“近(ちか)” の例文
高窓(たかまど)の障子(しょうじ)の破(やぶ)れ穴(あな)に、風(かぜ)があたると、ブー、ブーといって、鳴(な)りました。もう冬(ふゆ)が近(ちか)づいていたので、いつも空(そら)は暗(くら)かったのです。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
太古(たいこ)遺跡(ゐせき)の發掘(はつくつ)に、初(はじ)めて余(よ)が手(て)を下(くだ)したのは、武藏(むさし)の權現臺(ごんげんだい)である。それは余(よ)の品川(しながは)の宅(たく)から極(きは)めて近(ちか)い、荏原郡(えばらぐん)大井(おほゐ)の小字(こあざ)の事(こと)。
先哲(せんてつ)いはく……君子(くんし)はあやふきに近(ちか)よらず、いや頬杖(ほゝづゑ)で讀(よ)むに限(かぎ)る。……垣(かき)の卯(う)の花(はな)、さみだれの、ふる屋(や)の軒(のき)におとづれて……か。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
お風呂場美術——近(ちか)ごろは街頭から、すぐ、ぢかではないけれど、あの、戸を一枚ガラリとあけると、すぐそこが脱衣場(だついば)はいけない。
春 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
能登(のと)の「ワゲシ」は最(もつと)もこれに近(ちか)い音(おん)を有(いう)する鳳(フング)至(シ)の二字(じ)によつて示(しめ)されたのが、今(いま)は「ホーシ」と讀(よ)む者(もの)がある。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
それが前(まへ)に言(い)つたように人間(にんげん)が多(おほ)くなるにつれて木材(もくざい)がいよ/\多(おほ)く必要(ひつよう)となり、どんどん伐(き)るため、村落(そんらく)に近(ちか)い山(やま)の木(き)はもとより
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
曲(まが)つた社會(しやくわい)の正當防衞(せいたうばうゑい)、腐(くさ)つた世(よ)の中(なか)の大清潔法(だいせいけつはふ)、それらを完全(くわんぜん)に近(ちか)く執行(しつかう)するには、死刑(しけい)を多(おほ)く利用(りよう)するよりほかにないと考(かんが)へた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
調べ方も有ったろうに、えゝ仕様がねえ、何しろ私は外(ほか)に用がありますから、又近(ちか)え内にお尋ね申しやす、時節を待っておいでなさい
すると、椽側に近(ちか)く、ぴしやりと脛(すね)を叩(たゝ)く音(おと)がした。それから、人(ひと)が立つて、奥(おく)へ這入つて行く気色(けしき)であつた。やがて話声(はなしごえ)が聞(きこ)えた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
戸を明くれば、十六日の月桜の梢(こずゑ)にあり。空色(くうしよく)淡(あは)くして碧(みどり)霞(かす)み、白雲(はくうん)団々(だん/″\)、月に近(ちか)きは銀の如く光り、遠きは綿の如く和(やわ)らかなり。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
さも以(に)たり。近(ちか)づく儘(まゝ)に。馨(にほ)ふ香(か)は。そも時(かう)款貨舖(ぐや)の。娘(むすめ)かも。指(ゆび)に挾(はさ)める。香盆(かうばこ)の。何爲(なにこと)なりや。時々(とき/\)に。鼻(はな)に翳(かさ)して。嚊(か)くめるは。
「西周哲学著作集」序 (旧字旧仮名) / 井上哲次郎(著)
吾々(われ/\)は覺醒(かくせい)せりと叫(さけ)ぶひまに、私達はなほ暗の中をわが生命(いのち)の渇(かわ)きのために、泉(いづみ)に近(ちか)い濕(しめ)りをさぐる愚(おろ)かさを繰(く)りかへすのでした。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
これが猿(さる)の方(ほう)に近(ちか)いか、人間(にんげん)の方(ほう)に近(ちか)いかは、議論(ぎろん)があるにしても、とにかく人間(にんげん)と猿(さる)との中間(ちゆうかん)の動物(どうぶつ)といつて差(さ)し支(つか)へはありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
兵營(へいえい)から既(すで)に十里(り)に近(ちか)い行程(かうてい)と、息詰(いきづま)るやうに蒸(む)し蒸(む)しする夜(よる)の空氣(くうき)と、眠(ねむ)たさと空腹(くうふく)とに壓(お)されて、兵士達(へいしたち)は疲(つか)れきつてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
近(ちか)く其例(そのれい)をとるならば、大正十二年(たいしようじゆうにねん)の關東大地震(かんとうだいぢしん)は非局部性(ひきよくぶせい)であつて、大正十四年(たいしようじゆうよねん)の但馬地震(たじまぢしん)及(およ)び昭和二年(しようわにねん)の丹後地震(たんごぢしん)は局部性(きよくぶせい)であつた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
致す事なかれ無禮(ぶれい)は許す傍(そば)近(ちか)く參るべし我は忝(かたじ)けなくも當將軍家吉宗公(よしむねこう)の御落胤(ごらくいん)なり當山中に赤川大膳といふ器量(きりやう)勝(すぐ)れの浪人の有るよしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何よりもまず中世の殻(から)を脱ぎ捨てよと教えたあの本居翁あたりが開こうとしたものこそ、まことの近(ちか)つ代(よ)であると信ずる彼なぞにとっては
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『話(はな)しをしてるのは誰(だれ)か?』王樣(わうさま)が愛(あい)ちやんに近(ちか)づきながら申(まを)されました、それから、さも珍(めづ)らしさうに猫(ねこ)の頭(あたま)を見(み)てお在(ゐ)でになりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
勘次(かんじ)は黄昏(たそがれ)近(ちか)くなつてから獨(ひとり)で草刈籠(くさかりかご)を背負(せお)つて出(で)た。彼(かれ)は何時(いつ)もの道(みち)へは出(で)ないで後(うしろ)の田圃(たんぼ)から林(はやし)へ、それから遠(とほ)く迂廻(うくわい)して畑地(はたち)へ出(で)た。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
後(あと)で神(かみ)さまから伺(うかが)えば、私(わたくし)はそれから十年(ねん)近(ちか)くも眠(ねむ)っていたとのことで、自分(じぶん)ながらわが身(み)の腑甲斐(ふがい)なさに呆(あき)れたことでございました……。
妻(つま)はお光(みつ)と云(い)つて、今歳(ことし)二十になる。何(なに)かと云(い)ふものゝ、綺緻(きりやう)は先(まづ)不足(ふそく)のない方(はう)で、体(からだ)の発育(はついく)も申分(まをしぶん)なく、胴(どう)や四肢(し)の釣合(つりあひ)も幾(ほとん)ど理想(りさう)に近(ちか)い。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
神(かみ)もおはしまさば我家(わがや)の檐(のき)に止(とゞ)まりて御覽(ごらん)ぜよ、佛(ほとけ)もあらば我(わ)が此手元(このてもと)に近(ちか)よりても御覽(ごらん)ぜよ、我(わ)が心(こゝろ)は清(す)めるか濁(にご)れるか。
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
といいながら、一度(ど)振(ふ)りますと背(せい)が一尺(しゃく)のび、二度(ど)振(ふ)りますと三尺(じゃく)のび、三度(ど)めには六尺(しゃく)に近(ちか)いりっぱな大男(おおおとこ)になりました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「成程お午(ひる)だ。」と呟(つぶや)き、「近(ちか)の腹の減(へ)ツたのが當前で、俺(おれ)の方が病的なんだ。一體俺の體は何故(なぜ)此樣(こん)なに弱いのだらう。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
海岸(かいがん)に近(ちか)き山(やま)、山(やま)には松柏(しようはく)茂(しげ)り、其頂(そのいたゞき)には古城(こじやう)の石垣(いしがき)を殘(のこ)したる、其麓(そのふもと)の小高(こだか)き處(ところ)に立(た)つて居(ゐ)るのが大島小學校(おほしませうがくかう)であります。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一つずつ数(かぞ)えたら、爪(つめ)の数(かず)は、百個(こ)近(ちか)くもあるであろう。春重(はるしげ)は、もう一度(ど)糠袋(ぬかぶくろ)を握(にぎ)りしめて、薄気味悪(うすきみわる)くにやりと笑(わら)った。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
帝(みかど)は、天(てん)に一番(いちばん)近(ちか)い山(やま)は駿河(するが)の國(くに)にあると聞(きこ)し召(め)して、使(つか)ひの役人(やくにん)をその山(やま)に登(のぼ)らせて、不死(ふし)の藥(くすり)を焚(た)かしめられました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
和歌(わか)の浦(うら)に潮(しほ)がさして來(く)ると、遠淺(とほあさ)の海(うみ)の干潟(ひがた)がなくなるために、ずっと海岸(かいがん)近(ちか)くに葦(あし)の生(は)えてゐるところをめがけて、鶴(つる)が鳴(な)いて渡(わた)つて來(く)る。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
身長(みのたけ)七尺(しやく)に近(ちか)く、灰色(はいいろ)の毛(け)は針(はり)の如(ごと)く逆立(さかだ)ち、鋭(するど)き爪(つめ)を現(あら)はして、スツと屹立(つゝた)つた有樣(ありさま)は、幾百十年(いくひやくじふねん)の星霜(せいさう)を此(この)深林(しんりん)に棲暮(すみくら)したものやら分(わか)らぬ。
そうしてその神戸埠頭が今はもう視界から去ってしまう頃になると、左舷には淡路島が近(ちか)より、右舷には舞子(まいこ)、明石(あかし)の浜が手に取る如(ごと)く見えて来る。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
橋(はし)の欄干(らんかん)のさして明(あか)からぬ火影(ほかげ)には近(ちか)くの商店(しやうてん)に働(はたら)いてゐる女(をんな)でなければ、真面目(まじめ)な女事務員(をんなじむゐん)としか見(み)えないくらい、巧(たくみ)にその身(み)の上(うへ)を隠(かく)してゐる。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風、永井壮吉(著)
然(しか)し、夫人(ふじん)は氣(き)を鎭(しづ)めて、近(ちか)くにゐる同志(どうし)の婦人達(ふじんたち)を招(よ)び集(あつ)めた。近所(きんじよ)から醫師(いし)も來(き)て、兎(と)も角(かく)應急手當(おふきふてあて)が施(ほどこ)された。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
それは、まだ寒(さむ)い春のはじめで、一番(ばん)の汽車(きしゃ)にのるために、夜(よ)あけ近(ちか)く、山をおりていくいのきちたちの頭(あたま)の上には、星(ほし)がきらきらかがやいていた。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
〔評〕伏水(ふしみ)戰を開き、砲聲(はうせい)大内(おほうち)に聞え、愈激(はげ)しく愈近(ちか)づく。岩倉公南洲に問うて曰ふ、勝敗(しようはい)何如と。南洲答へて曰ふ、西郷隆盛在り、憂ふる勿れと。
索引(さくいん)は五十音(おん)に別(わか)ちたり、読者(どくしゃ)の便利(べんり)の為(た)め正式(せいしき)の仮名(かな)によらず、オとヲ、イとヰ、の類(るい)は皆(み)な近(ちか)きものに入(い)れたり
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
本来宣教師(せんきょうし)にして久しく函館(はこだて)に在(あ)り、ほぼ日本語にも通(つう)じたるを以て仏公使館の訳官となりたるが、これまた政府に近(ちか)づきて利したること尠(すく)なからず。
併(しかし)ながら金解禁(きんかいきん)の如(ごと)きは内外(ないぐわい)の經濟上(けいざいじやう)から見(み)て大問題(だいもんだい)である、然(しか)るに年末(ねんまつ)に段々(だんだん)近(ちか)づくのであるから、年末(ねんまつ)に差迫(さしせま)つて斯樣(かやう)な大問題(だいもんだい)を決行(けつかう)することは
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
帯(おび)もせざる女片手(かたて)に小児(せうに)を背負(せおひ)、提灯(ちやうちん)を提(さげ)て高処(たかきところ)へ逃(にげ)のぼるは、近(ちか)ければそこらあらはに見ゆ、命(いのち)とつりがへなればなにをも恥(はづか)しとはおもふべからず。
場所(ばしょ)は、岡山市(おかやまし)の郊外(こうがい)に近(ちか)いM町(まち)で、被害者(ひがいしゃ)は、四年(ねん)ほど前(まえ)まで質屋(しちや)をやつていて、かたわら高利貸(こうりか)しでもあつたそうだが、目下(もっか)は表向(おもてむ)き無職(むしょく)であつて
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
恁(か)くて又(また)一週間(しうかん)を過(す)ぎ、遂(つひ)にミハイル、アウエリヤヌヰチと共(とも)に郵便(いうびん)の旅馬車(たびばしや)に打乘(うちの)り、近(ちか)き鐵道(てつだう)のステーシヨンを差(さ)して、旅行(りよかう)にと出掛(でか)けたのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
次で最後(をはり)に最(いと)近(ちか)く踊り𢌞(めぐ)る二の群(むれ)は主權(ブリンチパーティ)と首天使(アルカンゼリ)にて、最後(をはり)にをどるは、すべて樂しき天使なり 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
馬鹿(ばか)なペンペは欺(だま)されるとも知(し)らずに、また片方(かたほう)の眼玉(めだま)をたべてしまつた。もう四千メートルに近(ちか)い霧(きり)の中(なか)だ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
「何だネお近(ちか)さん、源三さんに託(かこつ)けて遊んでサ。わたしやお前はお浪さんの世話を焼かずと用さえすればいいのだあネ。サアこっちへ来てもっとお採(と)りよ。」
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鐘(かね)には吉彦(よしひこ)さんがひとりついて、町(まち)の国民学校(こくみんがっこう)の校庭(こうてい)までゆくことになっていた。そこには、近(ちか)くの村々(むらむら)からあつめられた屑鉄(くずてつ)の山(やま)があるということだった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
すると、向(むこ)うでは、この新(あたら)しくやって来(き)た者(もの)をちらっと見(み)ると、すぐ翼(つばさ)を拡(ひろ)げて急(いそ)いで近(ちか)づいて来(き)ました。
学問なりその他の名誉(めいよ)を得て傲(ほこ)る者を見ると、彼奴(きゃつ)も近(ちか)ごろ一円貰(もら)ったばっかりだな、ああいう風(ふう)にやっては明日の日の登る前に形無(かたな)しになるであろうと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あとで、も一人の女中、近(ちか)さんに、聞いたことですが、あの子は郷里にいる頃、女学校を卒業する前後のことでしょうか、ひそかに愛してる男があったようです。
死因の疑問 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
境を定め邦を開きて、近(ちか)つ淡海(あふみ)に制したまひ一二、姓(かばね)を正し氏を撰みて、遠(とほ)つ飛鳥(あすか)に勒(しる)したまひき一三。
あのはんのきの黒(くろ)い木立(こだち)がぢき近(ちか)くに見(み)えてゐて、そこまで戻(もど)るぐらゐ、なんの事(こと)でもないやうでした。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ようござるか? 此(この)早急(さっきふ)に異議(いぎ)はござらぬか? 業々(げふ/\)しうはすまい、ほんの近(ちか)しい輩(やから)一兩名(りゃうめい)、はて、何故(なぜ)と被言(おしゃ)れ、近親(きんしん)チッバルトが殺(ころ)されて間(ま)がないことゆゑ