くづ)” の例文
震災でくづれなかつた山門を見たとき、これは崩れる山門ぢやない——そんなやうな気さへされて、建長興国の思ひにとざゝれました。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
四谷よつやとほりへ食料しよくれうさがしにて、煮染屋にしめやつけて、くづれたかはら壁泥かべどろうづたかいのをんで飛込とびこんだが、こゝろあての昆布こぶ佃煮つくだにかげもない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうして愛情あいじやう結果けつくわが、ひんのためにくづされて、ながうちとらへること出來できなくなつたのを殘念ざんねんがつた。御米およねはひたすらいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さだめてあの張作霖ちやうさくりんがそんなふう相好さうかうくづしてのけぞりかへつただらうとおもふと、そのむかし馬賊ばぞく荒武者あらむしやだつたといふひとのよさも想像さうざうされて
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
屋敷の裏で、くづれた石垣に打たれて死んでゐるのを、今朝往來の人が見付けた。くはなんかを捨ててあつたところを見ると、石垣を
それが年月としつきるにしたがつていしくづれたり、そのなかたねちてしたりして、つかうへ樹木じゆもくしげつてたのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
下部しもべらもこのおとにみなはせよりて、くづれおちたる雪にまみれたる人を見れば、此家へも常にきたる福一といふ按摩あんまとりの小座頭こざとう也けり。
むかしのまゝ練壁ねりかべ處々ところ/″\くづちて、かはら完全くわんぜんなのは見當みあたらくらゐそれに葛蔓かづらのぼつてますから、一見いつけん廢寺ふるでらかべるやうです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
晩餐ばんさんをはると踊子をどりこさそ太鼓たいこおとやうやしづけた夜氣やきさわがしてきこはじめた。のきつた蚊柱かばしらくづれてやが座敷ざしきおそうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかるにわたくし苦心くしんまつた無益むえきであつた。第一端艇だいいちたんてい波上はじやううかぶやなや、たちま數百すうひやくひとは、雪崩なだれごと其處そこくづれかゝつた。
かくても貫一はひざくづさで、巻莨入まきたばこいれ取出とりいだせしが、生憎あやにく一本の莨もあらざりければ、手を鳴さんとするを、満枝はさきんじて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
やまくづして、それに引添ひきそふやうにてられたこのいへの二かいからは、丁度ちやうどせまらぬ程度ていどにその斜面しやめんそらの一とが、仰臥ぎやうぐわしてゐるわたしはいつてる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
この現象は、いろいろな意味にとられるが、根本的には、純小説をしつかりささへてゐた個人主義、ないしは個人性が、それだけくづれてきたのだとみられる。
誰れ見ねども膝もくづさず、時々鬢のほつれに小波さゞなみを打たせて、吐く息の深げなるに、哀れは此處こゝにも漏れずと見ゆ。主はぞ、是れぞ中宮ちゆうぐうが曹司横笛なる。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
宿入やどいりに出すが如き仕成しなしにて名代につかはしけるに彼の仲間の若者は萬八のくづれより向島むかうじまの花見と云ひなしそのじつ花街よしはらの櫻の景氣を見んと言ひ立ち伊勢五の養子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
創立以来勤続三十年といふ漢文の老教師は、癖になつてゐる鉄縁の老眼鏡を気忙きぜはしく耳にはさんだりはづしたりしながら、相好さうがうくづした笑顔で愛弟子まなでしの成功を自慢した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「酒には苦労しますぜ。かういふ時世になると何ぞボロイまうけでもせなんだら酒のために落ちぶれまんな。第一にナリがくづれますぜ。この通り、乞食こじきみたいに……」
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
隣り座敷では三味線さみせんがいよ/\はげしくなつて、濁聲だみごゑうたふ男の聲も聞えた。唄ひ終ると、男も女もどつと一時に笑ひはやすのが、何かのくづれ落ちるやうな勢ひであつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
平家建ひらやだて小屋組こやぐみすなはけたはり屋根やねとの部分ぶぶん普通ふつう出來できてゐれば容易よういくづれるものではない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
而るに今や利根水源を確定かくていして、加ふるに上越の国界をあきらかにするを得、衆皆絶叫ぜつけうくわいぶ、其勢上越の深山もくづるるが如し、深井君ただちに鋭刀をふるふて白檜の大樹皮を
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
これだけはいささか快とするに足る。なほ又次手ついでにつけ加へれば、北原君は底抜けの酒客しゆかくなれども、座さへうてくづしたるを見ず。わづかに平生の北原君よりも手軽に正体をあらはすだけなり。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と云つたやうなおもむきのある街で、土塀がくづれてゐたり家竝が傾きかかつてゐたり——勢ひのいいのは植物だけで時とすると吃驚びつくりさせるやうな向日葵ひまはりがあつたりカンナが咲いてゐたりする。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
常子は形勢を察したのでドアのところに行つて「鶴子さん」とさう呼んだ。……彼女が呼び終るまで故意わざと不機嫌な顔をくづさずにゐた信徳は、それで気が済んだやうに又眼を書類に落した。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
乳母 誓文せいもん、ござります。ロミオどのは追放つゐはうぢゃほどに、世界せかいくづれうと、もどってなんのかのとはッしゃらうはずい。よしやもどらッしゃるにせい、ほんの窃々こつそり内密沙汰ないしょざたぢゃ。
私の勇氣は、くじけていつた。いつものしひたげられた氣持や懷疑心や孤獨な憂鬱いううつが、くづれゆく憤激の餘燼よじんに、めと落ちかゝつた。みんなは、私が惡いと云ふ。多分、さうかも知れない。
いとをあやつる老妓あれば、此方こなたにどたばたひまくられて、キヤツと玉切たまぎ雛妓すうぎあり、玉山くづれて酒煙濛々もう/\、誠にあしたに筆をして天下の大勢を論じ去る布衣ふい宰相諸公が、ゆふべの脚本体なりける
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
岩崎弥太郎いはさきやたらうさんとかたらツしやいまして、あの旦那様だんなさまが針の山をはらげて、その山をくづしたつちで血の池をめてしまひ、今ではたひらで、彼処あすこが公園にりまして、誠に面白おもしろうございますよ
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
たばになつてたふれた卒塔婆そとばと共に青苔あをごけ斑点しみおほはれた墓石はかいしは、岸とふ限界さへくづれてしまつた水溜みづたまりのやうな古池ふるいけの中へ、幾個いくつとなくのめり込んでる。無論むろん新しい手向たむけの花なぞは一つも見えない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
地震なゐくづれそのままなれや石崖に枝垂しだれ桜は咲き枝垂れたり
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
一同が、また、新しくどつと笑ひくづれた。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
雲の峰いくつくづれて月の山 同
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ああ、くづけた壁に
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
やまくづして、みねあましたさまに、むかし城趾しろあと天守てんしゆだけのこつたのが、つばさひろげて、わし中空なかぞらかけるか、とくもやぶつて胸毛むなげしろい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
肩から肩の上へさるの様にかさなり合つて、最上の一人の手がいはの鼻へ掛かるや否や、いはくづれて、腰の縄が切れて、上の三人が折り重なつて
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
二十二三でせうが、存分におきやんで此上もなく色つぽくて、素顏に近いほどの薄化粧が、やけな眼隱しにくづれたのも、言ふに言はれぬ魅力です。
弦月丸げんげつまる萬山ばんざんくづるゝがごとひゞきとも左舷さげん傾斜かたむいた。途端とたんおこ大叫喚だいけうくわん二百にひやく船員せんゐんくるへる甲板かんぱんへ、數百すうひやく乘客じやうきやく一時いちじ黒雲くろくもごと飛出とびだしたのである。
かゝるをりしも人々のすはりゐたるうしろの方にたかきあかり窓ありしが、きびしき音ありてまどをやぶり、ほりあげの雪がら/\とくづれおちたる中に人のりくだりければ
日本につぽんでもむかしから百姓ひやくしよう土地とちたがやしたり、やまくづれたりしたとき、ひょっこり石器せつき發見はつけんされたことが屡々しば/\ありましたが、むかしはそれらの石器せつき人間にんげんつくつたものとはおもはないで
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
しき是へ御上りあれといふゆゑ長八は御構下おかまひくださるなと其所へあが四邊あたりを見るにかべの方は破れたる二まい屏風びやうぶを立回し此方にはくづれ懸りし一ツべつゝひすみ鑄懸いかけか眞黒にくすぶりたるなべ一ツを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
尤も今日は、刻限こくげんおそいせいか、一羽も見えない。唯、所々ところどころ、崩れかゝつた、さうしてそのくづれ目に長い草のはへた石段いしだんの上に、からすくそが、點々と白くこびりついてゐるのが見える。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蹈居ふみゐる土も今にやくづれなんと疑ふところ、衣袂いべい雨濃あめこまやかそそぎ、鬢髪びんぱつの風うたた急なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ゆきおほはれたそのくづしの斜面しやめんに、けもの足跡あしあとが、二筋ふたすぢについてゐるのは、いぬなにかゞりたのであらう、それとも、雪崩なだれになつてころりてかたまりのはしつたあとでもあらうかと
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「おゝてえまあ」群集ぐんしふなかから假聲こわいろでいつた。をどりれつ先刻さつきからくづれてごと勘次かんじとおつぎの周圍まはりあつまつたのである。おつぎはこのこゑくとともみだけた衣物きものあはつくろうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
であるから學校がくかう歸途かへりみちには大勢おほぜいそのくづおちかべいのぼつてワイ/\とさわぐ、つやら、はやすやら、はなはだしきは蜜柑みかんかはげつけなどして揄揶からかうのである。けれどもなん效果きゝめもない。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
滅多めつたわらつたこともない但馬守たじまのかみ今日けふこと機嫌きげんのわるい主人しゆじんが、にツこりとかほくづしたのを、侍女じぢよこつな不思議ふしぎさうに見上みあげて、『かしこまりました。』と、うや/\しく一れいしてらうとした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
しかるを、元嘉げんか京洛きやうらく貴婦人きふじん才媛さいゑんは、平時へいじくだん墮馬髻だばきつふ。たとへばまげ片潰かたつぶしてなびつくりてうまよりちてもとゞり横状よこざまくづれたるなり
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは江戸の法規で、心中の流行に手を燒いた幕府は、心中くづれの男女に、念入りの醜體をさらさせることを考へたのです。
かべに掛けたのばかりでも大小あはせると余程になる。額縁がくぶちけない下画したゑといふ様なものは、かさねていたはじが、くづれて、小口こぐちをしだらなくあらはした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
元來がんらいはか周圍しゆういに、ひとつはつちくづれないように、もうひとつはかざりのために、つちつくつた筒形つゝがた陶器とうきならべてうづめるといふことは、その以前いぜんからもあつたようにおもはれますから
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
『イヤ、中黒ちうぐろです。』と滑※こつけいなる兵曹へいそう一言いちごんに、大佐たいさも、濱島はまじまも、わたくし大聲おほごゑわらくづるゝとき春枝夫人はるえふじんやさしいは、はるか/\のみなみほうみづそらとをなつかしさうながめてつた。