心持こゝろもち)” の例文
咽喉のどから流れるままに口の中で低唱ていしやうしたのであるが、れによつて長吉ちやうきちみがたい心の苦痛が幾分いくぶんやはらげられるやうな心持こゝろもちがした。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さような事に頓着とんじゃくはいらぬから研ぐには及ばん、又憎い奴を突殺つきころす時は錆槍で突いた方が、先の奴が痛いから此方がかえっていゝ心持こゝろもち
「どうしたね勘次かんじうしてれてられてもいゝ心持こゝろもちはすまいね」といつた。藁草履わらざうり穿いた勘次かんじ爪先つまさきなみだがぽつりとちた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そこで衆人みんな心持こゝろもちは、せめてでなりと志村しむらだい一として、岡本をかもと鼻柱はなばしらくだいてやれといふつもりであつた。自分じぶんはよくこの消息せうそくかいしてた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
御米およねはかう宗助そうすけからいたはられたときなんだか自分じぶん身體からだわることうつたへるにしのびない心持こゝろもちがした。實際じつさいまた夫程それほどくるしくもなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あゝ心持こゝろもちださつぱりしたおまへ承知しようちをしてくれゝばう千人力にんりきだ、のぶさんありがたうとつねやさしき言葉ことばいでるものなり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
心持こゝろもち西にしと、ひがしと、真中まんなかやまを一ツいて二すぢならんだみちのやうな、いかさまこれならばやりてゝも行列ぎやうれつとほつたであらう。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
戀人こひゞとうれしさは、寺子共てらこども書物しょもつはなるゝ心持こゝろもちおなじぢゃが、わかるゝときせつなさは、澁面じふめんつくる寺屋通てらやがよひぢゃ。
『なア水谷君みづたにくん素人しらうとはこれだからこまる。このどうもなになくツても、貝層かひそう具合ぐあひなんていね。うしてたゞつてても心持こゝろもちだねえ』とぼくふ。
ごろ/\ごろ/\石臼いしうすふのは、あれは心持こゝろもちだからです。もつと、もつと、とうた催促さいそくしてるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
屹度きつといま心持こゝろもちになるにちがひない』と獨語ひとりごとつて、『わたしべたりんだりするものは何時いつでもうですもの、んなものだかこれも一つためしてよう、 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
其の踊りの第一印象は、「何だ、こんなものなら、俺にだつて直ぐ出来さうだ。」と云ふやうな心持こゝろもちだつた。音楽にあはして、歩いてゐれやあそれでいゝんぢやないか。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
まちは、そのときそのあしめに未來みらいがどうなるかともかんがへなかつた。自分じぶんがそのあしめになかにどんな心持こゝろもちきなければならないかと、いふことかんがへなかつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
これは無論むろん作者さくしやに對する一しゆ僻見へきけんかも知れませんが、事實じじつに於ては、私も氏の作品さくひんに強く心をかれ乍らも、どこかにまだ心持こゝろもちにぴつたり來ない點がないではありません。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
勿論僕もその一人だ。南京路ナンキンロ四馬路スマロなどの繁華雑沓ざつたふは銀座日本橋の大通おほどほりを眺めて居た心持こゝろもち大分だいぶんに違ふ。コンクリイトで堅めた大通おほどほりやはらかに走る馬車の乗心地が第一にい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ティウトンのヨハンネスとこたへる其声そのこゑきとほるやうで、いてゐて、心持こゝろもちくなる。
得しことゆゑ癪氣しやくきも速かにをさまりければ大岡殿には悦ばれ成程めうよい心持こゝろもちに成しと申されるに城富は先々御休息きうそくあそばされよと申て自分もやすみ居たりけるに大岡殿は寢返ねがへりて此方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
君達きみたち娯樂ごらくともならばしたまへとうつくしきたましひぐ」といふあなたの歌をS誌上しじやうに見たその時の、なんともいふことの出來ないその心持こゝろもちを、私はまだまざ/\とおぼえてゐます。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
みち出合であ老幼らうえうは、みな輿けてひざまづく。輿なかではりよがひどく心持こゝろもちになつてゐる。牧民ぼくみんしよくにゐて賢者けんしやれいするとふのが、手柄てがらのやうにおもはれて、りよ滿足まんぞくあたへるのである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
そしてその海の物や山の物を出し惜しみをするやうに、心持こゝろもち後ろへ引張つた。
『四かいいへとする』ほどのひろ心持こゝろもちもない。國語こくご風俗ふうぞく人種じんしゆとの關係上くわんけいじやう世界せかいらゆる國民こくみんらゆる人種じんしゆたいして、『一視同仁しどうじん』といふほどの、まつたおなしたしみをかんるとはへない。
「それで、貴方あなた如何どうさらうとふお心持こゝろもちなのです。」
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しなはやしいくつもぎて自分じぶんむらいそいだが、つかれもしたけれどものういやうな心持こゝろもちがして幾度いくたび路傍みちばたおろしてはやすみつゝたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
梯子段はしごだんの二三段を一躍ひととびに駈上かけあがつて人込ひとごみの中に割込わりこむと、床板ゆかいたなゝめになつた低い屋根裏やねうら大向おほむかうは大きな船の底へでもりたやうな心持こゝろもち
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
懷姙くわいにんこときまつたとき、御米およねこのあたらしい經驗けいけんたいして、おそろしい未來みらいと、うれしい未來みらい一度いちどゆめやう心持こゝろもちいだいてごした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ホヽいやだよ此人このひとは、しゞみかひごとべてさ……あれさお刺身さしみをおかつこみでないよ。梅「へえ……あゝ心持こゝろもちになつた。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
あるひくるまのはやりはじめのころかもれない。微醉ほろよひはるかぜにそよ/\かせて、身體からだがスツとやなぎえだちうなび心持こゝろもちは、餘程よつぽどうれしかつたものとえる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
貴嬢あなたなにをおつしやいますいままでほど待遊まちあそばしたのにまたそんなことをヱお心持こゝろもちがおわるひのならおくすりをめしあがれ阿母おつかさまですか阿母おつかさまはうしろに。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
きぬはなして、おきぬ愈々いよ/\小田原をだはらよめにゆくことにまつた一でうかされたときぼく心持こゝろもちぼく運命うんめいさだまつたやうで、今更いまさらなんともへぬ不快ふくわいでならなかつた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
たこひました。とうさんが大急おほいそぎでいとしますと、たこ左右さいうくびつたり、ながかみをヒラ/\させたりしながら、さも心持こゝろもちよささうにあがつてきました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
まだわかい十八のとしに、彼女かれは、さびしい昔戀むかしこひしいやうな心持こゝろもちになつて、もしも自分じぶん松葉杖まつばづゑをつかない壯健そうけんをんなであつたならば、自分じぶん運命うんめいはどうなつたであらうかとかんがへた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
巧みに表現されて居ますが、それを包む肝腎かんじんの人間の心持こゝろもち色合ニユアンスや、味ひがけて居ます。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
このにち運動うんどうは、ほねずいまで疲勞ひろうするやうかんじるのであるが、そのあらげたる破片はへん食卓しよくたくの一ぐうならべて、うして、一ぱいやるとき心持こゝろもちといふものは、んともはれぬ愉快ゆくわいである。
おい苦勞くらうち、苦勞くらう宿やどところには兎角とかく睡眠すゐみん宿やどらぬものぢゃが、こゝろきずなうわだかまりのないわかものは、手足てあしよこにするやいなや、心持こゝろもちねむらるゝはずぢゃに、かうはやきさしゃったは
さうして可成なるべくそんな秘密ひみつさはりたくないやうな心持こゝろもちもした。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しなあさから心持こゝろもち晴々はれ/″\してのぼるにれて蒲團ふとんなほつてたが、身體からだちからいながらにめうかるつたことをかんじた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
欽明天皇の御代みよでも差支ない気がする。応神天皇や称武天皇では決してないと思ふ。三四郎はたゞ入鹿いるかじみた心持こゝろもちを持つてゐる丈である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何処どこか近くの家で百萬遍ひやくまんべん念仏ねんぶつとなへ始める声が、ふと物哀ものあはれに耳についた。蘿月らげつたつた一人で所在しよざいがない。退屈たいくつでもある。薄淋うすさびしい心持こゝろもちもする。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
……黒繻子くろじゆすに、小辨慶こべんけいあゐこんはだしろさもいとして、乳房ちゝ黒子ほくろまでてられました、わたしとき心持こゝろもちはゞかりながら御推量ごすゐりやうくださりまし。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
正太しようたおそる/\まくらもとへつて、美登利みどりさんうしたの病氣びようきなのか心持こゝろもちわるいのか全體ぜんたいうしたの、とのみは摺寄すりよらずひざいてこゝろばかりをなやますに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
成程なるほど先刻さつきみせ田舎者ゐなかもの土左衛門どざゑもんだから、悪人あくにんながらも心持こゝろもちはしない、慄立よだつたが、土左衛門どざゑもん突出つきだしてしまへとふので、仕事師しごとし手鍵てかぎつてたり
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
うまれてはじめて『わるい』といふことをほんたうにつた、自分じぶんわるいとおもひながらぼう振上ふりあげ/\してかめつのに夢中むちうになつてしまつた、あんな心持こゝろもちはじめてだ
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
... あゝ心持こゝろもちぢや』と老人らうじんつてさら若者わかものむかひ『おまへさんは何處どこものぢや』とひました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
必然ひつぜんにどうしてもその心理しんりうごき方が、む者の心持こゝろもちにしつくりはまつて來ないといふがします。これを言ひへれば、氏の心理描寫しんりべうしや心理解剖しんりかいばうであつて、心理描寫しんりべうしやではないのでありますまいか。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
うかしたかとたづねると、たゞすこ心持こゝろもちわるいとこたへるだけであつた。醫者いしやもらへとすゝめると、それにはおよばないとつてはなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「お姉上あねうへ。」——いや、二十幾年にじふいくねんぶりかで、近頃ちかごろつたが、夫人ふじん矢張やつぱり、年上としうへのやうな心持こゝろもちがするとかふ。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
交際つきあつてはぞんほかやさしいところがあつておんなながらもはなれともない心持こゝろもちがする、あゝこゝろとて仕方しかたのないものおもざしが何處どことなくへてへるは本性ほんせうあらはれるのであらう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
間違いとは云いながら、ちいさい時分に別れたお前様の子、それを貴方あんたが知らないとは云いながらはア斬って殺すと云うは、若い時分の罪だと懺悔ざんげする其の心持こゝろもちを考えますと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老人らうじんなら南無阿彌陀佛なむあみだぶつ/\とくちうちとなへるところだ。老人らうじんでなくともこの心持こゝろもちおなじである。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「里見さん」と呼んだ時に、美禰子は青竹の手欄てすりに手を突いて、心持こゝろもちくびもどして、三四郎を見た。何とも云はない。手欄てすりのなかは養老の滝である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)