をり)” の例文
あはれ新婚しんこんしきげて、一年ひとゝせふすまあたゝかならず、戰地せんちむかつて出立いでたつたをりには、しのんでかなかつたのも、嬉涙うれしなみだれたのであつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
云掛る人など有て五月蠅うるさくも腹立敷だたしきをりも有ども何事も夫の爲且はなさけある亭主への恩報おんはうじと思へば氣を取直とりなほして宜程よきほどにあしらひつゝ月日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
またかや此頃このごろをりふしのお宿とまり、水曜會すゐようくわいのお人達ひとたちや、倶樂部ぐらぶのお仲間なかまにいたづらな御方おかたおほければれにかれておのづと身持みもちわるたま
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すぐに庫裏くり玄関先げんくわんさきあゆると、をりよく住職ぢゆうしよくらしい年配ねんぱいばうさんがいまがた配達はいたつされたらしい郵便物いうびんぶつながらつてゐたので
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
仕舞しまひにはあしいたんでこしたなくなつて、かはやのぼをりなどは、やつとのこと壁傳かべづたひに身體からだはこんだのである。その時分じぶんかれ彫刻家てうこくかであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたしあがつて、をりからはこばれて金盥かなだらひのあたゝな湯氣ゆげなかに、くさからゆるちたやうななみだしづかにおとしたのであつた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
かくてたがひにいつっつのをりから、おひ/\多人數たにんず馳加はせくははり、左右さいふわかれてたゝかところへ、領主とのえさせられ、左右さうなく引別ひきわけ相成あひなりました。
善は急げと、其日すぐお由の家に移転うつつた。重兵衛の後にいて怖々おづおづ入つて来る松太郎を見ると、生柴なましば大炉おほろをりべてフウフウ吹いてゐたお由は、突然いきなり
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
をりふしわらべが外より垣をやぶりて入りたるそのあなより両人くゞりいでしは、これも又可笑をかしき一ツにてぞありし。
これでみなさんもやまかんするいろ/\なことをおぼえられたので、をりがあつたらたかやまにものぼつて實際じつさいについてられると、一層いつそう興味きようみがあるでせう。——(終)——
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
少時しばらくすると由三は、薄茶のクシャ/\となツた中をりを被ツて、紺絣こんがすり單衣ひとへの上に、たけも裄も引ツつまツた間に合せ物の羽織を着て、庭の方からコソ/\と家を出た。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しかし、いろ/\あはせて、もう千まいを數へる印畫いんぐわのアルバムを時をり繰眺くりながめるのは、たのし愉快ゆくわいである。
をりや箱に貼つてある菓子の名を記した小紙片、謂はば菓子の名札であるところの物、美しい絵や模様を描いた包み紙、箱の中に添へてある絵画詩歌などを書いた小箋。
菓子の譜 (新字旧仮名) / 岩本素白(著)
猶且やはり毎朝まいあさのやうにあさ引立ひきたたず、しづんだ調子てうし横町よこちやう差掛さしかゝると、をりからむかふより二人ふたり囚人しうじんと四にんじゆうふて附添つきそふて兵卒へいそつとに、ぱつたりと出會でつくわす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ふと、あるひわらひとがあるかもれぬ。が、それ秘密ひみつがなかつたをりのことで、つたら、それこそ大事だいじだ。わたしむし此不安このふあんすために、そつと四畳半でふはん忍込しのびこんだ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
博士はそのをり鯛の塩焼をつゝついてゐたが、吃驚びつくりして箸を持つた儘女中の顔を見た。女中は笑つたら所得税でも掛るやうに、両手を膝の上に重ねて、ちやんと済ましてゐる。
をりしもあいちやんは、大廣間おほびろま屋根やねあたまちました。實際じつさいあいちやんはいましやく以上いじやう身長せいたかくなつたので、ぐにちひさな黄金こがねかぎげ、花園はなぞの入口いりくちいそいできました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
仲善なかよしのぞうくまとは、をりふし、こんなかなしいはなしをしてはおたがひの不幸ふしあはせなげきました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
をりふし鵞鳥がてうのやうなこゑうたうた調しらべは左迄さまで妙手じやうずともおもはれぬのに、うた當人たうにん非常ひじやう得色とくしよくで、やがて彈奏だんそうをはると小鼻こばなうごめかし、孔雀くじやくのやうにもすそひるがへしてせきかへつた。
ヌエは内衣嚢うちがくしから白耳義ベルジツクの雑誌に載つた自分の詩の六ペイジをりの抄本を出してこれを読んでれと云つた。日本とちがつて作物さくぶつが印刷されると云ふ事は欧洲の若い文人に取つて容易で無い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
きみはあれから奥州あうしう塩竈しほがままでつたか、相変あひかはらず心にけられて書面しよめんおくられて誠にかたじけない、丁度ちやうど宴会えんくわいをりきみ書状しよじやうとゞいたから、ひらおそしと開封かいふうして読上よみあげた所が、みんな感服かんぷくをしたよ
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼女かれは、それをじつとつめてゐると、また昔處女むかしゝよぢよであつたをりに、やまひめにつねさびしかつた自分じぶんこゝろ思出おもひだしたのであつた。まちあしは、十六のをはころからひとなみにすはることが出來できなかつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
うまいをりがなくて、牛込見附まで來ると、下度引越車が通りかゝつた。
はかなしやかすみのころもたちしまに花のひもとくをりも来にけり
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
炎燄ほむらをりから、將軍しやうぐん此度このたび桃太もゝた
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
をりから、従弟いとこ当流たうりうの一とゝもに、九州地しうぢ巡業中じゆんげふちう留守るすだつた。細君さいくんが、その双方さうはうねて見舞みまつた。の三めのときことなので。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
せんものと思ひ居たりしをりから不※目違めちがひの品を買込かひこみみす/\損毛をなせしが始にて二三度打續うちつゞき商ひの手違てちがひより松右衞門は心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其のをり私達は船長がこの小さな帆前船ほまへせんあやつつて遠く南洋まで航海するのだといふ話を聞き、全くロビンソンの冒険談を読むやうな感に打たれ
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
はてれでも此姿このすがたなにとして見覺みおぼえがあるものかと自問自答じもんじたふをりしも樓婢ろうひのかなきりごゑに、いけはたから車夫くるまやさんはおまへさんですか。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
風にさからつてげたをりふたしろく舞ひ戻つた様に見えた時、三四郎は飛んだ事をしたのかと気が付いて、不途ふと女の顔を見た。顔は生憎あいにく列車のそとに出てゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
をりふしわらべが外より垣をやぶりて入りたるそのあなより両人くゞりいでしは、これも又可笑をかしき一ツにてぞありし。
そして本くわ二三年の時分には百五十てんにまでせりのぼつて、球突塲たまつきば常連ぜうれんでも大關格せきかくぐらゐになつたが、何としてもそのをり々の分に左右され勝ちな分の本せいあらそへなかつた。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ぐわつすゑかたえがてなりしゆきも、次第しだいあとなくけた或夜あるよ病院びやうゐんにはには椋鳥むくどりしきりにいてたをりしも、院長ゐんちやう親友しんいう郵便局長いうびんきよくちやう立歸たちかへるのを、門迄もんまで見送みおくらんとしつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
をりしく、橘仙氏はすつかり燭台の一件を忘れてしまつてゐたので変な顔をした。そしてその日の夕方やつとそれを思ひ出したので、態々わざ/\相国寺の方へ向いて、声を出して笑つた。
その方法てだてぢゃが……おゝ、害心がいしんよ、てもはやはひってをるなア、絶望ぜつばうしたものむねへは!……おもすはあの藥種屋やくしゅや……たしか此邊このあたりんでゐるはず……いつぞやをりは、襤褸つゞれ
それから談話はなしにはまた一段いちだんはないて、日永ひながの五ぐわつそらもいつか夕陽ゆうひなゝめすやうにあつたので、わたくし一先ひとま暇乞いとまごひせんとをりて『いづれ今夜こんや弦月丸げんげつまるにて——。』とちかけると
をりをりあいちやんはすこしくはなれていけなかなにかゞ水音みづおとてゝるのをきつけなんだらうかとおもひつゝそばへ/\とおよいできました。はじあいちやんは、それが海象かいざう河馬かばちがひないとおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
紙入の下には、八つに疊んだ眞新しい手拭と、一とをりふところ紙。
前刻さつきすがさんにつたときわたしをりしもあかインキで校正かうせいをしてたが、組版くみはん一面いちめん何行なんぎやうかに、ヴエスビヤス、噴火山ふんくわざん文宇もんじがあつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぎたる紅葉もみぢにはさびしけれど、かき山茶花さゞんかをりしりかほにほひて、まつみどりのこまやかに、ひすゝまぬひとなきなりける。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
助かりあまつさへ廿兩といふ金子を御惠下おめぐみくだされし御庇蔭おかげを以て今日まで存命仕つる事千萬有難く存じ奉つり候然るに彼のをり國元くにもと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
をりからかしボート桟橋さんばしにはふなばた数知かずしれず提燈ちやうちんげた凉船すゞみぶねもなくともづないてやうとするところらしく、きやく呼込よびこをんなこゑが一そう甲高かんだか
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
わたくしをりがあれば、御わびをしてげます。それ迄は今迄通り遠慮して入らつしやる方がう御座います。……
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
○さて此娘、 尊用なりとていそぎのちゞみをおりかけしに、をりふし月水ぐわつすゐになりて 御機屋はたやに入る事ならず。
その後もなく、ちやうど三うらさき宿屋やどや滯在たいざい中に訃音にせつした時、わたしはまだあまりにまざまざしいそのをり印象いんせうおもひ出させられるだけに、哀悼あいとう持も一そう痛切つうせつだつた。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
をりしもモイセイカはそとからかへきたり、其處そこ前院長ぜんゐんちやうのゐるのをて、すぐのば
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
人目ひとめくるは相身互あひみたがひ、浮世うきようるさおもをりには、身一みひとつでさへもおほいくらゐ、あなが同志つれはずともと、たゞもうおのこゝろあとをのみうて、人目ひとめくる其人そのひとをば此方こちらからもけました。
をりからはるかのおきあたつて、小山こやまごと數頭すうとう鯨群くじらのむれは、うしほいておよいでた。
しかるにかねてより斥候せきこうの用にてむためならきたる犬の此時このときをりよくきたりければ、かれを真先に立たしめて予は大胆だいたんにも藪にれり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なにれはれたものだ、うやつてうするとひながら急遽あわたゞしう七尻端しりはしをりて、其樣そんゆわひつけなんぞよりれが夾快さつぱりだと下駄げたぐに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)