“から”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:カラ
語句割合
23.9%
21.4%
12.4%
11.5%
7.9%
5.1%
2.0%
空虚1.8%
1.7%
1.5%
0.8%
0.8%
0.7%
0.7%
0.5%
0.5%
0.5%
0.4%
0.3%
0.3%
0.2%
唐土0.2%
以来0.2%
0.2%
0.2%
空車0.2%
0.2%
漢土0.2%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
外殻0.1%
掛絡0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
以來0.1%
0.1%
全然0.1%
0.1%
加羅0.1%
0.1%
唐金0.1%
0.1%
屍體0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
支那0.1%
0.1%
死骸0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
皮殻0.1%
空弾0.1%
空箱0.1%
空間0.1%
端折0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
落葉0.1%
0.1%
虚空0.1%
蜾蠃0.1%
訶良0.1%
0.1%
0.1%
(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
遠くから、もう一台、四頭の毛の長い馬に曳かれたからの軽馬車がガタゴトやって来たが、馬の頸圏くびわはぼろぼろで、馬具は荒縄だった。
お前が気がつく人間なら、からみついたとき腰のあたりを捜して見るところさ、夢中になって一杯飲んで居ちゃそこまでは気が廻るめえ
ところが、浅原の所持の刀が、三条ノ宰相実盛の家に伝わる“鯰尾なまずお”と鑑定されて、三条ノ宰相も即刻、検断所の手でからめ捕られた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時は、四斗樽の鏡をも抜いて、清酒のほかに甘酒まで用意し、からい方でも甘い方でも、御勝手ごかって飲み放題という振る舞いであった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、子家鴨達あひるたちは、いままでたまごからんでいたときよりも、あたりがぐっとひろびろしているのをおどろいていました。すると母親ははおや
からにしかいない恐ろしい獣の形とかを描く人は、勝手ほうだいに誇張したもので人を驚かせて、それは実際に遠くてもそれで通ります。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
このお浦さえ抑えていたなら、田沼様といえども憚って、左右そうなく自分を討ちもせず、からめとるようなこともあるまいと、そう思ったからであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
全く空虚からの時もあった。そういう場合には、仕方がないので何時まで経っても立ち上がらなかった。島田も何かに事寄せてしりを長くした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うるしに似た液体にからびついて、みだれた黒髪はほおといわずひたいといわず、のようにはりついていた。——凝然ぎょうぜん、盛遠は、またたきもしない。
もぬけのからなりアナヤとばかりかへして枕元まくらもと行燈あんどん有明ありあけのかげふつとえて乳母うばなみだこゑあわたゞしくぢやうさまがぢやうさまが。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分はそのいろいろな目にって、幾度となく泣きたくなった事はあるが、からしの今日こんにちから見れば、大抵は泣くに当らない事が多い。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
五分間かからんでワッフルが一度に四つ出来る。一つ食べてみ給え、極く淡泊な味だろう。甘くもからくも好き自由になる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
このままにして乾燥した玉虫のからのように永久に自分から離さずに置く方法があればよいと、こんなことも思った。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
甚句じんくを歌うものがある。詩を吟ずるものがある。覗機関のぞきからくりの口上を真似る。声色こわいろを遣う。そのうちに、鍋も瓶も次第にからになりそうになった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かれその大年の神神活須毘かむいくすびの神の女伊怒いの比賣に娶ひて生みませる子、大國御魂おほくにみたまの神。次にからの神。次に曾富理そほりの神。次に白日しらひの神。次にひじりの神五神。
「一体どんな様子だね。」その声は声をからして叫ぶやうで、号令に疲れた隊長が、腹を立てゝ何か云ふやうに聞えた。己はちよつと不愉快に思つた。
その道の人にいわせれば魔術と奇術に相違はある、だが大ざっぱに一つからげにいえば、手品をつづめた「ずま」である。
奇術考案業 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
と云ううちに浅黄色の垂幕をからげて出て来た。生々しい青大将色の琉球飛白がすりを素肌に着て、洗い髪の櫛巻くしまきに、女たちと同じ麻裏の上草履うわぞうり穿いている。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
からき濁れる空氣をわけ、わが導者の、汝我と離れざるやう心せよとのみいへることばに耳を傾けて歩めり 一三—一五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
着物の裾をからげて浅葱の股引をはき、筒袖の絆纏に、手甲てっこうをかけ、履物は草鞋をはかず草履か雪駄かをはいていた。
巷の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、球台たまたいたま、キユウ、チヨウク、おきやくの人から建物たてものかんじ、周圍しうい状態ぜうたい經營者けいえいしや經營振けいえいふり——さうした條件ぜうけんがいい持にそろふのはじつ困難こんなんな事なので
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
陶器と申す物も唐土からには古来から有った物ですが、日本では行基菩薩ぎょうきぼさつが始まりだとか申します。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とは云えれさえあの夜以来——外務大臣の夜会の席で、外務大臣の二番目の娘、マリア姫の姿を見て以来からは、一通りの愛さえも消えてしまって、濃厚な彼女の心尽しをさえ
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
からかうごとく、団扇を膝でくるりとる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
役に立たなくなった古い手押し車を原に出して置いて、わくの上に、大麦や裸麦のからをかぶせて屋根を作り、番人はその中にはいって寝るんです
お客様を乗せやうが空車からの時だらうが嫌やとなると用捨なく嫌やに成まする、あきれはてる我まま男、愛想あいそが尽きるでは有りませぬか、さ、お乗りなされ、お供をしますと進められて
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
から沢へは誰々が先発する、人夫が何人ついて行く、米は何斗持って行く。飛脚が何人帰って来る、何時頃五千尺に着く、島々からはもう電車が無い、自動車に乗って行け。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
見分みわけざれば目鼻めはなのある人とは申さずと云ふに武士は大いに笑ひそれは餘り譽過ほめすぎるなりと云つゝ最早もはや酒もやがて三升ばかりのみたる故ほろ/\機嫌きげんになりコレ亭主貴樣は田舍ゐなか似合にあは漢土からの事など引事ひきごとにして云は感心々々かんしん/\はなせる男だイヤ面白し/\と暫時しばしきようにぞ入りたりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
馬鹿ばかつてばかし所爲せゐからばかしびつちやつて、そんだがとれねえはうでもあんめえが、夏蕎麥なつそばとれるやうぢや世柄よがらよくねえつちから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あんずとからめきたる名を呼ばるゝからもゝの花は、八重なる、一重なる、ともに好し。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
四十からの色彩ある羽を見ることも稀ではなかつた。春は鶯が私の籠飼ひのものででもあるかのやうにして家の周囲を去らずに好い声を立てた。何うかするとほゝじろの細かいさへづりなどもきかれた。
中秋の頃 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
医学士は鍵穴の辺へ口を接近させた様子で「イヤ貴方は其の室の中の住者を大層お可愛がり成さる様子だから当分同居させて上げようと思いまして」と無体極まる言葉を吐いてから々と打ち笑った
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
おあとから行まする、恋しき君、さることばをば次第なく並べて、身は此処ここに心はもぬけのからに成りたれば、人の言へるは聞分ききわくるよしも無く、楽しげに笑ふは無心の昔しを夢みてなるべく
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
正覚坊しょうがくぼうの卵みたいな、三寸玉から五寸玉ぐらいまでの花火の外殻からが、まだ雁皮貼がんぴばりの生乾なまびになって幾つも蔭干しになっているし、にかわを溶いた摺鉢すりばちだの、得体えたいの知れない液体を入れた壺だの
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
袈裟けさ掛絡からをまとえば、そのまま、虚無僧こむそうといった風采である。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この新人ピアニストの古典には、古い伝統のからを破った、新しいリアリズムの生命があるのであろう。清楚せいそなうちに情熱を盛った、不思議なモーツァルトである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
と云いながら鉄砲を放り出して雑木山へ逃げ込んだが、木の中だから帯が木の枝にからまってよろける所を一刀ひとたちあびせると
ケブリオネ,スのからの故、二將さながら飢ゑはてし 755
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
裸のからを引きとらん、武具はヘクト,ル剥ぎ取りぬ。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
岩角に突っ張った懸命のこぶしを収めて、肩から斜めに目暗縞めくらじまからめた細引縄に、長々と谷間伝いを根限り戻り舟をいて来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岡はからめて本郷から起る。高き台をおぼろに浮かして幅十町を東へなだれるくちは、根津に、弥生やよいに、切り通しに、驚ろかんとするものをますはかって下谷したやへ通す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
熊はいでずして一山の破隙われめこゝかしこよりけふりをいだしてくもおこるごとくなりければ、奇異きいのおもひをなし熊をからずしてむなしく立かへりしと清水村の農夫のうふかたりぬ。
一年ひとゝせ四月のなかば雪のきえたるころ清水村の農夫のうふら二十人あまりあつまり、くまからんとて此山にのぼり、かの破隙われめうろをなしたる所かならず熊の住処すみかならんと、れい番椒烟草たうがらしたばこくきたきゞまぜ
上て引せけるに曲者はこゝぞと思ひ滑々ずる/\と引出す處を半四郎は寢返ねがへりをする體にて曲者のくび股間またぐらはさみ足をからみて締付しめつけけるに大力だいりき無雙ぶさうの後藤にしめ付られて曲者はものを云事もかなはずたゞ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
云へ御殿場迄ごてんばまで旦那殿だんなどの讓合ゆづりあう中何時か我家のおもてへ來りしが日は西山へ入て薄暗うすくらければ外より是お里遠州ゑんしうの兄が來たと云にお里はあいと云出る此家のかまへ昔は然るべき百姓とも云るれど今はかべおちほねあらはかや軒端のきばかたむきてはしらから蔦葛つたかづら糸瓜へちまの花のみだ住荒すみあらしたるしづが家に娘のお里は十七歳縹致きりやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
蛇がからを脱ぐ如く、人は昨日きのうの己が死骸を後ざまに蹴て進まねばならぬ。個人も、国民も、永久に生くべく日々死して新にうまれねばならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ある時彼が縁に背向そむけて読書して居ると、うしろどうと物が落ちた。彼はふりかえって大きな青大将あおだいしょうを見た。きっぱなしの屋根裏の竹にからんでからを脱ぐ拍子に滑り落ちたのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あれもお愛想さと笑つて居るに、大底におしよ卷紙二ひろも書いて二枚切手の大封じがお愛想で出來る物かな、そして彼の人は赤坂以來からの馴染ではないか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此所等ここらあたりは場末ばずゑの土地とてかはやからんと思へども茶屋さへ無にこうじたる長三郎の容子ようすを見て和吉は側のうらへ入り其所此所そこここ見ればきたなげなる惣雪隱そうせついんありたれば斯とつぐるに喜びて其所へ這入はひりて用を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『さあ、この怪我人を何うして下さる』というような次第わけで、今度は車屋仲間が私達を取り巻きました。江戸っ子も斯うなると全然から意気地がありません
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
長さが一尺ばかりだから男でもチョン髷にいって居る髪の毛は是だけのたけは有るが今時の事だから男は縮毛ならかって仕舞うからないのは幾等いくらか髪の毛自慢の心が有る奴だ男で縮れっ毛のチョン髷と云うのは無い(大)爾々そう/\縮れッ毛は殊に散髪にもって来いだから縮れッ毛なら必ず剪て仕舞う本統に君の目は凄いネ(谷)爾すれば是は
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
我は加羅から翡翠ひすいを持っている。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
一〇〇眠蔵めんざうより一〇一痩槁やせがれたる僧の一〇二よわ々とあゆみ出で、からびたる声して、御僧は何地いづちへ通るとてここに来るや。
主人八郎兵衛と番頭、度を失って挨拶も忘れたものか、蒼褪あおざめた顔色も空虚うつろに端近の唐金から手焙てあぶりを心もち押し出したばかり——。
文学者ぶんがくしやを以てだいのンきなりだい気楽きらくなりだい阿呆あはうなりといふ事の当否たうひかくばかりパチクリさしてこゝろ藻脱もぬけからとなれる木乃伊ミイラ文学者ぶんがくしやに是れ人間にんげん精粋きつすゐにあらずや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
魂さりての屍體からは痩せ犬の餌食にならば事たる身なり。
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ちっと、日本間の方へ話にでも来て御覧。あっちは、からっとして、書斎より心持が好いから。たまには、はじめのようにつまらない女を相手にして世間話をするのも気が変って面白いものだよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんなことを云っているうちに、噂のぬし帯剣たいけんからめかしながら入って来た。近所の人であるから、忠一ともかね相識あいしっているのである。双方の挨拶はかたの如くに終った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あの定という奴は、年甲斐もなしにお前になにかからかったことでもありゃあしねえか」
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かゆい痒いと思ったら、こんなに食いからかいて」とお種は単衣ひとえすその方をからげながら捜してみた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
混合ふ見物人に交りながら裾をからげて登る厭な気持のあとで、幾多の囚人の深い怨みを千古にとゞめた題壁だいへきの文字や絵を頂上の室に眺めた時は
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
觀棚は内壁の布張汚れ裂けて、天井は鬱悒いぶせきまで低し。少焉しばしありて、上衣を脱ぎ襯衣はだぎの袖をからげたる男現れて、舞臺の前なる燭をともしつ。客は皆無遠慮に聲高く語りあへり。
古來こらい支那から日本につぽんとうもちふ大陰暦たいゝんれきとの相違さうゐしめすことごとし。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
この鸚鵡は最前さっきの紅木という総理大臣の息子で、平生ふだん王の御遊び相手として毎日宮中に来ている紅矢べにやというが、今日は少し加減が悪くて御機嫌伺いに参りかねますから
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
叔父のたおれている座敷には、帯や時計や紙入れや飲食いした死骸からなどがだらしなく散らばっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼もまた、火みたいに、のどからびを覚えていたところである。さっそく大きなひらたい青石の上へ、背の老母を下ろして言った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門番呆れて、「汝等きさまら何が買えるもんか。干葉ひばや豆府のからを売りやしまいし、面桶めんつう提げて残飯屋へくがい、馬鹿め。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいつは子供の時から根性がよくなくてな、喧嘩口論でもしたが最後、いつまでも根に持っている奴だ、小狡こすからくって裏表があるから、わしは昔からあの男が大嫌いだった。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
ナンキン豆の皮殻からを散らかしはじめた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「素直にしなければ、撃つのよ。空弾からだと思うならば、撃ってみましょうか、見本にネ」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今夜は珍しく、お師匠さんも、鍋島さまのお留守居のお招きで、お出かけ——隣は空間からでござります」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
どうもい心地が致しませんでしたが、お八代さんの顔付きが、生やさしい顔付では御座いませんので、余儀なく下駄を脱ぎまして、尻を端折からげまして、梯子を登り詰めますと
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのうすあまい匂いは私のどうすることもできない、樹木にでもからみつきたい若い情熱をそそり立て、悩ましい空想を駆り立ててくるのであった。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
塀の中から立ち上った大きな欅の樹に、二つ三つ赤い実をつけた烏瓜からすうりからみ上って、風に吹かれて揺れている。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は今夜の泊りを考えながら、前よりはやや注意深く、両岸に眼をくばって行った。松は水の上まで枝垂しだれた枝を、鉄網のようにからめ合せて、林の奥の神秘な世界を、執念しゅうね人目ひとめから隠していた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
白頭の嶺を越え、落葉から松の林を越え
間島パルチザンの歌 (新字旧仮名) / 槙村浩(著)
この書小なりといえども、外国宣教師の手を離れ、教会の力をからずして、ただちに神にききつつその御言を伝うる卒先者の一たりし事を以て光栄とする。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
煙草入たばこいれ虚空からであつた。かれ自分じぶん體力たいりよく滅切めつきりへつ仕事しごとをするのにかなくなつて、小遣錢こづかひせん不足ふそくかんじたとき自棄やけつたこゝろから斷然だんぜんそのほどすき煙草たばこさうとした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そこへ矢島玄碩の二女、優善やすよしの未来の妻たる鉄が来て、五百に抱かれて寝ることになった、蜾蠃からの母は情をめて、なじみのない人の子をすかしはぐくまなくてはならなかったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
先に問ひたまへる女子むすめ訶良から比賣は、さもら一八む。
と野崎君がからかった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
同じく大椀に添へ山葵わさび大根ねぎ海苔のり等藥味も調とゝのひたり蕎麥は定めて太く黒きものならんつゆからさもどれほどぞとあなどりたるこそ耻かしけれ篁村一廉いつかどの蕎麥通なれど未だ箸には掛けざる妙味切方も細く手際よく汁加减つゆかげん甚はだし思ひ寄らぬ珍味ぞといふうち膳の上の椀へヒラリと蕎麥一山飛び來りぬ心得たりと箸を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)