かたち)” の例文
やがて大きなつめでひっかくようなおとがするとおもうと、はじめくろくもおもわれていたものがきゅうおそろしいけもののかたちになって
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そのはなは、のめずりたおれた老人ろうじん死体したいを、わらつておろしているというかたちで、いささかひとをぞつとさせるような妖気ようきただよわしている。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
このみつつのかたちうたを、のちには、片歌かたうたといつてゐます。これは、うた半分はんぶんといふことでなく、完全かんぜんでないうたといふことであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
さく年の初夏しよか兩親れうしんの家から別居べつきよして、赤坂區さかく新町に家を持ち、馴染なじみのその球突塲たまつきばとほくなるとともにまたほとんどやめたやうなかたちになつた。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
泥濘ぬかるみ捏返こねかへしたのが、のまゝからいて、うみ荒磯あらいそつたところに、硫黄ゆわうこしけて、暑苦あつくるしいくろかたちしやがんでるんですが。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けれど、わたし仕事しごとはけっして、最後さいごに、あのてつなかたからのように、かたちもなく、むだとなってしまうことは、ないであろうとしんじます。
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
(雷と夕立はをんさいのからくり也)雲は地中ちちゆう温気をんきよりしやうずる物ゆゑに其おこかたち湯気ゆげのごとし、水をわかし湯気ゆげたつと同じ事也。
いま苦勞くらうこひしがるこゝろづべし、かたちよくうまれたる不幸ふしやはせ不相應ふさうおうゑんにつながれていくらの苦勞くらうをさすることあはれさのまされども
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
殊更ことさら強く聞きかえした。向きあうと、かならずこういうかたちになる夫婦なのである。主水は狐拳きつねけんでもしているようだと思うことがある。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ところがだん/\進歩しんぽするにしたがつて石塊いしころ多少たしよう細工さいくくはへ、にぎつてものこわすに便利べんりかたちにこしらへるようになりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
𤍠あついところからさむ地方ちほうくにつれて、そこに生育せいいくしてゐる樹木じゆもく種類しゆるいおよ森林しんりんかたち各々おの/\ことなつてゐる、とはいまはおはなししました。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
其處そこ乘組人のりくみにん御勝手ごかつて次第しだい區劃くくわく彈藥だんやく飮料いんれう鑵詰くわんづめ乾肉ほしにく其他そのほか旅行中りよかうちう必要品ひつえうひんたくわへてところで、固定旅櫃こていトランクかたちをなしてる。
手拭てぬぐひひたたびちひさな手水盥てうずだらひみづつきまつたかげうしなつてしばらくすると手水盥てうずだらひ周圍しうゐからあつまやう段々だん/\つきかたちまとまつてえてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
糟谷獣医かすやじゅういは、去年のしつまってから、この外手町そとでまちしてきた。入り口は黒板くろいたべいの一部をりあけ、かたちばかりという門がまえだ。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
笹野新三郎に別れて、八丁堀の往來へ出ると、ポンと彈き上げたのは、例の錢占ぜにうらなひの青錢、落ちて來るのを平掌ひらてに受けて開くと、それがかたち
たゝみまであつくなつた座敷ざしき眞中まんなか胡坐あぐらいて、下女げぢよつて樟腦しやうなうを、ちひさな紙片かみぎれけては、醫者いしやれる散藥さんやくやうかたちたゝんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
幼児ほどかたちの上から物を鵜呑うのみにするものはない。そうしてその鵜呑みにしたことを、よいこととして守ってゆくものはない。
たましいの教育 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
はなれさうではなれないつばめむれは、細長ほそながかたちになつたり、まるかたちになつたりして、むらそらたかいところをそろつてつてます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そのかたちきわめて醜怪なるものなりき。女の婿むこの里は新張にいばり村の何某とて、これも川端の家なり。その主人ひとにその始終しじゅうを語れり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夜になってから、母親は巾着きんちゃくの残りの銭をじゃらじゃら音をさせながら、かたちばかりの年越しをするために町に買い物に行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
よくも女の手一ツにて斯樣かやうに御育養そだて有れしぞしかし其後は御亭主ていしゆも定めてお出來なされたであらうに今日はいづれへかお出かけにやと言へばお光はかたち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やう/\あきらかなかたちとなつて彼女かのぢよきざした不安ふあんは、いやでもおうでもふたゝ彼女かのぢよ傷所きずしよ——それは羞耻しうち侮辱ぶじよくや、いかりやのろひや
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
あざむくに詞なければ、じつをもてぐるなり。必ずしもあやしみ給ひそ。吾は九三陽世うつせみの人にあらず、九四きたなきたまのかりにかたちを見えつるなり。
依つてスサノヲの命はその孃子おとめくしかたちに變えて御髮おぐしにおしになり、そのアシナヅチ・テナヅチの神に仰せられるには
たとひ家屋かおく倒伏とうふくすることがあつても、小屋組こやぐみだけはもとのまゝのかたちをして地上ちじよう直接ちよくせつ屋根やねあらはすことは、大地震だいぢしん場合ばあひ普通ふつう現象げんしようである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
水面からそこへうつったのが極度きょくどの力であったろう。やぐらの上をはなれると、さすがに強い猛鷲もうしゅうも、むしろくわえている重量じゅうりょうに引かれこんでゆくかたち
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに、こちらでは、真実ほんとう精神統一せいしんとういつはいれば、人間にんげんらしい姿すがたせて、そばからのぞいても、たったひとつのしろっぽいたまかたちしかえませぬ。
翁の臨終りんじゅうには、かたちに於て乃木翁に近く、精神に於てトルストイ翁に近く、而していずれにもない苦しみがあった。然し今はつまびらかに説く可き場合でない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
およしん化物ばけものといふものは、何處どこ部分ぶぶんはなしても、一しゆ異樣いやう形相げうさうで、全體ぜんたいとしては渾然こんぜんしゆまとまつたかたちしたものでなければならない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
御主意ごしゆい御尤ごもつともさふらふ唱歌しやうかおもまりさふらふあさましいかな教室けうしつさふらふしたがつてこゝろよりもかたちをしへたく相成あひなかたむ有之これあり以後いご御注意ごちゆうい願上候ねがひあげさふらふ
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かゞやかしかつたかれ文壇的運命ぶんだんてきうんめいが、やうやくかげりかけようとしてゐたところで、かれもちよつときづまつたかたちであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
人、死したましい去り、すなわちさらにかたちを受く。父子因縁ありて居に会す。たとえば寄客ききゃくてば、すなわち離散するごとく、愚迷ぐめい縛著ばくちゃくして、己のゆうとなす。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
狂画葛飾振の図中には痩細やせほそりしあし、肉落ちたる腕、聳立そばだちたる肩を有せる枯痩こそうの人物と、かたちくずるるばかり肥満し過ぎたる多血質の人物との解剖を見るべく
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
(三六)かうきよき、(三七)かたちそむいきほひきんずれば、すなはおのづかめにけんのみいまりやうてう相攻あひせむ。輕兵けいへい鋭卒えいそつかならそとき、(三八)老弱らうじやくうちつかれん。
かねて支度したくしてあつたお輿こしせようとなさると、ひめかたちかげのようにえてしまひました。みかどおどろかれて
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
本尊の阿弥陀様の御顔おかほは暗くて拝め無い、たヾ招喚せうくわんかたち為給したまふ右の御手おてのみが金色こんじきうすひかりしめし給うて居る。貢さんは内陣を出て四畳半の自分の部屋にはいつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
己の思っている人物は地平線の方に行って山になってしまいそうなかたちに相違ない。(間。)それから、も一つこんな絵の事を話したっけ。画題は基督キリストというのだ。
とゞろく胸をおさへつゝ、朱雀すざくかたに來れば、向ひよりかたちみだせる二三人の女房の大路おほぢを北に急ぎ行くに、瀧口呼留めて事の由を尋ぬれば、一人の女房立留りて悲しげに
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
こひしい、なつかしい、ヂュリエット、なんとして今尚いまなうも艶麗あてやかぢゃ? しやかたちのない死神しにがみそなた色香いろかまようて、あのほねばかりの怪物くわいぶつめが、おの嬖妾おもひものにしようために
運命うんめい人間にんげんかたちきざめり、境遇けふぐう人間にんげん姿すがたつくれり、不可見の苦繩人間の手足を縛せり、不可聞の魔語人間の耳朶を穿てり、信仰しんこうなきのひと自立じりつなきのひと寛裕かんゆうなきのひと
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
「どうしてわかるのか。」「無相三昧、かたち満月の如くなるを以て、仏性の義廓然かくねんとして虚明こめいなり。」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
加之それにまへ諸氏しよし發掘はつくつしたのは、畑中はたなかつかかたちしてところで、それはいまひらかれてかたちめぬ。
最初さいしよドードてうは、いついて競爭レース進路コースさだめました、(「かたち正確せいかくでなくてもかまはない」とドードてうひました)それから其處そこた一たいのものがみン
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ずっと前に源俊頼としよりの『散木奇歌集さんぼくきかしゅう』九に、内わたりに夜更けてあるきけるに、かたちよしといわれける人の打ち解けてしとしけるを聞きてしわぶきをしたりければ恥じて入りにけり
〔譯〕理はかたち無し。形無ければ則ち名無し。形ありて後に名有り。既に名有れば、則ち理之を氣と謂ふも、不可無し。故に專ら本體ほんたいを指せば、則ち形後けいごも亦之を理と謂ふ。
磨製石斧ませいいしおのの中には石材の撰擇せんたく、形状の意匠いせう、明かに美術思想びじゆつしそう發達はつたつを示すもの有り、石鏃せきぞく中にも亦實用のみを目的もくてきとせずしていろかたちと云ひじつに美を極めたるもの少からず。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
ものつたことはないが、かほだけはおぼえてゐる天滿與力てんまよりき何某なにがしであることを玄竹げんちくつてゐた。この天滿與力てんまよりき町人ちやうにんからそでしたるのにめうてゐるかたちだけの偉丈夫ゐぢやうふであつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
常に飄然ひようぜんとして、絶えて貴族的容儀を修めざれど、おのづからなる七万石の品格は、面白おもてしろ眉秀まゆひいでて、鼻高く、眼爽まなこさはやかに、かたちきよらあがれるは、こうとして玉樹ぎよくじゆの風前に臨めるともふべくや
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
足のかたちでもこし肉付にくつきでも、またはどうならちゝなら胸なら肩なら、べて何處どこでもむツちりとして、骨格こつかくでも筋肉きんにくでも姿勢しせいでもとゝのツて發育はついくしてゐた。加之それにはだしろ滑々すべ/″\してゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
かく精神は落ち着き、自覚したのちでも化物ばけものかたちがハッキリと目にえいじていた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)