から)” の例文
ただここに蜀の遊軍高翔こうしょうと張翼とが、救援に来てくれたため、からくも血路をひらき得て、趙雲はようやく敗軍を収めることができた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時は、四斗樽の鏡をも抜いて、清酒のほかに甘酒まで用意し、からい方でも甘い方でも、御勝手ごかって飲み放題という振る舞いであった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このからい世の中に、養老院だの施療院だのという映画のセットのような実用にならぬものを当にして、見るべきものに目をつぶり
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
すぐばんつじ夜番よばんで、わたしつて、ぶるひをしたわかひとがある。本所ほんじよからからうじてのがれて避難ひなんをしてひとだつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御酒ごしゆからいものでござります。からいものをからいとおぼしますのは、結構けつこうで、‥‥失禮しつれいながらもう御納盃ごなふはいになりましては。‥‥』
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
後また光より光に移りつゝ天をてわが知るをえたる事を我もし語らば、そは多くの人にとりてあぢはひ甚だからかるべし 一一五—一一七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
俊次の運んで来た、やたらからい、ダシのいていない味噌汁を吸いながら、金五郎は、蒲団の中で、苦笑ばかりを浮かべつづけていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
この日も終日私は船室をでず、夕飯ゆふはんの時からうじて食堂に参りさふらひしが、何ばかりの物も取らず人目醜きことと恥しく思ひ申しさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その日の夕刻、下男の作松は、からくも春日家を脱け出すと下谷竹町から神田明神下まで一氣に飛んで、錢形平次の家へ轉げ込んだのです。
からくも一命はとりとめたけれど、意識を取り戻しても唖の様にだまりこくって、ただ寝台の上に長くなったまま、身動きさえしなかった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
昨夜ゆふべの収めざるとこの内に貫一は着のまま打仆うちたふれて、夜着よぎ掻巻かいまきすそかた蹴放けはなし、まくらからうじてそのはし幾度いくたび置易おきかへられしかしらせたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
中洲の一番の端——中洲が再び水のなかに没し去らうとするその突端にからうじてひ上つたともいふやうな恰好で、取り附いてゐるのだつた。
赤蛙 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
例へば雪みぞれのひさしを打つ時なぞ田村屋好たむらやごのみの唐桟とうざん褞袍どてらからくも身の悪寒おかんしのぎつつ消えかかりたる炭火すみび吹起し孤燈ことうもとに煎薬煮立つれば
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さるに妾不幸にして、いひ甲斐がいなくも病に打ちし、すでに絶えなん玉の緒を、からつなぎて漸くに、今この児は産み落せしか。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
米友に至っては、相変らず要領を得たような、得ないような、すっぱいような、からいような、妙な顔をして考え込んでいるてい
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
息をつまらせるばかりのはげしいからい煙で、その中には瀕死ひんしの者や負傷した者らが横たわって、弱い低いうなり声を発した。
びんそこになつた醤油しやうゆは一ばん醤油粕しやうゆかすつくんだ安物やすもので、しほからあぢした刺戟しげきするばかりでなく、苦味にがみさへくははつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
感歓かんくわんまりて涙にむせばれしもあるべし、人を押分おしわくるやうにしてからく車を向島むかふじままでやりしが、長命寺ちやうめいじより四五けん此方こなたにてすゝむひくもならず
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
貞盛方の佗田真樹は戦死し、将門方の文屋好立ぶんやのよしたつは負傷したが助かつた。貞盛はからくものがれて、つひに京にいたり、将門暴威を振ふの始終を申立てた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
手荷物てにもつにしてのみゆかしき妻戀坂下つまこひざかした同朋町どうぼうちやうといふところ親子おやこ三人みたり雨露あめつゆしのぐばかりのいへりてからひざをばれたりけり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さうして二十ねんむかし父母ふぼが、んだいもとためかざつた、あか雛段ひなだん五人囃ごにんばやしと、模樣もやううつくしい干菓子ひぐわしと、それからあまやうから白酒しろざけおもした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
醤油しょうゆを入れる、水を入れるという具合で、甘かったり、からかったり、水っぽかったり、味がまちまちになってしまう。
鍋料理の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
私は甥に教はつて、近くにある別の料理屋でからうじて食慾だけは充たすことができたが、無論生きた鮎ではなかつた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
かくて両人ともからふじて世の耳目じもくまぬかれ、死よりもつらしと思へる難関なんくわんを打越えて、ヤレ嬉しやと思ふ間もなく、郷里より母上危篤きとくの電報はきたりぬ。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
私を厭がらせた皮肉も、嘗て私を吃驚びつくりさせた苛酷かこくさも、たゞもう美味な料理についたから藥味やくみのやうなものであつた。
慾張よくばりと名のある不人望な人の畑や林は、此時こそ思い切り切りまくる。昔は兎に角、此の頃では世の中せちからくなって、物日にもかせぐことが流行する。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
天命てんめい是耶ぜか非耶ひかいはるは伯夷傳はくいでん要文えうぶんなるべしこゝに忠義にこつたる彼の久八はから光陰つきひおくれども只千太郎の代に成て呼戻よびもどさるゝをたのしみに古主こしう容子ようす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『與田? ゐます、ゐます。數學の教師でせう? 彼奴ア隨分點がからいですな。君はどうして知つてるんです?』
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
尤も美男を定める標準にも色々あろうし、人によっての好き不好きもあろうが、如何なる点のからい人でも眉山の美貌には百点近くを決しておしまないだろう。
わらびめしでからきめにあっているので、彼としてはその正体が知りたいし、できることなら対決したい相手であった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
千古の文人と雖も文学の趣味唯貴族の間にのみ行はれし封建の社会に在つてはからふじて不覊ふき独立の生計を為すを得しのみ。当時文人の運命真に悲しむべし。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
「ああなさけない。おっかさんのうことを聞かないもんだからとうとうこんなことになってしまった。」タネリはから塩水しおみずの中でぼろぼろなみだをこぼしました。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もうここで敗北して発狂するか、それとも思いがけないアイデアを得てからくも常人地帯に踏みとどまるか。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
此忍びぬ心と、その忍びぬ心を破るに忍びぬ心と、二つの忍びぬ心がからみ合った処に、ポチはうま引掛ひッかかって、からくも棒石塊いしころの危ない浮世に彷徨さまよう憂目をのがれた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その眼に、彼は眼付で微笑んでみせた。彼女は煙草を一本取って、一寸吹かしてから、おおからいと云いながら持て余す様子をした。それを彼は引受けて自分で吸った。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
からくも改札口まで押し出されて行った私は、切符に鋏を入れて貰らって、プラットフォームへ漕ぎ着けるや否や、再び其処に呪われた運命が待伏まちぶせして居たのを発見した。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ひげへても友達ともだち同士どうしあひだ無邪氣むじやきなもので、いろ/\のはなしあひだには、むかしとも山野さんや獵暮かりくらして、あやまつ農家ひやくしやうや家鴨あひる射殺ゐころして、から出逢であつたはなしや、春季はる大運動會だいうんどうくわい
ても亡びんうたかたの身にしあれば、息ある内に、最愛いとしき者を見もし見られもせんとからくも思ひさだめ、重景一人ともなひ、夜にまぎれて屋島をのがれ、數々のき目を見て
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
写野さんがくると、すぐ厚みにきせた着物をゆるめ、からしの湿布を背中にした。が、十分もしたが反応がなかった。わたしは、掌の上にある時計を見詰めた。三分経った。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「おお、わしの身体を見るがいい。こんな不具者がどうして……」とからくもしゃがれ声を絞り出した。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
當時とうじ二人ふたりとも木造家屋もくぞうかおく二階にかいにをられたので、下敷したじきになりながら小屋組こやぐみ空所くうしよはさまり、無難ぶなんすくされたが、階下かいかにゐた家扶かふ主人夫婦しゆじんふうふうへあんじながらからうじて
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
いよ/\利根の水源すゐげん沿ふてさかのぼる、かへりみれば両岸は懸崖絶壁けんがいぜつぺき、加ふるに樹木じゆもく鬱蒼うつさうたり、たとひからふじて之をぐるを得るもみだりに時日をついやすのおそれあり、故にたとひ寒冷かんれいあしこふらすとも
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
裁判の結果は、無期懲役という判決が下って、倅はからくも死刑を免れることが出来た。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「塾長はそうした甘いところもありますが、根はからい人間ですよ。実は辛すぎるほど辛いんです。甘いところを見せるのは辛すぎるからだともいえるんです。油断はなりません。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
暫時しばらくすると、くすぶつて居た火は恐ろしく凄じい勢でぱつと屋根の上に燃え上る……と……四辺あたりが急に真昼のやうに明くなつて、其処等に立つて居る人の影、からうじて運び出した二三の家具
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
親父は評点がからい。母親は無暗に甘い。チャンポンだから、変な息子が出来上ってしまった。菊太郎君のところも同じ傾向を免れない。僕と菊太郎君が似通っているのもその為めだろう。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ことに会話受持のチャペルという教師は、非常に点数のからい人であるから、会話の成績が悪いとあるいは落第するかも知れぬと実事まこと虚事そらごと打混うちまぜて哀訴嘆願に及ぶと、案じるよりも産むがやす
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
見給みたまえ、一時は相当の声望信用あって世上に持囃もてはやされた連中でもいつとはなく社会と遠ざかり、全然時勢後れの骨董物となりさがりて、からくも過去の惰力によりて旧位置を維持している者や
我輩の智識吸収法 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
現われたものは、からそうに煮〆にしめたこんにゃく、里いもの煮ッころがし——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
苦学こそしなかったが、他人から学資を補助されて、からく学校を卒業した譲吉は、学生時代は勿論もちろん卒業してからの一年間は、自分の衣類や、身の廻りの物を、気にし得る余裕は少しもなかった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)