から)” の例文
慎太郎は看護婦の手から、水にひたした筆を受け取って、二三度母の口をしめした。母は筆に舌をからんで、乏しい水を吸うようにした。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ところが、浅原の所持の刀が、三条ノ宰相実盛の家に伝わる“鯰尾なまずお”と鑑定されて、三条ノ宰相も即刻、検断所の手でからめ捕られた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
片足かたあしは、みづ落口おちくちからめて、あしのそよぐがごとく、片足かたあしさぎねむつたやうにえる。……せきかみみづ一際ひときはあをんでしづかである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼等のインテリゲンツィア的理論づけ、組立ての外観が、当時に於て一過渡期にいたマクシム・ゴーリキイを一時からめ込んだのである。
と、一匹の縞蛇が、五尺あまりの太紐のような体を、焚火にテラテラ光らせながら、鬼火の姥の足にからみ、胴の方へ這い上がった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女は男の手にからみ付いて、ぴったり身を寄せて云った。「あなたもわたくしも、二人ともこんな所にいるのはくありませんわ。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
崖頭が行けなくなると左に廻って、岩間を塗り固めた雪の壁に鉈で足場を刻み、其内縁を伝いながら岩峰の横をからんだりなどする。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
すると、少年は、女の子のような、小さい美しい手をおずおずとあたしの腕にからませて、すがりつくような眼つきで見あげながら
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
永年にわたる松のこしらえはどの松を見ても、えだをためさればちからみ竹をはさみこんで、苦しげにしかし亭亭ていていとしてそびえていた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
鼈四郎は伯母の末の娘で檜垣の主人の従姉妹いとこに当るこの逸子という女の、その意味での非凡さにもやがてからめ捕られてしまった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小さな娘達が僕へからまろうとして駆けて来ると、それをも押しのけました——貴方が僕の心に蒔いた種が芽生えて来たのです。
誤診 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
瑠璃子のそばに、からみつく様にして歩いて来る我が弟、イヤ弟よりもなお親しい、わしの唯一人の親友、川村義雄の姿であった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かつまた高貴の品物にからむ愛着や慾念の表裏が如何様いかように深刻で険危なものであるということを語っている点で甚だ面白いと感ずるのみならず
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「お前のやうな家の子郎黨は、からめ手から通りや宜いのさ。妙に見識張つて大玄關にかゝるから、手飼ひの獅子王に吠えつかれるんぢやないか」
彼は急に落着かぬ様子になって、ブルブルと身体をふるわした。両眼はカッと開き、われとわが頭のあたりにワナワナとふるえる両手をからみつけた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
岡田は腕木にからんでいた手を放して飛び降りた。女達はこの時まで一同息をめて見ていたが、二三人はここまで見て裁縫の師匠のうちに這入った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
飯櫃おはちを私の手の届かぬ高い処へ載せておいたり、私を蒲団ふとんの中にくるんで押入れの中に投げ込んだり、ある夜などは私を細曳ほそびき手鞠てまりのようにからげて
余は一人とがった巌角がんかくを踏み、荊棘けいきょくを分け、みさきの突端に往った。岩間には其処そこ此処ここ水溜みずたまりがあり、紅葉した蔓草つるくさが岩にからんで居る。出鼻に立って眺める。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかし笑止ながらもその陣立て陣形はさすがに見事、兵家のいわゆる黒白構こくびゃくがまえ、半刀半手のからめ捕りという奴です。
貪婪むさぼり善を求むる我等の愛を消して我等の働をとゞめしごとくに、正義はこゝに足をも手をもからめとらへて 一二一—
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
これはかわうそと亀とを合併して河童といっていたらしく、川の中で足などにからみつくのは大抵は亀だそうです。
江戸の化物 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
乙に言葉をからんでは有るけれど全くえぐる様に聞こえる、此の抉り方は女の専売で、男には何うしても出来ぬ事だ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
霧のために生き物の気はからめられてしまっていた。クリストフは息がつけなくて立ち止まった……。もう何物もない。すべてが過ぎ去ってしまった……。
けしからん奴じゃ、無礼千万な! 勝手気儘に執権の屋敷へはいりおって! 宗八、剛蔵、確之進! 追いけて行って、からめ捕ってこれへ引き据えエ!」
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
からんで来る手を、そっけなく後へはねのけた。時々、指を組み合わせて、明日から早速針仕事にかかろう、拭き掃除をしなければならないなど考えていた。
しかるにその別ちも付かずにただ子供のように女のように、区々くくたる人情にからまれて居るというのは分らん話だ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
だ! と跳びかかって来る、相手はとっさに体を捻って、三次の利腕を逆に、ぐいと引っ手繰って足をからむ。
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
此忍びぬ心と、その忍びぬ心を破るに忍びぬ心と、二つの忍びぬ心がからみ合った処に、ポチはうま引掛ひッかかって、からくも棒石塊いしころの危ない浮世に彷徨さまよう憂目をのがれた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
狼藉を静めるべく赴いた瀬尾太郎兼康せのおたろうかねやすの郎党六十余人をからめとって、一々首を斬って猿沢さるさわの池畔に懸けならべたり、僧兵大衆まことに殺気だっていたのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
隱元豆の蔓などを竹のあら垣にからませたるがお力が處縁の源七が家なり、女房はお初といひて二十八か九にもなるべし、貧にやつれたれば七つも年の多く見えて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
魚は仲間同士で抱きあったりもつれあったりするように、水をびちゃびちゃと云わして体をからましあった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
深刻な血を吐くような内部生活の推移の跡の辿たどらるるような著書は一冊もない。そればかりではない。彼らは国権の統一にその自由なる思索の翼をからまれている。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
大鼻の頭に汗のたまを浮べながら、力一杯片膝下に捻伏ねじふせているのは、娘とも見える色白の、十六七の美少年、前髪既に弾け乱れて、地上の緑草りょくそうからめるのであった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
のように馬を乗りまわし、槍をからみ合わして闘いながら落ちようとして落ちなかったり、馬の腹をぐるぐる這い廻ったりするところは、度々見物をうならせた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
屠手は総懸りで寄つてたかつて、『しツ/\』と声を揚げ乍ら、無理無体に屠殺の小屋の方へ種牛を引入れた。屠手のかしらは油断を見澄まして、素早く細引を投げからむ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一月ひとつきぶりに、シャッシャッとぎだすと、一本々々のオォルに水が青い油のように、ネットリからみついて、スプラッシュなどしようと思っても、出来ないあんばい。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
二三度からまりました、すると不思議なのは蛇がポツリと二つに切れて、縁側へ落ると、蛇の頭は胴から切れたなりに、とこの処へ這入って来た時は、お累は驚きまして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ソレどころではない、荷物をからげて田舎に引越ひっこすとうような者ばかり、手まわしのい家ではかまど銅壺どうこまではずして仕舞しまって、自分は土竈どべっついこしらえて飯をたいて居る者もある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
広江寺は叡山の末寺なれば衆徒この事をれ聞いてくだんの鐘主の法師をからめ日あらず湖に沈めたとある、誠に『太平記』の秀郷竜宮入りはこの粟津冠者の譚から出たのだ
「近江のお方が……まあ、なんて心憎い行き方でしょうね、こちらでいくら持ちかけても、いっこう御挨拶もなさらないくせに、からめ手から御酒一つなんて……憎いわねえ」
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この時誰も押入って賊をからめ取ろうというものは一人もなかったのですが、忠清ただ一人立ち向い、一人を討ち取り、残る一人を搦めとって、大いに勇名をはせたものでした。
というようなそれだけの意味のことを妙にひとなつこくからんで来るような口調で言った。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
いつのとしでしたかわたくしの乗りました車夫くるまや足元あしもとからへた紙鳶たこ糸目いとめ丁寧ていねいに直してりましたから、おまい子持こもちだねと申しましたら総領そうりようなゝつで男の子が二人ふたりあると申しました
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
雪渓の下端は洞窟のように融け込み、大きな口を開いてのしかかっているので、いずれかの岩壁をからんで、すこし上から降りなければならない。両岸はともに草の混った急傾斜である。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
又小田原の北条早雲は、盲人は無用の者であるから領内のめくらをからめ取って海に沈めよと云う触れを出し、その噂を聞いて領外へ逃げ散った盲人の或る者をひそかに間者に用いていた。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
善き半身である処の邦子のおだやかな容子ようすを考へて、その妻を犠牲にしながら、自分だけはこんなところに彷徨はうくわうしてゆき子にからまり、現在の生活の淋しさを、ゆき子によつてのがれようと
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
かくてそこには三匹が命をかけてのからみあいがあった。組んではなれないことは、あだかもすべての他の錠前とか接着剤とかを顔負けさせる新種の接合物が発明されたかのようであった。
この四つ目垣には野生の白薔薇をからませてあるが、夏が来ると、これに一面に朝顔や花豆をわせる。その上に自然に生える烏瓜からすうりからんで、ほとんど隙間のないくらいに色々の葉が密生する。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その、わらい声が妖しくもある蠱惑こわくとなって僕にからみついてくるのだ。
「しかし黒土で支那をからめ手から滅ぼそうってのは、タチが悪い」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)