から)” の例文
泥濘ぬかるみ捏返こねかへしたのが、のまゝからいて、うみ荒磯あらいそつたところに、硫黄ゆわうこしけて、暑苦あつくるしいくろかたちしやがんでるんですが。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うるしに似た液体にからびついて、みだれた黒髪はほおといわずひたいといわず、のようにはりついていた。——凝然ぎょうぜん、盛遠は、またたきもしない。
しな姿すがたにはえたときには西風にしかぜわすれたやうにんでて、庭先にはさきくりにぶつけた大根だいこからびたうごかなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
真顔作れる母は火鉢ひばちふちとん煙管きせるはたけば、他行持よそゆきもちしばらからされてゆるみし雁首がんくびはほつくり脱けて灰の中に舞込みぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
長「早くは出来ません、良くこせえるのには木の十年もからした筋のいのを捜さなけれアいけませんから」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もし詩に訴えてのみ世の中を渡らないのが老人なら、僕は嘲けられても満足である。けれどももし詩にれてからびたのが老人なら、僕はこの品評に甘んじたくない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
からツ風が吹きすさんで、森の中の梢といふ梢は、作り声をしたやうに、ざわ/\と騒ぎ立ち、落葉が羽ばたきをしながら、舞ひ立つて、夜もすがら戸をたゝき、屋根をひずり廻る、風の無い夜は
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
玉蘭はくれん黄葉もみぢからびし落ちはてて庭のはひりの音ひびきけり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
からびたる三井みい仁王におうや冬木立 其角
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
からびぬ、薔薇うばら。あかねさす
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
からびたるかひなに重く
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
むくりと砂を吹く、飯蛸いいだこからびた天窓あたまほどなのを掻くと、砂をかぶって、ふらふらと足のようなものがついて取れる。頭をたたいて
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よろめきそうな足を、一心にふみしめていたかの女は、やがて、のどからびつくような声を捕手とりてへ投げた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卯平うへいこし疼痛いたみなやまされて、餘計よけいにかさ/\とからびてこはばつてうごかしがたくなるとかれは一くわいおきもない火鉢ひばち枕元まくらもといて凝然ぢつ蒲團ふとんかぶつたまゝである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今は「風吹くな、なあ吹くな」と優き声のなだむる者無きより、いかりをも増したるやうに飾竹かざりだけ吹靡ふきなびけつつ、からびたる葉をはしたなげに鳴して、えては走行はしりゆき、狂ひては引返し
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ようやくのこと第一第二と同じくきわめてからった響が——響とはにくい。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
冬旱ふゆひでり長かるあひだからび来しざふの落葉もはららき失せぬ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
からびぬ、薔薇うばら。あかねさす
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
老鯨おいくぢら山にからびぬ
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
潮風で漆のからびた、板昆布いたこぶを折ったような、折敷おしきにのせて、カタリと櫃を押遣おしやって、立てていたかかとを下へ、直ぐに出て来た。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや矢ダネ、食糧だけでなく、人間の精神力の限界にも来ていることの是認を、正成も今はいなみなくされていた。それがふと正季と共に、いまのからびた笑いに出たのであった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近山裏の谷間には、初茸はつたけの残り、からびた占地茸しめじもまだあるだろう、山へ行く浴客も少くなかった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜来一椀いちわんの水も喉へとおしていない彼の声は、からびていて、聞きとれないくらいに低い。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのままつれに連れられようとして、ふと見ると、一方は丘を、一方は谷の、がけ際の山笹を、ひしゃげた茶の釜底帽子かまそこぼうしが、がさがさと、からびた音を立ててゆすって、見上皺みあげじわを額に刻んで
絨毯じゅうたんやふすまや障子にからびついている黒い血しおの斑痕はんこんは、すべて十五夜の晩に、鎧櫃よろいびつに入れて運び出された死笑靨しにえくぼかべていた美人——ここの女主人のお雪様の血しおと見ていい。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爪の黒ずんだ婆さんの、皺頸しわくび垢手拭あかてぬぐいを巻いたのが、からびた葡萄豆ぶどうまめを、小皿にして、げた汁椀を二つ添えて、盆を、ぬい、と突出した。片手に、旦那様穿換はきかえの古足袋を握っている。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路傍みちばたに石の古井筒があるが、欠目に青苔あおごけの生えた、それにも濡色はなく、ばさばさはしゃいで、ながしからびている。そこいら何軒かして日に幾度、と数えるほどは米を磨ぐものも無いのであろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
砂山をあわただしく一文字に駈けて、こなたがちかづいた時、どうしたのか、脱ぎ捨てたはかま、着物、脚絆きゃはん、海草のからびたさまの、あらゆる記念かたみと一緒に、太鼓も泥草鞋どろわらじひとまとめにひっかかえて、大きなかれ
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……余波なごりが、カラカラとからびたきながら、旅籠屋はたごやかまち吹込ふきこんで、おおきに、一簇ひとむら黒雲くろくもの濃く舞下まいさがつたやうにただよふ、松を焼く煙をふっと吹くと、煙はむしろの上を階子段はしごだんの下へひそんで
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
板の間のからびた、人なき、広い湯殿のようで、暖い霞の輝いてよどんで、ただよい且つみなぎる中に、蚊を思うと、その形、むらむら波を泳ぐ海月くらげに似て、ほこよこたえて、餓えたる虎の唄を唄ってねる。……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と夜陰に、一つ洞穴ほらを抜けるようなからびた声の大音で
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもてを上げ、からびたせきして
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
笠も日向ひなたからびている。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)