)” の例文
見上げると両側の山は切りいだように突っ立って、それに雑木ぞうき赭松あかまつが暗く茂っていますから、下からると空は帯のようなのです。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この思いもならぬ逆手には、流石の明智も、張りつめていた気勢を、ヒョイとがれた形で、ほんの僅かであったが、出足がおくれた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼女は頭も毬栗いがぐりで、ほおはげっそりげ鼻はとがり、手も蝋色ろういろせ細っていたが、病気は急性の肺炎に、腹膜と腎臓じんぞうの併発症があり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
常にわがまへにあらはる、またこれいたづらにあらず、その婆の我を乾すことわが顏の肉をぐこの病よりはるかに甚しければなり 六七—六九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そこに、このほこらを建てる時に、いだ崖の断面があり、その下に、やっと人間が這って出入りできるくらいな洞穴ほらあながあった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
順吉はときどき道を歩きながらズボンの上から股のあたりをさすってみたりした。なんだか少しずつ肉がげていくような気がしたのである。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
富太郎はスヤスヤと眠つて居りますが、如何にも弱さうな少し發育の遲い子らしく、熱つぽい唇も、げた頬も何となく頼り少なく見えます。
昌作の方は、背の高い割に肉がげて、漆黒まつくろな髪をわざとモヂヤ/\長くしてるのと、度のひくい鉄縁の眼鏡を掛けてるのとで二十四五にも見える。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
呼ばれたものは表情のないげたほおをこちらに向けた。その手ごたえのない様子に彼女はッとするのだ。うすべりの耳をたたきつけて喚いた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
武蔵野の特色なる雑木山を無惨〻〻むざむざ拓かるゝのは、儂にとっては肉をがるゝおもいだが、生活がさすわざだ、詮方せんかたは無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その柱の一本につかまって青白いいきものが水を掻いている。薫だ。薫は小初よりずっと体は大きい。あごほおすずしくげ、整った美しい顔立ちである。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「まあ、この人でなしは、どこからそんな鼻なんかぎ取って来たのさ?」こう、細君はむきになって呶鳴どなりたてた。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
ひげになる生毛うぶげの最初の兆しもなく、ろうのように青白くなめらかなげたほおに、唇だけが染めたように赤く分厚いのだ。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
だまつてては際限さいげんもなくつのつてれはれはくせつて仕舞しまひます、だい一は婢女をんなどもの手前てまへ奧樣おくさま威光ゐくわうげて、すゑには御前おまへことものもなく
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
硝子のいだようなふちに、白い毛のようなものが二三本引懸ひっかかっているではありませんか。ぼんやりして居れば見遁みのがしてしまうほどの細いものです。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どこもここもいだような鋭い顔で、横から覗くと鼻が嘴のように尖って見える。結ぶと隠れてしまうような薄い唇をへの字にまげてムッと坐っている。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そしてその一言を聞いた同じ耳が、首手かせのなかで群集の笑い物にさらされながら、ぎ落とされるのであった。
眼も、しょんぼりとして頬の肉もげてしまった。ただ、怪しな鳥の雄がちょうどこんな険しい眼付をしていた。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わしの首は、皮をぎ肉をいで髑髏どくろとし、うるしを塗ってさかずきとし、宝蔵の奥に隠してある。木曽家の奥の宝蔵にな。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十年前嫁入道具の一つとして郷里の土蔵に持込まれたまま、一度も使用されず、その箪笥がひと手に渡るのは彼にとっても身をがれるような気持だった。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
二人の目がそそがれるあたりに立った人影は、年のころ、五十あまり、鬢髪びんぱつはそそげ、肩先はげおとろえ、指先がかぎのように曲った、亡霊にも似た男——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その一羽ずつの美しい観賞をいだばかりではなく、人間的な、どこかで出会ったある夜の群衆を思わせた。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
温厚なる君はこの言葉の残酷ざんこくとがめるのに違いない。が、鼻をぎ落すのはチベットの私刑の一つである。
第四の夫から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かわるがわる落したりいだり抉ったりし合ったのち、翌朝人々が二人を発見した時には、甚吾は十郎兵衛の着物のきれで繃帯してもらって、吃ったまんまの顔
寛永相合傘 (新字新仮名) / 林不忘(著)
餘り力強く押し附けたと見え、渠のをととひつた濃い頬ひげの生えかけがかの女の肌をきつく刺した。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
が、この勢力は他の文人が各々孤立していたと反して団体的に築き上げたのだから、これと拮抗きっこうする他の団体が生ずれば自然に気勢をがれるのは当然であった。
虎の前肢の一撃でその男の頭から顎へかけて顔の半分がえぐったようにぎとられて了ったそうである。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
青白いおとがいの角ばりや、メリンスの羽織を着ている肩のげたあたりに、どっかただごとでなかったような、暗いとげとげしさが残っているのをすぐ感じながら……。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
米国の応募兵のなかに、脳の後頭部がいで取つたやうにへこんだ頭をした兵卒の一人があつた。
只、髪だけは、幼少の折からの辛苦がそこにまざまざと見られでもするかのように、大ぶ抜け落ちて、先きの方ががれたようになってい、身丈には四寸ばかりも足りなかった。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いで章魚と一所に湯煮ゆでると章魚がやわらかになりますとさ。おはしで楽にちぎれるそうです
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
北アルプスの大天井おてんしょう岳にどこか似ていると思いながら、あえぎ喘ぎ登る、霧は大風に連れ、肉をぐばかりの冷たさで、ヒューッと音をさせて、耳朶を掠めた、田村氏の帽子は
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
の松村の村はずれ、九本松くほんまつという俚称りしょうは辛く残りながら、樹々は老いからせかじけてまさよわい尽きんとし、或は半ばげ、或は倒れかかりて、人の愛護の手に遠ざかれるものの
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
コツン、コツン、コツン——あまりあわてて頭を床板に打ちあてるのだ。うす暗くなるとウサギどもはわたしが投げだしておいたジャガイモのぎくずを噛りに戸口にやってきた。
キーツと止ると、パタンと扉を押す音、自動車の客席は、白い強い明りに、パツと切ツいだやうに一部面を見せる。大概、夜更けての客は、若く、逞しく、そして白い顏がかたはらにある。
夏の夜 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
それは「まるで父にして父でなき、ものだつた。眼のまはり・こめかみ・頬・口辺、げそつと隈どりげて、その眼。義眼もまだいい、魚族の眼もまだましだ。しかし父の眼だつた。いや誰かの眼だつた」
露伴先生と神仙道 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
かへつて鼻をがれて帰つてきた
かなしみぎしやつれがほ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ただ帰しても、どんな法螺ほらを吹くかしれず、また人民の中で威張りさらすかも知れねえから、匕首あいくちで奴の両耳をぎ落してくれましたよ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
富太郎はスヤスヤと眠っておりますが、いかにも弱そうな少し発育の遅い子らしく、熱っぽい唇も、げた頬も、なんとなく頼り少なく見えます。
銀子が見たこともない茨蟹いばらがにの脚の切ったのや、甲羅こうらの中味のいだのに、葡萄酒ぶどうしゅなども出て、食べ方を教わったりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
焼け跡にもだいぶ新しい家が建ったようではあるが、住む人の顔が往時と変っているのを見るのは、懐かしさをがれるようで、いやなものである。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
ポプラの大木は鞭のようにしない曲りながら、撓い返すと見る間に、片側の葉は残らずぎ飛び、現れた枝は半身むしり取ったこのしろの骨のように見えます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
白襦袢、白の半股引、紺の腹掛、手拭を腰にさげた跣足はだしの若い衆は、忙しそうに高張の白提灯しらちょうちんの仕度をしたり、青竹のもとをなたいだりして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その目的めあてがるゝことなく、かつしば/\汝等の苦患なやみを増せる天意に對ひ足を擧ぐるは何故ぞ 九四—九六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ぎ立てたようなトゲトゲした顔を狷介けんかいにふり立て、けわしく眼を光らせながら、そっぽをむいている。
皮膚をなめす音、肉をぐ音、骨を削る音が聞こえて来た。金属製の器類の、触れ合う音が聞こえて来た。歩き廻わるらしい足の音、荒い呼吸の音も聞こえて来た。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
物が出来るの出来ぬのと宜くそんな口がけた物、黙つてゐては際限もなく募つてそれはそれは癖に成つてしまひます、第一は婢女をんなどもの手前奥様の威光がげて
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「本統に悪いんだよ、」と紅葉はニッと笑いながら、血のせたぎ落したようなほおてのひら扱下こきおろしつつ、「寿命はきまったんだが、元気はマダこの通りだ。」
松平越中守は青竹をいだような顔に鋭い微笑を浮かべて、久世大和守は例によって太い眉毛をぴくぴくさせて、でっぷり肥った牧野備中守は上眼使いに顎を引いて
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)