かぜ)” の例文
高窓たかまど障子しょうじやぶあなに、かぜがあたると、ブー、ブーといって、りました。もうふゆちかづいていたので、いつもそらくらかったのです。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
こまかきあめははら/\とおとして草村くさむらがくれなくこほろぎのふしをもみださず、かぜひとしきりさつふりくるはにばかりかゝるかといたまし。
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
姿すがた婀娜あだでもおめかけではないから、團扇うちは小間使こまづかひ指圖さしづするやうな行儀ぎやうぎでない。「すこかぜぎること」と、自分じぶんでらふそくにれる。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
天空そらには星影ほしかげてん、二てんた三てんかぜしてなみくろく、ふね秒一秒べういちべうと、阿鼻叫喚あびけうくわんひゞきせて、印度洋インドやう海底かいていしづんでくのである。
宗助そうすけ御米およね言葉ことばいて、はじめて一窓庵いつさうあん空氣くうきかぜはらつたやう心持こゝろもちがした。ひとたびやまうちかへれば矢張やはもと宗助そうすけであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それすこぎて、ポカ/\するかぜが、髯面ひげつらころとなると、もうおもく、あたまがボーツとして、ひた気焔きえんあがらなくなつてしまふ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そしてわか牝狐めぎつねが一ぴき、中からかぜのようにんでました。「おや。」というもなく、きつね保名やすなまくの中にんでました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それでの一ちやうはう晝間ひるまめたといふほど、ひどい臭氣しうきが、ころくさつた人間にんげんこゝろのやうに、かぜかれてつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その当時、あれ模様の空からは、急にはげしい風が吹きはじめたが、それはエフ氏がかぜかみに早がわりをしたかのように思われた。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そよとだに風なき夏の曉に、遠く望めば只〻朝紅あさやけとも見ゆべかんめり。かぜしづかなるに、六波羅わたり斯かる大火を見るこそいぶかしけれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
榎本えのもとはどうしているのでしょうか。江戸えどにきているといううわさはかぜのたよりにきいたのですが、それもたしかめることができません。
「こんなに年老としよるまで、自分じぶんこづゑで、どんなにお前のためにあめかぜをふせぎ、それとたゝかつたかれない。そしておまへ成長せいちやうしたんだ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
かぜでもいてくりえだれるやうなあさとうさんがおうちから馳出かけだしてつてますと『たれないうちにはやくおひろひ。』とくりつて
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あづかなほ追々おひ/\に門弟ふえければ殊の外に繁昌はんじやうなし居たるに此程半四郎の實父半左衞門は不計ふとかぜ心地こゝちにてわづらひ付しかば種々醫療いれうに手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
新秋しんしうもちいゝかぜすだれとほしてく、それが呼吸氣管こきうきくわんまれて、酸素さんそになり、動脈どうみやく調子てうしよくつ………そのあぢはへない。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
きたにはゴビの大沙漠だいさばくがあつて、これにもなに怪物くわいぶつるだらうとかんがへた。彼等かれらはゴビの沙漠さばくからかぜ惡魔あくま吐息といきだとかんがへたのであらう。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
ひとりいてふにかぎらず、しひのきやかしのきなどいへのまはりや公園こうえん垣根沿かきねぞひにゑてあるは、平常へいじよう木蔭こかげかぜよけになるばかりでなく
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
四月頃しがつごろには、野茨のばらはなくものです。このにほひがまた非常ひじようによろしい。かぜなどにつれてにほつてると、なんだか新鮮しんせんのするものです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
そのがたそらした、ひるのとりでもゆかないたかいところをするどいしものかけらがかぜながされてサラサラサラサラみなみのほうへとんでゆきました。
いちょうの実 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
其翌五日そのよくいつか奮然ふんぜんとしてたゞ一人ひとりつた。さむいかぜき、そらくもつた、いやであつたが、一人ひとりで一生懸命しやうけんめいつたけれど、なにぬ。
やま全体ぜんたいうごいたやうだつた。きふ四辺あたり薄暗うすくらくなり、けるやうなつめたかぜうなりがおこつてきたので、おどろいたラランは宙返ちうがへりしてしまつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
せっかく智恵を絞った糠の栞も、夜道ではあまり役に立たず、そのうちにからかぜが吹いて、明日をも待たずに吹き飛ばされてしまったのです。
なん審問しんもん?』あいちやんはあへぎ/\けました、グリフォンはたゞ『それッ!』とさけんだのみで、益々ます/\はやはしりました、かぜうたふし、——
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
梅喜ばいきさん/\、こんなところちやアいけないよ、かぜえ引くよ……。梅「はい/\……(こす此方こつちを見る)×「おや……おまいいたぜ。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
男らしい洒落しやらくな性格の細君のの一面にはおそろしく優しい所があつて、越して来て五目にかぜを引いて僕が寝て居ると
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
じいさんはとれば何所どこかぜくとった面持おももちで、ただ黙々もくもくとして、あちらをいて景色けしきなどをながめていられました。
日々曇り日々晴れ、朝夕不測ふそくの風雲をくりかえしているではありませんか。しかもかぜるるといえ、天体そのものが病みわずらっているわけではない。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明和めいわ戌年いぬどしあきがつ、そよきわたるゆうべのかぜに、しずかにれる尾花おばな波路なみじむすめから、団扇うちわにわにひらりとちた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
長吉ちやうきちはこの夕陽ゆふひの光をばなんふ事なく悲しく感じながら、折々をり/\吹込ふきこむ外のかぜが大きな波をうたせる引幕ひきまくの上をながめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
何分なにぶん支那しなひろくにでありますし、またその東部とうぶ大河たいがながしたどろだとか、かぜおくつてきたちひさいすなだとかゞつもつて、非常ひじようにそれがふかいために
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
晝のうちはあんなにほか/\とあたゝかくしてゐながら、なんとなくたもとをふくかぜがうそさむく、去年きよねんのシヨールのしま場所ばしよなぞをかんがへさせられたりしました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
わたしは昨日きのふひるすこぎ、あの夫婦ふうふ出會であひました。そのときかぜいた拍子ひやうしに、牟子むし垂絹たれぎぬあがつたものですから、ちらりとをんなかほえたのです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
元來がんらいなみといふから讀者どくしやすぐかぜおこされるなみ想像そう/″\せられるかもれないが、むしうしほ差引さしひきといふほう實際じつさいちかい。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それとほとんど時刻を同じゅうして、河竹黙阿弥かわたけもくあみが本所南二葉町の自宅で、七十八歳の生涯を終った。その日は日曜日で、からかぜの吹く寒い日であった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このあわて急ぐことをどんなかぜが例の白髪雑しらがまじりの道路工夫に伝えたのであろう? 彼は既に、村の向うの丘の頂で
第十 常居ゐま濕氣しめりけすくな日當ひあたりよくしてかぜとほやうこゝろもちし。一ヶねん一兩度いちりやうどかなら天井てんじやうまたえんしたちりはらひ、寢所ねどころたかかわきたるはうえらぶべきこと
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
ふとしたかぜが元で、急性肺炎を起し、手をつくした看病も甲斐かいなく、淡雪あわゆきの消える様に果敢はかなくなってしまった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うさぎのみみは、あたまのところで、ビュウビュウ かぜになびきました。けれども、はりねずみのおかみさんのほうは、そのまま、そこに じっとしていました。
そういっても濃く真っ青に晴れぬいた空の下をからかぜが吹きまくるか、どッちにしても、乾いた、凍てたみちの上の往来いきかいの音が浮足立ってひびくのである。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ぢゃによって、こひかみ御輦みくるま翼輕はねがるはとき、かぜのやうにはやいキューピッドにもふたつのはねがある。あれ、もう太陽たいやうは、今日けふ旅路たびぢたうげまでもとゞいてゐる。
(七〇)同明どうめい相照あひてらし、(七一)同類どうるゐ相求あひもとむ。くもりようしたがひ、かぜとらしたがふ。(七二)聖人せいじんおこつて萬物ばんぶつる。
それからその明くる年、大正七年になって、正月にかぜを引いて五、六日寝ていらしったことがあるでしょう
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
趣味しゆみ一致いつちしなければ理想も違ふし、第一人生觀が違ふ………、おツと、またお前のいやむづかしい話になツて來た。此樣こんなことは、あたらくちかぜといふやつなのさ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
この間長きときは三十分もあらん。あたりの茶店より茶菓子ちゃがしなどもてれど、飲食のみくわむとする人なし。下りになりてよりきりふかく、背後うしろより吹くかぜさむく、忽夏を忘れぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
天台山にも異ならず。但し有待うたい依身いしんなれば、ざればかぜにしみ、くはざればいのちちがたし。ともしびに油をつがず、火に薪を加へざるが如し。命いかでかつぐべきやらん。
やはらかなかぜすゞしくいてまつ花粉くわふんほこりのやうにしめつたつちおほうて、小麥こむぎにもびつしりとかびのやうなはないた。百姓ひやくしやうみな自分じぶん手足てあし不足ふそくかんずるほどいそがしくなる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
月より流るゝかぜこずえをわたるごとに、一庭の月光げつくわう樹影じゆえい相抱あひいだいておどり、はくらぎこくさゞめきて、其中そのなかするのは、無熱池むねつちあそぶのうをにあらざるかをうたがふ。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
牧場まきばの中には、美しい調子ちょうしふえのようながまのなく声が聞えていた。蟋蟀こおろぎするどふるえ声は、星のきらめきにこたえてるかのようだった。かぜしずかにはんえだをそよがしていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
怪物かいぶつが、はじめて田舎いなかのその村にやってきたのは、たしか二月もおわりに近い、あるさむい朝のことだった。をきるようなかぜがふいて、朝から粉雪こなゆきがちらちらっていた。
しかしつぎかた、おれはかへりゆく労働者らうどうしやのすべてのこぶしのうちにぎめられたビラのはし電柱でんちうまへに、倉庫さうこよこに、かぜにはためく伝単でんたんた、同志どうしやすんぜよ