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初
>
そ
ふりがな文庫
“
初
(
そ
)” の例文
またあたりは妙に
森閑
(
しいん
)
と静まり返って再び山の墓場は木の葉の落ちる音一つ聞えるくらいの侘しい澄んだ
黄昏
(
たそがれ
)
の色に包まれ
初
(
そ
)
めたが
逗子物語
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
低い人家の軒にはもう灯がつき
初
(
そ
)
めて、曇つたまゝに暮れて行く冬の空は、西の
端
(
はづ
)
ればかりが黒い瓦屋根の上に色もなく光つて居る。
新帰朝者日記
(旧字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
春に誇るものはことごとく
亡
(
ほろ
)
ぶ。
我
(
が
)
の女は虚栄の毒を仰いで
斃
(
たお
)
れた。花に相手を失った風は、いたずらに
亡
(
な
)
き人の部屋に
薫
(
かお
)
り
初
(
そ
)
める。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
堂とは一町ばかり
間
(
あわい
)
をおいた、この樹の
許
(
もと
)
から、桜草、
菫
(
すみれ
)
、山吹、植木屋の
路
(
みち
)
を開き
初
(
そ
)
めて、
長閑
(
のどか
)
に春めく蝶々
簪
(
かんざし
)
、娘たちの
宵出
(
よいで
)
の姿。
菎蒻本
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
伊織は京都でその年の夏を無事に勤めたが、秋風の立ち
初
(
そ
)
める頃、或る日寺町通の刀剣商の店で、質流れだと云う好い古刀を見出した。
じいさんばあさん
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
▼ もっと見る
「螢狩だ。朝顔日記宿屋の段、以来僕は『
一年
(
ひととせ
)
宇治の螢狩に、焦がれ
初
(
そ
)
めたる恋人と』というところを聴くと、涙
滂沱
(
ぼうだ
)
たるものがある」
妻の秘密筥
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
「少年世界」は恰も我が小學へ通ひ
初
(
そ
)
めし頃世に出でたれば、我が頭にいちはやく彫られしは小波山人の懷しき名にほかならず。
貝殻追放:008 「その春の頃」の序
(旧字旧仮名)
/
水上滝太郎
(著)
そうしてその跡を附けて往った車の若い女のことを、その姿を見もしないのに、何んとなく懐しく
思
(
おも
)
い
初
(
そ
)
めているように見えた。
ほととぎす
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
山路は岩も隠れるまで、桂はもとより、もみじも待たで散り
初
(
そ
)
める、種々のかえでや朴、橡、楢などのひろ葉で埋められてゆく。
ある偃松の独白
(新字新仮名)
/
中村清太郎
(著)
火箭が飛ぶ、火が油に移る、嗚呼そのハツ/\と燃え
初
(
そ
)
むる人生の
烽火
(
のろし
)
の煙の香ひ! 英語が話せれば世界中何処へでも行くに不便はない。
雲は天才である
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
卓上のクロッカスの鉢植えの花は、睡むそうに首を垂れ
初
(
そ
)
めた。本棚の上に置かれてあるバスコダガマの
青銅像
(
ブロンズ
)
の額の辺へも陰影がついた。
沙漠の古都
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
都の花はまだ少し早けれど、逗子あたりは若葉の山に
山桜
(
さくら
)
咲き
初
(
そ
)
めて、山また山にさりもあえぬ白雲をかけし四月初めの土曜。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
少焉
(
しばし
)
泣きたりし女の声は
漸
(
やうや
)
く鎮りて、又
湿
(
しめ
)
り
勝
(
がち
)
にも語り
初
(
そ
)
めしが、一たび
情
(
じよう
)
の為に激せし声音は、
自
(
おのづ
)
から始よりは高く響けり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
遙
(
はる
)
か向ふに薄墨色をしてゐる
山
(
やま
)
の
端
(
は
)
から、
夕靄
(
ゆふもや
)
が立ち
初
(
そ
)
めて、近くの森や野までが、追々薄絹に包まれて行くやうになつた。
東光院
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
そして、鶴見へ入る手前で、ようよう雲に鈍い薄あかりがさし
初
(
そ
)
めて、雨が上るらしく、降りも少くなって来たし、雲の脚が早く走り出した。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
車道と人道の
境界
(
さかい
)
に垂れたる幾株の柳は、今や夢より醒めたらんように、吹くともなき風にゆらぎ
初
(
そ
)
めて、凉しき暁の露をほろほろと、
飜
(
こぼ
)
せば
銀座の朝
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
帰りには
極楽寺
(
ごくらくじ
)
坂の下で二人とも車を捨てて海岸に出た。もう日は
稲村
(
いなむら
)
が
崎
(
さき
)
のほうに傾いて砂浜はやや暮れ
初
(
そ
)
めていた。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
十八になつたばかりの、咲き
初
(
そ
)
めた櫻のやうに美しいお仙は、町内の花見の連中に加はつて、
飛島山
(
あすかやま
)
へ行つたのです。
銭形平次捕物控:331 花嫁の幻想
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
その年の鎌倉は、
石曳
(
いしび
)
き
謡
(
うた
)
や
手斧
(
ちょうな
)
の音に暮れ、初春も手斧のひびきや
石工
(
いしく
)
の謡から明け
初
(
そ
)
めた。——鎌倉へ、鎌倉へ。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
瑠璃
(
るり
)
色の松虫草と、大原の水分を一杯に吸い込んで、ふくらんだような
桔梗
(
ききょう
)
のつぼみからは、秋が立ち
初
(
そ
)
めている。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
夏の
夜
(
よ
)
は短い。老拱等が面白そうに歌を唱い終ると、まもなく東が白み
初
(
そ
)
め、そうしてまたしばらくたつと白かね色の曙の光が窓の隙間から射し込んだ。
明日
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
彼は明け
初
(
そ
)
めた緑色の戸外へ、何事でも困るとその場を捨てる彼の持病を出して、さっさとひとりで出ていった。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
こちらから押しかけあそばしますてんだ——
一年
(
ひととせ
)
、宇治の蛍狩り——こがれ
初
(
そ
)
めたる恋人と語ろう間さえ夏の夜の——とおいでなさる……チチンツンツン
大菩薩峠:33 不破の関の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
星の光も見えない何となく憂鬱な
夕
(
ゆうべ
)
だ、
四隣
(
あたり
)
に
燈
(
ともし
)
がポツリポツリと見え
初
(
そ
)
めて、人の顔などが、
最早
(
もう
)
明白
(
はっきり
)
とは
解
(
わか
)
らず、物の色が
凡
(
すべ
)
て
黄
(
きい
)
ろくなる頃であった。
白い蝶
(新字新仮名)
/
岡田三郎助
(著)
ようよう
世心
(
よごころ
)
の付き
初
(
そ
)
めて、男装せし事の恥かしく髪を延ばすに意を用いたるは翌年十七の春なりけり。この時よりぞ始めて
束髪
(
そくはつ
)
の仲間入りはしたりける。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
むせび
泣
(
な
)
きの
聲
(
こゑ
)
きこえ
初
(
そ
)
めて
斷續
(
だんぞく
)
の
言葉
(
ことば
)
その
事
(
こと
)
とも
聞
(
きゝ
)
わき
難
(
がた
)
く、
半
(
なかば
)
かかげし
軒
(
のき
)
ばの
簾
(
すだれ
)
、
風
(
かぜ
)
に
音
(
おと
)
する
夕
(
ゆふ
)
ぐれ
淋
(
さび
)
し。
うつせみ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
文麻呂 (しばらくは
呆
(
あき
)
れたような顔をしていたが)そうか、……まあ、いいさ。……つまり、まだほんの「恋知り
初
(
そ
)
めぬ」と云ったばかりの所なんだな。
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
汽車は、美奈子の心の、恋を知り
初
(
そ
)
めた処女の苦しみと悩みとを運びながら、グン/\東京を離れて行った。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
日本一の美男と美女じゃもの。これが
一所
(
いっしょ
)
にならぬ話の筋は世間にあるまい……といったような
自惚
(
うぬぼ
)
れから、柄にない無理算段をして通い
初
(
そ
)
めたのが運の尽き。
名娼満月
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
抱
(
かか
)
えて物干台に出るそうして冷たい夜気に
触
(
ふ
)
れつつ独習を続け東が
仄
(
ほの
)
かに白み
初
(
そ
)
める刻限に至って再び寝床に帰るのである春琴の母が聞いたのはそれであった。
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
「磐が根の
凝
(
こご
)
しき山に入り
初
(
そ
)
めて山なつかしみ出でがてぬかも」という歌があり、これは寄
レ
山歌だからこういう表現になるのだが、
寧
(
むし
)
ろ民謡風に
楽
(
らく
)
なもので
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
祈願の終つて後にこそと心を控へて伺ふに、彼方は珠数を取り出して、さや/\とばかり擦り
初
(
そ
)
めたり。
二日物語
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
自
(
みづか
)
ら
穿
(
うが
)
ちて
入
(
い
)
りし白き
墓穴
(
はかあな
)
より
文
(
ふみ
)
まゐらせ
候
(
さふらふ
)
。
御
(
おん
)
別れ致して
自
(
みづか
)
らを忘れ
居
(
を
)
りし
間
(
ま
)
に船は動き
初
(
そ
)
めしに
候
(
さふらふ
)
。
斯
(
か
)
く
私
(
わたくし
)
の気附き
候
(
さふら
)
ひしもまこと一二時間の
後
(
のち
)
に
候
(
さふら
)
ひけん。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
二月の末には梅が咲き
初
(
そ
)
めた。障子をあけると、
竹藪
(
たけやぶ
)
の中に花が見えて、風につれていい匂いがする。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
余は大恩ある叔父の言葉に背く訳にも行かず又今まで外に見
初
(
そ
)
めた女も無かったから其の約束に従い、何時でも余の定める日を以て婚礼すると云う事に成って居るが
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
十
(
とお
)
を出たばかりの幼さで、母は死に、父は
疾
(
や
)
んで居る太宰府へ
降
(
くだ
)
って、
夙
(
はや
)
くから、海の
彼方
(
あなた
)
の作り物語りや、
唐詩
(
もろこしうた
)
のおかしさを知り
初
(
そ
)
めたのが、病みつきになったのだ。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
桃や桜がそろ/\咲き
初
(
そ
)
めましたが、小左衞門はとんと外出を致しませんで、奥にばかり引籠り、うつ/\致して居りまするので、家来の丈助も心配でございますから
粟田口霑笛竹(澤紫ゆかりの咲分):02 粟田口霑笛竹(澤紫ゆかりの咲分)
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
不信の波の何時しかに、心の
淵
(
ふち
)
に立ち
初
(
そ
)
めて、底の
濁
(
にごり
)
を揚げつらん、今日まで知らで我れ過ぎぬ
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
まだ
裾
(
すそ
)
の短かい服を着て、
綻
(
ほころ
)
び
初
(
そ
)
めぬ
蕾
(
つぼみ
)
の花といった
風情
(
ふぜい
)
でね、赤くなって、朝焼けのようにぱっと燃え立つんですよ(もちろん、もうちゃんと言い聞かせてあるんで)
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
夏は人々暑さを避けんとて
餘所
(
よそ
)
に
遷
(
うつ
)
り給へば、われ獨り留まりて大廈の中にあり。涼しき風吹き
初
(
そ
)
むれば人々歸り給ふ。かく我は漸く又此境遇に安んずることゝなりぬ。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
誓って馴れ
初
(
そ
)
めました仲ではござりますなれど、わたくしは家つきのひとり娘、御領主様の御恩も忘れてはなりませぬ。親共が築きましたる宿の差配もせねばなりませぬ。
旗本退屈男:07 第七話 仙台に現れた退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
そこで中宮は、あからさまに言葉に出して言われる。中宮、「無下に思ひ
屈
(
くん
)
じにけり。いとわろし。言ひ
初
(
そ
)
めつることは、さてこそあらめ」。彼女、「人に随ひてこそ」。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
そもそも女に
逢
(
あ
)
い
初
(
そ
)
めた時分、それからつい去年の五月のころ、女の家に
逗留
(
とうりゅう
)
していた時分に見て思っていた母親とは、まるで打って変った悪婆らしい本性を露出して来た。
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
あの、早春の
鉛色
(
なまりいろ
)
の空を背景にして、
節
(
ふし
)
くれだった、そしてひねくれ曲がった枝に、一輪二輪と
綻
(
ほころ
)
び
初
(
そ
)
めるところは、
清新
(
フレッシュ
)
な、本当になんとも言われない妙味のあるものです。
季節の植物帳
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
今
一言
(
ひとこと
)
……今一言の言葉の関を、
踰
(
こ
)
えれば先は
妹背山
(
いもせやま
)
、
蘆垣
(
あしがき
)
の間近き人を恋い
初
(
そ
)
めてより、昼は
終日
(
ひねもす
)
夜は
終夜
(
よもすがら
)
、唯その人の
面影
(
おもかげ
)
而已
(
のみ
)
常に
眼前
(
めさき
)
にちらついて、
砧
(
きぬた
)
に映る軒の月の
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
これからウィイゼル迄は可成りの航程だし、其処は、折柄灯のつき
初
(
そ
)
めた河岸の町を望見して絵のような景色なので、一つにはそれが、エドワルド氏の愛妻の気に入ったのだろう。
海妖
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
やゝ曇り
初
(
そ
)
めし空に
篁
(
たかむら
)
の色いよ/\深くして清く静かなる里のさまいとなつかしく
東上記
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
されど五重の塔の屋根には
日向
(
ひなた
)
と
日陰
(
ひかげ
)
といろいろにある故に、
先
(
ま
)
づ
一処
(
ひとところ
)
より解け
初
(
そ
)
むると思へば次第々々に
此処彼処
(
ここかしこ
)
と解けて、果てはどこもかも雫が落つるやうになりたりといふ意なり。
俳諧大要
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
そして又、「オセイ」という不可思議なる三字に、彼は果して如何なる女性を想像したであろう。ともすれば、それは世の醜さを知り
初
(
そ
)
めぬ、
無垢
(
むく
)
の
乙女
(
おとめ
)
の姿であったかも知れないのだが。
お勢登場
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
カルデヤの牧人が見出した夕べの星が輝き
初
(
そ
)
むる時刻となると一勢に地にひれ伏して、彼女とミユーズの対面の光景、彼女に依つて告げられるところの己れの姿を想像して、戦き、怖れ、感謝して
歌へる日まで
(新字旧仮名)
/
牧野信一
(著)
“初”の意味
《名詞》
初(はつ)
はじめ。はじまって間もない時期。
第一回。
ある期間のなかで最も先。
対義語:末
(出典:Wiktionary)
初
常用漢字
小4
部首:⼑
7画
“初”を含む語句
最初
初々
初更
劫初
当初
初声
初子
初見参
初詣
出初
初心
初春
見初
太初
初日
初瀬詣
初生
初手
初夏
初陣
...