くさ)” の例文
ひかりは、ほのかにあしもとをあたためて、くさのうちには、まだのこったむしが、ほそこえで、しかし、ほがらかにうたをうたっていました。
丘の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
茫然ぼんやりしてると、木精こだまさらふぜ、昼間ひるまだつて用捨ようしやはねえよ。)とあざけるがごとてたが、やがいはかげはいつてたかところくさかくれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そればかりではありません、やまにある田圃たんぼにあるくさなかにも『べられるからおあがり。』とつてくれるのもありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
鐵車てつしや其樣そんことではビクともしない、反對はんたいじう彈飛はじきとばすと、百獸ひやくじう王樣わうさま團子だんごのやうにくさうへ七顛八倒しちてんばつたう吾等われら一同いちどうはドツとわらつた。
ると石のまわりには、二三ちょうあいだろくろくくさえてはいませんでした。そして小鳥ことりむしなん千となくかさなりってんでいました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「よきはどうしたんだ」おつぎはきしあがつてどろだらけのあしくさうへひざついた。與吉よきち笑交わらひまじりにいて兩手りやうてしてかれようとする。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そしてそれが水上すいじょうわたってむこうへえたとおもうと、幾匹いくひきかの猟犬りょうけん水草みずくさの中にんでて、くさすすんできました。
良久しばらくして芋蟲いもむしくちから煙管きせるはなし、二つ三つあくびをして身振みぶるひしたかとおもふと、やがきのこしたくさなかへ這ひみました、たゞのこして
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
すずの(種々)御供養ごくやう送給畢おくりたびをはんぬ大風たいふうくさをなびかし、いかづちひとををどろかすやうに候。よのなかに、いかにいままで御信用候けるふしぎさよ。
かれ熱心ねつしんいてくさうへこしからうへて、そのてたひざ畫板ぐわばん寄掛よりかけてある、そして川柳かはやぎかげうしろからかれ全身ぜんしんおほ
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わたしあがつて、をりからはこばれて金盥かなだらひのあたゝな湯氣ゆげなかに、くさからゆるちたやうななみだしづかにおとしたのであつた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
じぶんが盗人ぬすびとのくせに、かしらはそんなひとりごとをいいながら、またくさなかにねころがろうとしたのでありました。そのときうしろから
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
われもこう、ききょう、かるかや、おみなへし、すゝき、ふぢばかま、はぎのあき七草なゝくさをはじめ、いろ/\のくさ野原一面のはらいちめんいてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「そのなかに車一台のくさを押し入れうる」——それを持って行ける人間がいるなら——ほどの大きな穴を見た、と称する。
が、くさたけ落葉おちばは、一めんあらされてりましたから、きつとあのをとこころされるまへに、餘程よほど手痛ていたはたらきでもいたしたのにちがひございません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
諏訪池には自動車道ドライブ・ウェーが通じているが、まだ利用されないので、所々くさ茫々ぼうぼうたる中を押分おしわけながら私達の自動車は通って行く。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
くさかるかまをさへ買求かひもとむるほどなりければ、火のためまづしくなりしに家をやきたる隣家りんかむかひて一言いちごんうらみをいはず、まじはしたしむこと常にかはらざりけり。
くさ邪魔じやまをして、却々なか/\にくい。それにあたらぬ。さむくてたまらぬ。蠻勇ばんゆうふるつてやうやあせおぼえたころに、玄子げんし石劒せきけん柄部へいぶした。
私はくさの中へこしを降ろすと煙草たばこを取り出した。つまも私のよこすわつて落ちついたらしく、くれて行く空のいろながめてゐた。——
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
くさなか半身はんしんぼつして、二人ふたりはいひあらそつてゐた。をとこはげしくなにかいひながら、すぶるやうにをんなかた幾度いくど小突こづいた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
そらは又かはつてた。風が遠くから吹いてくる。広いはたけうへには日がかぎつて、見てゐると、寒い程淋しい。くさからあがる地意気ぢいき身体からだえてゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それからは、えないで、もりなかさぐまわり、くさべて、ただくしたつまのことをかんがえて、いたり、なげいたりするばかりでした。
ものたましひがあるとの想像さうざうむかしからあるので、だい山岳さんがく河海かかいより、せうは一ぽんくさ、一はなにもみなたましひありと想像さう/″\した。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
鳥うたいくさかおる春や夏が、田園に何の趣きを添えようか。曇った秋の小径こみちの夕暮に、踏みしく落葉の音をきいて、はじめて遠く、都市を離れた心になる……
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おしやれな娘兎むすめうさぎのこととて、でかけるまでには谿川たにがはりてかほをながめたり、からだぢうを一ぽんぽん綺麗きれいくさでつけたり、やゝ半日はんにちもかかりました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
十八に家出いえでをしたまま、いまだに行方ゆくえれないせがれきち不甲斐ふがいなさは、おもいだす度毎たびごとにおきしなみだたねではあったが、まれたくさにも花咲はなさくたとえの文字通もじどお
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わたし大事だいじかたは、小屋こやつくつていらつしやる。がどうも、くさがないので、こまつてゐられるようだ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
師走しはす中頃なかごろで、淀川堤よどがはづつみには冬枯ふゆがれのくさひつじのやうでところ/″\にまるいたあとくろえてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
どりゃ、太陽そのゆるやうなまなこげて今日けふひるなぐさめ、昨夜さくや濕氣しっきかわかまへに、どくあるくさたふとしるはなどもをんで、吾等われらこのかごを一ぱいにせねばならぬ。
太夫房覚明かくみょうは、牛小屋の外に積んであるくさのうえに坐りこんで寝足らない顔をなたにさらしていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいえ、わります。わります。私のの光なんか、もうすぐ風にって行かれます。ゆきにうずまって白くなってしまいます。くさの中でくさってしまいます」
めくらぶどうと虹 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
我背子わがせこれば屋戸やどくささへおもひうらがれにけり 〔巻十一・二四六五〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
某夜あるよ、築地の待合まちあいへ客に呼ばれて往った某妓あるおんなが、迎えの車が来ないので一人で歩いて帰り、釆女橋まで往ったところで、川が無くなって一めんにくさ茫茫ぼうぼうの野原となった。
築地の川獺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのさがしている証拠品しょうこひんというのは、稲川先生が受けもっている六年生の文集『くさ』だというのである。それが、片岡先生の自宅にも、学校の机にもなかったのだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
すなわたい将来しょうらいくさいしひきがえるうちって、生活せいかつするとうことをもっなぐさむることが出来できる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
木にもせよ、竹にもせよ、くさにもせよ、植物質の原料げんれうにて作りたるものは腐敗ふはいし易き事勿論もちろんなれば、其今日に遺存いぞんせざるの故を以て曾て存在そんざいせざりし證とは爲すべからず。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
そしてその晩も、あくる晩も、また翌る晩もその石碑のもとに野宿をして、じつと石碑の文字に惚々ほれ/″\してゐるので、馬はとうと腹を立てて、其処そこらくさぱらにごろり横になつた。
みづうつつきうばはんとする山猿やまざるよ、無芸むげい無能むのうしよくもたれ総身そうみ智恵ちゑまはりかぬるをとこよ、よつうをもとくさうつへびをどろ狼狽うろたへものよ、白粉おしろいせて成仏じやうぶつせんことねが艶治郎ゑんぢらう
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
くさむしりに庭掃除にはさうぢぐらゐはとて、六十をとこのする仕事しごとぞかし、勿躰もつたいなや古事記こじき舊事記くじき朝夕あさゆふらきて、万葉集まんえふしふ不審紙ふしんがみをしたるを、泥鉢どろばちのあつかひにがすことひとらねど
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わしらはひとつこの峠にくさいおりというようなものを建て、この世の安楽と後生の追善のために、ここでお地蔵様のお守をして一生を暮したいもんだと心がけてはおりますがねえ……
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
羊質ようしつにして虎皮こひくさを見てよろこび、さいを見ておののく、其の皮のとらなるを忘るるなり」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
人間にんげんくさをただくさとのみかんがえるから、矢鱈やたらはなむしったり、えだったり、はなはだしくこころなき真似まねをするのであるが、じつうと、くさにもにもみなせい……つまりたましいがあるのじゃ。
壁辰父娘かべたつおやこのはなしでは、金山寺屋の音松とかいったが、あの、七くさの夜に、下谷の壁辰の家で、自分をこの右近と言いくるめて危いところを助けてくれた大兵の男の声……あの渋い声
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いそいであたしは一掴ひとつかみくさむしつて、此児このこくちいてやつて、かうつた。
二人ふたりのこんなはなしは、いつまでたつてもつきなかつた、彼女かれやまかはが、かれにすぐにかんじられ。かれのいふそらくさ建物たてものは、彼女かれこゝろにすぐづいて思浮おもひうかべることが出來できるからであつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
クリストフはほかにすることもなかったので、あとからついていった。そしていつもの通り、子犬こいぬのようにじゃれついていじめた揚句あげく、とうとういきらして、小父おじの足もとのくさの上にねころんだ。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
相良の方へ參らんと存じ島田より馬をやと未刻やつどきすぎ同所を出立いた河袋かはぶくろと申處迄は私し儀馬に附添つきそひ參りたるが山王の宮脇にて小便を致し居る中見失ひ候に付後を追掛おひかけしに上新田村の土手に右の馬はくさ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
野分のわきよさらば駆けゆけ。目とむればくさ紅葉もみぢすとひとは言へど
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
まどもとせい痛苦つうくたゞあかそよぎえたてぬくさの花
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
踏みゆくみちぞ荒野のくさ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)