から)” の例文
新字:
また貝殼かひがら一方いつぽうしかないといふことは、自然しぜんにたまつたものでなく、むかしひとつてからをすてたものであるといふほかはないのです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
もぬけのからなりアナヤとばかりかへして枕元まくらもと行燈あんどん有明ありあけのかげふつとえて乳母うばなみだこゑあわたゞしくぢやうさまがぢやうさまが。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しか卯平うへい僅少きんせう厚意こういたいしてくぼんだ茶色ちやいろしがめるやうにして、あらひもせぬから兩端りやうはしちひさなあな穿うがつてすゝるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
常の衣の上に粗𣑥あらたへ汗衫じゆばんを被りたるが、そのさんの上に縫附けたる檸檬リモネからは大いなるぼたんまがへたるなり。肩とくつとには青菜を結びつけたり。
貧乏臭いからに包んで、たくみにその贅澤さをカムフラージユすることに慣れ、それをつうとか意氣とか言つてゐた時代です。
それはあまり見馴れすぎてゐた舊文明のからが眼のうらにありすぎるからだ。兩國橋畔の變りかたは實に汚ならしい。
花火と大川端 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
それは核心かくしんに、から外皮ぐわいひを添へることに過ぎないでせう。それらには、彼はなんの用もないのです。その必要以外のものを、私は取つて置くだけのことですわ。
武骨者と人の笑ふを心に誇りし齋藤時頼に、あはれ今無念の涙は一滴も殘らずや。そもや瀧口が此身は空蝉うつせみのもぬけのからにて、腐れしまでも昔の膽の一片も殘らぬか。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
薄赤い肉を美しく並べた皿の眞中には、まだからの出來ぬ眞んまるく赤い卵が寶玉のやうに光つてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
皇后樣のおいで遊ばされたわけは、ヌリノミの飼つている蟲が、一度はう蟲になり、一度はからになり、一度は飛ぶ鳥になつて、三色に變るめずらしい蟲があります。
「アゲマキ」という貝は瀟洒な薄黄色のからのなかに、やはり薄黄色の帽子をつけた片跛かたちんばの人間そのままの姿をして滑稽にもセピア色の褌をしめた小さな而して美味な生物である。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
あへ未來みらいのことはいはず、現在げんざいすで姿すがたになつてるのではないか、した或者あるものは、き、び、或者あるものは、はしり、くらふ、けれどもきぬいでへびは、のこしたからより
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
御者ぎょしゃ懶惰ぶしゃうはしため指頭ゆびさきから發掘ほじりだ圓蟲まるむしといふやつ半分はんぶんがたも鼠裝束ねずみしゃうぞくちひさい羽蟲はむし車體しゃたいはしばみから、それをば太古おほむかしから妖精すだま車工くるましきまってゐる栗鼠りす蠐螬ぢむしとがつくりをった。
まいまいつむりのもろからあたり
メランコリア (旧字旧仮名) / 三富朽葉(著)
爆實はぜみからに。——今ははた
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
くぐもるからひかはり
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いままでみづんだり、それを保存ほぞんするには椰子やしからのようなものとか、貝類かひるいからとかを使つかふことのほかはなかつたのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「それが親分、唯の行方不知とはワケが違ひますよ。何しろ内から戸締りをしたまんま、床が藻拔もぬけのからで、寢んでゐた筈の娘が煙のやうに——斯う」
初秋しよしうかぜ吊放つりはなしの蚊帳かやすそをさら/\といて、とうから玉蜀黍たうもろこしかまどはひなかでぱり/\と威勢ゐせいよくえる麥藁むぎわらかれて、からがそつちにもこつちにもてられる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おあとからゆきまする、こひしききみ、さることばをば次第しだいなくならべて、此處こゝこゝろはもぬけのからになりたれば、ひとへるは聞分きゝわくるよしもく、たのしげにわらふは無心むしんむかしゆめみてなるべく
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こやつがむべきモンタギューがこしなる宿やど裳脱もぬけからで、無慚むざんや、愛女むすめむねさや
されば水筋みづすぢゆるむあたり、水仙すゐせんさむく、はなあたゝかかをりしか。かりあとの粟畑あはばたけ山鳥やまどり姿すがたあらはに、引棄ひきすてしまめからさら/\とるをれば、一抹いちまつ紅塵こうぢん手鞠てまりて、かろちまたうへべり。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
牡蠣かきからなる牡蠣の身の
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
榛實はしばみから
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
極刑中の極刑を以つていましめられるところに、無智なるが故の爲政者の恐怖と、封建性のからを守り拔かうとする見かけだけの嚴重さがあつたわけです。
すなはひといへとは、さかえるので、かゝ景色けしきおもかげがなくならうとする、末路まつろしめして、滅亡めつばうてうあらはすので、せんずるに、へびすゝんでころもぎ、せみさかえてからてる、ひといへとが、みな光榮くわうえいあり
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
貝のからなる片葉かたはもて
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
唐紙を押し倒すやうに飛込んで行くと、お糸の床は藻拔もぬけのからで、その側に女中のお千代が、あまりの事に尻餅を突いたなり、ろくに口もきけません。
から双葉もろは晶玉しやうぎよく
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
用人川前市助は、その高慢なからをかなぐり捨ててゝ、疊の上に兩手を落すのです。千本金之丞も、それに誘はれて、膝に置いた手を、不器用らしく滑らせました。
「それが、翌る朝見ると床は敷いてあつたが、お姉樣は藻拔もぬけのからであつたと言ふんでせう。——床の中で聲を掛けたとすると、その後で着換をして脱出したわけですね」
「でも、あの娘は、こちとらには喰ひつけませんよ。用心深くからの中へ入つて居るやうで」
堅いからの中に閉ぢ籠つてしまつたといふ心持です。