ゆき)” の例文
越前ゑちぜん武生たけふの、わびしい旅宿やどの、ゆきうもれたのきはなれて、二ちやうばかりもすゝんだとき吹雪ふゞき行惱ゆきなやみながら、わたしは——おもひました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ゆきがふるとられなくなるから、ちょっと、となりむらまでようたしにいってくる。」と、父親ちちおやは、じたくをしながら、いいました。
ペスときょうだい (新字新仮名) / 小川未明(著)
娘はすぐ巳之吉のことばに従った。娘はおゆきと云う名であった。巳之吉の母親は、巳之吉からお雪の事を聞いてお雪を家へ置く事にした。
雪女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もりおくまいには、毎日まいにち木枯こがらしがいて、ちつくすと、やがてふかゆきもりをもたにをもうずめつくすようになりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
番目ばんめには露國文豪ろこくぶんがうトルストイはく傑作けつさく千古せんこゆき」とふのと、バンカラ喜劇きげき小辰こたつ大一座おほいちざふのが、赤地あかぢしろいてあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一生の思出に、一度は近郷きんごう近在きんざいの衆を呼んで、ピン/\した鯛の刺身煮附に、ゆきような米のめしで腹が割ける程馳走をして見たいものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一二月いちにがつころのような小枝こえだに、黄色きいろはなけたり、また蝋梅ろうばいのようにもっとはやゆきなかかをりたかくほこるものもあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
この氷滑こほりすべりがゆきたのしみの一つで、とうさんもぢいやにつくつてもらつた鳶口とびぐち持出もちだしては近所きんじよ子供こどもと一しよゆきなかあそびました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
くまさん、どうです、今日けふあたりは。ゆきうたでもうたつておくれ。わしあ、こほりかたまりにでもならなけりやいいがと心配しんぱいでなんねえだ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
皆樣みなさまは、其樣そんなにあの可愛かあいがつてくださつたのですか。わたくしなん御禮おれい言葉ことばもございません。』とゆきのやうなるほう微※えくぼなみたゝえて
草木さうもくおよ地上ちじやうしもまばたきしながらよこにさうしてなゝめけるとほ西にし山々やま/\ゆき一頻ひとしきりひかつた。すべてをつうじて褐色かつしよくひかりつゝまれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ながめやればはるか向ふに燈火ともしびの光のちら/\と見えしに吉兵衞やうやくいきたる心地こゝちし是ぞまがひなき人家ならんと又も彼火かのひひかり目當めあてゆき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いてゆくうちに、ゆびったので、ゆきうえがたれました。(*(註)杜松は檜類の喬木で、一に「ねず」又は「むろ」ともいいます)
酒場さかばへ、ずかずかとはいってくるなり、ぶるるんと、からだをゆさぶってゆきをはらいおとし、黒馬旅館の女あるじに向かって、そう言った。
それだのにおなゆきいたゞいたこゝのひさしは、彼女かのぢよにそのつたこゝろあたゝめられて、いましげもなくあいしづくしたゝらしてゐるのだ。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
皚々がい/\たる雪夜せつやけいかはりはなけれど大通おほどほりは流石さすが人足ひとあしえずゆき瓦斯燈がすとうひか皎々かう/\として、はだへをさす寒氣かんきへがたければにや
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
下界げかいものとしてはあま靈妙いみじい! あゝ、あのひめ女共をんなども立交たちまじらうてゐるのは、ゆきはづかしい白鳩しらはとからすむれりたやう。
さういふしづかなひと物足ものたりない心持こゝろもちを、さびしいともかなしいともいはないで、それかといつて、ゆきのふりかゝつてゐるのをうらむでもなく
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
雪深き深山みやま人気ひとけとだえしみち旅客たびびと一人ひとりゆきぬ。ゆきいよいよ深く、路ますます危うく、寒気え難くなりてついに倒れぬ。
詩想 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
つきゆきはなおろいぬんだとては一句いつくつくねこさかなぬすんだとては一杯いつぱいなにかにつけて途方とはうもなくうれしがる事おかめが甘酒あまざけふとおなじ。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
吉野のゆき霏々ひひ、奥州のあき啾々しゅうしゅうちまたにも、義経詮議の声のかしましく聞えてきた頃、誰やら、義朝の廟、南御堂の壁へ、こんな落書をしたものがある。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頂上てうじやうにはふるむかしから、大理石だいりせきのやうにかたくて真白ましろゆきこほりついてゐて、かべのやうにそゝりつ、そこまで、まだ誰一人だれひとりのぼつたものがない。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
およそ天よりかたちしてくだものあめゆきあられみぞれひようなり。つゆ地気ちき粒珠りふしゆするところしもは地気の凝結ぎようけつする所、冷気れいき強弱つよきよわきによりて其形そのかたちことにするのみ。
小泉徳次君は、鎌倉ゆきしたに住み、鎌倉彫りの方をやっている。この人は私が猿を彫った時分にいた弟子の一人です。
をんなかたほヽをよせると、キモノの花模様はなもやうなみだのなかにいたりつぼんだりした、しろ花片はなびら芝居しばゐゆきのやうにあほそらへちら/\とひかつてはえしました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
明智は化粧品のハンカチつつみを大切相に懐中して立上った。書生の山木と小間使のおゆきとが玄関まで彼を見送った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あたまのてっぺんまで、汚泥はねがるのもおかまいなく、よこびにした市松いちまつには、あめなんぞ、芝居しばい使つかかみゆきほどにもかんじられなかったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
はるになつてゆき次第しだいけた或日あるひ墓場はかばそばがけあたりに、腐爛ふらんした二つの死骸しがい見付みつかつた。れは老婆らうばと、をとことで、故殺こさつ形跡けいせきさへるのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
蛇苺へびいちご芍藥しやくやくゆきした、もつとおとなしい隱立かくしだてよりも、おまへたちのはうがわたしはすきだ。ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
やがて峰々から吹いてくる風が、ゆきみぞれの先触れをして、冬籠りの支度は何処いずくの家でも、たいていもう整った。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
元鳥越もととりごえの大地主、丸屋源吉まるやげんきちの女房、おゆきというのが毒死したという訴えのあったのは、ある秋の日の夕方。
また鎌倉かまくられいると由比ヶ濱ゆひがはま砂丘さきゆうは、ゆきした岩盤がんばん比較ひかくして四五倍しごばいおほいさにることもある。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「いいえ、わります。わります。私のの光なんか、もうすぐ風にって行かれます。ゆきにうずまって白くなってしまいます。くさの中でくさってしまいます」
めくらぶどうと虹 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
岩代の燧岳ひうちたけ、越後のこまたけ、八海山等皆巍然ぎぜんとして天にてうし、利根水源たる大刀根岳は之と相拮抗きつこうして其高きをあらさふ、越後岩代の地方に於てはけつしてゆきを見ざるに
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
三十六ねんなつ水谷氏みづたにしうち望蜀生ぼうしよくせいとも採集さいしふかけて、ゆき圓長寺えんちやうじうら往還わうくわんつてた。道路だうろ遺跡ゐせきあたるので、それをコツ/\りかへしてたのだ。
打見うちみところ年齢とし二十歳余はたちあまり、かお丸顔まるがおほうで、緻致きりょうはさしてよいともわれませぬが、何所どことなく品位ひんいそなわり、ゆきなす富士額ふしびたいにくっきりとまゆずみえがかれてります。
田児たごの浦ゆうち出でて見れば真白ましろにぞ不尽ふじ高嶺たかねゆきりける 〔巻三・三一八〕 山部赤人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
貫一はさすがに驚けり、宮がきぬはだけてゆき可羞はづかしあらはせる膝頭ひざがしらは、おびただしく血に染みて顫ふなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
火星くわせいにはみづすくない。もしうみがあるとすれば、はるゆきどけのときだけできるあさい海うみだ。)
林檎りんごこめゆき 秋付録 米料理百種「西洋料理の部」の「第四十 林檎りんごと米の雪」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
闇の中にひろびろと開けた、ゆきたいらを通って来た。闇と言ってもぽっとどこか白々として、その広い平がかすかに見透かされる。そして寒い風が正面から吹きつける中を歩いて来たのだ。
土淵村にての日記 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
けれどもさいわいに子家鴨こあひるはうまくげおおせました。ひらいていたあいだからて、やっとくさむらなかまで辿たどいたのです。そしてあらたにつもったゆきうえまったつかれたよこたえたのでした。
野郎やらうがついたな、鉄砲てつぱう射殺ぶちころしてしまふ。これを聞いていよ/\おどろゆきなかげたがあとからおくまは火縄筒ひなはづゝを持つて追つて来ます。旅の人はうしろをふり向くとチラ/\火が見える。
ゆき朝早あさはやくなので、まだ参詣の人影もない。やって来たのは、その娘ひとり。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
女隠居は娘をゆきさんと呼び、息子むすこだけは清太郎せいたろうと呼び捨てにしていた。
春の夜 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
平野へいやの上では、こおりゆきえて、もう春の仕事しごとがはじまっていました。
「うたを つくるより、ゆきなげの ほうが、おもしろいわい。」
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
「仲居のゆきでござります。なんぞ御用と仰しゃりますか」
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
奥山おくやますがぬぎふるゆきなばしけむあめなふりそね
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
したしくは妻子とこもれゆきあかりのこの谿底たにそこの日の暮のひえ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)