“血(ち)” の例文
ぼくは運(うん)がよかったよ。こん夜は泊(と)めてもらいたいね。ひさしぶりにゆっくり眠(ねむ)りたいんだ。ベッドを血(ち)でよごしてすまなかったね。
「もう何時(なんじ)」と云(い)ひながら、枕元(まくらもと)の宗助(そうすけ)を見上(みあ)げた。宵(よひ)とは違(ちが)つて頬(ほゝ)から血(ち)が退(ひ)いて、洋燈(らんぷ)に照(て)らされた所(ところ)が、ことに蒼白(あをじろ)く映(うつ)つた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
カピ長 やゝ、これは! おゝ、我妻(わがつま)よ、あれ、見(み)さしませ、愛女(むすめ)の體内(みうち)から血(ち)が流(なが)るゝ! えゝ、此(この)劍(けん)は住家(すみか)をば間違(まちが)へをったわ。
だが、般若丸の名刀が、鞘(さや)を脱(だっ)しようとしたしゅんかんに、はッと気がついたのは(血(ち)を見るなかれ)という御岳(みたけ)三日(みっか)の神誓(ちかい)である。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女(かのじょ)は、小指(こゆび)を切(き)りました。そして、赤(あか)い血(ち)を、サフラン酒(しゅ)のびんの中(なか)に滴(た)らしました。ちょうど、窓(まど)の外(そと)は、いい月夜(つきよ)でありました。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
爭(あらそ)ひ將棋(せうき)に敗(やぶ)れて血(ち)を吐(は)いて死ぬなどは一種(しゆ)の悲壯(ひそう)美を感(かん)じさせるが、迂濶(うくわつ)に死ぬ事も出來ないであらう現(げん)代の專(せん)門棋士(きし)は平凡(ぼん)に
どうも危(あぶな)いので、思(おも)ふやうに動(うご)かせませなんだが、それでもだいぶ創(きず)が附(つ)きましたやうで、鏡(かゞみ)は見(み)ませんが、血(ち)が浸染(にじ)んで居(を)りますか。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
小賊(せいぞく)肯(き)かずして、則(すなは)ち刀(かたな)を執(と)つて其(そ)の指(ゆび)を切(き)つて珠(たま)を盜(ぬす)むや、指(ゆび)より紅(くれなゐ)の血(ち)衝(つ)と絲(いと)の如(ごと)く迸(ほとばし)りぬ。頭領(とうりやう)面(おもて)を背(そむ)けて曰(いは)く、於戲痛哉(あゝいたましいかな)。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
またその身體(からだ)には蘿(こけ)だの檜(ひのき)・杉の類が生え、その長さは谷(たに)八(や)つ峰(みね)八(や)つをわたつて、その腹を見ればいつも血(ち)が垂れて爛(ただ)れております
打(うち)ければ額(ひたひ)より血(ち)流(なが)れけるに四郎右衞門今は堪忍(かんにん)成難(なりがた)しと思へども其身病勞(やみつかれ)て居るゆゑ何共(なにとも)詮方(せんかた)なく無念を堪へ寥々(すご/\)とこそ歸りけれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
職業漁師でも遊釣人でも、鯛といえば、真鯛(まだい)を指すのが常識である。真鯛に色、形ともによく似ているのに血(ち)鯛と黄鯛とがある。
鯛釣り素人咄 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
酒呑童子(しゅてんどうじ)は頼光(らいこう)たちが悪(わる)びれもしないで、生(い)き血(ち)のお酒(さけ)でも、生(な)ま肉(にく)のおさかなでも、引(ひ)き受(う)けてくれたので、見(み)るから上機嫌(じょうきげん)になって
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
血(ち)の道(みち)のつよき人(ひと)なれば胸(むな)ぐるしさ堪(た)えがたうて、枕(まくら)に小抱卷(こがいまき)仮初(かりそめ)にふし給(たま)ひしを、小間(こま)づかひの米(よね)よりほか、絶(た)えて知(し)る者(もの)あらざりき。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
新秋(しんしう)の氣(き)もちいゝ風(かぜ)が簾(すだれ)を透(とほ)して吹(ふ)く、それが呼吸氣管(こきうきくわん)に吸(す)ひ込(こ)まれて、酸素(さんそ)が血(ち)になり、動脈(どうみやく)が調子(てうし)よく搏(う)つ………その氣(き)が味(あぢ)はへない。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
剥(む)いてゆくうちに、指(ゆび)を切(き)ったので、雪(ゆき)の上(うえ)へ血(ち)がたれました。(*(註)杜松は檜類の喬木で、一に「ねず」又は「むろ」ともいいます)
けれども……皷動(こどう)が全(まつた)く靜(しづ)まつて、血(ち)の流(なが)れがもとのゆるやかさにかへつた頃(ころ)、極(きは)めて靜(しづ)かに歩(あゆ)み寄(よ)つて來(く)るもの侘(わ)びしさを
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
然(しか)しながら假令(たとひ)どうでも噺聲(はなしごゑ)が聞(きこ)えて青(あを)い煙(けぶり)が立(た)つて居(ゐ)れば、僅(わづか)でも血(ち)が循環(めぐ)つて居(ゐ)るものゝやうに活(い)きて見(み)えるのであるが
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
事(こと)に依(よ)つたら、世(よ)の人(ひと)たちの有(も)つてゐる主(しゆ)の御血汐(おんちしほ)で、この身(み)が癒(なほ)るかも知(し)れぬ。血(ち)を思(おも)ふことも度々(たびたび)だ。この歯(は)なら咬付(かみつ)ける。真白(まつしろ)の歯(は)だ。
ラランのやつに欺(だま)されたと気(き)づいても、可哀(かあい)さうなペンペはその抉(えぐ)られた両方(りやうほう)の眼(め)から血(ち)を滴(したた)らすばかりだつた。もうラランの名(な)も呼(よ)ばない。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
『済(す)みませぬ済(す)みませぬ、どうぞどうぞお許(ゆる)しくださいませ……』何回(なんかい)私(わたくし)はそれを繰(く)り返(かえ)して血(ち)の涙(なみだ)に咽(むせ)んだことでしょう!
それから、そのあとを六羽(わ)の若いガンが、右に三羽(ば)、左に三羽飛ぶのです。どれもこれも、りっぱな血(ち)すじの高山ガンです。
頭髪(かみ)を乱して、血(ち)の色(け)のない顔をして、薄暗い洋燈の陰にしょんぼり坐っているこの時のお源の姿は随分憐(あわれ)な様であった。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そんなお喋(しゃべ)りをしていますと、突然(とつぜん)空中(くうちゅう)でポンポンと音(おと)がして、二羽(わ)の雁(がん)は傷(きず)ついて水草(みずくさ)の間(あいだ)に落(お)ちて死(し)に、あたりの水(みず)は血(ち)で赤(あか)く染(そま)りました。
お父上(ちちうえ)は、りっぱな学者(がくしゃ)だった。その血(ち)をひいたおまえが、勉強(べんきょう)はだいきらいだなんていって、はずかしいとおもわぬか。
此故(このゆゑ)に腥(なまぐさ)き血(ち)の臭(にほひ)失(う)せて白粉(おしろい)の香(かをり)鼻(はな)を突(つ)く太平(たいへい)の御代(みよ)にては小説家(せうせつか)即ち文学者(ぶんがくしや)の数(かず)次第々々(しだい/\)に増加(ぞうか)し、鯛(たひ)は花(はな)は見(み)ぬ里(さと)もあれど、鯡(にしん)寄(よ)る北海(ほつかい)の浜辺(はまべ)
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵、三文字屋金平(著)
この言葉が更に新しい間違ひを釀(かも)した——それが眞實に觸れたが故に、より惡いものであつた。彼の血(ち)の氣(け)を失つた唇は瞬間的な痙攣(けいれん)に引きつゝた。
それはまるで赤や緑(みどり)や青や様々(さまざま)の火がはげしく戦争(せんそう)をして、地雷火(じらいか)をかけたり、のろしを上げたり、またいなずまがひらめいたり、光の血(ち)が流(なが)れたり
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
西(にし)の空(そら)はいま、血(ち)みどろな沼(ぬま)のやうに、まつ紅(か)な夕(ゆふ)やけに爛(たゞ)れてゐた。K夫人(ふじん)は立(た)つて西窓(にしまど)のカーテンを引(ひ)いた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
一国の大寺なれば古文書(こもんじよ)宝物等も多し、その中に火車落(くわしやおとし)の袈裟(けさ)といふあり、香染(かうそめ)の麻(あさ)と見ゆるに血(ち)の痕(あと)のこれり。
その瑣細(ささい)な道理(だうり)と云(い)ふのは例(たと)へば、眞赤(まツか)に燒(や)けた火箸(ひばし)を長(なが)い間(あひだ)持(も)つてると火傷(やけど)するとか、又(また)は指(ゆび)を小刀(ナイフ)で極(ごく)深(ふか)く切(き)ると何時(いつ)でも血(ち)が出(で)るとか云(い)ふことです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
別府(べっぷ)さんの口調(くちょう)が熱(ねつ)してきて、そのほおが赤くなるにつれて、星野仁一(ほしのじんいち)の顔からは、血(ち)の気(け)がひいていった。選手(せんしゅ)たちは、みんな、頭を深くたれてしまった。
星野くんの二塁打 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
おいらァおめえの兄貴(あにき)だよ。——血(ち)を分(わ)けた、たった一人(ひとり)の兄貴(あにき)だよ。それも、百とまとまった金(かね)が入用(いりよう)だという訳(わけ)じゃねえ。四半分(はんぶん)の二十五両(りょう)で事(こと)が済(す)むんだ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
皮膚には一滴の血(ち)の気(け)もなく下瞼(したまぶた)がブクリと膨(ふく)れて垂(た)れ下(さが)り、大きな眼は乾魚(ひもの)のように光を失っていた。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
柔(やわら)かな腹(はら)の鱗(うろこ)の間(あいだ)に、一面(めん)に釘(くぎ)がささりまして、そこから血(ち)が流(なが)れだし、そのまま死(し)んでしまいました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
血(ち)の赤(あか)と、骨(ほね)の白(しろ)の配色の翅をつけた一匹の蝶は、落寞とした空間に、見るもあやうげにかかっている。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「血(ち)の脅威(テラア)」——ジャアナリズムはいちはやくこの連続的犯行をこう命名していた——が、またもやこの夜、貧窮と汚毒(おどく)と邪悪のイースト・エンドを訪れるのだ。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
祖先伝来一切の生命の蓄積して居る土は、其一塊(いっかい)も肉の一片血(ち)の一滴(いってき)である。農から土を奪(うば)うは、霊魂から肉体を奪うのである。換言すれば死ねと云うのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
何(なに)しろ一刀(ひとかたな)とは申(まを)すものの、胸(むな)もとの突(つ)き傷(きず)でございますから、死骸(しがい)のまはりの竹(たけ)の落葉(おちば)は、蘇芳(すはう)に滲(し)みたやうでございます。いえ、血(ち)はもう流(なが)れては居(を)りません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
残(のこ)る所の二十七名は之より進(すす)むのみにして帰(かへ)るを得ざるもの、実(じつ)に血(ち)を啜(すす)りて决死(けつし)の誓(ちかひ)をなししと云ふて可(か)なり、既(すで)にして日漸(やうや)く高(たか)く露亦漸(やうや)く消(き)へ、渇(かつ)益渇を加(くわ)へ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
銃架(じうか)よ、お前(まへ)はおれの心臓(しんざう)に異様(いやう)な戦慄(せんりつ)を与(あた)へる——血(ち)のやうな夕日(ゆふひ)を浴(あ)びてお前(まへ)が黙々(もく/\)と進(すゝ)むとき
其他(そのほか)は何(いづ)れも断片(だんぺん)で、文句(もんく)は素(もと)より拙劣(せつれつ)、唯(たゞ)血(ち)の躍(おど)るまゝにペンを走(はし)らせたものとしか見(み)えぬ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
甚「此の鎌で殺しゃアがった、酷(ひど)い雨で段々血(のり)は無くなったが、見ねえ、血(ち)が滅多に落(おち)ねえ物とみえて染込(しみこ)んで居らア、磨澄(とぎすま)した鎌で殺しゃアがった、是で遣(や)りゃアがった」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『あゝ貴方(あなた)も此(こゝ)へ入(い)れられましたのですか。』と彼(かれ)は嗄(しはが)れた聲(こゑ)で片眼(かため)を細(ほそ)くして云(い)ふた。『いや結構(けつこう)、散々(さん/″\)人(ひと)の血(ち)を恁(か)うして吸(す)つたから、此度(こんど)は御自分(ごじぶん)の吸(す)はれる番(ばん)だ、結構々々(けつこう/\)。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其(その)息子(むすこ)が海蛇(うみへび)に捕(と)られたといふのは、生命(いのち)の事(こと)ではなく、實(じつ)は、印度洋(インドやう)の惡魔(あくま)と世(よ)に隱(かく)れもなき海賊船(かいぞくせん)の仲間(なかま)に入(い)り、血(ち)をすゝつて、海蛇丸(まる)とかいへる海賊船(かいぞくせん)の水夫(すいふ)となつたのだ相(さう)です。
そして双方(そうほう)とも、泥(どろ)だらけになり、やがて血(ち)までがだらだら流(なが)れ出(だ)しました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
いかになりつるやと、あるひは異(あや)しみ、或は恐る恐る、一八二ともし火を挑(かか)げてここかしこを見廻(めぐ)るに、明けたる戸腋(とわき)の壁に一八三腥(なま)々しき血(ち)灌(そそ)ぎ流れて地につたふ。されど屍(しかばね)も骨(ほね)も見えず。
純粋(じゅんすい)のフランス人(じん)の血(ち)すじをうけた人(ひと)で、するどい知力(ちりょく)をもっています。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
どこへ行っても、今頃は、こんな血(ち)の気(け)の多いのに打突(ぶっつ)かることが珍らしくない。いや、竜之助は、これよりもっともっと生命知(いのちし)らずの新撰組や、諸国の浪士の間に白刃(しらは)の林を潜(くぐ)って来た身だ。
その風流な河原も、今は血(ち)なまぐさい風が吹きまくって。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
五時(じ)ごろの日(ひ)の光(ひかり)わかわかしき血(ち)のごとくふりそそぎ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)