から)” の例文
田舎のお祭によく見るやうな見せ物——ひよう大鱶おほふか、のぞき機関からくり、活動写真、番台の上の男は声をからして客を呼んでる。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「一体どんな様子だね。」その声は声をからして叫ぶやうで、号令に疲れた隊長が、腹を立てゝ何か云ふやうに聞えた。己はちよつと不愉快に思つた。
子供は聲をからして一層烈しく、「いやあいやあ、あつち! あつち!」とひつくりかへる、それでも女はすたすたと、今度は後も見ずに歩いて行くんだ。
輝ける朝 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「五銭? 一人前七銭宛くれていい、お前達がこねぇから、客が困るっていうんだ。それでわざわざ車を出して来たんじゃないか。」と、のどをからすような声で一人が言う。
黄昏 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
大阪に着くなり、行きあたりばったりに駅前の闇市のバラック街へ飛びこみ、食べるだけという条件で牛めし屋の下働きに住みこみ、鍋前に立つ合間に、声をからして客引きをした。
虹の橋 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
病者は自ら胸をいだきて、まなこねむること良久ひさしかりし、一際ひときわ声のからびつつ
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と声をからして見得も外聞もかまわず呼んでおりますがちっとも知れない。
と、声をからし、きそって呼びこみをする。
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)