巷の声ちまたのこえ
日々門巷を過る物売の声もおのずから時勢の推移を語っている。 下駄の歯入屋は鞭を携えて鼓を打つ。この響は久しく耳に馴れてしまったので、記憶は早くも模糊として其起源のいつごろであったかを詳にしない。明治四十一年の秋、わたくしが外国から帰って来た …