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振上
吾助は得たりと
太刀振上只一刀に討たんとするやお花は
眞二ツと見えし時友次郎が
曳と打たる
小柄の
手裏劍覘ひ
違ず吾助が右の
肱に打込みければ忽ち
白刄を
右の手高く
振上し
鉈には鉄をも砕くべきが気高く
仁しき
情溢るる
計に
湛ゆる姿、さても水々として柔かそうな
裸身、
斬らば熱血も
迸りなんを、どうまあ邪見に
鬼々しく
刃の
酷くあてらるべき
生れて
初めて『
惡い』といふ
事をほんたうに
知つた、
自分で
惡いと
思ひながら
復た
棒を
振上げ/\して
龜の
子を
打つのに
夢中になつてしまつた、あんな
心持は
初めてだ
烏と
爭ふとも
遁るゝことは
叶はず
速やかに白状せよと
諭されければ大膽無類の長庵も
最早叶はじとや思ひけん見る中に
髮髯逆立兩眼に
血を
注ぎ
惡鬼羅刹の如き
面を
振上げ一同の者を