まへ)” の例文
るとぞつとする。こけのある鉛色なまりいろ生物いきもののやうに、まへにそれがうごいてゐる。あゝつてしまひたい。此手このてさはつたところいまはしい。
わたくしやうやくほつとしたこころもちになつて、卷煙草まきたばこをつけながら、はじめものうまぶたをあげて、まへせきこしおろしてゐた小娘こむすめかほを一べつした。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あなたの摯実しじつ、あなたの熱情。——私はこのごろ、五年まへ六年前の世の中のとかく恋しくなることを何うすることも出来ないのです。
井上正夫におくる手紙 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
あらはすと、くわくおほい、翡翠ひすゐとかいてね、おまへたち……たちぢやあ他樣ほかさま失禮しつれいだ……おまへなぞがしがるたまとおんなじだ。」
鳥影 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なに下品げひんそだつたからとて良人おつとてぬことはあるまい、ことにおまへのやうな別品べつぴんさむではあり、一そくとびにたま輿こしにもれさうなもの
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それがまへつたように人間にんげんおほくなるにつれて木材もくざいがいよ/\おほ必要ひつようとなり、どんどんるため、村落そんらくちかやまはもとより
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
またギリシヤの文明ぶんめいひらけるまへに、クリートのしまやその附近ふきんにおいて發達はつたつした文明ぶんめいも、やはり青銅器せいどうき時代じだいぞくするのでありました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
おぼえてます。父樣おとつさんわたくしあたまでゝ、おまへ日本人につぽんじんといふことをばどんなときにもわすれてはなりませんよ、とおつしやつたことでせう。
「こんなことでおまへ世間せけんさわがしくてやうがないのでね、わたしところでも本當ほんたうこまつてしまふんだよ」内儀かみさんは巡査じゆんさ一寸ちよつとてさうして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
神楽坂かぐらざかへかゝると、ひつそりとしたみちが左右の二階家にかいやはさまれて、細長ほそながまへふさいでゐた。中途迄のぼつてたら、それが急に鳴りした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、うちもんをはひらないまへに、かれはからつぽになつた財布さいふなかつま視線しせんおもうかべながら、その出來心できごころすこ後悔こうくわいしかけてゐた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
彼女かのぢよ小使部屋こづかひべやまへとほりかゝつたときおほきな炭火すみびめうあかえる薄暗うすくらなかから、子供こどもをおぶつた内儀かみさんがあわてゝこゑをかけた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
機械きかいとどろき勞働者ろうどうしや鼻唄はなうた工場こうばまへ通行つうかうするたびに、何時いつも耳にする響と聲だ。けつしておどろくこともなければ、不思議ふしぎとするにもらぬ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
西尾にしをからひがしして小僧こぞう皆身みなみため年季奉公ねんきぼうこうと、東西南北とうざいなんぼくで書いてると、おまへ親父おやぢがそれをくにへ持つてつて表装へうさうを加へ
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして二まい大畫たいぐわ今日けふ所謂いはゆ大作たいさく)がならべてかゝげてあるまへもつと見物人けんぶつにんたかつてる二まい大畫たいぐわはずとも志村しむらさく自分じぶんさく
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
たつかみなりのようなものとえた。あれをころしでもしたら、このほういのちはあるまい。おまへたちはよくたつらずにた。ういやつどもぢや」
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
大久保おほくぼ出発しゆつぱつしてからもなく、彼女かのぢよがまたやつてた。そのかほつてあかるくなつてゐた。はなしまへよりははき/\してゐた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
まへ内外ないがい火山かざん巡見じゆんけんした場合ばあひ記事きじかゝげていたが、諸君しよくん兩方りようほう比較ひかくせられたならば、國内こくない火山作用かざんさようがいしておだやかであつて
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
わたしぢやない!おまへだ!——でもわたしぢやない、甚公じんこうりてくんだ——さァ甚公じんこう旦那だんなつたよ、おまへ煙突えんとつりてけッて!
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ヂュリ よるといふ假面めんけてゐればこそ、でなくばはづかしさにこのほゝ眞赤まっかにならう、今宵こよひうたことをついおまへかれたゆゑ。
それに龍造寺(漁山)其他の諸士が、いづれも裃で並んでゐるまへで、九華が家臣某に扮して『屋嶋』の仕舞を見せるので有つた。
硯友社と文士劇 (新字旧仮名) / 江見水蔭(著)
末男すゑを子供こどもきながら、まちと一しよ銀座ぎんざあかるい飾窓かざりまどまへつて、ほしえる蒼空あをそらに、すきとほるやうにえるやなぎつめた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
玄竹げんちく其方そちつたのは、いつが初對面しよたいめんだツたかなう。』と、但馬守たじまのかみからさかづき玄竹げんちくまへして、銚子てうしくちけながらつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「ほんとさ。おまへさん。」おとよは首を長くのばして、「私の僻目ひがめかも知れないが、じつはどうも長吉ちやうきち様子やうすが心配でならないのさ。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まへにもべたやうに、金解禁きんかいきん準備中じゆんびちうに、海外かいぐわいから思惑投機おもわくとうきごときは、その巨額きよがくならざることもおよあきらかになつてることであるから
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
「こんなに年老としよるまで、自分じぶんこづゑで、どんなにお前のためにあめかぜをふせぎ、それとたゝかつたかれない。そしておまへ成長せいちやうしたんだ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
かれらはまた、日輪に或ひはうしろ或ひはまへより秋波しうはをおくる星の名を、わがかく歌の始めにうたふかの女神めがみより取れり 一〇—一二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
やまなつらしくなると、すゞおときこえるやうにります。御嶽山おんたけさんのぼらうとする人達ひとたち幾組いくくみとなく父さんのおうちまへとほるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『戀塚とは餘所よそながらゆかしき思ひす、らぬまへの我も戀塚のあるじなかばなりし事あれば』。言ひつゝ瀧口は呵々から/\と打笑へば、老婆は打消うちけ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
英米人えいべいじんまへには「ジヤパン」とせうし、佛人ふつじんへば「ジヤポン」ととなへ、獨人どくじんたいしては「ヤパン」といふはなんたる陋態ろうたいぞや。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
A どうも永々なが/\御馳走樣ごちそうさま葉書はがきはじまつた御縁ごえんだから毎日まいにちまいづつの往復わうふくぐらゐあたまへだね。しかなにしろ葉書はがきといふやつ面白おもしろいものだね。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
あけて内より白木しらきはこ黒塗くろぬりの箱とを取出し伊賀亮がまへへ差出す時に伊賀亮は天一坊に默禮もくれいうや/\しくくだんはこひもとき中より御墨附おんすみつきと御短刀たんたうとを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
奈何どうでもい……。』と、アンドレイ、エヒミチは體裁きまりわるさうに病院服びやうゐんふくまへ掻合かきあはせて、さも囚人しうじんのやうだとおもひながら
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
五百年ごひやくねん千年せんねんまへうたほうが、自分じぶんたちのものよりはるかにあたらしく、もつと/\熱情ねつじようこもつてゐるといふことに、みんなこゝろづくようになりました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
此故このゆゑ当世たうせい文学者ぶんがくしやくち俗物ぞくぶつ斥罵せきばする事すこぶはなはだしけれど、人気じんきまへ枉屈わうくつして其奴隷どれいとなるはすこしもめづらしからず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
日本贔屓びいきの男で、十七年まへに一度日本へ来たが、今度も六十歳を越えた老人の身を気遣つて娘が見合せよと云つたにかゝはらず出掛けたと云つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「それは漢字かんじばかりでいたほんで、おまへにはまだめない」とふと、かさねて「どんなこといてあります」とふ。
寒山拾得縁起 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
また此短針このたんしんと十とのあひだ半過なかばすぎて十はう近寄ちかより、長針ちやうしんすゝんで八ところきたればこれを十まへ二十分時ぶんじと云ふ。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
まへにもいへるごとくちゞみは手間賃てまちんろんぜざるものゆゑ、がおりたるちゞみは初市に何程なにほどうりたり、よほど手があがりたりなどいはるゝをほまれとし
こんなふうはなしをしてゐたら、おしまひには喧嘩けんくわになつてしまひませう。ところが喧嘩けんくわにならないまへに、一ぴきかへるみづなかからぴよんとしてました。
お母さん達 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
『おい、ペンペ、下界したろ。すばらしい景色けしきじやないか。おまへなんぞこゝらまでんでたこともあるまい。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
だがおれは期待きたいする、おほくのおまへ仲間なかまは、やがてじうを×(20)に×(21)ひ、けんうしろに×(22)
ねこふことは不道徳ふだうとくだと觀念かんねんしてゐる、だからこのあいらしい純情じゆんぜうなおまへつてやるわけにはかない。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
ゆゑ彌子びしおこなひいまはじめかはらざるに、まへにはけんとせられて、のちにはつみものは、(一〇九)愛憎あいぞう至變しへんなり
それでもすつかり手拭てぬぐひまへまでつて、いかにもおもつたらしく、ちよつとはな手拭てぬぐひしつけて、それからいそいでめて、一目いちもくさんにかへつてきました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
中村鴈治郎が、北陽しんち芸妓げいこ喜代治と、だらしのない恋をしてゐるのは、鴈治郎自身のまへによると、いつ迄も色気を無くさないで、若くありたい為めの事らしい。
例へば、明治廿三年二月廿三日夜より廿四日。盛華院清阿妙浄善大姉三回忌仏事献立控の廿四日十二人まへくだりに、平(かんぴよう。いも。油あげ。こんにやく。むきたけ)
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
あと答へて、とびのごとくの一三〇化鳥けてうかけ来り、まへしてみことのりをまつ。院、かの化鳥にむかひ給ひ、何ぞはやく重盛がいのちりて、雅仁まさひと清盛きよもりをくるしめざる。化鳥こたへていふ。
其建物そのたてものをいへば松田まつだ寿仙じゆせん跡也あとなり常磐ときは萬梅まんばい跡也あとなり今この両家りやうけにんまへ四十五銭と呼び、五十銭と呼びて、ペンキぬり競争きやうそう硝子張がらすはり競争きやうそうのきランプ競争きやうそう火花ひばならし候由そろよしそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
おそらく兩方りやうほうならん。交換こうくわんの方法コロボックル先づ何品かをたづさきたりアイヌの小家のり口又はまどまへに進み此所にてアイヌの方より出す相當そうとうしなと引きへにせしものなりとぞ。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)