)” の例文
もうろくされたおじいさんは、このびんのなかえるおとこが、いつか、あのやまえてくるのだとおもわれたのであろう、とかんがえました。
びんの中の世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はたけえ、牧場ぼくじょうえてはしってくうち、あたりは暴風雨あらしになってて、子家鴨こあひるちからでは、しのいでけそうもない様子ようすになりました。
若君わかぎみはもうお忘れでございましょうが、去年きょねん、お父上ちちうえ勝頼かつよりさまに僧侶そうりょをおしたいなされて菊亭家きくていけへおしあそばしたことを」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下襲したがさねの緋鹿子ひがのこに、足手あしてゆき照映てりはえて、をんなはだえ朝桜あさざくら白雲しらくもうらかげかよふ、とうちに、をとこかほあをつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また鎔岩ようがん次第しだい冷却れいきやくしてるとどんな成分せいぶんのものも流動りゆうどうがたくなり、其後そのご固形こけい岩塊がんかい先頭せんとう岩塊がんかいえて前進ぜんしんするのみである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
みそはぎそばには茶碗ちやわんへ一ぱいみづまれた。夕方ゆふがたちかつてから三にん雨戸あまどしめて、のない提灯ちやうちんつて田圃たんぼえて墓地ぼちつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
糟谷獣医かすやじゅういは、去年のしつまってから、この外手町そとでまちしてきた。入り口は黒板くろいたべいの一部をりあけ、かたちばかりという門がまえだ。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
だんだん山道やまみちのぼって、もりけ、たにえて、とうとうおくおく山奥やまおくまで行きました。山の上はしんとして、とりのさわぐおともしません。
姨捨山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
とにかくそのはじめは切じつな人間生くわつ慰樂いらくとしてあそびとしてつくり成された將棋せうきちがひないとおもふが、それを慰樂いらくあそびのいきを遙にえて
店先の掃除そうじをして一飯の雑作に有りついた。誤解や面倒がる関門を乗りして四郎の明澄性めいちょうせいはそれらの町々の人の心をもとらえた。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もっとも、こう言出したのは、七十さいした老人であるから、これは文字のせいではないかも知れぬ。ナブ・アヘ・エリバはこう考えた。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かばの木の生えた小山を二つえてもまだそれほどに近くもならず、やなぎの生えた小流れを三つ越えてもなかなかそんなに近くはならなかった。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
こののこぎりなんなくれる家尻やじりを五つましたし、角兵ヱかくべえ角兵ヱかくべえでまた、足駄あしだばきでえられるへいを五つました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ちょっと岩のわれ目をぴょんととびえるにしても、足に大した力を加えなくても、四五メートルはらくにとびこえられる。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
其壁そのかべして、桑樹くはのき老木らうぼくしげり、かべまがつたかどには幾百年いくひやくねんつか、うつとして日影ひかげさへぎつて樫樹かしのき盤居わだかまつてます。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わしは七十しちじゆうさかして、もういついのちをはるかわからぬ。いまのうちによい婿むこをとつて、心殘こゝろのこりのないようにしてきたい。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
ところがその雄羊が一ぴき小溝こみぞえて道のまん中にやって来ました。しかして頭を下げたなりであとしざりをします。
海岸かいがん沿ふてこと七八ちやう岩層がんそう小高こだかをかがある、そのをかゆると、今迄いまゝでえたうみ景色けしきまつたえずなつて、なみおと次第しだい/\にとうく/\。
もしも、わたしだったら、スモーランドをえて北へむかわないで、エーランドとうまわり道をして、やっこさんを、まいちまうようにしますね。
わたくし昨年さくねんの十二ぐわつ芝愛宕下しばあたごした桜川町さくらがはちやうしまして、此春このはる初湯はつゆはいりたいとぞんじ、つい近辺きんぺん銭湯せんたうにまゐりまして「初湯はつゆにもあらひのこすやへそのあか」
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
仕事屋しごとやのおきやう今年ことしはるより此裏このうらへとしてものなれど物事ものごと氣才きさいきて長屋中ながやぢゆうへの交際つきあひもよく、大屋おほやなれば傘屋かさやものへは殊更ことさら愛想あいさう
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
廊下づたひに中庭なかにはして、おくて見ると、ちゝ唐机とうづくえまへすはつて、唐本とうほんてゐた。ちゝは詩がすきで、ひまがあると折々支那人の詩集をんでゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
十二ばん岩間寺いはまでらす巡礼の者であらう、ねむいやうな御咏歌ごえいかふし山越やまごしに響いて、それもついきこえなくなつて了つた。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
と、蝋燭ろふそくの火をげて身をかゞめた途端とたんに、根太板ねだいたの上の或物は一匹いつぴきの白いへびに成つて、するするとかさなつたたヽみえてえ去つた。刹那せつな、貢さんは
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ほかものらはさいはひにれを坐布團ざぶとんにして其上そのうへ彼等かれらひぢせ、其頭そのあたまえてむかあはせになつてはなしてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
木曾きそやまかこまれたふか谷間たにあひのやうなところですから、どうしてもたうげひとつだけはさなければらなかつたのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「そのようにかたくならずともよい。主水之介不審あってまかしたのじゃ。土左船どざぶねの者達、こちらへ参った筈じゃが、伜共の死体もう届いたであろうな」
かんじきにてあし自在じざいならず、雪ひざすゆゑ也。これ冬の雪中一ツの艱難かんなんなり。春は雪こほり銕石てつせきのごとくなれば、雪車そり(又雪舟そりの字をも用ふ)を以ておもきす。
わたくし今更いまさらながら生死せいしさかいえて、すこしもかわっていない良人おっと姿すがた驚嘆きょうたん見張みはらずにはいられませんでした。
甲組競技場に立つ時は乙組は球を打つ者ら一、二人(四人をえず)のほかはことごとく後方にひかえおるなり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
路にははんのまばらな並木やら、庚申塚こうしんづかやら、はたやら、百姓家やらが車の進むままに送り迎えた。馬車が一台、あとから来て、砂煙すなけむりを立ててして行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
截然として謝絶することが出来たらそのうえすことはなかったのであるが、その時それが出来なかった以上
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その若日下王わかくさかのみこが、まだ河内かわち日下くさかというところにいらしったときに、ある日天皇は、大和やまとからお近道ちかみちをおとりになり、日下くさか直越ただごえというとうげをおえになって
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
土地収用法がものを云えば一反三百円か高くても三百五十円はさない、それでもいか、好ければ今に見ろ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
十三じふそ三國みくにかはふたして、服部はつとり天神てんじん參詣さんけいし、鳥居前とりゐまへ茶店ちやみせやすんだうへ、またぼつ/\とかけた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そのわけもはじめてわかった。母は、病院びょういんから帰ったあと、ハンケチのへりかがりをしていただけでは、この年のれがせないので、新しいしごとをはじめたのだ。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
かういふうたが、こののちまたひとつのお手本てほんとなつてるのであります。しかしながら、完全かんぜんにこの手本てほんをまねをうせあるひはのりしたといふものは、さうありませんでした。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
あしひきの山路やまぢえむとするきみこころちてやすけくもなし 〔巻十五・三七二三〕 狭野茅上娘子
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
過ぎせし六十餘年の春秋、武門の外を人の住むべき世とも思はず、涙は無念の時出づるものぞと思ひし左衞門が耳に、哀れに優しき瀧口が述懷の、何としてかるべき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
隣家の土蔵との庇間ひあわいから、すべり入って、暗がりを、境の板塀をすと、奥庭——この辺によくある、大店おおだなの空家を買って、そのまま、米問屋をはじめたわけなので
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
えたれども折々は夜鷹よたかなどを買ひ行て家を明る事もあり又は下女共にはやさしき事を言かけはぢをかく事も度々たび/\なれども其をはぢとも思はず近頃は彼お兼に思ひを掛け時々とき/″\袖褄そでつま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とほくアムールのきしなみひゞきは、興安嶺こうあんれいえ、松花江しようくわかうわたり、哈爾賓はるびん寺院じゐんすり、間島かんたう村々むら/\つたはり、あまねく遼寧れいねい公司こんするがし、日本駐屯軍にほんちうとんぐん陣営ぢんえいせま
守役もりやくじいやが、ゆかべたでねむっていたので、わたしはそれをまたぎさなければならなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
あんずるに春琴の稽古振りが鞭撻のいきを通りして往々意地の悪い折檻せっかんに発展し嗜虐しぎゃく色彩しきさいをまで帯びるに至ったのは幾分か名人意識も手伝っていたのであろうすなわちそれを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
須原峠を小屋こやいたり泊す、温泉塲をんせんば一ヶ所あり、其宿の主人は夫婦共にたま/\他業たぎやうしてらず、唯浴客数人あるのみ、浴客一行の為めにこめかししる且つ寝衣をも貸与たいよ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
なにひとつ心願しんがんなんぞのありそうもない、五十をした武家ぶけまでが、雪駄せったをちゃらちゃらちゃらつかせてお稲荷詣いなりもうでに、御手洗みたらし手拭てぬぐいは、つねかわくひまとてないくらいであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
つぎ瓢箪池へうたんいけうづめたあと空地あきちから花屋敷はなやしきかこそとで、こゝには男娼だんしやう姿すがたられる。方角はうがくをかへて雷門かみなりもんへんでは神谷かみやバーの曲角まがりかどひろ道路だうろして南千住行みなみせんぢゆゆき電車停留場でんしやていりうぢやうあたり
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
そしてその一方の花畑などは、水車の道をして、らにその道の向うまで氾濫はんらんしていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ここより薬師堂の方を、六里ばかり越ゆけば草津に至るべし、是れ間道かんどうなり。今年の初、欧洲人雪をおかしてえしが、むかしより殆ためしなき事とて、案内者あんないしゃもたゆたいぬと云。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
次に静岡しずおか、次に浜松はままつ、それからさらに大阪おおさか神戸こうべ京都きょうと金沢かなざわ長野ながのとまわって、最後さいご甲府市こうふしへ来たときは、秋もぎ、冬もし、春も通りぬけて、ふたたび夏が来ていました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)