“今(いま)” の例文
佐賀錦(さがにしき)の紙入(かみいれ)から、其(そ)の、ざく/\と銅貨(どうくわ)まじりを扱(あつか)つた、岡田夫人(をかだふじん)八千代(やちよ)さんの紙包(かみづつ)みの、こなしのきれいさを今(いま)でも覺(おぼ)えて居(ゐ)る。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
一年(ねん)じゅうがそうであり、百年(ねん)の間(あいだ)が、そうであったにちがいない。そしてこの山々(やまやま)は、昔(むかし)も、今(いま)も、永久(えいきゅう)にだまっているのでした。
考えこじき (新字新仮名) / 小川未明(著)
ことしは芳之助(よしのすけ)もはや廿歳(はたち)今(いま)一兩年(いちりやうねん)經(へ)たる上(うへ)は公(おほやけ)に夫(つま)とよび妻(つま)と呼(よ)ばるゝ身(み)ぞと想(おも)へば嬉(うれ)しさに胸(むね)をどりて友達(ともだち)の嬲(なぶり)ごとも恥(はづ)かしく
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
能登(のと)の「ワゲシ」は最(もつと)もこれに近(ちか)い音(おん)を有(いう)する鳳(フング)至(シ)の二字(じ)によつて示(しめ)されたのが、今(いま)は「ホーシ」と讀(よ)む者(もの)がある。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
ラプンツェルは、まだ一度(ど)も、男(おとこ)というものを見(み)たことがなかったので、今(いま)王子(おうじ)が入(はい)って来(き)たのを見(み)ると、初(はじ)めは大変(たいへん)に驚(おどろ)きました。
で、その白鳥(はくちょう)は、今(いま)となってみると、今(いま)まで悲(かな)しみや苦(くる)しみにさんざん出遭(であ)った事(こと)が喜(よろこ)ばしい事(こと)だったという気持(きもち)にもなるのでした。
今(いま)は餘波(なごり)さへもない其(その)戀(こひ)を味(あぢ)つけうために! 卿(そなた)の溜息(ためいき)はまだ大空(おほぞら)に湯氣(ゆげ)と立昇(たちのぼ)り、卿(そなた)の先頃(さきごろ)の呻吟聲(うなりごゑ)はまだ此(この)老(おい)の耳(みゝ)に鳴(な)ってゐる。
荒物屋のお今(いま)——今年十七になる滅法可愛らしいのが、祭り衣裳(いしょう)の晴れやかな姿で、湯島一丁目の路地の奥に殺されておりました。
だが、あたしの弱かつたのはお灸のせゐだと今(いま)では思つてゐる。なぜならば、膏汗(あぶらあせ)と精根(せいこん)を五ツ六ツのころから絞(しぼ)りつくしてゐるのだ。
お灸 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
おじいさんは今(いま)まで一人(ひとり)ぼっちで、寂(さび)しくってたまらなかったところですから、声(こえ)を聞(き)くとやっと生(い)き返(かえ)ったような気(き)がしました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
今(いま)敵國(てきこく)深(ふか)く侵(をか)して、邦内(はうない)騷動(さうどう)し、士卒(しそつ)、境(さかひ)に(一七)暴露(ばくろ)す。君(きみ)寢(い)ねて席(せき)を安(やす)んぜず、食(くら)うて味(あぢはひ)を甘(あま)しとせず。百姓(せい)の命(めい)皆(みな)君(きみ)に懸(か)かる。
從(したが)つて私(わたし)は、其(そ)の以前(いぜん)に同郷的愛着(どうきやうてきあいちやく)、同藩的偏見(どうはんてきへんけん)を失(うしな)つたと同(おな)じやうに、今(いま)は次第(しだい)に國民的愛着(こくみんてきあいちやく)、國家的偏見(こくかてきへんけん)を失(うしな)つたのであつた。
今(いま)こそ彼女(かのぢよ)は、亡(な)き夫(をつと)の靈(れい)と純潔(じゆんけつ)な子供(こども)の前(まへ)に、たとへ一時(いつとき)でもその魂(たましひ)を汚(けが)した悔(くゐ)の證(あかし)のために、死(し)ぬことが出來(でき)るやうにさへ思(おも)つた。
悔 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ぴらみっとや古(ふる)い墓(はか)から出(で)たいろ/\の寶物(ほうもつ)が一(いつ)ぱいありまして、今(いま)から四五千年前(しごせんねんまへ)の王樣(おうさま)のみいらも、そのまゝ見(み)ることが出來(でき)ます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
磐梯山破裂(ばんだいざんはれつ)の跡(あと)には大(おほ)きな蒸氣孔(じようきこう)を殘(のこ)し、火山作用(かざんさよう)は今(いま)もなほ盛(さか)んであるが、眉山(まゆやま)の場合(ばあひ)には毫(ごう)も右樣(みぎよう)の痕跡(こんせき)を止(とゞ)めなかつたのである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
先生(せんせい)を訪(と)ふた、翌日(よくじつ)でした、使者(しゝや)が手紙(てがみ)を持(もつ)て來(き)て今(いま)から生徒(せいと)十數名(すうめい)を連(つ)れて遠足(ゑんそく)にゆくが君(きみ)も仲間(なかま)に加(くは)はらんかといふ誘引(さそひ)です。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
濺(そゝ)ぐ涙に哀れを籠(こ)めても、飽くまで世を背に見たる我子の決心、左衞門今(いま)は夢とも上氣とも思はれず、愛(いと)しと思ふほど彌増(いやま)す憎(にく)さ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
𤍠(あつ)いところから寒(さむ)い地方(ちほう)へ行(い)くにつれて、そこに生育(せいいく)してゐる樹木(じゆもく)の種類(しゆるい)及(およ)び森林(しんりん)の形(かたち)が各々(おの/\)異(ことな)つてゐる、とは今(いま)はお話(はなし)しました。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「ふん。昔(むかし)も今(いま)もあるもんじゃねえ。隣近所(となりきんじょ)のこたァ、女房(にょうぼう)がするに極(きま)ッてらァな。行(い)って、こっぴどくやっ付(つ)けて来(き)ねえッてことよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
問『では今(いま)までただお姿(すがた)を見(み)せないという丈(だけ)で、あなた様(さま)は私(わたくし)の狂乱(きょうらん)の状態(じょうたい)を蔭(かげ)からすっかり御覧(ごらん)になっては居(お)られましたので……。』
重(かさ)ね右の趣(おもぶ)きまで願書に認(したゝ)め居たるに加賀屋長兵衞入り來り我等何分(なにぶん)にも取扱ひ候間今(いま)少(すこ)し御待ち下さるべし白子屋方へ能々(よく/\)異見(いけん)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それに、月末(つきずゑ)だつてもう近(ちか)いんだし、何(なに)もそんなあつてもなくつてもいい壁掛(かべかけ)なんかを今(いま)お買(か)ひになることないぢやありませんか
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
私(わたし)今(いま)ゐるところ日本(にほん)の家(いえ)でございます。私(わたし)日本(にほん)の家(うち)が好(す)きでございます。日本(にほん)の西洋家屋(せいようかおく)はお粗末(そまつ)で却(かへつ)て感(かん)じが悪(わる)うございます。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
下(くだ)るわ、/\、/\。流(なが)れは何處(どこ)まで行(い)つても盡(つ)きないのかしら?『今(いま)までに私(わたし)は幾(いく)哩(マイル)落(お)ちたかしら?』と愛(あい)ちやんは聲高(こわだか)に云(い)ひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
動物(どうぶつ)はいつの時代(じだい)にも口をききましたし、今(いま)でもまだ口をきくのです。しかし、鳥(とり)や獣(けもの)は自分のお友だちにしか口をききません。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
私(わたし)も矢(や)つ張(ぱ)りあのSさんのやうに皆(みな)さんにもうお訣(わか)れです、でもね私(わたし)は今(いま)、大(おほ)きな大(おほ)きな丘陵(きうりよう)のやうに、安心(あんしん)して横(よこ)たはつてゐますのよ。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
彼(かれ)は夜(よる)になつても燈(あかり)をも點(つ)けず、夜(よも)すがら眠(ねむ)らず、今(いま)にも自分(じぶん)が捕縛(ほばく)され、獄(ごく)に繋(つな)がれはせぬかと唯(たゞ)其計(そればか)りを思(おも)ひ惱(なや)んでゐるのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すぐに庫裏(くり)の玄関先(げんくわんさき)へ歩(あゆ)み寄(よ)ると、折(をり)よく住職(ぢゆうしよく)らしい年配(ねんぱい)の坊(ばう)さんが今(いま)がた配達(はいたつ)されたらしい郵便物(いうびんぶつ)を見(み)ながら立(た)つてゐたので
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風、永井壮吉(著)
男(おとこ)と女(おんな)の相違(そうい)が、今(いま)は明(あき)らかに袖子(そでこ)に見(み)えてきた。さものんきそうな兄(にい)さん達(たち)とちがって、彼女(かのじょ)は自分(じぶん)を護(まも)らねばならなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのことをお話(はなし)するのには、今(いま)一人(ひとり)、赤人(あかひと)の先輩(せんぱい)とも、先生(せんせい)ともいはなければならない、柿本人麿(かきのもとのひとまろ)のことを申(まを)さねばなりません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
今(いま)しも船首甲板(せんしゆかんぱん)に於(お)ける一等運轉手(チーフメート)の指揮(しき)の下(した)に、はや一團(だん)の水夫等(すいふら)は捲揚機(ウインチ)の周圍(しゆうゐ)に走(は)せ集(あつま)つて、次(つぎ)の一令(れい)と共(とも)に錨鎖(べうさ)を卷揚(まきあ)げん身構(みがまへ)。
「何(なに)しろ小六(ころく)は家(うち)へ來(く)ると極(き)めるより外(ほか)に道(みち)はあるまいよ。後(あと)は其上(そのうへ)の事(こと)だ。今(いま)ぢや學校(がくかう)へは出(で)てゐるんだね」と宗助(そうすけ)が云(い)つた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「おつう等(ら)だつて今(いま)に善(え)えこともあらな、そんだがおつかゞ無(な)くつちや衣物(きもの)欲(ほ)しくつても此(これ)ばかりは仕(し)やうがねえのよな」女房(にようばう)はいつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
家族(かぞく)と共(とも)に能(よ)く遊(あそ)びに行(ゆ)つて居(ゐ)たが、其時(そのとき)に、今(いま)は故人(こじん)の谷活東子(たにくわつとうし)が、畑(はたけ)の中(なか)から土器(どき)の破片(はへん)を一箇(ひとつ)拾(ひろ)ひ出(だ)して、余(よ)に示(しめ)した。
また横井さんのお話の後で、ただ今(いま)申した通り、加えることはないが、すこぶる御同感の点が多い、多いどころではない悉く御同感である。
人格の養成 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼(あ)の可愛(かあい)らしい手を出して膝(ひざ)の下(した)を撫(なで)て遣(や)つて居(ゐ)る、あゝ/\可愛(かあい)い児(こ)だ、今(いま)のう良(よ)い薬(くすり)を遣(や)るよ、……煙草(たばこ)の粉末(こな)ぢやア却(かへ)つて可(い)けない
兎(うさぎ)にたんぽぽをやっていると、用吉君(ようきちくん)が、今(いま)おろすところだよ、といって来(き)たので、遅(おく)れちゃたいへんと、桑畑(くわばたけ)の中(なか)の近道(ちかみち)を走(はし)っていった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
しかし、今(いま)からもう病家(びやうか)廻(まは)りでもあるまいし、自宅(じたく)へ方々(はう/″\)から、火(ひ)のつくやうに迎(むか)への使(つかひ)の來(き)たことを想像(さうざう)して、腰(こし)をもぢ/\さしてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
俗界(ぞくかい)に於(お)ける小説(せうせつ)の勢力(せいりよく)斯(か)くの如(ごと)く大(だい)なれば随(したがつ)て小説家(せうせつか)即(すなは)ち今(いま)の所謂(いはゆる)文学者(ぶんがくしや)のチヤホヤせらるゝは人気(じんき)役者(やくしや)も物(もの)の数(かづ)ならず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵、三文字屋金平(著)
特(こと)に青年輩(せいねんはい)身心(しん/\)發育(はついく)の時代(じだい)にあるものには、今(いま)より此(この)法(はふ)を實行(じつかう)して體力(たいりよく)を培養(ばいやう)し、將來(しやうらい)の大成(たいせい)を謀(はか)る事(こと)、實(じつ)に肝要(かんえう)ならずや。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
「オヤ、おかしいぞ。つい今(いま)し方(がた)まで、あんなものは落ちていなかったのですよ。それに、わたしの家には、あんな型の封筒はなかった筈(はず)だ」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その翌日(あくるひ)、こんな噂(うはさ)がぱつと立(た)ちました。昨日(きのふ)の乞食(こじき)のやうなあの坊(ぼう)さんは、あれは今(いま)、生佛(いきぼとけ)といはれてゐるお上人樣(しやうにんさま)だと。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「四百両か! その時分(じぶん)と今(いま)とは物価が違っているから、四百両では行くまいな。伊東出雲(いとういずも)にきくと、あいつの時は、千二百両かかったそうだ」
吉良上野の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わしは七十(しちじゆう)の阪(さか)を越(こ)して、もういつ命(いのち)が終(をは)るかわからぬ。今(いま)のうちによい婿(むこ)をとつて、心殘(こゝろのこ)りのないようにして置(お)きたい。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
客僅(わずか)に頷(うなず)く、いまだ全く解せざるものの如し。更に語を転じて曰く、我(われ)今(いま)子(し)のために古池の句の歴史的関係を説くべし。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
けれども人形は一向(こう)鳴(な)きませんでした。さあ甚兵衛は弱(よわ)ってしまいました。でも一度(ど)いいだしたことですから、今(いま)さら取消(とりけ)すわけにはゆきません。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
わたしは今(いま)でもこの事(こと)だけは、感心(かんしん)だと思(おも)つてゐるのです。わたしと二十合(がふ)斬(き)り結(むす)んだものは、天下(てんか)にあの男(をとこ)一人(ひとり)だけですから。(快活(くわいくわつ)なる微笑(びせう))
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
小父(おぢ)さんの帰りはとつかはと馬車に乗りて喰(く)はねばならぬ我宿(わがやど)の三膳(ぜん)の冷飯(ひやめし)に急ぎ申候(まうしそろ)。今(いま)や則(すなは)ち如何(いかん)前便(ぜんびん)申上(まうしあ)げ候(そろ)通り、椽端(えんばた)の日向(ひなた)ぼつこに候(そろ)。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
しかし此(この)説明(せつめい)は功(こう)を奏(そう)せなかつた。子供(こども)には昔(むかし)の寒山(かんざん)が文殊(もんじゆ)であつたのがわからぬと同(おな)じく、今(いま)の宮崎(みやざき)さんがメツシアスであるのがわからなかつた。
寒山拾得縁起 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
今(いま)でも世界中(せかいちう)の鴉(からす)の口(くち)の中(なか)には、その時(とき)の火傷(やけど)のあとが真赤(まつか)に残(のこ)つてゐるといふ。人(ひと)に嫌(きら)はれながらも、あの憐(あは)れなペンペのために泣(な)いてゐるのだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)