せき)” の例文
わたくしやうやくほつとしたこころもちになつて、卷煙草まきたばこをつけながら、はじめものうまぶたをあげて、まへせきこしおろしてゐた小娘こむすめかほを一べつした。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ほうぼうからうらやましがるようなこえこった。小泉こいずみは、うれしそうに、またすまなさそうに、自分じぶんせきへもどったのであります。
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「とう/\雪子ゆきこけた」とせきはづして、宗助そうすけはういたが、「うですまた洞窟とうくつへでもみますかな」とつてがつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ところがキッコはせきも一番前のはじで胆取りにしてはあんまり小さく巡査にも弱かったものですからその中にはいりませんでした。
みじかい木ぺん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いま敵國てきこくふかをかして、邦内はうない騷動さうどうし、士卒しそつさかひ(一七)暴露ばくろす。きみねてせきやすんぜず、くらうてあぢはひあましとせず。百せいめいみなきみかる。
吃驚びつくりして、つて、すつとうへくと、かれた友染いうぜんは、のまゝ、仰向あふむけに、えりしろさをおほあまるやうに、がつくりとせきた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
道満どうまん晴明せいめい右左みぎひだりわかれてせきにつきますと、やがて役人やくにんが四五にんかかって、おもそうに大きな長持ながもちかついでて、そこへすえました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
奈美子なみこしろきれあたまをくる/\いて、さびしいかれ送別そうべつせきにつれされて、別室べつしつたされてゐたことなぞも、仲間なかま話柄わへいのこされた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
書記が一人であとのせき占領せんりょうしていた。マチアはかれが御者ぎょしゃに向かって、ベスナル・グリーンへ馬車をやれと言いつけているのを聞いた。
「それじゃきょうじゅうに東京へいけばえい。二、三せき勝負しょうぶしてからでかけてもおそくはない。うまくいってげようたってそうはいかない」
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
呼立る時大岡殿せきを進まれ是迄段々吟味をとげし通り最早其方つみに伏したるやと云れしかば憑司は左右さうおそれぬていにて私し悴を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はいかぶりがこの着物をきて、宴会えんかいせきにあらわれますと、だれもかれもがその美しさにあっとおどろいてしまいました。
光一の胸に憐愍れんびんの情が一ぱいになった。かれは自分の解説があやまっていないかをたしかめるためにひかせきへと急いだ。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
卯平うへいよこたへたむしろたれりにはなかつた。むしろは三にんせきあたへた。勘次かんじ失火しつくわいて與吉よきちから要領えうりやうなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おぼえてるものぞ松澤まつざは若大將わかたいしやうたゝへられてせき上座かみくらまうけられしれすらみすぼらしき此服裝このなりよしやおもておぼえがればとて他人たにん空肖そらに
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はじめてじぶんにかえったようなゆとりが心にわいてきた。せきにおさまると、出席簿しゅっせきぼをもったまま教壇きょうだんをおり
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
だんの上にはせきをまうけて神酒みきをそなへ、此町の長たるもの礼服をつけてはいをなし、所繁昌の幸福をいのる。
するととき鎌倉かまくらのあるところに、能狂言のうきょうげんもようしがありまして、親子おやこにんれでその見物けんぶつ出掛でかけましたおり不図ふと間近まじかせき人品じんぴんいやしからぬ若者わかものかけました。
りのこつなさへせきとほざけられて、なにかしらつたはなしのありさうなのを、玄竹げんちくがかりにおもひつゝ、かぬこし無理むりからけて、天王寺屋てんわうじや米屋よねや
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
いろ/\のあつ待遇もてなしけたのちよるの八ごろになると、當家たうけ番頭ばんとう手代てだいをはじめ下婢かひ下僕げぼくいたるまで、一同いちどうあつまつて送別そうべつもようしをするさうで、わたくしまねかれてそのせきつらなつた。
エー若春わかはるの事で、かへつて可笑をかしみの落話おとしばなしはういと心得こゝろえまして一せきうかゞひますが、わたくしは誠に開化かいくわの事にうとく、旧弊きゆうへいの事ばかりつてりますと、学校がつかう教員けうゐんさんがおでで
西洋の丁稚 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
先生はほかの学科よりも、地理ちりのことをやかましく言うようです。そのとき、先生は教壇きょうだんからおりてきて、ニールスの手からぼうを取りあげると、ニールスをせきにかえしました。
あいちやんは裁判官さいばんくわんせき、それから大急おほいそぎで蜥蜴とかげさかさまにきました。あはれなちひさなものは、まつた自由じゆううごくことが出來できないので、たゞかなしさうに其尾そのをばかりつてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あるいは一せきの歌をいて、その声が善ければその音声のために感情を動かされて、他のことにはなにも眼をくれない、ついに蓄音器ちくおんきの代用たるべき者のために身を誤ったりする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
せきには、昌仙以外にも、人穴城から落ちのびてきた野武士のぶしもあり、あらたに加わったやくざ浪人ろうにんもいならんでその数四、五十人、呂宋兵衛るそんべえのおながれをいただきながらどれもこれも
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
和田先生は持てん八十てんだが、五十前後の年はいの方にはめづらしい奇麗きれいな、こまかなりをされる。しかも、ややいんするといへるほどのねつ心家で、連夜れんやほとんど出せきかされた事がなかつた。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
その車もよく空いてゐたので眞中所の窓際まどぎはせきこしおろし、そう外にはなつた。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
南洲はいんかいせず、ひて之をつくす、たちま酩酊めいていして嘔吐おうどせきけがす。東湖は南洲の朴率ぼくそつにしてかざるところなきを見てはなはだ之をあいす。嘗て曰ふ、他日我が志をぐ者は獨此の少年子のみと。
律師りしせきいつ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
旅人たびびとたちはしずかにせきもどり、二人ふたりむねいっぱいのかなしみにた新しい気持きもちを、何気なくちがったことばで、そっとはなし合ったのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
此時このとき堂上だうじやうそう一齊いつせい合掌がつしやうして、夢窓國師むさうこくし遺誡ゐかいじゆはじめた。おもひ/\にせきつた宗助そうすけ前後ぜんごにゐる居士こじみな同音どうおん調子てうしあはせた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ただ母と弟にはまだ内証ないしょうにしてあった。もう一人このせきにだいじな人がけていた。それはあの気のどくなヴィタリス親方。
先刻さつきうつくしいひとわきせきつたが、言葉ことばつうじないことがわかつたところで、いま日本語にほんごのよくはなせるお転婆てんばさんらしいおんな入替いれかわつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そうしたらいくらずうずうしいはちかつぎでも、みっともない姿すがたじて、お嫁合よめあわせのせきに出るまでもなく、自分じぶんからして行くでしょう。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
當日たうじつせきでも聞合きゝあはせたが、居合ゐあはせた婦人連ふじんれんまたたれらぬ。くせ佳薫いゝかをりのするはなだとつて、ちひさなえだながら硝子杯コツプしてたのがあつた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さっきの半分はんぶんずつのからだが、いつのまにかつながって、おそろしい男が若者のせきにがんばっているではありませんか。
もう、たくさんつばめがふねって、最後さいごには、ほばしらのうえまでまって、まったく、はいるせきがなくなった時分じぶんしずかに海岸かいがんをはなれたのです。
赤い船とつばめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
はじめ村中のこらず存じ申さずとのこたへなれば少しも手懸てがかりはなきに次右衞門の思ふ樣是は村中申合まをしあはせ掛り合を恐れて斯樣かやうに申立るならんとせきあらため威儀ゐぎ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だんの上にはせきをまうけて神酒みきをそなへ、此町の長たるもの礼服をつけてはいをなし、所繁昌の幸福をいのる。
寐屋ねや燈火ともしひまたヽくかげもあはれさびしや丁字頭ちやうじがしらの、はなばれし香山家かやまけひめいま子爵ししやくおなはらに、双玉さうぎよくとなへは美色びしよくかちめしが、さりとて兄君あにぎみせきえず
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「さあそんぢやまた、みんなあがれ」とばあさんがいふと閾際しきゐぎはせまつてつて子供等こどもらあらそうてせきをとつた。彼等かれら今日けふせまれう内側うちがはにぎつしりとひざすぼめてすわつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
小娘こむすめ何時いつかもうわたくしまへせきかへつて、不相變あひかはらずひびだらけのほほ萌黄色もえぎいろ毛絲けいと襟卷えりまきうづめながら、おおきな風呂敷包ふろしきづつみをかかへたに、しつかりと三とう切符ぎつぷにぎつてゐる。……
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
などと無代たゞつたりなにかいたし誠にお品格ひんかくい事でござりました。これ円朝わたくしが全く実地じつちを見てきもつぶしたが、なんとなく可笑味をかしみがありましたから一せきのお話にまとめました。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
をりふし鵞鳥がてうのやうなこゑうたうた調しらべは左迄さまで妙手じやうずともおもはれぬのに、うた當人たうにん非常ひじやう得色とくしよくで、やがて彈奏だんそうをはると小鼻こばなうごめかし、孔雀くじやくのやうにもすそひるがへしてせきかへつた。
みんなはせきにつきますと、鳥たちはどこにいるかと見まわしました。ところで、この日はいつもお天気がいいのです。というのは、ツルは天気予報てんきよほうがたいへんじょうずでしたから。
と、せき中央ちゅうおうへ、多くの兵学者へいがくしゃ武芸者ぶげいしゃの名をしるした着到帳ちゃくとうちょうをくりひろげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『はい!』とさけんだものゝあいちやんは、あまりに狼狽あはてたので自分じぶん此所こゝ少時しばらくあひだに、如何いかばかりおほきくなつたかとふことを全然すつかりわすれて、にはかにあがりさま、着物きものすそ裁判官さいばんくわんせきはら
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
しんち五じやうけり、の・しやうたる、士卒しそつ最下さいかなるもの衣食いしよくおなじうし、ぐわするにせきまうけず、くに(七〇)騎乘きじようせず、みづかかてつつになひ、士卒しそつ勞苦らうくわかつ。そつ(七一)しよものり。
聖賢せいけんと言わるる人は家にありて、言葉遣いもいやしくもせず、「男女七歳にしてせきおなじゅうせず」の主義で、七歳以上は自分のむすめでも同座せず、しかして早朝よりかみしもをつけて四角四面に端座しているか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
こうずるせき
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)