なつ)” の例文
なつになると、しろくも屋根やねうえながれました。おんなは、ときどき、それらのうつりかわる自然しぜんたいして、ぼんやりながめましたが
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
眞中まんなかには庭園ていえんがあり、噴水ふんすいえずみづし、あたりには青々あを/\しげつた庭木にはきゑてあり、あつなつでもすゞしいかんじをあた
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
下谷したや團子坂だんござか出店でみせなり。なつ屋根やねうへはしらて、むしろきてきやくせうず。時々とき/″\夕立ゆふだち蕎麥そばさらはる、とおまけをはねば不思議ふしぎにならず。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やまなつらしくなると、すゞおときこえるやうにります。御嶽山おんたけさんのぼらうとする人達ひとたち幾組いくくみとなく父さんのおうちまへとほるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
上機嫌に、なにもかもいっしょくたに、ひとりでうけ答えしながら、庭に向いた風とおしのいいなつ座敷へ通すと、せっかちに手を鳴らして
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
れがすゞしいなつをんなをとこときには毎日まいにちあせよごやすいさうしてかざりでなければらぬ手拭てぬぐひ洗濯せんたくひまどるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
みぎごとくし三月四月五月をはるとし、六月七月八月をなつとし、九月十月十一月をあきとし、十二月一月二月をふゆとするなり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
はる若葉わかば新緑しんりよくもりうつくしさとともに、なつ濃緑こみどりがすんだのちあきはやし紅葉もみぢ景色けしきも、いづれおとらぬ自然しぜんほこりです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
丁度ちょうどなつのことでございましたから、小供こどもほとんどいえ内部なかるようなことはなく、海岸かいがんすないじりをしたり、小魚こざかなとらえたりしてあそびに夢中むちゅう
なつになるとコスモスを一面いちめんしげらして、夫婦ふうふとも毎朝まいあさつゆふか景色けしきよろこんだこともあるし、またへいしたほそたけてゝ、それへ朝顏あさがほからませたこともある。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ときなつ最中もなか自分じぶんはたゞ畫板ゑばんひつさげたといふばかり、なにいてにもならん、ひとりぶら/\と野末のずゑた。かつ志村しむらとも寫生しやせい野末のずゑに。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
詩経しきやうには男子だんししやうとし、或は六雄将軍りくゆうしやうぐんの名をたるも義獣ぎじうなればなるべし。なつしよくをもとむるのほか山蟻やまあり掌中てのひら擦着すりつけふゆ蔵蟄あなごもりにはこれをなめうゑしのぐ。
ゆめからゆめ辿たどりながら、さらゆめ世界せかいをさまよつづけていた菊之丞はまむらやは、ふと、なつ軒端のきばにつりのこされていた風鈴ふうりんおとに、おもけてあたりを見廻みまわした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
毎夜まいよ吾妻橋あづまばしはしだもとに佇立たゝずみ、徃来ゆきゝひとそでいてあそびをすゝめるやみをんなは、梅雨つゆもあけて、あたりがいよ/\なつらしくなるにつれて、次第しだいおほくなり
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
頻繁に行方不明になることに思い当りました——芝伊皿子しばいさらごの荒物屋の娘おなつ下谷竹町したやたけちょうの酒屋の妹おえん、麻布笄町あざぶこうがいちょう御家人ごけにんの娘おこう——、数えてみると
すべからざるにおいてすらおかつ為す、丈夫の本領おのずからかくの如し。名を正し分を明らかにし心すなわち信あり、なつを尊び夷を攘うの義に疑がわんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
むかし、尾張国おわりのくに一人ひとりのお百姓ひゃくしょうがありました。あるあつなつの日にお百姓ひゃくしょうは田のみずまわっていますと、きゅうにそこらがくらくなって、くろくもが出てきました。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いへ間數まかず三疊敷さんでふじき玄關げんくわんまでをれて五間いつま手狹てぜまなれども北南きたみなみふきとほしの風入かぜいりよく、には廣々ひろ/″\として植込うゑこみ木立こだちしげければ、なつ住居すまゐにうつてつけとえて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なつでもおしゅんでも小春こはるでも梅川うめがわでもいい訳であるが、お染という名が一番可憐かれんらしくあどけなく聞える。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三十六ねんなつ水谷氏みづたにしうち望蜀生ぼうしよくせいとも採集さいしふかけて、ゆき圓長寺えんちやうじうら往還わうくわんつてた。道路だうろ遺跡ゐせきあたるので、それをコツ/\りかへしてたのだ。
ところが、このさけのみのことで、諭吉ゆきちだいしっぱいをやりました。なつよるのことでした。大阪おおさかなつはあついので、諭吉ゆきちたちは、まるはだかでねることにしていました。
それは田舎いなかなつのいいお天気てんきことでした。もう黄金色こがねいろになった小麦こむぎや、まだあお燕麦からすむぎや、牧場ぼくじょうげられた乾草堆ほしくさづみなど、みんなきれいなながめにえるでした。
なつはじめのよひのことでした。築地つきぢせいルカ病院びやうゐんにK先生せんせいのおじやうさんをみまひました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
りわたったなつの日、風の夜、ながれる光、星のきらめき、雨風あめかぜ小鳥ことりの歌、虫の羽音はおと樹々きぎのそよぎ、このましいこえやいとわしい声、ふだんきなれている、おと、戸の音
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
わたくしこのみなと貿易商會ぼうえきしやうくわい設立たて翌々年よく/\としなつ鳥渡ちよつと日本につぽんかへりました。其頃そのころきみ暹羅サイアム漫遊中まんゆうちゆううけたまはつたが、皈國中きこくちゆうあるひと媒介なかだちで、同郷どうきやう松島海軍大佐まつしまかいぐんたいさいもとつまめとつてたのです。
それ、ひめせた。おゝ、あのやうなかるあしでは、いつまでむとも、かた石道いしみちるまいわい。戀人こひびとは、なつかぜたはむあそぶあのらちもない絲遊かげろふのッかっても、ちぬであらう。
うしてちひさな子供等こどもたちあつめて、これらの不思議ふしぎ世界せかいゆめ面白おもしろはなしをしたなら、自分じぶんなつ想出おもひで如何いかばかり、おほくの子供こどもよろこばすことだらうかとおも
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
夏麻なつそひく」はなつあさを引く畑畝はたうねのウネのウからウナカミのウに続けて枕詞とした。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかし、もうそのときには、つま身体からだ絶対ぜつたいうごかすことが出来なかつた。さうして、ふたゝなつ私達わたしたちの家にめぐつて来た。いちごは庭一めん新鮮しんせんいろを浮べ出した。桜桃あうたうのき垣根かきねらなつた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
なしけるうち亭主申けるは一昨年のなつ祇園祭ぎをんまつりの時にて候ひしが私し方へ年頃としごろ廿歳ばかりの男と十六七の女中の御武家方ごぶけがたと見ゆる人とまつり見物に登られ二夜泊りて歸られしが其日の晝頃ひるごろ立戻られて大切の印籠いんろう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのちよ金が二十円あまりになつた中學二年生のなつ
なつがきてはないた、ちひさいほそ石竹せきちく釣鐘艸つりがねさう
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なつ山百合やまゆり難波薔薇なにはばらにほのめきぬ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
なつ八月はちぐわつ良夜あたらよに乘つきつて。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
荒磯ありそほとり、なつ
友に (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
いまなつはじめとて
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
北邙ほくぼうの草野、なつ茫々ぼうぼう
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄海灘げんかいなだなつくも
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
なつのはじめの時分じぶんには、どんなに、自分じぶんたちはたのしかったろう。このあたりは、自分じぶんたちのほがらかにうたうたこえでいっぱいであった。
雪くる前の高原の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
金銀きんぎん珠玉しゆぎよくたくみきはめ、喬木けうぼく高樓かうろう家々かゝきづき、花林曲池くわりんきよくち戸々こゝ穿うがつ。さるほどに桃李たうりなつみどりにして竹柏ちくはくふゆあをく、きりかんばしくかぜかをる。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しなやうやあきなひおぼえたといつてたのはまだなつころからである。はじめはきまりがわるくて他人たにんしきゐまたぐのを逡巡もぢ/\してた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
半蔵夫婦の間にはおなつという女の子も生まれたが、わずか六十日ばかりでその四番目の子供はくなったころだ。お民の顔色もまだ青ざめている。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
年中ねんじゆうゆきとざされてゐた山頂さんちようなつて、ゆきけると、すぐそのしたには可憐かれんくさめるばかりにでます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
月のいいなつばんでした。牛若うしわか腹巻はらまきをして、その上にしろ直垂ひたたれました。そして黄金こがねづくりのかたなをはいて、ふえきながら、五条ごじょうはしほうあるいて行きました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
役者やくしゃくにはな』(出板年次不詳)『絵本舞台扇えほんぶたいおうぎ』(明和七年板色摺三冊)その続編(安永七年板色摺二冊)ならびに『役者やくしゃなつ富士ふじ』(安永九年板墨摺一冊)等なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日當ひあたりのわるうへに、とひから雨滴あまだればかりちるので、なつになると秋海棠しうかいだう一杯いつぱいえる。そのさかりなころあをかさなりつて、ほとんどとほみちがなくなるくらゐしげつてる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この某町ぼうまちから我村落わがそんらくまで七車道しやだうをゆけば十三大迂廻おほまはりになるので我々われ/\中學校ちゆうがくかう寄宿舍きしゆくしやから村落そんらくかへときけつしてくるまらず、なつふゆ定期休業ていききうげふごとかなら
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
なつならば、すいとびだすまよほたるを、あれさちなと、団扇うちわるしなやかなられるであろうが、はやあきこえ垣根かきねそとには、朝日あさひけた小葡萄こぶどうふさ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
あるとしなつはじめやかたもり蝉時雨せみしぐれ早瀬はやせはしみずのように、かまびずしくきこえている、あつ真昼過まひるすぎのことであったともうします——やかた内部うちっていたような不時ふじ来客らいきゃく
たびをするんですな。わたしは、このなつ旅行りょこうをやりますが、いっしょにいかがです。わたしも道づれをひとりほしいところだ。あなたはわたしの影になって同行どうこうしてください。