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前髮
裾野の
煙長く
靡き、
小松原の
靄廣く
流れて、
夕暮の
幕更に
富士山に
開く
時、
其の
白妙を
仰ぐなる
前髮清き
夫人あり。
肘を
輕く
窓に
凭る。
前髮を
切り
下て
可愛く
之も
人形のやうに
順しくして
居る
廣庭では六十
以上の
而も
何れも
達者らしい
婆さんが三
人立て
居て
其一人の
赤兒を
脊負て
腰を
曲げ
居るのが
何事か
婆さん
聲を
齒かけの、
嫌やな
奴め、
這入つて
來たら
散々と
窘めてやる
物を、
歸つたは
惜しい
事をした、どれ
下駄をお
貸し、
一寸見てやる、とて
正太に
代つて
顏を
出せば
軒の
雨だれ
前髮に
落ちて