ひゞき)” の例文
串戯じやうだんはよして、些細さゝいことではあるが、おなじことでも、こゝは大力だいりきい。強力がうりき、とふと、九段坂だんざかをエンヤラヤにこえてひゞきわるい。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
角海老かどゑび時計とけいひゞききもそゞろあわれのつたへるやうにれば、四絶間たえまなき日暮里につぽりひかりもれがひとけぶりかとうらかなしく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
天空そらには星影ほしかげてん、二てんた三てんかぜしてなみくろく、ふね秒一秒べういちべうと、阿鼻叫喚あびけうくわんひゞきせて、印度洋インドやう海底かいていしづんでくのである。
きみばかりでない、ぼく朋友ほういううち何人なんぴといま此名このな如何いかぼくこゝろふかい、やさしい、おだやかなひゞきつたへるかの消息せうそくらないのである。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
勘次かんじたゞひゞきてながら容易よういめぬあつ茶碗ちやわんすゝつた。おつぎも幾年いくねんはぬ伯母をばひとなづこいやう理由わけわからぬやう容子ようすぬすた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それを石橋いしばしわたしとでしきり掘出ほりだしにかゝつた、すると群雄ぐんいう四方しはうよりおこつて、ひゞきの声におうずるがごとしです、これ硯友社けんいうしや創立さうりつ導火線だうくわせんつたので
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
の国へ帰りく船と申す如き心地も此夜頃このよごろに深く身に沁みさふらひしか。ピアノの音、蓄音器の声もせず、波のひゞきのみすごげに立ちり申しさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ち得た所は物びてゐる。奈良の大仏だいぶつかねいて、其余波なごりひゞきが、東京にゐる自分の耳にかすかにとゞいたと同じ事である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一曲いつきよく舞ひ納む春鶯囀しゆんあうてん、細きは珊瑚を碎く一雨の曲、風に靡けるさゝがにの絲輕く、太きは瀧津瀬たきつせの鳴り渡る千萬の聲、落葉おちばかげ村雨むらさめひゞきおもし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
いつも夜店の賑ふ八丁堀北島町の路地には片側に講釈の定席ぢやうせき、片側には娘義太夫の定席が向合むかひあつてゐるので、堂摺連だうするれんの手拍子は毎夜張扇はりあふぎひゞき打交うちまじはる。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
今の千萬長者と同じひゞきを持つた時代、——十兩から上の泥棒は首を斬られた時代——に、灸點きうてん横町の裏長屋で、九百九十兩溜める人間も溜める人間なら
大小数百千こと/″\しかくをなしてけずりたてたるごとく(かならずかくをなす事下にべんず)なるもの幾千丈の山の上より一崩頽くづれおつる、そのひゞき百千のいかづちをなし大木ををり大石をたふす。
フムと感心のコナシありて、此子このこなか/\話せるワエと、たちま詩箋しせん龍蛇りうだはしり、郵便箱いうびんばこ金玉きんぎよくひゞきあることになるとも、われまた其夜そのよ思寝おもひね和韻わゐんの一をすら/\と感得かんとくして
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
と差出す二管の笛を手に取って見ますと、一つはひゞき朱銘しゅめいで出て居り、一つは初音と銀銘で出て居りますから驚きました。この虚無僧は稻垣小左衞門の忰小三郎でございます。
え/″\として硝子がらすのそとに、いつからかいとのやうにこまかなあめおともなくつてゐる、上草履うはざうりしづかにびしいひゞきが、白衣びやくえすそからおこつて、なが廊下らうかさきへ/\とうてく。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
鎭めて聽居きゝゐたりしがいまかたをはりし時一同にどつほめる聲家内やうちひゞきて聞えけり此折しも第一の客なる彼の味岡勇右衞門は如何いかゞ致しけんウンと云て持病ぢびやう癪氣しやくき差込さしこまれ齒をかみしめしかば上を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
腹立はらだたしかほをしたものや、ベソをいたものや、こはさうにおど/\したものなぞが、前後ぜんごしてぞろ/\とふねからをかあがつた。はゝかれた嬰兒あかごこゑは、ことあはれなひゞき川風かはかぜつたへた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
己は帳場の火鉢ひばちにあたりながら英語の本の復習をやって居ると、何とも云えない流麗な、微妙な声音こわねが、電車のひゞきだの下駄げたおとだのでにごらされて居る、雑沓ざっとうの夜のちまたの噪音を押しぬぐうようにして
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夢見ゆめみごこちの流盻ながしめや、かねひゞきあをびれに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
真黒なる管絃楽オオケストラの帆のひゞき
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひゞきはるかに鳴りわたる
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
銀のひゞきはねざはり……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あらひゞきをもたらして
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
よるくだくるひゞきあり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
すべて、海上かいじやう規則きそくでは、ふね出港しゆつかうの十ぷん乃至ないし十五ふんまへに、船中せんちうまは銅鑼どらひゞききこゆるととも本船ほんせん立去たちさらねばならぬのである。
みづ汲上くみあぐる釣瓶つるべおとはたおとかねこゑ神樂かぐらひゞき騷然さうぜん雜然ざつぜんげふこゑありてもくするはく、しよくおとありてきこえざるはきにいたれり。
鉄槌の音 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひく粟幹あはがら屋根やねからそのくゝりつけたかやしのにはえたみゝやつきゝとれるやうなさら/\とかすかになにかをちつけるやうなひゞきまない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
十二時頃にとまつた駅で錠をおろしてあつた戸が外から長い鍵でけられたひゞきを耳元で聞いて私は驚いて起き上つた。支那の国境へ来たのであるらしい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そのうちとし段々だん/\片寄かたよつて、よる世界せかい三分さんぶんりやうするやうつまつてた。かぜ毎日まいにちいた。其音そのおといてゐるだけでも、生活ライフ陰氣いんきひゞきあたへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかしまた田圃たんぼづたひに歩いてうち水田みづたのところ/″\にはすの花の見事に咲き乱れたさまをなが青々あを/\したいねの葉に夕風ゆふかぜのそよぐひゞきをきけば、さすがは宗匠そうしやうだけに
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ゴト/\とゆかおと、そしてり/\ふゆちまたあら北風きたかぜまどガラスをかすめるひゞきである。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
月の光にかげくらき、もりの繁みをとほして、かすかに燈のひかり見ゆるは、げにりし庵室と覺しく、隣家とても有らざれば、げきとして死せるが如き夜陰の靜けさに、振鈴しんれいひゞきさやかに聞ゆるは
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
三町ばかり先へ落雷でガラ/\/\/\/\ビューと火の棒の様なる物がさがると、丁度浄禅寺じょうぜんじヶ淵辺りへピシーリと落雷、其のひゞきに驚いて、土手の甚藏は、なり大兵だいひょうで度胸もい男だが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは如何いかにも、あの綺麗きれいゆきけて、つゆたまになつてとひなかまろむのにふさはしいおとである……まろんだつゆはとろ/\とひゞきいざなはれてながれ、ながれるみづはとろ/\とひゞきみちびいてく。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
いだくるま一散いつさん、さりながらつもゆき車輪しやりんにねばりてか車上しやじやう動搖どうえうするわりあはせてみちのはかはかず萬世橋よろづよばしころには鐵道馬車てつだうばしや喇叭らつぱこゑはやくえて京屋きやうや時計とけい十時じふじはうずるひゞきそらたか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此雪こほりて岩のごとくなるもの、二月のころにいたれば陽気やうき地中よりむしとけんとする時地気と天気とのためわれひゞきをなす。一へんわれ片々へん/\破る、其ひゞき大木ををるがごとし。これ雪頽なだれんとするのきざし也。
ればひゞき宛然さながら金鈴きんれいのごとし、これ合圖あひづ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お米はひゞきの音に應ずるやうでした。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ひゞき殷々いん/\みわたる
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
荒海あらうみひゞきを立てて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
心のやみひゞきあり
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こめたりける此所は名におふ周智郡すちごほり大日山のつゞき秋葉山の絶頂ぜつちやうなれば大樹だいじゆ高木かうぼく生茂おひしげり晝さへくら木下闇このしたやみ夜は猶さらに月くら森々しん/\として更行ふけゆく樣に如何にも天魔てんま邪神じやしん棲巣すみかとも云べきみねには猿猴ましらの木傳ふ聲谷には流水滔々たう/\して木魂こだまひゞき遠寺ゑんじかねいとすごく遙に聞ば野路のぢおほかみほえて青嵐颯々さつ/\こずゑ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、ものおと人聲ひとごゑさへさだかには聞取きゝとれず、たまにかけ自動車じどうしやひゞきも、さかおとまぎれつゝ、くも次第々々しだい/\黄昏たそがれた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたくし默然もくねんとして、なほ其處そこ見詰みつめてると、暫時しばらくしてその不思議ふしぎなる岩陰いわかげから、昨日きのふ一昨日おとゝひいた、てつひゞきおこつてた。
おつぎはそれから水際みづぎはへおりようとするとみづわたつてしづかにしかちかひとこゑがして、時々ときどきしやぶつといふひゞきみづおこる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かれく/\くちなか何遍なんべん宗教しゆうけうの二かへした。けれどもそのひゞきかへあとからすぐえてつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
蘿月らげつ仕方しかたなしに雨戸あまどめて、再びぼんやりつるしランプのしたすわつて、続けざまに煙草たばこんでは柱時計はしらどけいの針の動くのをながめた。時々ねずみおそろしいひゞきをたてゝ天井裏てんじやううらを走る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ぽかりといたら、あさかまへたやうに硝子ガラスそとからわたしのぞいてゐた。ゆめうつゝさかひごろに、ちかくで一ぱつ獵銃れふじうおとひゞいたやうだつけ、そのひゞきで一そうあたりがしづかにされたやうなあさである。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
そのひゞきにつれて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
をりからきこえはじめたのはどツといふ山彦やまひこつたはるひゞき丁度ちやうどやまおくかぜ渦巻うづまいて其処そこから吹起ふきおこあながあいたやうにかんじられる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)