“全(まつた)” の例文
日本(にほん)が化物(ばけもの)の貧弱(ひんじやく)なのに對(たい)して、支那(しな)に入(い)ると全(まつた)く異(ことな)る、支那(しな)はあの通(とほ)り尨大(ぼうだい)な國(くに)であつて、西(にし)には崑崙雪山(こんろんせつざん)の諸峰(しよぼう)が際涯(はてし)なく連(つらな)り
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
愛(あい)ちやんは直(たゞ)ちに此(こ)れが扇子(せんす)を持(も)つて居(ゐ)た所爲(せい)だと云(い)ふ事(こと)を知(し)つて急(いそ)いで其扇子(そのせんす)を捨(す)てました、恰(あだか)も縮(ちゞ)むのを全(まつた)く恐(おそ)れるものゝ如(ごと)く。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
小木(せうぼく)は枝(えだ)諸共(もろとも)に伐(き)り倒(たほ)して猛進(まうしん)するのであるから、如何(いか)なる險山(けんざん)深林(しんりん)に會(くわい)しても、全(まつた)く進行(しんかう)を停止(ていし)せらるゝやうな患(うれひ)はないのである。
申さば父の越度(をちど)となり又(また)云(いは)ずば吉三郎は殺さるべし兩方全(まつた)きやうには何事も行(ゆか)ざれども能々(よく/\)考(かんが)へて心(こゝろ)靜(しづ)かに双方(さうはう)無事に成(なる)やうの御答(おこたへ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さうだ、全(まつた)く蒸(む)すね。惡(わる)くすると、明日(あした)は雨(あめ)だぜ‥‥」と、私(わたし)は振(ふ)り向(む)き樣(ざま)に答(こた)へた。河野(かうの)の眠(ねむ)さうな眼(め)が闇(やみ)の中(なか)にチラリと光(ひか)つた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
まだ全(まつた)く消(き)え果(は)てない煙(けむり)を便宜(よすが)に、あからめもしないで熟(ぢつ)と視(み)る時(とき)、女(をんな)は二人(ふたり)、揃(そろ)つて、目(め)を睜(みは)つて、四(よつ)ツの目(め)をぱつちりと瞬(またゝ)きした。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
即(すなは)ち一時(いちじ)活動(かつどう)した後(のち)は、暫時(ざんじ)休息(きゆうそく)して、或(あるひ)は硫氣孔(りゆうきこう)の状態(じようたい)となり、或(あるひ)は噴氣孔(ふんきこう)となり、或(あるひ)はそのような噴氣(ふんき)も全(まつた)くなくなることがある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
長吉(ちやうきち)は全(まつた)く絶望してしまつた。長吉(ちやうきち)は役者になりたい自分の主意(しゆい)を通(とほ)すには、同情の深い小梅(こうめ)の伯父(をぢ)さんに頼るより外(ほか)に道がない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
手拭(てぬぐひ)を浸(ひた)す度(たび)に小(ちひ)さな手水盥(てうずだらひ)の水(みづ)に月(つき)が全(まつた)く其(そ)の影(かげ)を失(うしな)つて暫(しばら)くすると手水盥(てうずだらひ)の周圍(しうゐ)から聚(あつま)る樣(やう)に段々(だん/\)と月(つき)の形(かたち)が纏(まと)まつて見(み)えて來(く)る。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
斯樣(かやう)に、墮落(だらく)の方面(はうめん)をとくに誇張(こちやう)した冒險者(アドヹンチユアラー)を頭(あたま)の中(なか)で拵(こしら)え上(あげ)た宗助(そうすけ)は、其(その)責任(せきにん)を自身(じしん)一人(ひとり)で全(まつた)く負(お)はなければならない樣(やう)な氣(き)がした。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ヘイ、色々(いろ/\)に介抱(かいはう)いたしましたが気(き)が附(つ)きませぬ、此上(このうへ)は如何(いかゞ)いたしませう。殿「イヤ、全(まつた)く生体(しやうたい)なければ幸(さひは)ひぢやて、今度(こんど)は解剖(ふわけ)ぢや。 ...
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
破片(はへん)でも報酬(ほうしう)は與(あた)へると云(い)つたのに、出(で)た破片(はへん)を、彼等(かれら)が隱(か)くす必用(ひつよう)は無(な)いのだから、全(まつた)く菱沼宅前(ひしぬまたくまへ)からは、何(なに)も出(で)なかつたのであらう。
然うしたら社會の人として、或(あるひ)は安楽(あんらく)な生活(せいくわつ)を爲(な)し得(う)るかも知れない。併(しか)し精神的(てき)には、全(まつた)く死(し)んで了ツたのも同(おな)じことなんだ!
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
一言(げん)で云(い)へば、貴方(あなた)は生活(せいくわつ)と云(い)ふものを見(み)ないのです、其(そ)れを全(まつた)く知(し)らんのです。而(さう)して實際(じつさい)と云(い)ふ事(こと)を唯(たゞ)理論(りろん)の上(うへ)から計(ばか)り推(お)してゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
けれども……皷動(こどう)が全(まつた)く靜(しづ)まつて、血(ち)の流(なが)れがもとのゆるやかさにかへつた頃(ころ)、極(きは)めて靜(しづ)かに歩(あゆ)み寄(よ)つて來(く)るもの侘(わ)びしさを
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
未明(みめい)食事を終(おは)りて出立し又水流(すいりう)を溯(さかのぼ)る、無数の瀑布を経過(けいくわ)して五千五百呎の高(たかき)に至れば水流全(まつた)く尽(つ)き、源泉は岩罅(かんこ)より混々(こん/\)として出で来(きた)る
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
それでも感心(かんしん)なことには、畫板(ぐわばん)に向(むか)うと最早(もはや)志村(しむら)もいま/\しい奴(やつ)など思(おも)ふ心(こゝろ)は消(き)えて書(か)く方(はう)に全(まつた)く心(こゝろ)を奪(と)られてしまつた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
私(わたし)の人物(じんぶつ)が全(まつた)く想像(さうざう)と反(はん)して居(ゐ)たのに驚(おどろ)いたと云(い)ひます、甚麼(どんな)に反(はん)して居(ゐ)たか聞きたいものですが、ちと遠方(ゑんぱう)で今問合(とひあは)せる訳(わけ)にも行(ゆ)きません
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
此(この)有名な話をドンリヷルが僕等に語ると、ムネ・シユリイは微笑(ほゝゑ)んで「然(さ)うだ、全(まつた)くタルマがボン、ジユウルと言つて頷(うなづ)いた様に感ぜられた」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
大久保(おほくぼ)が、奈美子(なみこ)の美(うつく)しい髪(かみ)を、剃刀(かみそり)や鋏(はさみ)でぢよき/\根元(ねもと)から全(まつた)く切(き)り取(と)つてしまつたことは、大分(だいぶ)たつてから知(し)つた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
僕の知人は震災の為めに何人もこの界隈(かいわい)に斃(たふ)れてゐる。僕の妻の親戚などは男女九人の家族中、やつと命を全(まつた)うしたのは二十(はたち)前後の息子(むすこ)だけだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鐡架(てつきう)の上の苦しみに堪(た)へしロレンツォ、わが手につらかりしムツィオのごとく、彼等の意志全(まつた)かりせば 八二—八四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
此蹴綱に転機(しかけ)あり、全(まつた)く作(つく)りをはりてのち、穴にのぞんで玉蜀烟艸(たうがらしたばこ)の茎(くき)のるゐ熊(くま)の悪(にく)む物を焚(たき)、しきりに扇(あふぎ)て烟(けふり)を穴に入るれば熊烟りに噎(むせ)て大に怒(いか)り
長順 幼き時ゆこがれたる、ほの珍らかにいと甘き、いとあえかにもなつかしき『不可思議』の目見(まみ)は我胸より全(まつた)く消えうせ、遺(のこ)れるは氷の如き空(くう)の影。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
枝折戸(しをりど)閉(と)ぢて、椽(えん)に踞(きよ)す程(ほど)に、十時も過ぎて、往来(わうらい)全(まつた)く絶へ、月は頭上に来(きた)りぬ。一庭(てい)の月影(つきかげ)夢(ゆめ)よりも美(び)なり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
全(まつた)く不思議(ふしぎ)な事(こと)でございました。或(あ)る日(ひ)山(やま)から虎(とら)に騎(の)つて歸(かへ)つて參(まゐ)られたのでございます。そして其(その)儘(まゝ)廊下(らうか)へ這入(はひ)つて、虎(とら)の背(せ)で詩(し)を吟(ぎん)じて歩(ある)かれました。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
夏の夜(よ)は明易(あけやす)かつた。両側に人家が続いたり、橋が架(かか)つたりするあたりに来る頃には、もう全(まつた)く明放(あけはな)れて居た。
朝 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
アメリカの資本家(しほんか)に搾取(さくしゆ)されるのも、日本(にほん)の資本家(しほんか)に搾取(さくしゆ)されるのも同(おな)じわけだが、日本(にほん)の勞働者(らうどうしや)としては、全(まつた)く『同(おな)じわけ』に行(ゆ)かない心理(しんり)が殘(のこ)つてゐる。
尚(なほ)去(さ)らざる時(とき)は全身(ぜんしん)に冷水(れいすゐ)を灌(そゝ)ぎて其(その)痛(いたみ)全(まつた)く去(さ)りし故(ゆゑ)に、其後(そのご)頭痛(づつう)の起(おこ)る毎(ごと)に全身(ぜんしん)冷水灌漑(れいすゐくわんがい)を行(おこな)ひしが、遂(つひ)に習慣(しふくわん)となり、寒中(かんちゆう)にも冷水灌漑(れいすゐくわんがい)に耐(た)ゆるを得(え)たり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
結婚の前後を以て貞操を區劃し、結婚以前の不品行を寛假するのも道理のないことであり、結婚さへ續けて居れば貞操の全(まつた)いものであるとすることも形式的な解釋です。
全(まつた)くは私(わたし)に御飽(おあ)きなされたので此樣(こう)もしたら出(で)てゆくか、彼樣(あゝ)もしたら離縁(りゑん)をと言(い)ひ出(だ)すかと苦(いぢ)めて苦(いぢ)めて苦(いぢ)め拔(ぬ)くので御座(ござ)りましよ、御父樣(おとつさん)も御母樣(おつかさん)も私(わたし)の性分(せうぶん)は御存(ごぞん)じ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
美濃守殿(みののかみどの)のことから、其方(そち)の潔白(けつぱく)を聞(き)いて、ひどく感心(かんしん)したのだつたな。全(まつた)く其方(そち)は此(こ)の卑劣(ひれつ)な、強慾(がうよく)な、恥知(はぢし)らずの人間(にんげん)ばかり多(おほ)い土地(とち)で、珍(めづ)らしい潔白(けつぱく)な高尚(かうしやう)な人間(にんげん)だ。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
其金(そのかね)は内地(ないち)の金貨(きんくわ)を以(もつ)て支拂(しはら)つたのではない、從(したがつ)て内地(ないち)の通貨(つうくわ)は減(へ)らぬのであるが、併(しかし)ながら金解禁(きんかいきん)が一月(ぐわつ)十一日(にち)に出來(でき)た後(のち)には、以前(いぜん)とは全(まつた)く違(ちが)つた現象(げんしやう)が出(で)て來(く)るのは
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
本幹已(すで)に倒れて、枝葉全(まつた)からず、将門の弟の将頼と藤原玄茂とは其歳相模国で斬(き)られ、興世王は上総へ行つて居たが左中弁将末に殺され、遂高玄明は常陸で殺されてしまひ
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それは宗教(しうけう)の病院(びやうゐん)になんか、あなたをお入(い)れしたくなかつたんですけれど、差(さ)し迫(せま)つた事(こと)ではあるし、經濟的(けいざいてき)にどうにもならなかつたもんですからね、全(まつた)く仕方(しかた)のないことでした。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
これは家族的(かぞくてき)でありまして其(そ)の主義(しゆぎ)は全(まつた)く放任主義(はうにんしゆぎ)併(しか)し放任主義(はうにんしゆぎ)と申(まを)しても决(けつ)して氣儘放題(きまゝはうだい)にして置(お)くといふのではありません。其(そ)の放任主義(はうにんしゆぎ)の中(うち)には自營獨立(じえいどくりつ)の精神(せいしん)が籠(こも)つて居(ゐ)ます。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
紫色(むらさきいろ)の小(ちい)さいかたくりの花が咲(さ)くなんていふことを考(かんが)へると、全(まつた)くたまらない。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
思ふにゾロアスタル、釈迦(シャカ)の如き文籍未だ備はらず考証未だ全(まつた)からざる、時代に属する人は之を置く、歴史以後の人、ソクラテスと雖(いへども)、プレトーと雖、孔丘(コウキウ)、老冉(ロウゼン)、荘周(サウシウ)と雖、之をイヱス
「二十年前に足を洗つた天狗小僧が、無事に天命を全(まつた)うする積りで、娘の育つのを眺めて居たのは殊勝ぢやないか、——その娘の爲に、こんな事になつたのは考へて見ると可哀想でもあるよ」
それはたゞ一(ひと)つの下顎骨(かがくこつ)でありますが、この骨(ほね)は顎(あご)が内側(うちがは)に引込(ひつこ)み、今日(こんにち)の人間(にんげん)とはよほど違(ちが)つてゐますけれども、類人猿(るいじんえん)とは全(まつた)く別種(べつしゆ)であり、もはや人間(にんげん)の仲間(なかま)であることは明(あきら)かであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
小弟けふより出雲に下り、せめては一一七骨を蔵(をさ)めて信(しん)を全(まつた)うせん。一一八公(きみ)尊体(おほんみ)を保ち給うて、しばらくの暇(いとま)を給ふべし。老母云ふ。吾が児(こ)かしこに去るとも、はやく帰りて老が心を休めよ。
そこで死ぬと云ふことがない故、天命の儘(まゝ)にして、天より授かりしまゝで復(かへ)すのぢや、少しもかはることがない。ちやうど、天と人と一體と云ふものにて、天命を全(まつた)うし終(を)へたと云ふ譯なればなり。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
アヌンチヤタはいづくにか之(ゆ)きし。ベルナルドオなかりせば、彼人は不幸に陷らで止みしならん。否、彼人のみかは、我も或は生涯の願を遂げ、即興詩人の名を成して、偕老(かいらう)の契(ちぎり)を全(まつた)うせしならんか。
夕方(ゆふがた)だし、外(ほか)に人間はゐないし、全(まつた)く
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「そだそだ、全(まつた)ぐだ。」
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
節(せつ)を戦後(せんご)の国(くに)に全(まつた)ふす
寡婦の除夜 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
全(まつた)くその通り アハハ
女王樣(ぢよわうさま)の論據(ろんきよ)は斯(か)うでした、若(も)し何事(なにごと)にせよ、全(まつた)く時間(じかん)を要(えう)せずして成(な)し了(を)うせられなかつたなら、所有(あらゆる)周圍(しうゐ)の誰(たれ)でもを死刑(しけい)に處(しよ)する。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そんな譯(わけ)で伊豆(いづ)山から歸(かへ)つてくると、早速家の近くに通ひの球突塲(たまつきば)を見つけて、さすがに學校を全(まつた)くエスするといふほどではなかつたが
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「あゝ奇麗(きれい)になつた。何(ど)うも食(く)つた後(あと)は汚(きた)ないものでね」と宗助(そうすけ)は全(まつた)く食卓(しよくたく)に未練(みれん)のない顏(かほ)をした。勝手(かつて)の方(はう)で清(きよ)がしきりに笑(わら)つてゐる。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)