夕暮ゆふぐれ)” の例文
つい、そのころもんて——あき夕暮ゆふぐれである……何心なにごころもなく町通まちどほりをながめてつと、箒目はゝきめつたまちに、ふと前後あとさき人足ひとあし途絶とだえた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
葉末はずゑにおくつゆほどもらずわらふてらすはるもまだかぜさむき二月なかうめんと夕暮ゆふぐれ摩利支天まりしてん縁日ゑんにちつらぬるそであたゝかげに。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
(これにもかぎらずさま/″\の術あり)雁のる処をふるは夕暮ゆふぐれ夜半やはんあかつき也、人此時をまちて種々いろ/\たくみつくしてとらふ。
三四郎は思はずかほあといた。ヘリオトロープのびん。四丁目の夕暮ゆふぐれ迷羊ストレイシープ迷羊ストレイシープそらにはたかい日があきらかにかゝる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其處そこで「アウト」「ストライキ」のこゑ夕暮ゆふぐれそらひゞいて、審判者アンパイヤー上衣うはぎ一人ひとりくろいのも目立めだつてえる。
〔ヱヴェレストはおもつたよりとほいな〕と独言ひとりごとしながら四辺あたり見廻みまはすと、うすひかりうつくしくあやしくみなぎつて、夕暮ゆふぐれちかくなつたのだらう。下界したても、くもきりでまるでうみのやうだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
壽永三年三月の末、夕暮ゆふぐれちかき頃、紀州きしゆう高野山をのぼり行く二人の旅人たびびとありけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
うつせし中穀物の代金百兩受取歸らんとなすをあるじ庄右衞門之をとゞ最早もはや夕暮ゆふぐれなれば今宵こよひは御とまり有て明朝早く歸らるべし殊に大金をもつての夜道よみちなれば無用心ぶようじんなり必ず/\御とまりあれとすゝむるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夕暮ゆふぐれともさむさはいそいでかへつてた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
夕暮ゆふぐれものもなき修道女しうだうめの長き一列ひとつら
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夕暮ゆふぐれに消えて行く
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
夕暮ゆふぐれそらながめて
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
裾野すそのけむりながなびき、小松原こまつばらもやひろながれて、夕暮ゆふぐれまくさら富士山ふじさんひらとき白妙しろたへあふぐなる前髮まへがみきよ夫人ふじんあり。ひぢかるまどる。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夕暮ゆふぐれうすくらきにまよこゝろもかきくらされてなにいひれんのすきよりさしのぞ家内かないのいたましさよ頭巾づきん肩掛かたかけはつゝめど
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
毎日まいにち/\あしたほしいたゞいて大佐等たいさらともいへで、終日しうじつ海底かいてい造船所ざうせんじよなか汗水あせみづながして、夕暮ゆふぐれしづかな海岸かいがんかへつてると、日出雄少年ひでをせうねん猛犬まうけん稻妻いなづまとは屹度きつと途中とちうまでむかへ
その夕暮ゆふぐれであつたか、小六ころくまたさむ身體からだ外套マントくるんでつたが、八時過はちじすぎかへつてて、兄夫婦あにふうふまへで、たもとからしろ細長ほそながふくろして、さむいから蕎麥掻そばがきこしらえてはうとおもつて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
取繕とりつくろ何喰なにくはぬ顏して有しに其日の夕暮ゆふぐれに何とやらんあやしきにほひのするに近所きんじよの人々寄集よりあつまりて何のにほひやらん雪の中にて場所も分らず種々さま/″\評議に及びかゝる時には何時いつも第一番にお三ばゝが出來いできた世話せわ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なやましき夕暮ゆふぐれのにほひのなかに
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あめが、さつと降出ふりだした、停車場ていしやばいたときで——天象せつはなくだしである。あへ字義じぎ拘泥こうでいする次第しだいではないが、あめはなみだしたやうに、夕暮ゆふぐれしろかつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今日けふよりすぐにおまをしまする、敷金しきゝん唯今たゞいまいてまゐりまして、引越ひきこしはこの夕暮ゆふぐれ、いかにも急速きふそくでは御座ござりますが直樣すぐさま掃除さうぢにかゝりたう御座ござりますとて、なん仔細しさいなく約束やくそくはとゝのひぬ。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さくらる時分には、夕暮ゆふぐれかぜかれて、よつつのはし此方こちらからむかふわたり、むかふから又此方こちらわたり返して、長いどてふ様にあるいた。が其さくらはとくにちつて仕舞つて、いまは緑蔭の時節になつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
大佐たいされいやうに、夕暮ゆふぐれ海岸かいがん一隊いつたい水兵すいへいともかへつてた。
見よ、あかき夕暮ゆふぐれそら
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わたし遣せしに其日の夕暮ゆふぐれ九助あをくなりて馳來りしに付何事にやと相たづね候所曼陀羅紛失ふんじつの次第斯樣々々と片息かたいきになつて申聞候により私し工夫仕つりし所此儀他村の者の知べき程の間合まあひ之なく何れ村中の者ならんと心付候まゝ同人歸村のいはひと名付水呑村惣中を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あめ不知しらときしもあきのはじめなり、洋燈ランプあぶらをさすをりのぞいた夕暮ゆふぐれそら模樣もやうでは、今夜こんや眞晝まひるやう月夜つきよでなければならないがとおもうちなほ其音そのおとえずきこえる。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何事なにごといでられんもるべからず、打明うちあけられしだけ殊勝しゆしようなり、よろつはゝむねにありまかせたまへとゆゑやみに、ある夕暮ゆふぐれ墓參ぼさんもどり、槖繩師うゑきやがりくるまをせて、りもせぬはちものゝ買上かひあ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まだ二時半前やつまへだのに、あをくあせた門柱もんちうつて、夕暮ゆふぐれらしく、くもぞらあふぐも、ものあはれ。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さるほどに今歳ことしむなしくはるくれてころもほすてふ白妙しろたへいろさく垣根かきねはな、こゝにも一玉川たまがはがと、遣水やりみづながほそところかげをうつして、ぜかなくてもすゞしきなつ夕暮ゆふぐれ、いとあがりの散歩そゞろあるき
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
苛々いら/\しながら、たわいのない、あたかぼんとお正月しやうぐわつ祭禮おまつりを、もういくると、とまへひかへて、そして小遣錢こづかひせんのないところへ、ボーンと夕暮ゆふぐれかねくやうで、なんとももつ遣瀬やるせがない。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夕暮ゆふぐれ店先みせさき郵便脚夫いうびんきやくふ投込なげこんできし女文字をんなもじ書状ふみ一通いつゝう炬燵こたつ洋燈らんぷのかげにんで、くる/\とおびあひだ卷收まきをさむれば起居たちゐこゝろくばられてものあんじなること一通ひととほりならず、おのづといろえて
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ふゆの、山國やまぐにの、にしおふ越路こしぢなり、其日そのひそらくもりたれば、やうやまちをはづれると、九頭龍川くづりうがは川面かはづらに、夕暮ゆふぐれいろめて、くらくなりゆく水蒼みづあをく、早瀬はやせみだれておと
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
下足札げそくふだそろへてがらんがらんのおともいそがしや夕暮ゆふぐれより羽織はおりひきかけて立出たちいづれば、うしろに切火きりびうちかくる女房にようぼうかほもこれが見納みおさめか十にんぎりの側杖そばづえ無理情死むりしんぢうのしそこね、うらみはかゝるのはてあやふく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あかつきしもき、夕暮ゆふぐれきりけて、山姫やまひめ撞木しゆもくてて、もみぢのくれなゐさとひゞかす、樹々きゞにしきらせ、とれば、龍膽りんだう俯向うつむけにいた、半鐘はんしようあかゞねは、つきむらさきかげらす。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もとんだうんのわるいつまらぬやつ見込みこまれて可愛かあいさうなことをしたといへば、イヤあれは得心とくしんづくだとひまする、あの夕暮ゆふぐれ、おてらやま二人ふたりたちばなしをしてたといふたしかな證人しようにんもござります
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うまし、かるたくわいいそわかむねは、駒下駄こまげた撒水まきみづすべる。こひうたおもふにつけ、夕暮ゆふぐれ線路せんろさへ丸木橋まるきばし心地こゝちやすらむ。まつらす電車でんしやかぜに、春着はるぎそで引合ひきあはごころ風情ふぜいなり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それけれどれほどまでにおぼしめしれたものらばとひて斷念あきらめのつくはづなし我身わがみねがひがかなへばとて現在げんざいこゝろりながらそれもつらしれもしとまよひにこゝろ夕暮ゆふぐれそら八重やへつく/″\ながむれば明日あす晴日はれひ西にしかたのみくれなゐのくもたなきぬ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あのあたりへ、夕暮ゆふぐれかねひゞいたら、姿すがたちかもどるのだらう、——とふともなく自分じぶん安心あんしんして、益々ます/\以前もとかんがへふけつてると、ほだくか、すみくか、谷間たにまに、彼方此方かなたこなた、ひら/\
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はらわたえざらんぎりなきこゝろのみだれ忍艸しのぶぐさ小紋こもんのなへたるきぬきてうすくれなゐのしごきおび前に結びたる姿(すが)たいま幾日いくひらるべきものぞ年頃としごろ日頃ひごろ片時かたときはなるゝひまなくむつひしうちになどそここゝろれざりけんちいさきむね今日けふまでの物思ものおもひはそも幾何いくばく昨日きのふ夕暮ゆふぐれふくなみだながらかたるを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うめはやき夕暮ゆふぐれ日金ひがねおろしかな
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)