から)” の例文
旧字:
木戸ごしにヒマワリのからを、通りすがりの若い衆めがけてぶつけもする。そんな育ちの彼女にとって、ここは全く別世界だった。
と、子家鴨達あひるたちは、いままでたまごからんでいたときよりも、あたりがぐっとひろびろしているのをおどろいていました。すると母親ははおや
まゆだけは時代風に濃く描いていた。復一はもう伏目勝ふしめがちになって、気合い負けを感じ、寂しく孤独のからの中に引込まねばならなかった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と三太郎君は不思議に思い思い近寄ってみますと、それは一つの大きな卵で、生白いからが大理石のような光沢を帯びておりました。
(新字新仮名) / 夢野久作(著)
結局二人藻抜もぬけのからみたいにさして、この世の中に何の望みも興味も持たんと、ただ光子さんいう太陽の光だけで生きてるように
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
木村を払い捨てる事によって、へびからを抜け出ると同じに、自分のすべての過去を葬ってしまうことができるようにも思いなしてみた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
手水鉢はから柄杓ひしゃくはから/\だが、誰もお参りに来ないと見えるな、うんそう/\、此方こっちへ来な、聖天山の裏手に清水のく処がある
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それでとうとうひげを剃るのをやめて、その代りに、栗のからを真赤に焼かせて、それで以て、娘たちに鬚を焼かせ焼かせしました。
デイモンとピシアス (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
その間を、陰気な石の段々が、蝸牛かたつむりからみたいに、上へ上へと際限もなく続いて居ります。本当に変てこれんな気持ちでしたよ。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
室は小公会堂しょうこうかいどうぐらいの大きさであるが、まるで卵のからの中に入ったように壁は曲面きょくめんをなしていてクリーム色に塗られている。清浄せいじょうである。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうせよと言うのか? 君のように自分のからの中にじっと縮こまってることは、僕にはできない。中流人どもの中にいると息がつけない。
からはきらりと光りを放って、二尺あまりの陽炎かげろうむこうへ横切る。丘のごとくにうずたかく、積み上げられた、貝殻は牡蠣かきか、馬鹿ばかか、馬刀貝まてがいか。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
火事の用心に板葺きというのはおかしいが、その板の上にはかきからを多くのせて、火の子の燃えつくのを防がせることにしたのであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
からこもって、大事をとっていた山淵父子も、遂に、機先を制したつもりで、真夜半まよなかから軍をうごかし、笠寺へ朝討ちをかけた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何よりもまず中世のからを脱ぎ捨てよと教えたあの本居翁あたりが開こうとしたものこそ、まことのちかであると信ずる彼なぞにとっては
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
冷した珈琲はやっぱり平日いつもの通り小匙二杯の珈琲へホンのすこしの水と玉子のからを二つぶり細かく砕いて入れて火の上でき廻しながらせんじます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
エリザベス時代のある英国人は紙が節倹しまつしたいからといつて、胡桃くるみからにしまはれる程の豆本に、新約全書そつくり書き込んだといふ事だ。
香以は鶴寿と謀って追善の摺物すりものを配った。画は蓮生坊れんしょうぼうに扮した肖像で、豊国がかいた。香以の追悼の句の中に「かへりみる春の姿や海老えびから
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
頭を胡果くるみからのように叩き潰されたお萩の死体は、物馴れた八五郎の眼にも凄惨せいさんで、二度と調べて見る気も起させません。
ふたりは再び顔を見合せながら、さらに忍んで内をのぞくと、病人の寝床は藻ぬけのからで、蛇吉のすがたは見えなかった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たいてい自分の望む種子たねさえけばひとりでにどんどんできます。米だってパシフィック辺のようにからもないし十倍も大きくて匂もいいのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すなわちカーコゥディーにおける蟄居ちっきょ六年間の彼の仕事は、倫理学者としてのからを打ち割り、自己多年の面目を打破し
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
キャラコさんは、お弁当のからの始末をして崖の上にあがってゆく。が、夕方までぼんやりしているわけにはゆかない。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
栗の枝が吹き折られたこと、鳥がしじみからを落していったこと……それらは島の歴史に残るべき大きな出来事である。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
しかし精神はもぬけのからだ。ヨルダン川で洗礼を受けられてから今日までのイエスの戦いは、真に国民を救うためでありました。彼は愛国者であります。
その本を取り出した置きだなにあった、それぞれ違った色の紙に書かれた手紙のからの内容を頭中将とうのちゅうじょうは見たがった。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
社会の耳目をそばだたせたおりに——無気力無抵抗につくりあげられた因習のからを切り裂いて、多くの女性を桎梏しっこくおりから引出そうとしたけなげなあなたを
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
つまんで見るとからは柔らかくてぶよぶよしていた。一つ鋏にかかってつぶれたのをあけて見たら中には蜥蜴とかげのかえりかかったのがはいっていたそうである。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
蝸牛かたつむりが背中に自分のからを背負つてゐるやうに、自分の心一つに、自分の寂しさを背負つて、その寂しさをこらへていくことが、きつと立派な修行なんだらう。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そく仕方しあげたに教育せられ薫陶くんとうせられた中から良妻賢母れうさいけんぼ大袈裟おほげさだがなみ一人前の日本にほん婦人が出て来るわけなら芥箱ごみばこの玉子のからもオヤ/\とりくわさねばならない
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
この風呂に入り給えと勧められてそのまま湯あみすれば小娘はかいがいしく玉蜀黍のからを抱え来りて風呂にくべなどするさまひなびたるものから中々におかし。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
余り好くしたとはいへない継母の手元で習慣づけられた、硬くなつて自分のからに閉ぢこもるやうな癖を、動もすると出すので、それが気にかゝつてならなかつた。
二人の病人 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
それでも、かれらのからをやぶることができなかったのである。——よほどの忍耐と、年月をかけるつもりがなければ、決してうまくはゆくまい、と老人は云った。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いかに秘密の堅いからに包まれたできごとであっても、いったん八丁堀のむっつり右門がこれに手を染めた以上は、あくまでも解決しないではおかぬといったように
しかし今彼の目前によこたはつてゐる此の港、此の小都会の全景は其の時の錯覚の冷たいからに過ぎなかつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
それはくぬぎからを踏んだので、踏まれた殻は平らにへし潰された。疵をするまでもないものであつた。彼はちつと舌打をして、忌々しさうにそれを拾つて抛りつけた。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
そのつらつきいと真面目まじめなれば逃げんとしたれども、ふと思い付きて、まずからをとりてたまわれと答えける。亭主噴飯ふきだして、さてさておかしきことを云う人よと云う。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あのよろし蟹よ蝦蛄しやこよ、それよこれよ、そをめせ、かくめせとあはれ、中つつき、からほじりあはれ。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「文字ノ精ガ人間ノ眼ヲイアラスコト、なお蛆虫うじむし胡桃くるみノ固キから穿うがチテ、中ノ実ヲたくみニ喰イツクスガごとシ」と、ナブ・アヘ・エリバは、新しい粘土の備忘録にしるした。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
今まで石の下に隠れていた古来からの迷信が復活よみがえった。家々のかどの柱に赤い紙や、あわびからなどを吊した。まだ花の咲くに間のある北国の、曇った空の下に吹く風が寒かった。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まだからが脱けきらんのだ! わしの原則によるとな、どんな女の中にも、けっして他の男には見つからんような、すこぶる、そのおもしろいところが見つけ出せる——だが
海岸を歩けば、帆立貝ほたてがいからが山の如く積んである。浅虫で食ったものゝ中で、帆立貝の柱の天麩羅てんぷらはうまいものであった。海浜随処に玫瑰まいかいの花が紫に咲き乱れて汐風にかおる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
二十六年故山こざんを出でて、熊谷の桜に近く住むこと数年、三十三年にはここ忍沼おしぬまのほとりに移りてより、また数年を出でずして蝸牛ででむしのそれのごとく、またも重からぬからひて
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「お京様のお身の上、さる御方おんかたなつかしがられ、お預かり致す」という文面であった。アッと仰天した一同の者、隣室へかけ込んだが、サア事だ! お京はもぬけのからであった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すでに政府がたっといとえば政府に入る人も自然に貴くなる、貴くなれば自然に威張るようになる、その威張りはすなわから威張で、誠によろしくないと知りながら、なにも自然のいきおい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その龕子がんす一つでも二百円以上三百円位するそうです。で右の腕には小さな法螺貝ほらがいから腕環うでわ、左の腕には銀の彫物ほりもののしてある腕環を掛けて居る。それから前垂まえだれは誰でも掛けて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
耳朶みゝたぶにぶんと響き、脳にぐわら/\とわたれば、まなこくらみ、こゝろえ、気もそらになり足ただよひ、魂ふら/\と抜出でて藻脱もぬけとなりし五尺のからの縁側まで逃げたるは、一秒を経ざる瞬間なりき。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あんたがたの誰よりも上なんだ! (頭の包帯をむしりとる)あんたがた古いからをかぶった連中が、芸術の王座にのしあがって、自分たちのすることだけが正しい、本物だとめこんで
谷中尉は、煎豆いりまめからをはき出しながら、じろりと私の顔を眺め、そう言った。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
確かに、法皇だけがもぬけのからであった。二位殿、丹後殿以下の女房たちは、そのまま居残っているが、誰一人法皇がいつ御所を脱け出られたのか、何処へ行かれたのか知る者もなかった。