)” の例文
それから目を閉じたいような気持で居りながら、目をらせなかったのだ。その機に搭乗とうじょうしている若い飛行士のことを想像していた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
これを鼬ごっこの疲労くたびれ儲けと解して、岐道わきみちれた人は退屈と不安があるばかりで、生涯、人生の味は解し得られないのであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ええ」と明はちらりと彼女の横顔へ目を投げ、それから又急いで目をらせるようにしながら、端近い革張の椅子に腰を下ろした。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「まさか。——あはははは大丈夫ですよ。あ、話がれちまったが、おとといの晩トム公の体に異状があったのをごぞんじですかえ」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
潜戸くぐりどから首だけ出した。誰も居ない深夜の大久保の裏通りを見まわした。今一度、黒い煙突の影を振返ると急ぎ足で横町にれた。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「併し一概に山賊などと云っても中には却々なかなかい儀深い奴もいるものですよ。」と医師は周章あわてて眼をらしながらそんなことを云い出した。
薔薇の女 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
最後の見舞に来てくれたのは演芸画報社の市村君で、その住居は土手三番町であるが、火先がほかへれたので幸いに難をまぬかれた。
火に追われて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どこから傍道わきみちれたのか忘れちまったから、再び「夜の酒場、暗いLA・TOTO」へ引っ返して出直すとして——で、つまりその
「何か途中に變つたところがありやしなかつたかい、喧嘩とか、出入事とか、——お前さんに突き當つて、馬から眼をらせた奴とか」
……ホイ、話が迂闊うつかり横道へれた。這般な議論は么麽どうでも可いが、処で此高時殿が大の闘犬好きで其お庇で我々は大分進歩した。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
私は懐中電燈を置くと、わざと座敷の中から眼をらして何んにも見なかったように、さも忙しそうに、早々と崖をりはじめた。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「ええ、あれだけでも速く疎開させておきたいの」と康子はとりすがるように兄のひとみつめた。と、兄の視線はちらとわきらされた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
「敵を見掛けて夜逃げをするわけにもゆくめえから、どうだ一番、乗るかるか二人でおしかけて、その山崎にぶつかってみよう」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
肌があかくなつてゐる。浴槽の中は明るかつた。ゆき子はちらと、富岡の裸体から眼をらして窓にせまつてゐる赤土の肌を眺めてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
むろん長くは目をとめていなかった。ついとらしていた。いつの間にか、やかたの屋根裏や壁板もすっかりすすけているのに気づいた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
健三の心はかえって昔の関係上多少の金を彼にる方に傾いていた。しかし話は其所そこまで発展する機会を得ずによそへれてしまった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の思ったのはその手代きりです——どうしましたか、私は自家うちを飛びだしてから妙な方にれてしまったから、ただそれだけのことです
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その目まぐるしいほどの手の運動と、鏡の端に映った自分の顔半分とに、私はすっかり気圧けおされて、顔を向けながら室の中を見廻した。
が、僕はそちらを見るが早いか、すぐに幕のうしろへ隠れてしまう。そうして僕が眼をらせば、じっとまたこちらを見つめている。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鳥ははるかの西にれて、青じろく光りながら飛んで行きます。タネリは、一つの丘をかけあがって、ころぶようにまたかけ下りました。
「しかし、このお天気続きで、まず結構でござりやすよ。」と何もない、すすけた天井を仰ぎ仰ぎ、帳場の上の神棚へ目をらす。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
復讐しかえしは簡単だよ。これから人間の画かきどもが何を描こうとも、おれ達はわざと気づかないふりをしてぽうを向いているんだ。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
二発もつゞいて同じ方角から飛んで来て、一弾は一弾より正確であったのにちょうしても、決して偶然の弾丸だまでないことはたしかである。
にんじんは、ちらりと眼をらす。そして母親が聞いていないことを確かめる。すると、彼はマリイ・ナネット婆さんに言うのである——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
他の列車とすれちがったりして考えをらしてくれたから助かったようなものの、左もなければ、おれはきっとあの誘惑に屈伏しただろう。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
魚雷は発射されてから、命中するまで、やゝ長い時間がかゝるので、その間に敵が気づいて、ふねむきを変へたら、あるひれるかも知れない。
怪艦ウルフ号 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
爺さんが何か訊いてみようと思っているうちに、年上の方の旅人が彼に話しかけて、その不思議な杖から彼の注意をらしてしまいました。
そして考へる事も考へる事も、すぐに傍へれて了ツて、斷々きれぎれになり、紛糾こぐらかり、揚句あげくに何を考へるはずだツたのか其すらも解らなくなツて了ふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
まともな女の人をみればすぐを向くような変なものを持っていた私は、その変なもので横山美智子をすげなくしてお帰ししたのである。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
やあ、どうも話がわき道にれちゃったが、どうでしょうな、お嬢さんのお考えは……ただどうも問題になりそうなのは年のちがいじゃあるが
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
眼をらして、御用部屋の奥のほうで、頭から絆纒を引ッかぶって寝ている男を見つけると、クヮッと眼尻を釣りあげて
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
木乃伊の顔に注いだ視線を、もはやらすことが出来なくなった。彼は、磁石じしゃくに吸寄せられたように、凝乎じっと身動きもせず、その顔に見入った。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「もう一息という所で、踏込方が足りませぬな。四度目の斬込みなど確かに一本きまった所、ほんの一寸でれましたが、踏込んで御覧なさい」
相馬の仇討 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
彼は割り当てられたその役を踏みらして途方に暮れていると愚かにも考えるが、どうやら彼は道化者としての役を振りあてられているらしい。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
このまゝ後をつけて行つて見ようかそれとも追ひついて声をかけようか、そんなことを道助が思ひ迷つてゐる間に彼女は横町へれてしまつた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
棄てて、ちょいと右の線へれさえすりゃ、二た丁場も行くか行かぬうちに、ついでにもう一人、知り合いの婦人を訪問できるんだがなあ!……
やがてゆるい斜面に沿つてまつすぐにこつちへ延びているのだが、その男女の人影が彼の視線かられると、彼は、もうそのことは忘れたように
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
かう云つて白川は自分の本意でない方向へ話がれて行つて、松村を正面から責めつけて行かねばならなくなつたことを、口惜しいことに思つた。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
もはや太郎は約束のことなど忘れて、白い木独楽を目当めあてに思う存分に打込んだから、まとれずに真二つに勇の独楽は割れて飛んでしまいました。
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
敵の艇と、あまり近くによって、ぐるぐる空中戦をやっているため、敵の艇が狙いにはいって、さあ撃とうと思うとたんにれてしまうのである。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……彼女も声を立てて笑いながら、そのピンをかなり深く刺しこんで、むなしくあちこちらそうとする彼の眼を、じっとのぞき込むのだった。……
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
彼はそれを、どこか門の下の土台石の下へでも押し込むか、それとも何気なくおっことしておいて、つと横町へれてしまうかしたかったのである。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
きずあらためて見ますると、弾丸たまれたものと見えて身体に疵はありませぬ、もっとも鉄砲の音にきもを消したものと見えて、三人とも気絶して居りまする。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とてもお相手には足りますまいが、どうか一局御指導を願ひたいものでと、これはわざと談話をよそへらしたり。
当世二人娘 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「こんなにもお供をしてまいりたかったのでございましょうか」多助は哀れな妹の姿から眼をらせながら云った
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして目をらせば……それは立ち迷う湯の煙と共に、どことも知れぬ虚空の一角へ、放散し去るばかりであろう。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
その同じ流れのうちでも、勿論よどんだように足ぶみをするものが出来たり、別な方へれて行く中年の漁夫もある。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
どこか隙の多さうな醜い女ぢやないかと、少し斜視掛つたその女の眼を見てゐたが、しかし女中の方はで鼻の頭がまるく、おまけに色が黒かつた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
これら一切の場合において、精神に対する刺戟は、肉体的疲労を真に実際に取除くよりも、むしろ、これから注意をらす作用をするように、思われる。
話は少しれるがのちに探偵小説を論ずるときに必要であるから「じやう」に入ることに就てここに少しく述べて置かう。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)