔も散髪すると存外見られると思ったのは、実にこの時だ。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
三丁目で、こんな店も銀座通りにあるかと思うような、ちょっとした小店で、眉毛まゆげったおかみさんが、露地口ろじぐちの戸の腰に雑巾ぞうきんをかけていた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
くびったり、つめを切ったり、細かい面倒を見てくれる若い葉子のやわらかい手触りは、ただそれだけですっかり彼女を幸福にしたものだったが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いわゆる神釈じんしゃくの句の中でも、人が尊重していた遁世とんせいの味、たとえば「道心どうしんの起りは花のつぼむ時」といったような、髪をる前後の複雑した感覚
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もうその時分は長い間ひげらず髪も摘まず、湯にも何にも入らんのですから、随分顔や身体からだもチベット人のように汚くなって居ったでしょう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
でっぷりしたあから顔の快活な小男で、り残してる長めの頬髯ほおひげ、聞き取れないほどの早口——いつも騒々しくって、ちょこちょこ動き回っていた。
マレイ語で頭髪をるのは chukor であり女の髪を剃るのが tokong である。また蘭領らんりょうインドでは「店」が toko である。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
やや上気したほほのあか味のためにったまゆのあとがことにあおく見える細君はこういいながら、はじらいげにほほえんだ会釈を客の裕佐の方へなげ
博士は小声に説明しながら、予め車内に置いてあった大型のスーツ・ケースを開いて、先ず髭りの道具を取り出した。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今日けふ見し荷揚人足の黒人奴くろんぼの中に頭くるくると青くりたりし一人ひとりがまたその六代目の顔してありしことなどを思ひでて可笑をかしがりさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ぼうぼうとらないままにのびたひげ、うすぎたないシャツと半ズボンで立っている姿があたりの景色にそぐわない、ひどく滑稽こっけいなものに見えたので
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
しかもそれは普通の僧侶のやうに頭もつて居なければ、僧衣も着てゐなかつた。普通のやうにして慈海は話した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
越後ゑちごの冬ははやく訪れるので、海から来る風はもう道や畑を白くして吹き、良寛さんのりたての青い頭は、雪をふくんだ雲の下で寒かつたのである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そして、各々めいめい床屋とこや主人しゅじんは、すこしでもていねいに、きゃくあたまって、また、ていねいにかおったのでした。
五銭のあたま (新字新仮名) / 小川未明(著)
ネネムは起きあがって見ますとお「キレ」さまはすっかりふだんの様になっておまけにテカテカして何でも今朝あたり顔をきれいにったらしいのです。
甲板士官はこう答えたなり、今度はあごをなでて歩いていた。海戦の前夜にK中尉に「昔、木村重成きむらしげなりは……」などと言い、特に叮嚀ていねいっていたあごを。……
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一人ひとり張飛ちやうひやせよわくなつたやうな中老ちゆうらう人物じんぶつ一人ひとり關羽くわんう鬚髯ひげおとして退隱たいゝんしたやうな中老ちゆうらう以上いじやう人物じんぶつ
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
り落とした眉毛まゆげの後が青々と浮んで見える色白の美顔は、絹行燈きぬあんどん灯影ほかげを浴びて、ほんのりとなまめかしかった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それは、いつの間にか頭を刈ってしまった理髪師が、私の襟筋えりすじるべくシャボンの泡をなすり付けたのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
比丘尼びくに前名ぜんみょうを熊と申す女に似気にげない放蕩無頼を致しました悪婆あくばでございまするが、今はもう改心致しまして、頭髪あたまり落し、鼠の着物に腰衣を着け
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
黒川真頼まより翁も具合の悪いときには父の治療を受けた。晩年の真頼翁はもう頭の毛をつるつるにっておられた。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
何かの用で——たぶん鬚でもりに——莫斯科モスコウからワルソウのほうへ出かけているために、その宮内大臣、侍従、料理部員等の一大混成旅行団の乗用として
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
ひとり、ふた剃りと、青月代に変るにつれて、江戸に名代の眉間傷も次第にくっきりと浮き上がりました。
見ると一人は手に剃刀かみそりとちり紙を持っている。彼女は順吉に命じて軽業かるわざのような恰好をさせて、もの慣れた顔つきで器用に剃刀をあつかって毛をりおとした。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
猩々は剃刀を手に持ち、石鹸泡せっけんあわを一面に塗って、鏡の前に坐って顔をろうとしていた。前に主人のやるのを小部屋の鍵穴からのぞいていたものにちがいない。