)” の例文
たちまち、縣下けんか豐岡川とよをかがは治水工事ちすゐこうじ第一期だいいつき六百萬圓ろつぴやくまんゑんなり、とむねらしたから、ひとすくみにつて、内々ない/\期待きたいした狐狸きつねたぬきどころの沙汰さたでない。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
与次郎の説によると、あの女はの気味だから、ああしじゅう歯が出るんだそうだが、三四郎にはけっしてそうは思えない。……
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今ごろ髪を七三などに結って、下卑げび笑談口じょうだんぐちなどきいてっくりかえっているそこらのお神なぞも、鼻持ちのならないものであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
助九郎の刀がれ、武蔵の手が刀にかかろうとした瞬間にである。——そして双方で、じっと、闇の下へ沈みこむようにすくんでいる。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は一種の痙攣けいれんにとらえられ、息をするためのように椅子の背に身をらせ、両腕をたれ、涙にぬれた顔をマリユスの前にさらした。
紋綸子もんりんずの大座布団を敷き、銀糸の五つ紋の羽織りに上田織りの裏付けの袴をはいた殿さまが、天目茶碗と高坏たかつきを据え、り身になって
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と、その拍子に女はコートの右のそでに男の手がさわったように思った。で、鬼魅きみ悪そうに体を左にらしながら足早に歩いて往った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
狂った頭を高々とらしながら事務室を出て行ったが、右へ折れると今度はほとん駈足かけあしで、精神病患者の病棟の入口までやって来た。
奇人にはちがいありませんが、洒脱しゃだつ飄逸ひょういつなところのない今様いまよう仙人ゆえ、讃美するまとはずれて、妙にぐれてしまったのだと思います。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこには着飾った森おじ——ではない森虎造が落ちつかぬ顔をしながら、強いてになって威厳を保とうとしているのだった。
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
本堂と庫裡とをつなぐ板敷の間で、ずば抜けて背のひよろ長い、顔も劣らずに馬面うまづらの、真白なのすぐ目につく男が突立つてゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
そのうちに屋根のックリけえった、破風造はふづくりのお化けみてえな台湾館が赤や青で塗り上って、聖路易セントルイスの博覧会がオッぱじまる事になりますと
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「しかし加納の家も変つたなあ!」……わるかつたかなと思ひながら、野田は椅子いすの背をぐつとらせて、感歎するやうに云つた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
スタールツェフはますますふとってあぶらぎって来たので、ふうふう息をつきながら、今では頭をぐいとうしろへらして歩いている。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いい気もちそうにっくり返って、「コレコレ、お前は何者か。不届きなやつめ! 早々退散いたしたほうが身のためであろうぞ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「片刃でっくり返ったのは刀で、両刃で真っ直ぐなのはツルギさ。絵に描いた不動様が持ってなさるじゃありませんか、親分」
昼見るといつも天主閣は、蓊鬱おううつとした松の間に三層さんぞう白壁しらかべを畳みながら、そのり返った家根の空へ無数のからすをばらいている。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「なに、ロックフェラアか、いや、ロックフェラアも近頃の不景気では思ふ様に慈善も出来ない」と、剛造はり返つて呵々かゝと大笑せり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
投げだした左の足の長い親指のったまで、しどけない御姿は花やかな洋燈ランプの夜の光に映りまして、昼よりはかえって御美しく思われました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
著者ポール氏自らかの孤児院に往きてその一人を延見ひきみしに普通の白痴児の容体で額低く歯やや動作軽噪時々歯を鳴らし下顎ひきつる
やや寒うなりかけた小亭ちんの、りかへつた小屋根のはしで、いくら振つても振つても、黄色い尻尾は、いよいよ切ない刻みを早めるばかしだ。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
二タうね撒いて、腰を延ばした善ニョムさんは、首をグッとらして、青い天を仰いでからユックリもとの位置へ首を直した。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
音楽長は背の曲がった大きな老人で、白髯はくぜん尻尾しっぽのようにあごにたれ、り返った長い鼻をし、眼鏡をかけて、言語学者のような風采ふうさいだった。
彼は昂然かうぜんとゆるやかに胸をらし、踏張つて力む私の襟頸えりくびと袖とを持ち、足で時折りすくつて見たりしながら、実に悠揚いうやう迫らざるものがある。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
あるひはり返るほどうしろに振向きたる若衆の顔を描き、半分しか見えざるあだ身体付からだつきによりてたくみに余情を紙外にあふれしめたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
群集をもう一度見てつかわしもされずに、侯爵閣下は座席にり返って、あやまって何かのつまらぬ品物を壊したが、それの賠償はしてしまったし
何度も読んで暗記する程知っている映像を、𥇥の裏に浮かべて、細君は暫らく眼を瞑っていたが、忽ち、ぎょっとしてると、椅子が鳴った。
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
田原は仰山に後へ身をらした。羞しさをまぎらす爲めには、どうしても冗談口をきかなくてはゐたゝまれないのであつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
恐らく其の当時、半七老人は幡随院長兵衛の二代目にでもなったような涼しい顔をして、いい心持そうにり返ったのであろうと察せられた。
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
覚悟むればなかなかに、ちっとも騒がぬ狐が本性。天晴あっぱれなりとたたへつつ、黄金丸は牙をらし、やがて咽喉をぞ噬み切りける。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
かれはしらが頭を後ろにらせて、まっすぐに立っていた。かれははじて苦んでいるように見えた。裁判官さいばんかん尋問じんもんを始めた。
だが、駒井はこの際、別に新しい研究にとりかかる様子もなく、椅子にり返って、腕を組み、キャンドルをながめてボンヤリと考えている。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
島抜けの法印は、その方へ、赤濁った目を吸われたのを、さすがにらして、白丁と一緒に持って来た、茶碗を突きつけた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
頭にはだいぶ白いものが混つてきたし、昔はピンとしてゐた脊骨も今はおばあさんのとは反對に、土の方向へつてきた。
おばあさん (旧字旧仮名) / ささきふさ(著)
ぐっと酒をみこみ、胸をらせ、息を吸いこんで眼を白黒させると、わ、わ、わしは、く、く、く、く、組合は、は、は、反対だ、と云った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
松脂まつやにのような手や首の皮膚はだの色、磁器のような白い眼球がんきゅう、上端が鼻の先へ喰着くっつきそうにって居る厚い唇、其処そこから洩れて来る不思議な日本語
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「古くなつて木が乾くに従ひつて来る」とあれども反椀は初より形の反つた椀にて、古くなつて反つた訳にはあらざるべし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そして両かかとをつけ胸をややらし何か言おうとしたが、その前に隊長は眼をしばたたきながら重々しく、むしろいたわるような口調で彼に言った。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
兜はなくて乱髪がわらくくられ、大刀疵たちきずがいくらもある臘色ろいろ業物わざものが腰へり返ッている。手甲てこうは見馴れぬ手甲だが、実は濃菊じょうぎくが剥がれているのだ。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
ルイザは緞帳のすそを踏みながら、恐怖の眉をしかめてり返った。今はナポレオンは妻の表情から敵を感じた。彼は彼女の手首をとって引き寄せた。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
範覚はいかにも得意そうにこう云うと、ご自慢の筋金入りの杖——金剛杖をつきらし、自分でも胸を反らして見せた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
心持り出た粗い二本の前歯があらはになつて居たのが物凄く見えた。鏡に映つた自分のやつれた顔を眺めて、お桐はこれが自分の顔かと怪む程であつた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「そんなことがあるもんか」と、輕くらせようとした加集の顏には、どこかぼんやりしたやうな、とぼけたところが見えたと、義雄には思はれた。
そうして特に近代の屋根が美しさを失った原因の一つは棟の両端にりがなく、上が直線になってしまったことです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
船でもが浸水し始めたららちはあかんからな。……したが、おれはまだもう一反ひとそってみてくれる。死んだ気になって、やれん事は一つもないからな
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「面へ行くぞ!」と絶叫した、まるで壁にでもつき当ったように、そのひと声で佐野は身をらしながら踏み止まった、竹との距離は九尺ほどあった。
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と敏子も得意になってり返った。なんにもしないものに食ってかかって来るところは成人せいじんした新女性によく似ている。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それはいかにも適切てきせつなことばであったが、コトエはそれでなぐさめられ、気持が明かるくなったらしい。少しの大きな前歯をよけいむきだして
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
やがて静かに上体が婉曲して、倒れそうな形になる。胸はり、頸は斜めうしろへ曲げられて、片頬が上面になる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それでも私は貴方に背きはしなかつたではありませんか。それから私の窮乏困蹶こんけつが始まり、多数の同志は悉く脣をらし、完膚なきまでに中傷しました。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)